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「でも、頻繁に心の声を達哉に聞かれるのは嫌だから外すね」
百合子は腕時計を元のスカートのポケットに仕舞いこんだ。そして、にっと笑うとキッチンの方へ行ってしまった。
最後の笑いはなんだったんだろう?と思いながら、百合子のいるキッチンに僕も足を進めた。キッチンに着くと百合子が冷蔵庫を漁っていた。【人の家の冷蔵庫だぞ】
「なに探してんの? 」
百合子は半開きの冷蔵庫の扉からひょっこりと顔を向けた。どうやら何か作ってくれるらしい…
「お腹減ったでしょ?何か作るわよ」
「冷蔵庫の中身を勝手に使って大丈夫なの?怒られない? 」
「大丈夫よ。…てゆうか、昨日のきんぴらごぼう美味しかった? 」
きんぴらごぼう?はて?と思った。昨日?あ!あの夕食のきんぴらごぼうは百合子が作ったのか!
「……食べたよ美味しかった」
「そう、良かった! 」
嬉しそうにしながら、百合子は冷蔵庫のドアをパタンと閉めた。その間に食材等を取り出したんのだろう、調理台の上には卵などが置かれていた。妙に手際が良かった。…もしかして、僕が見知らぬ内に家に入ってきてるの?もしかしたら、僕が食べていた物ってほとんど百合子が作ったやつだったのだろうか?気になる…お母さん…教えてよ。
「……手伝うよ」
僕は、その事も聞きたかったから、手伝う事にした。
「サンキュ」
百合子はこれまた手慣れた手つきで、材料を選ぶとまな板に置き、そこに包丁を突き刺し材料をささっと切っていった。凄いなぁと感心した。
「結構、料理とかするの?」
「家で手伝わされるのよ。お母さんが女の子は料理出来なきゃダメだって言ってるから」
「……へぇそうなんだ」
百合子の女子力に感心をしながら、料理の手伝いを続行した。とんとんと、リズミカルに包丁を使い、百合子がキャベツを切って行く、見ている方も何だか面白い。キャベツを切り終わったタイミングで尋ねた。
「そーいえば、百合子って聖女高校受けるんだってね」
百合子が切ったキャベツを皿に盛る手を止めてしまった。まずいことだったのだろうか?
「……何で知ってるの?」
「いや、親から聞いたよ。凄いな」
「……まったくお母さんは…あんまり人に言わないでって言ったのにもぉ、」
しゅんとした百合子を見ながら、話を続けた。
「別に秘密にしなくたっていいじゃん」
「あのね!まだ受かった訳じゃないんだから騒がれるのは余計にプレッシャーなのよ!! 」
「……だよね」
自分でも酷いことしてしまったと思ってしまった。僕は進路の事をすんなり決まってしまったが……【あ!塾に通ってる意味ないわぁ】
「ごめん」
「……いいわよ あと入学おめでとう」
……
百合子はにっこりと僕に笑う。丁度、料理が終わったタイミングだった。僕は料理の手伝いを終わるとテーブルに腰をかけて、しばらく待った。その後に母親二人組が帰ってきて、料理を食べた。
気がつくと僕はベッドの上にいた。もう、夕食から相当な時が過ぎていた。
僕はすんなりと進路が決まってしまった…だが、百合子はまだ決まってない。
罪悪感を抱きながら、僕は睡魔に襲われていった。