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「何が起こったんだ?! こんなことになるなんて…… 予測なんてしてないぞぉ!!」
ガンっ!
岩間陸曹は怒りに任せて、 足元にあるオイル缶を蹴飛ばした。 大きな音共に回りの人達が硬直してしまった。 自衛隊の陸曹の階級の人間でも、 平常心を失うと物に八つ当たりをしてしまうのだろうか? 私は、決してその恐怖に怯えて硬直してしまったのではない。 飛鳥会長達が、 自衛隊に攻撃をしてしまい、 この事が魔法学校生徒が関わっていることがバレてしまうのではないかとはらはらしていたのだ。 隣に居る阿佐田君もそう思っているはずだ。
「岩間陸曹殿! 少し落ち着きましょう! 石田からまた連絡が来るかもしれませんし」
「黙ってろ! お前はこの無線機の波長測定画面を見えてないのかぁ! おいっ! 」
岩間陸曹は力強く無線機を指差した。 波長測定画面と言われる所には、 画面が波長がピーと言う音と共に静かになっていた。 なんだろう、 これって、良くドラマの病室などで、 ( ご臨終です。) って言われてる様なモニター画面に似ていた。
「なっ! これは完璧に無線機ロスト状態ではありませんかっ! 」
「だろ? こんなことに初めてだ。 考えられるのは …… そうだな …… 無線機が強い電気を浴びてしまったか、 それとも、 高圧電波障害のどちらかだ。 」
「私はこんなことは訓練でしか見たことありません! 山中の電波障害なんてものも考えられませんね。 」
「だろうな。 俺もだ。」
テント内の自衛隊員達が一斉に沈黙してした。
その場に居た魔法学校の生徒二人も沈黙をしたが、 二人揃って冷や汗を隠す事に集中をした。 このあり得ない事を出来るのは、 魔法学校の生徒しか出来ないと読んだからだ。
「そう言えば…… そちらの魔法学校の生徒も神子山に向かっている数人いると聞いているが …… もしかして、 石田の言っていた少年達とは、魔法学校の生徒ではないのでは? 」
私たちにゆっくりとした口調で質問してきた。私はその視線に堪えられなくなってしまい、 目をそらした。 それを接したのか、 阿佐田君がすかさずフォローに入ってくれた。
「 石田さん… 僕たちはまだ高校生になったばかりですよ。 まさか、 危険な地域に入ったりなんてしませんよ。」
「まさかはありえると思うのだがなぁ …… 君達は魔法が使えるのだろう? さきほどから君達の不思議な能力を我々は見ていたし、 私達自衛隊の上層部からも魔法学校の能力情報は得ている 。 しかもだ、私の部下である石田が悲鳴を上げて連絡を絶った。 石田は私達の部隊の中ではレンジャー資格を持っている唯一の隊員なんだ。 体力と戦闘能力は高い。そんな石田が連絡絶つなんて …… 何者かに襲われたと考えるだろう? 」
石田隊長もその他の隊員達も一斉に私達二人を疑い始めた。 大勢の人からの殺気立った視線を喰らう。 自衛隊隊員だから、 余計に恐ろしいので私は逃げ出したくなった。
「 止めてよ!」
その時、 小さな声が響いた。
全員がその声の方に一斉に振り向いた。
そこに居たのは、 先程、 私が治療をして上げた女の子であった。 顔を赤く硬直していて、 涙をうっすらと貯めている。 体全体もぷるぷると震わせて、 握り拳をぎゅっと、 結んでいた。
「緑色のおじちゃんたち! おねーちゃんたちはわたしのけがを治してくれたんだよ、なんで、怒るの? なんで …… なん … で うぇ 」
女の子は、 途中まで言いかけると泣き出してしまった。
思いがけない出来事にテントの内はオロオロし出した。
私は女の子の側まで近寄り、 そっと、 女の子の視線が合わさるぐらいまで、 腰を落とした。
「泣かないで、 ね? お姉ちゃん達は大丈夫だから心配しないで。 」
「だって、 だってだって! その怖い緑色のおじちゃん達におねーちゃんたちはいじめられてたんでしょ? ダメなんだよ。 いじめなんてしたらだめなんだよ! うえ ほんとうにだめなんだよ! うえ 」
まだまだ、 言いたいことは山ほどあると言わんばかりに女の子は早口になっていたが、悲しいと恐怖に駆られたのだろうか? 途中から嗚咽が収まらなくなってしまったらしい。 気がつくと、 私はその小さな体を抱き締めていた。
女の子は私の胸の中で、 産声を上げるように、 わぁ、と、 泣き出した。 私も少し泣いてしまったかもしれない。
「さっきから、 何か怒鳴る様な声がしたから覗いてみたらこんなことになってるなんて …… 貴方達に自衛隊はこんな偉い少年少女達を責めるなんて、 何を考えているんですか? 」
テントの入り口から別の大人の声が響いた。 きっと、 ここの避難民の一人であろう。
「その子達は私達の怪我を治してくれたり、 他の避難民の相談事等を親身になって聞いてくれたよ。 それに比べて、 あん達は物資が届かないとか、 上層部からの命令がないと動けないとかの一点張り! 一体、 何をしに来たんだい? 」
避難民の女の人は声を荒げて抗議をした。 私は女の子を抱き締めながら、 その言葉に嬉しさを感じた。 最初に来たときは、 避難民人たちは私達に冷たくしていた。 誰だってそう思う。 だって、 得たいの知れない人達が不思議な乗り物に乗って来て、怪我などの治療を魔法でするなんて …… しかも、 まだまだ子供の分際。 それは、信じられない。
だけど …… だけどだけど、 私は困っている人達が居るなら何とかして助けてあげたい。 見返りなんて求めていない。 嫌われたって良い。
決心をして、 私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。 多少、 鼻づまりを我慢して、 自衛隊の人達を睨んだ。 それは疑われた事に対しての怒りではなく、 下らない事での言い争いの抗議であった。
自衛隊の人達は涙色で緑色の物体に私は見えた。
「そ ……そうですね。 こんな事で言い争いなるなんて、 大人気ないと思いました。 私達自衛隊は国民の命を守る事が第一優先です。 国民を疑う事に恥を知りました。 すいませんでした。」
真っ先に謝罪をしたのは、 岩間軍曹さんだった。 それに続いて、 他の隊員達も深々と頭を下げた。
「おねーちゃん! 良かったね! 緑色のおじちゃん達があやまってくれたよ。良かったね!」
さっきまで泣いていた事が嘘のように、 女の子は私を祝福してくれた。 良かったと言いたいのは私の方だと思う。 この女の子には感謝を思いっきりしたい。 自衛隊を叱りつけた避難民にも目をやると、 いつの間にか消えていた。 お礼を言いたかったのになぁ ……
「よし、 そろそろ休憩時間も終わりにして、 救援活動を再会しょうか。」
阿佐田君が言った。 もう、そんな時間にもなったのかと驚いた。 さっきの出来事の体感時間は三時間ぐらいだと思っていたが、 腕時計を見ると30分ほど …… 嫌なことって時間が過ぎるのが遅すぎる。
さっきまでの嫌な雰囲気は無くなり、 改めて、 目標である救援活動に向かおうと思った。 その時、
ガタガタガタッ!
突然の地震が発生した。
テントの内の私達もビックリしたし、 外では悲鳴等も恐ろしいほど早く聞こえた。 私達は慌ててテント外に出ると、 回りの人達はうずくまったり、 物に掴まっている状況に陥っていた。
「 おねーちゃん! 怖いよぉ! 助けて! 」
小さな声が私の足元から聞こえてきた。 そして、 がっしりと私の脚にすがり付き、 小さく震えている。
「 大丈夫だからね! 直ぐに地震なんて止まるから、 しっかりしてね! 」
女の子を励ましながら地震の揺れに耐えた。 暫くすると、 地震はゆっくりと無くなっていった。
「と 止まったね! これで安心だよ!」
「ほんとだぁ! よかった!よかった!」
私達は安堵を噛み締めていると、 他の魔法学校の生徒が近づいてきた。
「直江さん。 明日香会長から連絡が入りましたので報告します。」
「 連絡? なんですか? 」
「はい。【神子山へのマグマ移動は完了した 。そちらの救助班は速やかに撤退】だそうです。 」
「 え? わかりました …… 」
私が拍子抜けしていると、 阿佐田君がやって来た。
「 明日香会長からの連絡は聞いた? 今、 他の生徒達にも連絡を回せと指示している所なんだけど 」
「うん。 今さっき聞いたよ。 本当に噴火とかは大丈夫なの? 」
その言葉を発するや否や、 阿佐田君は神山山から離れた神子山の方を指差した。
あっ! なんか煙が上がってる。
突然の地震と任務遂行達成報告に呆然としながら、 私達は神子山を眺めていた。