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食堂に向かう途中で、僕は疑問を信二君に聞いてみた。
「信二君も野球のメンバー集めをしていたの? 」
「さっきも言った通りに飛鳥会長からの指示だったけど、指示の内容は達哉君の手助けだけと、言われてたよ」
「じゃ、なんで、自分からメンバー探しをしていたの? 」
その一言で、信二君は立ち止まって僕の方を向いた。
「いや、個人的にみんなで野球をやりたいなって思ったんだよ。折角の高校生活なんだからさ、飛鳥会長には内緒だよ」
信二君はニッコリと微笑みかけて答えた。その笑顔に僕はドキッとしてしまい、一瞬、…… 抱かれてもいいなぁと、思ってしまった。
「達哉君……残念ながら僕はそっちの気は全然無いんだよ」
僕の邪な考えを見透した様に信二君は冷たく冷静に言った。 冗談だ!冗談だよ信二君! ここでのまさかのBL路線には行かないよ! 僕にもそっちの気は無いんだ!
信二君はやれやれと言った感じで、歩みを進めた。 その時の僕は冷静さを無くしていたのかもしれない、反省しよう。【他の人達も僕に軽蔑の視線をしていたような気がした】
……
「ほら、あそこのテーブルで本読んでいる女の子だよ」
昼過ぎの食堂はあまり人が多くはなかった。他の生徒達は雑談などをしたりして、テーブルに陣取って居るのがわかったが、野球部員候補のその生徒は、ゆっくりと本を読んでいた。 左手は頬杖をかきながら、ロングの髪を鬱陶しく垂らし、その間から大きな目を覗かせていた。端から見ると普通の女の子に見えた。その視線は本から外す事はなく、夢中で読んでいた。
「あの女の子? ここから見る限りでは、スポーツとかに感心が無さそうに見えるけど…… 」
「まぁね。話してみるとわかるかも」
信二君は全てを解った様な口調で話した。
「やっほー! それは何を読んでいるのかなぁ!」
高橋さんがぴょんぴょん跳ねながら、その女の子の元に向かっていった。
その行動に僕らは驚いていたが、話しかけられた人はもっと吃驚していた。
「うわ!な なんですか? 急に!」
慌てて、女の子は本を仕舞いこんでいた。僕らも慌てて、説明をした。
「急に話しかけてごめんね。僕は佐藤っていいます。あの、こちらの信二君から話は聞いているかな? 野球をやりたいって話は」
「ええ。聞いてます。あの打ち上げパーティーの時に校長からの提案に興味が出てきたので…協力したいです」
彼女はおずおずと了承をした。僕の見る限りでは、スポーツが得意そうではないように見えた。だが、今は迷っている暇はなかった。
「ほんとに! 助かるよ!」
「兄が野球をやっていましたので……スコアブックをつけるのは得意です!」
ん? スコアブック?
スコアブックってポジションはあったかな? 最近出来たポジションなの? 僕は素直に感銘を受けていたが、僕の回りの人間は【そっちか!!】と言うような顔を作っていた。 そして、信二君は僕の肩に手をかけて、180度そのままターンさせて、そっと僕の耳元で囁いた。
「達哉君…… ごめん」
一体何に謝っているのか解らなかった。そして、こんなときにどんな顔をすれば良いのかと迷った。
「なんで、信二君が謝ってるの? 素直に喜ぶべきだよ! メンバーが増えたじゃないか!」
「なっ!…… 君ってやつは……」
信二君はやれやれと言った感じに、僕に説明してくれた。
「あのね、スコアブックをつけるってのはね、本来マネージャーがやる仕事であって、野球のポジションではないんだよ。 だから、彼女はマネージャー希望者なんだ…… すまない。僕としたことが……」
信二君はがっくりと肩を落とした。
僕はあまり気にしてなかった。野球のメンバーは確かに今は足りない。だが、マネージャーもいた方が部活らしくて良いのではないだろうか?
「信二君。気にすることないよ! まだまだ、時間はあるんだしさ! 彼女はマネージャーやってもらおうよ!」
「君ってやつは……とても前向きと言うか……気にしないと言うべきか」
信二君はニッコリと微笑んでくれた。そして、僕らは密談を終えて、彼女の方に振り返った。
「ということは、君はマネージャー希望でいいんだね?」
「はい! 皆さんの事を応援したいです! 雑用とかも何でも!」
そう言って、彼女は綺麗な声で答えた。僕らもその声に応援されたように感じたので、やる気がアップした。
「よし!もっともっとメンバーを集めて、甲子園に行くぞ!」
僕らは目標を再確認すると、高橋さんが言った。
「そういえば、あなたの名前って何て言うの? ごめんね! 聞いてなくてさ!」
「あ!! ごめんなさい! 自己紹介がまだでしたね。 …… 私の名前は東映子って申します」
東映子
もう仕分けなさそうにひっそりと東さんは言った。そうすると、僕らのメンバーである岩間君がそっと口を開いた。
「映子って……まさか、あの超能力少女映子ちゃんっすか?! あの少女失踪事件を解決している!いやー
何処かで見たことあるなって思ったら、やっぱりだったす!!」
興奮したように岩間君は喋りだした。
超能力少女映子ちゃん? ……どこかで聞いたことがあるような……無いような
「うっ……知っている人が居たとは……もう十数年前だから知ってる人は居ないと思っていたのに」
東さんは岩間君の発言で少し顔を歪ましてしまった。