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僕の魔法学校が女子高に突っ込みました。  作者: 真北哲也
おおまかに振り破って ~魔法学校野球編~
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「やめろよっっ! そんなことしたら大怪我するって! 腕を離してくれっ! おいっ!」



必死に抵抗する男の両腕を二人で掴み、ピッチングマシーンの方に引きずって行く。 最後の抵抗をする死刑囚を独房から無理矢理処刑場に連行するが(ごと)くの光景。


嫌がる彼の右腕を僕が抑えて、反対の腕を額に冷や汗を垂らした岩間君が抑えて足並みを揃えて歩く。 この時点で、会長から指名された人間が僕と岩間君ではない。



―― では、嫌がっている人間は誰なのか?



「ごめんっス。 山形君…… これは会長命令だから仕方がないっス。 恨まないでほしいッす……」



「岩間君も言ってるけど、僕達が会長に逆らったら酷い目に合うのは知ってるよね? 山形君。 君も見てたと思うけど、入学初日に会長から喧嘩を吹っ掛けれたんだよ…… だから、こうするしかないんだよ」



「何でなんだよっっ! お前ら二人は会長が怖いからビビって、命令に従ってるだけじゃないか! やめてくれぇ!!! 俺が死んでしまうよぉぉ!! 俺の事も考えてくれよぉぉ!」



生け贄…… いや、魔法学校野球部の秘策の為に会長から指名されたのは山形創君であった。 保健室で初めて会った時の不貞腐れた態度とは違い、今回は必死の抵抗を見せて、声のボリュームが大きい、近くにいる我々の耳がキーンとしている。 …… 相当、嫌がっている。


それもそのはずである。 飛鳥会長は山形君を指さして、 「山形君! あなたに今からボールを発射するから、ピッチングマシーンの近くに来なさい! …… あっ!! 逃げた! 達哉! 岩間君! 彼を捕まえなさい! 」と、 訳のわからない命令をされたからだ。 普通の人なら、拒否をする。 指名された山形君の顔色は青ざめて、その場から逃走しようとしていた。だが、 呆気なく僕ら二人に取り押さえられたのだ。



「会長! 山形君をどうする気ですか?! 」



「そこでストップして! 今からボールを発射させるから! 」



ピッチングマシーンからの距離は約1mぐらい。…… 近くないかこれ? 機械音が恐ろしさの奏でが見える。 会長は球搬入口にボールを入れようとしていた。 それを見た瞬間に僕らは自然と力が入った。端から見たらこれって…… いじめだよ

なぁ……



バシュという音と共に、ボールが発射された。



「「「うわっ!! 」」」



三人の声が重なって、しゃがむ動作もシンクロした。 ボールは僕らの頭上を通過していった。そんな三人の情けない姿を見ていた会長から、激が飛んできた。



「もう! ちがうでしょ!! あのね、私は山形君にボールを当てようとは考えてません! それではただの虐待になっちゃうでしょ!」



「じゃ、なんで、100㎞越えのボールを俺に投げたんですかぁ!」



怒りに満ちた正論で山形君は会長に聞き返した。それに動じずに会長は冷静に答えた。



「あのね、貴方にはあの魔法があるでしょ?! 名称なんだっけ? えっーとっ? んーと?」



遠目からでも、解るぐらいに悩んでいる会長が見える。 腕を組んで、可愛らしく何かを思い出そうとする様な、首を傾げるポーズも備わっている。



「あっ! ……神の右手(ゴッドライト)悪魔の左手(デビルレフト)って名前だっけ? ! ……それでボールを吸い込んでみなさいよ! あと、魔法の名前が長すぎるわよ!」



最後の一言は痛恨の一撃だ。 そこまで、言い終わると、会長はピッチングマシーンに再度ボールを供給しようと手を掛ける。そして、 山形君は震え上がる。



「うわ! またこちらにボールを投げようとしてる! そんなの無理だよ、 俺が今まで吸い込んでいたのは、物などの静止物だったんだし、魔法とかも吸収してたけど…… 豪速球なんて無理だ! 恐くて、生き物とか動く物体もやったことないっっ!無理だ! 無理無理っ!」



「やってみなきゃ解らないでしょ?! たぶん大丈夫だから! もしもの事があったら、直江さんの回復魔法で治して貰うからへーきよ!平気よ! 」



彼は饒舌に話をした。 あまりにもイカれた考えに常識で立ち向かおうとしたが、会長は聞く耳を持たなかった。もうボールが飛んでこようとしてる…… 岩間君と僕にも恐怖が迫る。 二人して、山形君の足元に土下座の格好で踞る。



「もうやけくそだぁ! やるぞこらぁーーーー!」



山形君は勢いよく叫び立ち上がった。右手を飛んでくるボールに向ける。 黒いモヤが掌に現れて、覆い被さる。 丁度、そこにボールが勢いよくぶつかろうとした……




スポッッ!!!!



掃除機が布切れを吸い込んだような音がした。


ボールの姿形はすっかりと無くなっていた。 山形君の腕は真っ直ぐに伸ばされていて、そのままの姿勢で硬直していた。



「すげー…… 本当に出来るなんて思ってもいなかった」



山形君はそう言うと、そこまましゃがみこんだ。 僕らと姿勢が同じとなり、三人の男子が呆然としていた。 そこに会長の声が飛んできた。



「こら! 誰が座れって言ったの?! 山形君! 今度は今吸い込んだボールを出しなさい! 」



「あ……わかりました」



大変素直に聞き入った山形君がゆっくりと立ち上がった。 そして、彼は左手をゆっくりと持ち上げた。



「普通なら…… ただのボールが掌から転がると思うが…… だが、この魔法がスピードもそのままに吸収をしているなら…… ピッチングマシーンのままのボールが出現するはず……さて、どうだろうか……」



独り言にも聞こえるような山形君の言葉は、こちらで放心状態で聞いている方にも優しさが染み渡った。 まるで、会話の糸を柔和に編むよな(コト)()の群れ……優しい雨がゆっくり降り注ぐ様な音…… 疑問などを自問自答で伺っている。本当に心地が良かった。


こんな山形君を見るのは初めてであり、以外な一面を見たような気がした。 さっきまでの臆病な男子は見当たらなかった。



岩間君と僕もいつの間にか山形君と一緒に立ち上がっている。僕も何だが山形君と同じような清々しい気持ちを持った。…… 岩間君もそうに違いない。



「じゃ、ボールを出すよ」


ゆっくりと山形君は言った。


山形君の憶測と飛鳥会長の予想の結果が今、出ようとしていた。



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