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「みんな! お疲れ様でした!!では…カンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
飛鳥会長の音頭に乗って、皆は一斉に声を上げた。僕らは魔法学校大食堂に集まっていた。 今回の火山噴火阻止作戦の苦労を労う為にパーティーが開催されたのだ。 僕達が帰ってくるともう準備がされていて、ビックリした。
これは校長と真木先生の二人が考えていたらしい。食堂の配膳室のフル稼働したり、 一流ホテルのシェフを招いての豪勢な食事がテーブルに飾られていた。
「 きゃっ! さっきイケメンウェイターさんにジュースのお代わりはどうですか?って、聞かれちゃったの! 勿論、お代わりいただいちゃった!」
「私も!私も! 料理は豪華だし、イケメンで目の保養にもなるし! さいこー!!」
女生徒二人の会話を聞いた。 配膳をしているウェイターは確かに、イケメンが多かった。 これも外部からの派遣だろうか? ウェイター達はちやほやされているのを気にせずに、せっせと仕事をしていた。
「あっ! 私もジュースのお代わり下さい!! どんだけぇ〰〰!! 」
真木先生にとっては天国だったのかもしれない。 積極的にウェイターに話をして、 ジュースの何度も何度もお代わりをしていた。ウェイターも少し困り果てた顔をしながら対応をしているところにプロ意識を感じた。
「ご主人様? ジュースのお代わりはどうですか?」
「今飲んでいるので大丈夫です。ありがとうございます!」
「いえいえ、何かございましたらお声がけ下さい!ご主人様!」
普通、男ならウェイターで女ならウェイトレスなのだが…… 何故かワンピースにエプロンドレス着用のメイドなのだ。これも校長の粋な計らいなのだろうか? 男子生徒達も生き生きしながら、あるいは照れながら、メイド達からジュースを積極的に取っている。 だが、食堂の片隅に異様にメイド達が集まっている場所があった。
僕は気になって、近づいていくと… 「ああ、なるほどな」と納得をした。そこに居たのは信二君であった。
「ご……ご主人様! ジュース受け取ってください!」
「ありがとう、丁度喉が乾いていたんだよ。貴女は実に気の効くメイドさんだね」
眩しい笑顔でそっと微笑む。
「め…… 滅相もございません! はうっ…… 」
その笑顔の破壊力によろめいたメイドは、倒れそうになった。 そこに信二君が肩を素早く抱き抱えて助けた。
「あっ …… 私としたことが…これじゃメイド失格です…ううっ…」
「大丈夫だよ。誰だって失敗あると思うけど …… 諦めちゃだめだよ」
「うう……ご主人様はやさしいです! 」
笑顔でメイドを勇気づけた。言われたメイドの一人は頬を紅潮させて下を向いてしまった。
信二君は結構モテる。 今回の作戦でも飛鳥会長の補佐的な動きをしてたので、色々な場面でリーダーシップを取っていた。 その為だろうか? その働きぶりに女生徒内で人気が鰻登りなっていた。 ……あの笑顔は反則だろ。
その後も大半のメイド達は信二君の側からは離れようとはしなかった。 所謂、ご主人様ハーレム状態になっていたのだ。 この光景を見ていた、信二君ファンの女生徒達は嫉妬の目線を送っていた…… あー女って怖いなぁ……
「ご主人様! こちらのサンドイッチはいかがですか? 」
信二君ハーレムを見ていたら、こんな声が僕の耳に入ってきた。
お! もしかしたら僕もメイドハーレム王国を建国できるのではないだろうか!? 今は耳元から入ってきた美しい声しか分からないが、 これは僕にとっては、メイドではなく、女神だ! ……よし! 今から僕の【神聖第二ハーレム王国】の始まりに期待しようじゃないか!
「そのサンドイッチを頂きましょう! そして、 僕の王国への……うっ! 」
僕がメイドからサンドイッチを受け取ろうとしたら、 あろうことか、 サンドイッチが僕の右頬にねじ込まれるように押し付けられた! 痛い!痛い!痛いぃ!!
その痛みに耐えながら、 サンドイッチを押し付けられている方に視線を向けると、そこには、 可愛らしいメイドさんではなくて、飛鳥会長が薄ら笑いを浮かべながら、ぐりぐりと作業に没頭していた。
「なに鼻の下を伸ばしてメイドをチラチラ見てんのよ! このバカ達哉ぁぁ! バカな癖にエロだったら、もう、 救いようがないじゃないの!バカ! 変態! アホ! 」
罵倒を浴びせながら、 サンドイッチ(凶器)はぐりぐりと力強く僕の頬を侵食していき、 口の形が変形していった。
「ああ、やめへくたさいよ !やめへ! あすあかいちょ、やめへやめへ!! 」
「あ? ぜんぜんっっ! 聞こえません! 」
この虐待は数分間続いた………
ーーー。
「一体、 僕が何をしたと言うんですか? 飛鳥会長? 」
僕は押し付けられたサンドイッチを食べながら、飛鳥会長に尋ねた。
「あんたね。気が緩みすぎなのよ! 一応、打ち上げ会だから仕方がないけど、一応、外部の人間がこの魔法学校に入っているのよ。状況わかる? 」
言われてみれば確かにそうだ。
ここは学校だが、普通の学校ではない、 魔法を使う学校なのだ。 外部の人間とかが、この学校で何をやっているのかと気になるはずだし、 今まで空想や伝説に登場する魔法が実際にあると証明されたのだ、 それを悪い方向に使うのではないかと推測されたら堪った物じゃない。
「生徒達には極力魔法を使わないようと注意をしているけど、何かの弾みで使ってしまうこともあるかもしれないから、 注意はしているけどね」
飛鳥会長は会場をぐるりと見回した。
「あんたも気が緩んで魔法を使わないでね! バカ達哉! メイドにカッコつけて魔法を見せびらかすじゃないかと心配したんだから……あと、いやらしい顔とかしないで!気持ち悪いから」
へへ、すいません。
僕は、少し反省をしたら、会場が急に暗くなった。そして、 食堂の中心にある人物に照明が集中した。 校長だ!
「あー。今回の任務遂行はとても迅速に対応をしてくれて、みんなありがとう! ここで、改めて感謝を申し上げます。あー」
校長は深々とお辞儀をした。それにも釣られて、皆も返した。
「あー。これからもこの様な災害救助活動なども政府を通して、出動依頼があるかも知れません。その様なときも魔法学校の生徒として誇りをもって活動していって欲しいと思っています。 あー、一般の高校生らしい生活とは違うかも知れません …… 命の危険があったりと…… それでも、貴方達 …… 魔法学校の生徒は、入学前にそれを承知で我が校に入学をしました。この特殊な学校はまだまだ、始まったばかりです! これからは我々が新しい歴史を作ろうではありませんか!生徒の皆さん!」
校長の話で、一気に士気が上がり、会場は拍手喝采の花が咲き乱れた。 僕も思わず手を叩いていた。
「バカ達哉! これからマスターの言うことをちゃんと聞いてね! 重大発表があるからね!!」
飛鳥会長からの念押しが入る。 なんだろう? 重要発表って?
「あー。新しい歴史を作るということは、何も、誰もなし得ていない事に挑戦する事ではありませんね。 私はそう思います。 普通に今まであることに初めて参加する事も、新しい歴史の創世でもあります! そこで、ここで重大発表をしたいと思います!!それは ……」
校長何を伝えたいのか難易度が高いというか……ちょっと、難しいというか… なんなんだろうと僕は思っていたが、 「重大発表」と言う言葉に皆は固唾を飲んだ。
「高校生野球大会 …… 甲子園に出場したいと思っています!!」
その発表に皆は沈黙した。
ただ、一人だけ …… そう、 僕の隣に要る飛鳥会長はウキウキとしながら僕に言った。
「達哉。 私を甲子園に連れてって!」
………。
電車で甲子園に観戦しに行けばええやん………