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「はいはーい! 怪我人など具合の悪い人はこちらに並んでください! 順番を守って静かに待っていてください。 順番はお年寄りや幼い子供を優先にしてください! ご協力お願いします!! 」
魔法学校生徒の私達は今、噴火した神山山 の下本にある白川市の避難所に来ている。私達の任務はこの避難所での救命活動や病人の治療などを主に行うことだ。 一時間ほど前にこちらに到着した時は、地獄の様な光景であった。 避難して来た住民達は、 我先にと、避難所であるこの公民館に雪崩れ込み、入り口付近では、罵詈雑言の嵐を巻き起こしていた。 私は争い事などが苦手であった。 力量を増す声に怯えていると、 そっと、私の肩を優しく叩く人物が居た。
「飛鳥会長からの任務を成功させよう。 大丈夫だよ。 俺達が一致団結すれば怖くはない。」
話を一時間半前に戻す。
―――。
「私達、魔法学校生徒は二手に別れて、 この作戦を結構するわよ! 一つ目は火山を止めるチーム。 そして、 二つ目は避難所での救命活動チームにね。 」
食堂から移動後の教室では、飛鳥会長を中心の作戦会議が行われた。 私は救命活動チームに配属された。 私の魔法は人の怪我などを治療できる魔法。 昨日、クラスで起きた飛鳥会長の折れた腕を治した実績でこちらに抜擢された。 そう言えば、まだ、私の自己紹介をしてなかったけ…… 私の名前は直江涼子 自分の性格は、あまり良く解らないが、 回りの友達からは「あなたは優しい子」と言われている。 果たしてそうだろうか? わからない。 趣味は読書である。 国語の教科書なども好きな変わり者だと自分は思っている。
私は救命活動チームに決定されたのに動揺していると、 飛鳥会長が私の目の前にまで来てこう言った。
「涼子さんは自分に自信を持って行動してね! あなたは私の折れた腕を完璧に治してくれたんだから、 とても凄い事なのよ! ほら! その魔法で避難民を助けてあげてね! 」
飛鳥会長は目の前で、治った腕をくるくると行き良く回して見せた。 そして、私の肩にぽんと、手を乗せた。
「任せたわよ。」
私は、作戦会議後に学校から支給されたエアバイクに股がった。 操作方法は先程一緒に説明をされたので、 何となく運転は出来そうだ。 回りの生徒達は初めて見るエアバイクに戸惑っており、 上手く運転出来るかなどと騒いでいた。 だが、私は上手く運転するよりも自分はこの救命活動の力になれるのか? と言う方が不安が湧いていた。 もやもやした気持ちを欠き消す様にエアバイクのアクセルグリップを力強く回した。
―――。
この魔法能力に気がついたのは、他の生徒達と同様の去年の夏の暑い夕方の日が原因だと思っている。 その時の私は祖母に頼まれた買い物の帰り道で偶然にも浴びてしまったのだ。 眩しい射光に思わず目を背けた記憶もあるので、 確実だろう。
「ただいま。お婆ちゃん」
「おかえり。涼子。 いつもいつも悪いわねー 。 あたしも体が悪くなければ、買い物ぐらい一人で行けるのに…… 」
「いいのよ。気にしないでお婆ちゃん。」
私の家族は父と母と祖母と私の四人家族だが、両親が共働きであり、 夜遅くまで仕事をしている。 私は体の悪い祖母の為に、 学校では部活に所属ぜずに、 真っ直ぐに家に帰る生活をしている。 お婆ちゃんの世話をするのは苦にはならない。 何故ならば、私はお婆ちゃんが大好きだからだ。
「料理まで悪いわね~。 体が悪くなければ、あたしがやってあげるのに…… あたしなんて居なければいいのに…… 」
「そっ! そんな事言わないでよ、 お婆ちゃんっ!! さっ! 料理出来たよ」
気になる事と言えば、 祖母が最近、後ろ向きな考えに陥っている事だ。 私が中学に上がる頃だろうか? その前までは、元気で歩き回っていた祖母であったが、 散歩の途中で転んでしまい、 足を悪くしてしまったのだ。 老化のせいで回復が芳しくなく、 とうとう、 歩くことも出来なくなった。 そこから腰や腕回りも悪くなっていき、 以前の元気であった祖母の姿は、はっきりと小さくなって行き、今では、家の中の小さな椅子に座っている状態が続いている。 会話中も「あたしは居ない方がいい…… 」 「早くあの世に行きたい……」 などなど、聞いている方も萎える言葉が増えていった。
私は「そんな悪い冗談言わないでよ!」と、 励ます事しか出来なかった。 日に日に弱っていく祖母を見ていると、 励ます事の無力差に苛立ちを募らせる一方であった。
「じゃ、頂こうか? お婆ちゃん!」
「そうだね。 頂こう」
先程の発言を無かったことにしようと、 私ははっきりと料理をお婆ちゃんに進めた。 料理は元気だった頃のお婆ちゃんに習った。 「女の子だったら、 料理ぐらいは出来ないと、 良いお嫁さんになれないよ」と言われたので、 その祖母の言葉を信じて、 邁進をしていった。 今では、 夜遅く帰ってくる両親の為に御飯を作るのは、 私の仕事である。
「あら? このきゅうりの和え物美味しい!」
「美味しい? ほんとにっっ! 良かった。 料理本を読んで勉強した甲斐があった!」
「涼子は本当に勉強熱心だわね。 お婆ちゃんは本当に嬉しいよ。」
私は喜んだ。 私がお婆ちゃん子だからだろうか? 久々に柔和な笑顔を見せた祖母は、私の作った料理を美味しそうに食べてくれた。 だが、思わず見てしまった祖母の手元の箸はぷるぷると震えていた…… 本当に大丈夫だろうか?
「涼子。 そんな顔しないで。 お婆ちゃんは大丈夫だから」
「 …… 」
お婆ちゃんを何とかしてあげたい。 でも、運命には逆らえない。 どうしょうも出来ないジレンマに負けそうになり、私は涙を流す寸前まで、心が詰まった。少しの沈黙が続いた後に、直後にお婆ちゃんが言った。
「…… たまには、あたしが後片付けでもしようかね~。 涼子に日頃、世話になってるから、よいっしょっと!ああっ!」
「あっ! お婆ちゃん! 危ないよっ!うわぁ!」
ドサッっ!
私が叫んだ直後に、祖母は、思い腰を上げた椅子から下り落ちた。 一瞬の出来事に私は驚いてしまったが、急いで祖母に駆け寄った。
「お婆ちゃん! 大丈夫! 」
「すまないね …… 涼子。 あたしが無理しなければ良かったのにね…… バチが当たったんだね…… イタタタッ 」
「そんな事ないわよ!! お婆ちゃんしっかりして! 」
私は、祖母を仰向けに寝かせた。 朦朧とし祖母を見て、私は震えてしまった。
「涼子…… あたしはもうダメかも知れないね…… 」
「お婆ちゃん! お婆ちゃん! しっかりして! 」
「涼子…… 最後のお願いがあるんだけど… 聞いてくれるかい? 」
「え……」
祖母からの思わぬ発言で、私の武者震いは一瞬にして止まった。 たかが、椅子から転げ落ちた事だと思うが、今回で二度目だ。 もしかしたらと思い、か細く弱った祖母の口元に耳を当てた。
「あたしの足を揉んでくれるかい? 前やって貰った時、 とても気持ち良かったからね…… 最後にお願いしても良いかい? 」
「いいよ! お婆ちゃん! 揉んであげるからね! だから、 しっかりしてね! ね?」
祖母の足元に移動して、弱った足を揉み始めた。
「ああ…… 気持ちが良いね… 孫に揉んで貰うなんて、あたしは幸福者だよ。」
「う…… うう…… 」
堪えきらなくなって、私は涙を流した。 こんな事で良いなんて…… 私の無気力差に愕然としながら、マッサージを続けた。
「おや? なんだか、 柔らかい緑色が見えてきたよ…… これがあの世からのお迎えかねぇ…… 優しい霧が良いね。」
「お婆ちゃん! 緑色の靄なんて無いわよ!! しっかり…… え!!」
私は驚いてしまった。 足を揉んでいる自分の掌から緑色の霧が出現していて、祖母を覆うように広がっていたからだ。 祖母は蝶のサナギの様にすっぽりと霧に覆われた。
「なんだか、足の痛みが無くなっていくねー。 腕とか腰の固さも和らいでいくような。」
それから、マッサージを終えた祖母は、何事も無いように立ち上がり、部屋の中を歩いて見せた。
拍子抜けして呆然としていた私に祖母はこう言った。
「涼子のマッサージのお陰で、あたしはこんなに元気になったよ!! ありがとう涼子! 」
祖母が元気になったのは言いが、その後に帰宅した両親はたいそうに驚いていた。その時の祖母はテレビに写っている歌番組のダンサーの躍りを覚えようと必死に真似をしていたからだ。
それから、日本中で私の様な魔法を使える少年少女達が現れ始めた。 家にも政府関係者の人間が私の不思議な能力の噂を聞きつけて訪れた。 今度、開校される魔法学校への入学を進められたが、 両親は入学に反対を示した。 おいそれと聞いたことの無い学校に一人娘を入学させるのは怖いというのが言い分だった。
私は是非とも入学したかった。 そんな私に味方してくれたのは大好きな祖母だ。
「涼子。 あなたにはその不思議な能力があるのだから、その能力で困っている人を助けなさい! あたしが助けられたようにね。 任せたわよ!! 」
私は祖母の助けを借りて入学した。大好きなお婆ちゃんの為にも。 困っている人の為にも……