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「会長ですか? 見てませんね…… 何かあったのですか?」
「い いや、何でもないよ。ありがとう」
女生徒は僕に軽く会釈すると、廊下を歩いていった。
今ので何人目だろうか? 飛鳥会長の行方を探して、いろいろな人に尋ねたが、まだわからない……… 何処に行ったんだ?
僕は高橋さんからのお願いを聞いた途端に、保健室を飛び出した。 直ぐに追い付けると思い、廊下を走ったが見つからずに、すれ違う生徒達に訪ね回っていた。
【うーん、参ったな。確かにこの廊下を通ってると思うんだが】
心の中で自分の推理を反芻しているが、解決に至らずに、迷宮に入り込んでいた。 ここまで、考えても仕方がないと思い、また地道に探すと言う事に意志決定をし、廊下を突き進んでいく。
―――。
「たどり着いたのはここか」
目の前には【女子寮口→】と案内がある廊下であった。 こんなにも探しても見つからないのであれば、自分の部屋に帰っているのかもしれない。 ただ、女子寮に男子が入るのは如何なものか?と、 思ってしまい、 僕はこの入り口付近で立ち止まっているのである。
「…… どうしよう?」
思わず、自分の心の声が出てしまった。幸い、回りには人が居なかったので、聞かれてはいなかったが、 誰もいない廊下に自分の声がはっきりと響いてしまい、聞いてしまった自分が、恥ずかしいと思ってしまった。
「誰も見てないよな…… 」
ふたたび声を上げながら、回りを見回した。 誰も居ないことを確認して、僕は女子寮の廊下を歩み出そうとした。その時
「…… た ……つや く……お…… い」
「!!!」
微かに声が聞こえたような気がした。自分の後ろ遠くから聞こえたような…… 再び、僕は回りを見回した。 誰もいない。けど、こちらに向かってくる足跡が聞こえて来た。 その音は確実に大きくなって来る。
「達哉くぅーん!!おおーいっ!! 」
「えっ! なに?!!ええっ!! 」
ビックリした。 一度目に聞いた声とは比べ物に成らない位の声がハッキリと聞こえたからだ。そして、唸りを上げるような足音も同時に、その犯人は高橋さんであった。 彼女は物凄い速さで僕に突っ込んでくる!
「達哉君!!! 飛鳥はみつかったのぉぉ!! 」
「それが…… えっ!! って! 何処に行くのっ!」
「うわぁ!! 止まらないよぉ!!止めてぇぇぇ!! 」
高橋さんは僕の横をすり抜けて、女子寮の廊下を突き進んでいった。 一瞬の出来事だったので、気を取られていると、今度は信二君が走ってきた。
「達哉君! 高橋さん見なかったか? はぁはぁ…… こっちに走っていくの見たんだけど…… はぁ」
信二君は高橋さんの様に走り抜けては行かずに、ちゃんと僕の前で止まった。
「高橋さんなら、今、一瞬にしてここを走り抜けていったよ」
僕は、女子寮の方角に指を指した。
「凄いなぁ。 あんなに走れる子って見たことないよ 」
関心している場合ではないと思った。
「信二君の方は見つかった?」
「いや、全然見つからないよ。 校内放送とか使おうと思ったんだけど、まだ、設備が整ってないらしくて、断念した。 地道にいろいろ探し回ってる」
「そうなんだ」
信二君と僕は顔を同時に曇らせた。
何処に行ったんだ? まさか、この学校内にはいないのだろうか?
いろいろと思考を潜らせていると、女子寮方面から物凄い音が響いた。
ガーーーン! いやぁぁぁーーー!!
これは、高橋さんが止まれなくなって、壁にぶつかってしまったのだろうと思った。 音の後の断末魔は彼女だろうか?
信二君も苦笑いをして、女子寮の方に走っていった。 これなら、物音にビックリして駆け付けました! っと、言う理由で堂々と女子寮に行けると口実だ。僕も信二君の後を追った。
―――。
「うげぇぇ……」
あ…… ありのままに今目の前にある事を話そうと思う。
僕らが駆けつけると、高橋さん奇声を上げながら、女子寮の行き止まりである非常口扉の前で、大の字に倒れていた。 驚くことに、彼女は無傷であったが、非常口扉の方はベッコリと人形に凹んでいる。 回りには爆音に驚いた寮の生徒達が囲んでいた。
【これでは漫画じゃないか?!!高橋さんが無傷って!! 】
僕は愕然と見ていると、信二君の様子が気になった。 ちらっと、信二君を見ると。
「ふふっ…… あは……」
信二君が笑っているっ!!!
何なんだっ!! 冷静でクールな信二君が笑っているなんてっっ! これは飛鳥会長の捜索どころではない! まさにスクープ!!! 青天の霹靂!!!
僕一人で興奮をしていた。
「ごめん。 あまりにも可笑しくて、笑ってしまった…… ふふ」
「だ 大丈夫だよ。 可笑しいよね 」
倒れている高橋さんには悪いが、これは笑うしかない。 一通り笑った後に、高橋さんの介護に回った。
「あ~、あすか…… どこぉ?」
意識はあるらしいが、身体の方はピクリとも動かない。 僕達二人は高橋さんの両肩を持って、抱え上げた。 その光景を生徒達が不安そうに見つめている。 信二君は困った顔をして言った。
「このままではいけないね。高橋さんを保健室に連れて行こう。 ごめんねみんな、騒がしてしまって」
信二君が謝罪をした。ついでに、僕は女子寮の住人達に飛鳥会長の事を尋ねた。
「飛鳥会長は見なかったかな? たぶん、ここに帰ってきていると思うけど」
女生徒達は見てない、とか、知らないの意見ばかりであった。 僕は礼を言うと、信二君と僕は二人で高橋さんを担いでいった。
「何処に行ったんだろう? 」
「まぁ、みんなで探しているから、そのうちに見つかるよ。 その前に今は高橋さんを何とかしないと…… 」
飛鳥会長の行方を気にしながら、僕らは、保健室へ戻って行くことにした。