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その日のテレビではこのような事が報道されていた。
――。
「皆さん、こんばんわ! 情報ライブステーションの時間です。 番組のトップニュースは、 視聴者の皆さんが気になっているあの話題からです。現場には、鈴野記者が居ます。 現場の鈴野記者!」
「はい。今、私は神山山から少し離れた避難所にいます。 こちらから噴火した山が見えますが、 数時間前よりは落ち着いた様に見えますね。」
「 そうですか。そちらの避難されてる人たちにインタビューなどしてもらえませんか? 」
「では、 こちらの避難所の代表者の赤木さんにお話を聞きたいと思います。 」
記者は、 赤木と言う老人にマイクを向けた。
「 こちらには何人ぐらいの避難民がいるのですか?」
「え?」
「 赤木さん! こちらには何人ぐらいの避難民がいるんですか!?」
「あー! 毎朝、牛乳などを飲むのが健康の秘訣ですね!」
「 …… 」
駄目だ。 この人は話にならない。
記者が沈黙をしていると、 スタジオのアナウンサーは助け船を出した。
「す …… 鈴野記者!他の人にもインタビューしてください! 」
「 あ、 はい。 わかりました。」
空気を読んでか、 記者はあちらこちらに視線を飛ばす。 丁度そこに魔法学校の制服を着た女生徒を発見する。その人物は神子山を呆然と眺めていた直江凉子であった。
「では、 あちらにいらっしゃる珍しい服を着た人にインタビューをさせてもらいます。 すいません! そちらのお嬢さん!」
記者の掛け声と共にカメラマンもカメラを向けた。 すると、 その映像を見ていたスタジオの司会者が声を上げた。
「 あ! その服は魔法学校の制服ですね! 先程、 政府は今回の災害に対して、 自衛隊に命令を出しましたが、 同時に、魔法学校にも支援命令を出したみたいなんですよ! まだ、 我々にもその実体が解らないので、是非インタビューをお願いしますっっ!!」
スクープを見つけた司会者は、 興奮ぎみに命令を出した。 それを接して、現場記者も急いでインタビューを行った。
「 すいません! 私は○○テレビ局の報道ライブステーションの者なんですが …… 魔法学校の生徒さんですよね?」
「はい。 …… そうですが……」
その生徒は突然のインタビューに驚きながら、 何とか冷静に受け答えを開始した。
「では、 こちらに来た目的を教えてもらえませんか? 」
「はい。 私達、魔法学校の生徒はこちらに避難をしている住民に対して、 救護活動をしていました。」
「 具体的にどの様な事ですか? 自衛隊の補佐的なことですかね? 」
「いえ、 違います。 自衛隊とは別に単独による支援活動です。 私達は魔法を使えるので、 まぁ …… ほとんどが避難民に対しての魔法回復ですね。」
「!! やっぱり、 魔法を使えるんですね!」
そのやり取りを見ていた、 スタジオの司会者は指示をする。
「 鈴野記者! 是非、魔法を見せてもらえませんか?! 」
「わかりました。 すいませんが、あなたの魔法を見せて貰えませんか? 」
「 え?」
そのリクエストに少々戸惑いながら、女生徒は両腕の掌を向けた。 その瞬間に緑色の靄が溢れる出てきた。 リポーターとカメラマンはぎょっと、 驚いた声を上げた。
「っっ!ス スタジオの皆さんは見えますかっ!? 私の目の前では信じられない光景が見えています! このモヤモヤはなんでしょう?!」
興奮しながらスタジオに問いただした。 スタジオの司会者も興奮ぎみに答えだした。
「ええっ! 今はっきりと見えてますよ! それがあの魔法なんですね! 信じられませんね!」
レポーターの興奮に戸惑いながら、 その女生徒は掌を下にだらんと垂らした。
「あの……もういいですか?」
「あ!すいません!貴重な魔法を見せていただきありがとうございます!」
恐縮気味にレポーターは一礼をすると、空かさずに次の質問を尋ねようとしたときに、 女生徒とレポーターの間に、大きな迷彩柄の男が話って入った。 その男こそは自衛隊の石田陸曹であった。
「すいません。こちらの魔法学校の生徒さん達は日本政府によって救助権限命令が与えられてますが …… 彼らは未成年であり学生なので、取材はご遠慮願いますか? 」
レポーターとカメラマンに対して、注意を促した。 特に後半の説明はドスの効いた低音で怖がらせた。 …… 岩間陸曹はとても勇気があると言える。 カメラは生放送なので、モザイクや編集カットなどは出来ない。 それにも関わらず毅然とした態度に出て、 カメラの視線を生徒から外させた。
「ですが! 私達報道は国民に対して真実を伝える義務があります! これは決して彼等を見世物にするものでありません! 取材を…!」
「ご遠慮下さい。 今の現状に対しては私達、自衛隊が後から時間を取って会見をしたいと思いますの…」
二人の大人の激しい攻防が繰り広げられた。
ーーー。
「うわうわ。 大変な事になったわ」
私は大きな石田陸曹の背中の後ろに回るようにして、 二人のやり取りをじっと感じていた。 心配そうにしていると、私の肩をそっと叩く指があった。 その方向を見ると阿佐田君が困った顔を私にむけていた。
「凉子さん。飛鳥会長から撤退命令があった。 …… 岩間陸曹には悪いけど、そろそろ帰ろう。」
「え? いいのかな? 」
「仕方がないさ。 さ! 今のうちに!」
他の魔法学校の生徒達は、エアバイクに股がっていた。 私が最後の一人だったらしい。 慌てて、 アクセルスロットを回した。
私達は一斉に空に飛び出した。 一定の空中に浮遊した時に、 私は地上を見た。
そこには、避難民が一斉に私達に手を振っていた。 よく見ると、私が治療した女の子も手がもげるほど一杯に振っていた。 そこから、少し離れたと所で、レポーターと岩間軍曹がまだ揉めていた。
小さくなっていく岩間軍曹の背中は【こう言う面倒事は馴れてるさ。】と言う様に、物語っていた。
「あまり力に成れなかったと思うけど …… ありがとう。」
私は心の中で感謝を述べた後に、 エアバイクで魔法学校の帰路に立った。