29
ーー
神山山とは、我が国の中央部、○○県白川市に位置する活火山。我が国では珍しい市街中央に鎮座している火山であり、広大なカルデラ地形(鍋型)を形成する山である。隣に似たようなカルデラ(鍋型)があるが、こちらは死山であり ……
ーー
僕は爆発した神山山の情報をスマホで見た後に、胸ポケットに仕舞いこんだ。ある程度の予備知識を持っていた方が、何かしら役に立つかもしれない! そんな考えが浮かんだので、じっと見ていたが頭には入らなかった…… いきなりの救助活動の実践に緊張と恐怖が競り勝ったのだ。僕の体ががくがくと震えるのが伝わってくる。
「あんた震えてるの? ビビってる?」
その一言に驚いて、僕は会長の方を見た。会長は一心に目の前のガラス張りの外の様子を見ながら、両手で舵を握っている。ここは魔法学校の操縦室だ。会長の「総員第一種戦闘配置! 」の号令で、生徒達は慌てた。≪何処に配置するの?≫ 皆が混乱していると、会長が適切食堂から教室に移動する様に指示を出した。僕も移動しようとしたら「あんたはこっち!」と無理矢理引っ張られて、ここに連れて来られたのだ。【あんまりだぁ~】
「どう、 この操縦室は? とてもこの魔法学校に相応しい雰囲気じゃない?」
僕はその一言に合わせて、改めて室内をぐるりと見た。一面はガラス張りであり、外の空の様子が見えている。回りにはコンピュータ備え付けの席が備え付けてあり、まるでSF映画に出てくる宇宙船の操縦室ようだった。ふと、疑問に思った。
「…… なんで僕がここに入るんですか? 僕もみんなと教室にいた方が良いと思うんですが」
「あんたには手伝ってもらうことがあるのよ! 」
会長は僕の後ろ側にある金属の固まりに指を指した。よく見てみるとそれはタイヤのないバイクの形に見えて、バイクよりも長さが大きく感じた。
「これってなんですか? なんか、昔のSF映画に出てくる様な乗り物みたいなんですが…… 」
「そうよ。これはエアバイクって呼ばれる空中浮遊型バイク。私とマスターの共同開発による発明品よ」
「これって免許とかは要らないんですか? 」
「要らないんじゃないかしら? 普通の人とかが運転出来ないというか…動かす事が出来ないのよ」
「と言うことは、僕達の様な魔法使いしか運転が出来ないと」
「その通りよ。先ずはそれに股がってみて」
僕は会長に言われるがままに、エアバイクに股がった。だが、何の反応もない。
「そしたら、アクセルグリップを握って念じてみてよ! ゆっくりね」
アクセルグリップに触れた途端に、少しエアバイクが浮いた! おおっ! 動くぞこれ! 興奮しながら、体を前に動かすと前進をゆっくりと開始し始めた。
「問題なし! 異常は無さそうね。そのエアバイクは生徒人数分用意しているからこれで、活動範囲が広がるわ!」
会長は満足げに喜んだ。 確かにこのエアバイクがあると色々と便利そうだ。
「会長。これに乗って噴火火山に行くんですか? 」
「そうよ。 この魔法学校全体で近づくのは無理そうだし…… 数㎞からこのエアバイクに乗り換えて行くのよ。」
「その後の作戦とかはあるんですか? 火山に行って何をすれば良いのか…… 」
「大丈夫! 作戦は考えてあるわよ! これを読んで」
手渡されたファイルを受け取った。背表紙には「第一回チキチキ神山山休止作戦資料集」と書かれていた。 …… 【ふざけてるのか?】 パラパラと読み出したが、意外としっかりとした内容であった。だが、最後のページに書かれている一行に驚いた。
≪――以上の事によって大規模な圧力と熱エネルギー持つ、爆発した火山を止める事は出来ない。≫
…… 読み終えた瞬間にファイルを床に落とした。無理じゃん。
「最後の一行読んだの? まぁ、この資料自体も地質学者の研究をまとめたものを丸々コピーしたものよ。火山を止める方法は専門家も解らないらしいわね。」
「どうにも出来ないのですか? このまま行ったら僕らは何をしに行くと……」
「よく読んだの!? 私は最後の一行が大切だとは思ってないわよ! このあほ!」
何回目だろうか? また会長に怒られた。テンションがガタ落ちしていると、会長に説明をされた。
「その資料の14pをよく見なさい。神山山と周辺の地形って言う章、そこにヒントがあるから」
「あ…… はい」
ペラペラと指定されたページを開いた。まじまじと読んだが、さっっっぱり解らない! もしかして、僕は会長に騙されてるのか? それとも僕は…
「ばか」
ですよね~僕は馬鹿なんですよね~
「もっ! まだ解らないの? ここにこうすれば火山を止めることが出来るかも知れないでしょう?」
会長は、資料を見ずに指先だで僕に解りやすく説明してくれた。なるほど。
「でも、この作戦は成功するのでしょうか?」
会長は相変わらず、舵を取りながらガラス張りの外を見ていた。しかし、さっきまで僕を叱っていた表情とは別の真剣な顔つきであった。
「この作戦は成功する! いや、何としてでも絶対に成功させるわ!」
僕も並々ならぬ会長に心を打たれた。この人に着いていこう。
決心を固めたときに、学園の外の景色がみるみる変わっていく事に気がついた。鉛色の曇が多くなっていき、ガラスには黒い流砂がこびりついてきた。
「そろそろ、降下地点に到着するわ。準備して! 」
僕はその一言に覚悟を決めるように重くうなずいた。