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「あー、暖めたうどんはめちゃめちゃうまいなぁー、冷めたうどんなんて、電源が入っていない炬燵の様なもんだな。足を入れた瞬間に冷たくてがっかりする …… 炬燵の意味ないよな。あー」
校長(総理大臣)に毎回驚かされる。なんで学食いるの? 仕事はどうしたの? 食堂にいる生徒達は校長に目が釘付けになっていた。(しかもちゃっかりと僕達の席に座って食べてる)
「ん? みんなどうしたんだい? 早く食べないないと時間がなくなってしまうぞ。あー」
校長はそんな事はお構い無しにうどんに夢中になっている。
「校長…… 仕事というか公務とかはいいんですか? 一応、ここの学園長ですが、この国のリーダーなんですよね? 」
「あー。大丈夫だよ。 ノープログレム。細かいことは時貞君に任せてるから大丈夫だよ。彼はとても優秀な人物だから私の仕事は大抵の事は出来るからね。でも、夜中に電話来た時はびっくりしたなぁー! なんか国の予算がどうとか言ってたけど、君のセンスに任せるからって言っといたから大丈夫だと思うけどね。しかし、このうどんは旨いね」
「予算ってこの国の国家予算の事ではないんですか? 」
「あー。多分そうだと思う。詳しい事は知らない。ずるずる」
多分ではなくて、その通りだと思う。皆が呆れ返っていると続けて、校長は話をし出した。
「あー。言い忘れたけど、私は暫くはこの学校に住もうと思っている。首相官邸はどうにも息苦しいんだよな。公務室の電話なんて一日中鳴りっぱなしで、うんざりしてたんだ。前なんか …… まぁ、名前は伏せるがひっきりなしに、この魔法学校についての納得する説明を要求するとかなんとかつう電話が成りやまないだよなー。あー参った参った」
この学校に住む!? その発言には皆が驚いた。…… この国は本当に大丈夫なのか?一緒に食卓を囲んでいる僕達は、不安に思ってしまった。そんな顔つきを作る僕達を見てか、校長はテレビの方を箸でちょんちょんと指した。テレビには【国会中継】が放映されていた。
「本日は第215回予算質疑応答を開始します。では、魔法学校創立の特別予算についての質問について、××党中田議員」
中田議員と言われる人が、席から立ち上がり、質問席に向かった。
「総理にお尋ねしたい。この魔法学校と言う国立学校に70億の税金が注ぎ込まれていますが、なんなんですか? この魔法学校というものは? 」
「ナー。コレハ先程に発見された魔法を使える15歳の少年少女タチを教育スル、特別な学校でありマス」
「前にメディアなどで話題になっていた少年少女達の事は知っていますが、特殊能力を持っているだけで特別扱いするのはどうかと…… 私の意見では普通の高等学校に進学させて、もし何かあればその時に対応すれば良いのでありませんか? 総理」
「ナー。彼らはまだ、未成年の少年少女達です。モシ、普通の高等学校に進学して、彼らの持っている魔法能力などで差別的ないじめなどを受けたらドウシマスカ? 他にも魔法を悪用するかも知れませんネ」
質疑応答が写し出されているテレビに魔法学校の生徒達は食い入る様に見つめていた。今、放映されている国家中継は僕達の事を議題にして、少しばかり、世間からは良くは思われていないと討論で明白されたからだ。少し怒りが満ちた表情で見つめる者や怯えている者がちらちら見えた。一方、会長や真二君は落ち着いて見ていた。
「確かにそのような自体になるかもしれません。しかし、70億という税金いや、国民の血税が注がれている事が問題なんですよ。お金は無限にあるとは限りませんよ、そのような無駄遣いをされては困ります」
問題はそっちなんだ ……今までテレビに向けられていた視線があっという間に冷めていった。僕達、魔法使いを問題視するのではなく、無駄な税金の使い道を問い質す…… 政治家のお家芸ではないか。落胆していると校長が僕の耳に呟いてきた。
「…… あー、今、あの国会にいる総理大臣って誰だと思うかな? 達哉くん」
「いやいや、あなたでは… あっ! 」
そうだよ! おかしい! 国会のテレビ中継に総理大臣≪校長≫が写っていて、しかも、喋っている。 だって、僕に喋りかけてきたこの人が、この国の総理大臣なんだ! では、どっちかが偽物?
「あー、あっちにいるのはアンドロイドなんだ。その証拠に画面右上の人見ていてくれ」
そう言われたので、画面右上を凝視してみた。総理大臣が立っている応答台の丁度後ろ側に警備員などが数人立っていた。その中に、時貞さんが見えた。時貞さんは手に黒い箱を両手で持ちながら、カチカチ動かしていた。
「時貞さんですね。あの手に持ってるのって、カメラですか? それとも、録音レコーダーとか? 」
「あー、あれはリモコンなんだ。あのリモコンで私のアンドロイドを操作している。何せ、あそこまで近づかないと電波が届かないだ。因みにあのアンドロイドにも魔法の力が込められているだよ。開発したのは勿論、飛鳥君だよ」
だから、会長は落ち着いて見ていたんだ~…… って、なに開発してんの!会長!こんなことがバレたら、国中がめちゃめちゃ騒ぐし、 時貞さんがリモコンで操作している時点で、アンドロイドではなくて、リモコンロボットじゃん!!【口調もロボットっぽい。】
「あー、失敗したかも、もう少し男前にしてほしかったなぁ。やっぱり男はカッコいいほうがいいなぁ」
「マスター、それでは今度のメンテナンスの時に顔つきを変えましょう。もっと男前にして、威厳があるように直しますね」
「あー、頼むよ飛鳥君。予算の方はたっぷりあるから、気にすることはないから。存分に改造してくれ」
「了解です」
二人のあり得ないやり取りを僕はじっと聞きながら、テレビ画面を見続けた。田中議員と言われた野党議員は、それからも70億円の使い道を問いだ出していたが、アンドロイド総理大臣に上手いようにはぐらかされたり、攻められたりして、段々とトーンが下がっていき、戦意喪失していった。【アンドロイド総理を操作している時貞さんも疲れが出ているのか、汗を滲ませながら操作していた】
「ナー。それでは、田中議員。70億円の使い道についての質問はコレデよろしいデスカな? 私は誠心誠意込めての応答にご不満デモ? 」
「いえ、…… もう ありません」
打ち負かされた田中議員はトボトボと自分の席に帰っていった。哀れだ。その背中に負のオーラが漂っていた。
「では、次の質疑応答に移ります…次の質問は○○党今田議員による [最近の総理の違和感について] だそうです。 今田議員! 前に…… 」
ギュイン! ギュイン! ギュイン!
テレビ画面を見ていたら、食堂内に聞いたことがある音が鳴り響いた。たしかこれは、緊急地震速報の音。この音でトラウマになった人も多いと聞いたことあったっけ。生徒達は、テレビ画面から自分達が持っている、スマホに目を向けていた。
「うわ、震度7の地震が発生だってさ! 多いよね。最近」
「場所は…○○県の白川市らしいね」
ざわざわと騒ぎ始めたが、この魔法学校は無事であろう、何故ならこの学校自体が空を浮かぶ魔法学校なのだから地震の被害はないのだ。安心していると、今まで国家中継をしていた画面が切り替わって、地震速報を伝える臨時ニュースになっていた。
【国家中継の途中ですが、今、地震が起きました。えー、地震の強度は7…… 震度7です。あ! 今、臨時ニュースです!! 今入ってきた情報によりますと、この地震により、○○県の白川市の活火山が爆発をした模様です!! 周辺地域の住民の方々は速やかに…】
慌てるように、ニュースキャスターは火山爆発を喋り続けている。僕も呆然と見続けていた。
「あー、まずいな、飛鳥君! 地震の起きた白川市はどの辺なのかな? 」
「はいマスター、今調べましたが、この魔法学校から三時の方向に約47㎞ほどにあります」
校長は一瞬沈黙してから、おもむろに立ち上がりこう叫んだ。
「あー、魔法学校の生徒の諸君。今の地震の情報は聞きましたね。いきなりだと思いますが、この現場に急行して、災害救助活動をしたいと思いました。私の身勝手で危険があると思います…幸い、諸君達には魔法と言う特殊能力があります。どうか…… 私に力を貸して貰えませんか?!! 責任は…… 私が取ります!!! 」
そう校長(総理大臣)が言うと、土下座に近い礼を僕達に向けた。
確かに、怖い。災害現場に急行するなど、誰も思ってもいなかった。救助活動などこの国の自衛隊などかやればいいのではないか?と、思うこともある。だが、この魔法学校の生徒達は勇気ある人達だと自分達は自負してる。僕もそう考えてるし、何しろ、国家中継での野党議員の「魔法学校など入らない」と言っているような発言にも、悔しい気持ちで一杯になっていた。
「校長! 行きましょう!困っている人達を助けに行きましょう! 」
「俺達には魔法が使える! あの火山なんて止めてみせるよ!なぁ! みんな! 」
「怖いけど……私は行きたい。魔法学校の素晴らしさと勇敢さを見せたい! 」
生徒達はやんややんやと鼓舞していた。その様子を見ていた生徒会長は大声で言った。
「総員第一種戦闘配置!」