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「見る限り、怪我人が多そうだな…… ちゃんと指示に従って欲しいだが…… これでは…」
「皆さん! もう一度言います!怪我などをしている方は並んでください! 治療など必要としている方はいませんかぁ?!」
懸命に声を上げて、 誘導を試みたが、誰も聞き耳を持たずに避難所に雪崩れ込んでいく ……
「参ったな ……これでは、飛鳥会長からの任務開始どころか、何も出来ない…… ごめんな、 さっきカッコつけた事を言ってしまってさ。 」
「いいんだよ、気にしないで。 阿佐田君。 」
彼の名前は阿佐田将太君。 こちらの医療班チームのリーダーである。 飛鳥会長から 「 阿佐田君がリーダーをやってくれない? あなたはしっかりしてるから大丈夫よね? 何処かのアホと違って。 」と、 抜擢されたのだ。 何処かのアホとは誰のことだろう? そんな事より、 阿佐田君はさっきから避難民に対して、 大声で誘導を率先している。 他の生徒達もそれに合わせて声を出しているが、 全く相手にされていない。
【 私達の声は誰も聞いてくれない…… こんな事なら、 魔法学校になんて入学しなければ良かった …… 】
自分の無力差と後悔を悔い占めていると、その時、
ドドドッッ……
音が聞こえてきた。皆は、音がする方を見た。 それはヘリコプターがここに向かってくる重音。私たちや避難民の人々の視線が、 空に集中した。 だんだんと近づくにして、 プロペラの音が大きくなっていく。私達を始め、 騒いでいた避難民達も静けさを形勢し始めた。 やがて、 はっきりと姿を現したヘリコプターは、 民間機ではなくて、 この国の自衛隊機だと解った。 無駄に大きく、 迷彩色をペイントされた機体。 私達の居る所から離れ所に機体が降下し始めた。 プロペラの回転する音が聞こえなくなった時に、 機体から迷彩色の人間が飛び出してきた。 どうやら、 此方に派遣された自衛隊員なのだろうか?
一人の隊員が私達生徒を見つけると、 急いで向かってきた。
「君達か? 魔法学校の生徒と言うのは」
「はい。 私達、 この避難所に派遣され救助チームなんですが ……」
「ああ、解ってるよ。 先程、内閣総理大臣から勅命が出ている。 君達を全面的にバックアップしろと命令されてる。 」
「本当ですかぁ?! 助かります! !」
魔法学校の私達は歓喜を上げた! 総理大臣が、私達の為に力を貸してくれた事に感謝し、 私達は自衛隊の皆さんの力を借りることにした。 その後に自衛隊隊員達が続々と此方に向かってきた。
「そう言えば、そちらの魔法学校生徒のリーダーはいるかね? 自己紹介もまだだったから …… 挨拶ぐらいはしたいのだが ……」
「あ、 はい。 今呼びますね。阿佐田君! こっち来て!」
私は急いで、阿佐田君を呼んだ。
「初めまして、 僕が魔法学校救助チームのリーダーやってます。 阿佐田と申します。」
「こちらこそ、初めまして、岩間と申します。 階級は陸曹です。此方に派遣された大連隊の指示を取ってます。」
…初対面の男の人って、 何故に自分の役付けを言うのだろうか? 「自分の方が偉いぞ!」と、 言いたいのだろうか? そんな謎のやり取りを二人の脇で聞いていた。 挨拶が終わると、 岩田陸曹がキョロキョロと回りを見回した。
「実は魔法学校に私の甥が入学してるだが…… ここにはいないな。あいつは小さな時から臆病な所があったからね。 ここには居ないだろう ……」
「あ! 岩間君の叔父さんなんですか?! 岩間君ならあそこに! ほら!」
私は少し離れた所を指差した。 岩間君は、 避難民からかなり離れた場所にびくびくしながら、呆然と立っていた。
「あ! 居たな。 全く、図体ばかりがでかく成りやがって。 だから、魔法学校には進学には反対だったんだ。 最初から私が進めた、 陸自工科学校に進学して、 根性を叩き上げようとしたんだが。」
「岩間君は優しい男の子ですよ。 そんなに責めないで下さい。」
「すまん。 少し熱くなってしまった。 迷惑をかけなければ良いのだが。」
驚きの真実を知った。 岩間君の叔父さんは自衛隊員。 私も進学の事で揉めたが、 他の生徒達も魔法学校に進学するのに揉めたのかな? 人にはそれぞれ何かを背負っている …… そんなことを考えていると、 岩間君が此方に向かってきた。
「うす。 叔父さん…… 居たんですか?」
「居たんですか、 ではないだろう! 当たり前だ、 一応、東方部隊陸曹だぞ。 ここに居るの任務なんだぞ。しっかりしろ! 守!」
「 …… うす。」
なんだが、 二人の仲が悪いのが目に見えてしまった。 私はそっと、その場を離れようとした時に、いきなり、声が聞こえた。
「岩間君! 探したぞ! 君は此方の救助チームではなくて、こっちの火山止めのチームだよ。」
「え? あ! …… 」
岩間君を探しだして、声をかけてきたのは、吉田真司君だった。 飛鳥会長からも頼りにされてるので、彼は魔法学校の生徒達からも有名であった。
「何故こっちに来たんだい? 気がついたら居なかったから、こっちに探しに来たんだよ。 」
「 ごめん。 ちょっと、道に迷ってしまって、 前の飛んでるエアバイクに着いて行ったらここに来ちゃったんだ。うす。 」
「そんな事だろうと思ったよ。さ、 目的地に行こう。 今度は俺が引率するから、しっかりと着いて来てくれ。 」
「うす。 ごめんなさい。」
二人はそれぞれエアバイクに股がって、その場から飛びだって行った。
その二人を呆然と見ていた自衛隊達や避難民は、驚きを隠せていなかった。
「な、なんなんだあれは? 空を飛ぶバイクなんて見たことないのだが …… あれは、その …… 魔法なのかい?」
食いぎみで岩田軍曹が尋ねてきた。
「あの乗り物自体は魔法ではないですが、 私達の魔法学校生徒はあのエアバイクを操縦出来ます。 魔法力を原動力にしています。」
「なるほど …… 思った以上の戦力を持っているな ……」
「ん? なにか言いました?」
私は岩間陸曹が小声で何か言ったような気がしたので、 尋ねたが、 彼は軽く咳払いをして誤魔化した。
「岩間陸曹報告します! 此方に怪我人や病人の整列を完了しました! 」
「うむ、ご苦労! では、魔法学校の皆さんに活躍してもらおう」
自衛隊隊員の一人が、岩間陸曹に報告を上げてきた。 私達は、整列した避難民に魔法を施していく。 魔法をかけられた人々はその即効性の高い回復魔法に驚いていた。
「すごい! 血が止まらなかったのに一瞬にして止まった、 なんだこれ!」
「熱が下がったよー!! お母さん!」
歓喜の声を上げる物が多く、 それをまじまじと見ていたのは岩間陸曹率いる自衛隊であった。
「なんだよありゃ… 信じられん。」
「こっちは国民に対しての避難の強力しか出来ないので、 医療行為は制限されてる …… だから、 総理大臣がバックアップを命令されたのも解るな。」
こっちもこっちで驚いていた。
私達は熱い視線を感じながら医療活動に力を上げていった。