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「やばいっ! これは避けられない! 」
思わず、僕は両腕で防御の構えを取った。クロスされた両腕の隙間からは、目映い閃光が漏れだして、瞼が本能的に閉じられた。今から来る衝撃に備える。
ギギガガッ!!
大きな音と共に足元が揺れる感覚が走った。 隙間から見えていた閃光は、床から盛り上がった何かに防がれて、真っ暗になった。 急いで防御姿勢を解くと、僕の後に岩間君が、床に両手を当てていた。
「危なかったっス!! 達哉君! 俺の魔法での床を盛り上げて壁を作ったっス!」
そうか! 岩間君は土などを操る魔法が出きるんだっけ! 助かった。前にもピンチがあったけど、それも仲間の力で助けられた。
「おや! そんな魔法もあるだね。 凄いなぁ~」
壁の向こう側から山形君の声が聞こえた。 微かに拍手をしたような音も同時にした。
「やっぱり凄いなぁ~みんなは! 魔法学校に入学して良かった 」
「山形君! 君の使う魔法を教えてくれないかな? ……ダメ? 」
「良いよ! そっちも色々な魔法を見せてくれたからね。 こっちも見せなきゃフェアじゃないし…… 見せてもいいけど、その目の前の土壁が邪魔してないかな? 」
言われてみれば確かにそうだった。 土壁の高さは丁度、僕の身長よりやや高い大きさであった。 岩間君は僕達二人の会話を聞いた後に、再び、床に両手を置いた。
「達哉君…… 大丈夫っすか? あんな奴の話を信用して…… もし、もしこの壁を元通りしたら、さっきの電撃をやってくる可能性もあるッスよ? 」
「岩間君、大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう。 あっちも話せば解ってくれる人だと思うから…… 悪い人ではないよ。 悪人なら…… 飛鳥会長かな? 」
「そんな事を飛鳥会長の耳に入ったら、達哉君は会長から半殺しッスよ! 会長は恐ろしい人ッスよ!! 」
「大丈夫! 大丈夫だから!!そんな飛鳥会長から比べたら、山形君は天使だよ! 」
岩間君の疑いを晴らさせて、 床の土壁の除去を頼んだ。 岩間君さ作業中にも「本当に大丈夫っすか? 本当に」と、しつこく聞いてきた事に、呆れた。 まぁ、 山形君が魔法攻撃をしてきたら、その時はその時だと覚悟は決めてあった。 そんなやり取りをしているうちに土壁は、元の保健室の床に戻って行く。山形君の居るベッドを見通せる視界に戻った。
山形君はさっきと、変わらずにベッドの上にいた。 こちらに掌を向けて攻撃をする様子もなかった。
「不意討ちを狙うと思ってたでしょ? そんな卑怯な事はしないって…… これはゲームだからね」
「いや、そんな事は考えてなかった…… ははっ…… それより、山形君が持っている魔法を教えてよ」
山形君は会話を終えると、両手を肩の高さまで上げた。 すると、右の掌に小さなブラックホールの様な物が渦巻いていてた。 一方、左の掌には、真っ白に輝く光があった。
「これが俺の魔法だよ。 右手で色々な物を吸い込むことが出来るんだ。それは、物理的な物だろうが魔法だろうが何でもだね。 そして、右手で吸い取った物を左手で放出が出来る。 それは自分の意思で自由自在ね」
「吸い込んだ物は何処に行くの? 山形君の体の中? 」
「それはないね。体が重くなったりもしないし、体調も変化もしない。 まったく不思議な能力…… 自分でも怖くなる」
山形君は両手を下げて、顔を伏せた。
「山形君。 その魔法能力に名前とかってあるの?」
「この魔法は……神の右手悪魔の左手って言ってるよ」
神の右手悪魔の左手
…… どっかで聞いたことあるんだよなぁ…… 昔のホラー漫画であったような……
「中二病みたいな名前でしょ? 自分でもそう思ってるし…… これは人に紹介するときに使ってるからね……普通は魔法の右手左手って言ってるから…… 」
「そうなんだ……」
気まずい空気が流れた…… もう、これ以上の質問や会話がないのだから。 あの中二病の様なネーミングが最大だったので、僕と山形君は顔を赤らめるしかなかった。
と 兎に角、話題を見つけよう! うん!そうしよう!
「山形君の回りに散らばっている、漫画本とか石膏像とかも、その魔法で吸い取った奴なの? 」
「そうだよ。なんか良いでしょ?! こういうの回りに置いていくと誰も気味悪がって近寄らないから…… 良いんだよ」
その会話をしたのが不味かったのだろうか? 自分でも「しまったっ!!」と、心の中で思ってしまった。 慌てて、僕は真木先生や岩間君を見た。 二人とも少し引いていた…… もう、自分で何とかするしかいない! 僕は思いきって誉める事にした。異を決して口を開いた。
「い 良いと思うよ! なんか神秘的でカッコいいと思ったし!! 」
「ありがと…… でも、それって御世辞だよね? 」
山形君の顔を暗い影を落とした。 逆効果であった。
山形君には何か暗い心を持っていると、思った。 普通なら、野球に誘ったら喜んでだり嫌がったりするものだが、山形君は違った。 俺をこのベッドから降ろせば参加すると条件をつけてきたのだから……
「おし、もう一回そっちに攻撃するよ達哉君。 今度は外さないから」
山形君は再度、左手を僕に向けてきた。
僕はどうしたらよいのかと、まだ、心の中で模索している真っ最中であった。