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拝啓、お母様へ ーーー。
春風の心地よい季節になりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか?そして、突然のお便りをお許しください。
書生こと佐藤達哉は、数週間前に校長から突然の甲子園出場宣言を受け、今は野球の練習をしているわけで…… 魔法学校は特殊な学校だと思っていましたで、部活などは魔法を使った部活動などが用意されていると思った所存でございました。 ですが、まさかの甲子園出場 (予定)をする為に野球の練習をするなど…… 考えてもいませんでした。 何故? と思い、 書生は校長に尋ねました。 「なぜですか?」と、 それに待ってましたと言わんばかりに、校長はこう答えました。 「あー。 高校生なら甲子園だろ?青春を
謳歌しなさいー」と、訳の解らない返答を貰いました。
お母様は達哉こと書生が、スポーツ全般が全くダメな事は知っていると思います。 小学生の授業参観の時は、珍しい体育の参観となって、寒空の校庭でのサッカーを覚えていますでしょうか? 必死にサッカーボールを追いかけて、 校庭をぐるぐる駆け回っての激しい試合。 ハーフタイムの時に、「どう? 」と、感想を聞いたところ、「あんた、ボールを追いかけてるのじゃなくて、ボールに追いかけられてるんじゃないの? 」と、言いましたよね? その後の後半戦は、戦意喪失状態でしたよ。 【試合も勿論、負けました】 そして、 お母様は試合途中で帰りましたよね?! 試合中にチラッと、見たら、そこには貴女の姿形も無く、幻影さえも遺さぬままにひっそりと帰りましたよね?! 家に帰ると貴方はキッチンに立っていて、 「何故、帰ったの? 」と質問したら、 「見ているこっちが恥ずかしくなったの。 だから、帰った」と言いましたね。 書生はそれを聞いて、自分の部屋でひっそりと枕を濡らしたわけで……【嘘です】
それから、書生は球技全体を嫌いになりました。 バスケットボール、ドッジボール、ベースボール、バレーボールなどなど…… 特に気に食わないのは、テニスで御座いましょうか? 種目名に「~ボール」と名付けている大抵はボールを使った競技ですよね?! それなのに、テニスと言う奴は、名前に「~ボール」と入っていない! 「テニスボール」と言われたら、 「テニスボール」の固有名詞を指し、スポーツ名ではない! これは納得が行きませんよね!!
それが理由でしょうか? 書生の中学生時代はご存知の通りに、文芸部に入りました。 図書室の窓からは運動部員の喚声などが響いてました。 書生は同じ文芸部員に尋ねたことがありました。 「人はなぜスポーツをするのか? 」と、その文芸部員は一瞬考え込んでこう答えました。
「元々、我々人類は食料を獲るために狩りを行って来た。 そして、獲物を取る技術はいつしか、人と人が争う戦争に使うようになった。 だが、戦争の愚かさに気づき、その代用としてスポーツを行うようになったと思うんだよな。ルールを決めての殺しのない争い……自分はそう思うよ」
書生はその答えに納得して、図書室から校庭を見下ろしました。 そこには真っ白いユニフォームを着て、丸坊主の野球部員達が「ファイト!ファイト!」と叫びながら、校庭を遠周していました。 一糸乱れのない2列での遠周。 「これはまるで映画で見た軍隊の初級練習ではないか! 戦争の代用としてのスポーツなのにっ! 」と、心に思いながら、その列が向こう正面に流れるのをずっと見守りました。 ところで、[baseball]と言う外国語を日本語の[野球]と、和訳をしたのは正岡子……カキーン!!
「「達哉ぁ!! そっちに行ったわよ」」
ゴンっ!
「痛い!!」
僕はボールを頭に当ててしまった。 最愛の母に便りを出そうと考えていた時であった。 まぁ、野球の練習中にそんなことを考えていた自分が悪い。 ボールが硬式素材ではなく、軟式のゴム製だったのが唯一の救いであった。
「大丈夫かい? 達哉君? 」
僕に近寄ってきたのは信二君であった。信二君は野球見経験者だったが、すんなりと野球が出来た。 よく話を聞いたら、 「スポーツ全体は得意だよ。 君が俺を助けたときは、 バレー部の助っ人として体育館練習してたんだ。 その前は卓球部の助っ人で、その前の前はバスケ部の…… 」と、話をしてくれた。
「良いなぁ、信二君は何でも出来て…… スポーツ万能じゃん……イテテ 」
「本当に大丈夫かい? 少しや「達哉ぁ!!!!」
心配してくれている信二君の声を遮る様に、 バッターボックスから物凄い勢いで飛鳥会長が走ってやって来た! まずい!
「達哉ぁ!! ほんとにあんたはトロいんだからぁ! このバカ達哉ぁ!! どーせまた、ろくでなもない事を考えていたから、ボール取れなかったんでしょ!? アホね!!」
「だって…… 」
「だっても何もないでしょ!? 練習は気合いが大事よ! 集中! 集中!」
言葉を吐き捨てて、飛鳥会長はバッターボックスに戻っていった。
信二君と僕は顔を見合わせて、守備に戻ると野球練習は再開された。
そーいえば説明が遅れたが、どこで練習をしているかと言えば、ここは魔法学校の四階の特設グラウンドである。 最初に見たときはビックリした。 四階に登ると一面が芝に覆われていて、真上は空が広がっていた。
この校舎は外から見ると鯨の形をしている。 この四階のグラウンドは鯨の背中に背負われてるように見えるのだ。この魔法学校にはまだまだ、ビックリするような施設が他にもあるのかもしれない……
「よーし! そろそろ、終わりにしましょう! みんな集まって!!」
飛鳥会長の言葉で一斉に集まった。
「今日の練習はここまでにします! 達哉だけは残って、後は休息を撮るように! 以上解散!!」
「お疲れさまでした!」
僕を残して、皆は帰っていった。何故、僕だけ残るのだろう……
会長と僕だけがグラウンドに残った、夕暮れが過ぎて行き、 グラウンドは真っ赤に染まっていた。 そして、飛鳥会長は回りに僕以外が居ないことを確認すると、僕にそっと近づいてきた。
僕は一瞬ドキッとした。 今までに見せたことがない飛鳥会長の顔つきに驚いた。 そして、会長は僕の耳元にそっと呟いた。
「メンバーが足りないの……なんとかしなさい」
「はっ?」
ちょっと待ってくれ!! 他の人達は気づかなかったの? なんで? 野球を全く知らない僕は例外だと思うけど、 普通、誰かが気づくでしょ?! 「人が足りないよね」ってさ!!!
僕は落ち着いて尋ねた。
「会長、なんで僕なんですか? メンバー集め」
「あんたが一番適任だと思ってるの! これは監督命令です! 拒否は出来ません!」
【監督なら尚更そこに気がつくでしょ? 】と、思いながら、グラウンドで僕は、途方と何処にもぶつけられない怒りを覚えるのであった。