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!!! っ
僕はビックリして声がした方へ振り向こうとしたその時に(遅い! )と言う声と共に、拳が降りかかってきた。慌てて、左腕全体で覆うように身を守った。意識を集中して、これから来る痛みに堪えようと必死に守りを固めた。
ガキッッッー! 「いたぁーいっ! 」
冷えた音と女子の悲鳴が僕の耳に飛び込んできた。来るべき拳の強打は痛みもなかった。【あれ? 痛くないぞ】と思いながら、今度はゆっくりと目を開いた。最初に目に映ったのは、自分の左腕全体が、氷の塊でガチガチになっていたことだった。まるで、氷山の一角が自分の腕から生えたように覆いつくされていた。
次に目に飛び込んできたのは、自分の足元付近で右腕を押さえながら、苦しそうにのたうち回る生徒会長であった。(痛い! 痛い! いたいっ!)と苦しそうに何度も叫び続けている。
慌てた真木先生は、僕と生徒会長の間に割って入り、話をしだした。
「あなたぁ! その腕は大丈夫なのっ! 氷に飲み込まれてるわよっ! 」
「僕は大丈夫です。そんなことより生徒会長が!」
「そうだったわね! 大丈夫? 飛鳥さん?! 」
真木先生は僕から視線を外すと生徒会長の肩を叩いたが、相変わらず悲鳴を上げながらのたうち回っていた。どうすることも出来ない空気を校長先生が、打ち破った。
「おい! 誰か回復とか修整などの魔法を使える生徒はいないかな?! いたら、ここに来て! 急いで! 」
その一言で、教室の隅々で固まって見ていた生徒達が我に返り、ガヤガヤと動き始めた。その集団の中から一本の腕がスッと伸びて、僕らの所にやって来た。
「あ ……あの、私は回復の様な魔法が使えるですが …… 」
「助かる! 本当は医者とかを頼みたいのだが、これは緊急だ! 君に賭けるよ! 」
「はい …… できるとこまで力を出したいと思います」
その女子はおずおずと会長に近寄り、会長に対して掌を向けた。掌からは優しそうな薄緑の煙のような物が出てきて、会長の痛めた左腕に絡むようにして覆っていった。数秒後に不思議な煙は薄くなり、会長の腕からなくなった。痛みで暴れていた会長はゆっくりと静かになった。
「あー、…… どうやら、気を失ったらしいな …… さっきの腕は完璧に折れていたから、痛みは相当なものだっただろうな。まずは、大丈夫か! 君! ありがとう! 」
と、校長先生は深々と礼をした。
受け取った女子生徒は照れながら、元居た場所に戻っていった。
「あー、達哉君と言ったね。いろいろとすまんね。飛鳥君は少し気が強い所があってさ、私もいろいろ学校創立に頼ってしまったから、少し甘やかし過ぎたのが原因かも知れない …… そんな所がなければ、良い生徒だと思うのだがね。まー、今回の事件は私達がぼーっとして招いた悲劇であり、飛鳥君が挑発した時に仲裁に入れば良かったのだが …… 本当にすまない」
「いや、僕が悪いんですよ。会長が魔法を放てと言ったときに、僕があの挑発に乗って魔法を使ってしまったのが悪いし、あのまま黙って耐えてたら良かったんですよ」
「それもあるが ……」
その時、「う ……うう」と会長の呻き声が聞こえた。
「ああ! 良かった! 気がついたみたいね。飛鳥さん? どう? 立てる? 」
真木先生は会長の体をゆっくりと起こすと、付き添って教室から出ていった。その光景を見ながら、生徒達全員がゆっくりと沈黙を繰り返した。
僕も居たたまれなくなって、ふと、教室から外の窓を覗く。そこには、先ほどまで快晴だった天気がどんよりした雨雲が立ち込めていて、雨をゆっくりと降らしていた。