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廊下からコツコツと足音が響いてきた。その音に合わせながら、「や、ほ、や、ほ」と声も発していた。
…… 真木先生に間違いない。
僕ら二人はドアから聞き耳を立てて様子を伺う。その奇妙な声と共に足音がこちらに向かって大きくなってくる。僕らは慌ててドアから耳を外すと、顔を合わせた。
「こっちに来てますよ! 不味いですよ!」
「それはさっき私も言ったわよ! こんなところ見つかったら …… 生徒会長としての威厳が ……」
「でも、まさか生徒の部屋とかに勝手に入ったりとかはしないんじゃないですか? ただ、廊下を歩くだけの見回りなのでは?…… 」
「私が、さっき見たときは無造作にドアをノックして入っていったわ。ヘタするとここにも入ってくるかも ……」
「だったら、俺の風の魔法で真木先生をぶっ飛ばすから、その隙に自分の部屋に帰る方法は?」
「あ! それは良いアイディアだわ! 残念だけど、真木先生には …って! そんな事出来ないわよ! え?」
魔法でぶっ飛ばす作戦は僕が言った事ではない。僕達二人が恐る恐る声のした方に振り向くと、なんと真二君が立っていたのだ。
「お …… お目覚めかい? 信二君? 」
僕はビックリして、話しかけた。
「お目覚めもなんも …… 君たちがギャーギャー騒ぐから、目が覚めてしまったよ。」
深くため息をつきながら、僕らの顔をじっと見ている真二君。結構前からそこに、居たみたい ……
「大体の状況は解ってるよ。達哉君と会長が逢い引きしていて、短い甘い一時を終えてから、名残惜しむ様に会長は帰ろうとしたら、帰り道に真木先生という名の大魔王がいたので引き返してきた。なぁ?合ってるだろう?」
「まっっったく合ってないよ! 信二君! 」
「あ、逢い引きじゃないわよ! このバカに謝罪しに来ただけっ!」
僕達二人が真二君の間違った名推理にクレームを叩き込んだ。
「そうなんだ。まぁ、ここは俺に任せなよ」
真司君は、ゆっくりと部屋のドアを開けて廊下に出てった。僕達はドアの隙間から真二君を観察していた、すると、隣の部屋のドアを開けて入って行き、人と話し込んでいる声が微かに聞こえてきた。
「信じていいのよね?」
「ここは真二君に任せよう」
不安と恐怖に襲われながら、廊下の様子を伺っていると、とうとう真木先生がこちらにやって来たしまった。
「いや〰夜の学校の見回りなんて怖いわぁ〰どんだけぇ〰さっさと終わらせてかえりましょ」
真木先生は、隣の部屋のドアを通りすぎようとしたその時、ドアから灯りがパッと差し込んだ。
「あら? ここの部屋が急に灯りが着いたわぁ〰さては、イケないことしてるのね❤ ここは厳重注意の罰だわぁ〰どんだけぇぇ〰」
正直、怒っているのか楽しんでいるのか分からなかった。
真木先生はドアをノックして、鍵を開けさせて入っていった。そして、部屋の住人と話をしている。気になったので、隣部屋側の壁に移動して、聞き耳を立てることにした。
「アナタ達〰もう、消灯時間は過ぎてますわよ〰いかほどぉ〰何してるの?」
「すいません。丁度今から寝ようと思ってたんですよ。だけど、良い感じに場が暖まってきたんで …… つい ……」
「もしかてぇ〰それは麻雀なの!どんだけぇ〰!!!」
「ええ、そうですよ。真木先生は麻雀お好きですか?」
「ええ …… 昔は豪運の真木って名で通ってたわ …… くくっ、昔の血がさわぐっ!わよ。」
「良かったら、どうですか?」
「勿論、倍プッシュよ!」
ざわ …… ざわざわ ……
こうして、真木先生は麻雀に参加していった。その時、コンコンと、壁を軽く叩く音をダイレクトに聞いた。丁度、僕が聞き耳を立てている反対側だったので、鼓膜が少し揺れてビックリした。
「っっっっ!!!」
「大丈夫? 」
「急だからビックリした!あっ!! これは真二君からの合図だ!この隙に帰れって事だよ! 間違いない」
「わかったわ。今のうちに!」
飛鳥さんは、ゆっくりとドアを開けて、自分の寮に帰っていった。
真司君の頭脳プレーで何とか危機回避した。
だが、その代償に隣の部屋の麻雀は朝方まで続き、麻雀稗の転がる音と真木先生の奇妙な声によって、僕は完全な寝不足になってしまった。