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百合子は絶句した。なぜ、腕時計をタンスにぶつけて壊した事を知っていたのか? これは、母親にも言っていない事なのに…一息ついてから尋ねた。
「…なんで?なんで知っているの?壊した原因を?」
「は?今自分で言ったろ?腕ごとタンスにぶつけて壊したって」
「言ってないよ!そんなことを言ってない! 」
ぶんぶん!と、首が飛んでいってしまうくらいに百合子は首を横に振っていた。
「いや、言ったね。さっき小声で頭に響いて来たんだよ。あの位小声は聞こえるよ」
「だ・か・ら!小声でも大声でも言ってません! 」
しばらく、押し問答が続いた。では、さっきの頭に響いた声はなんだったんだろう?……まさか!
僕は気がついてしまった。さっきの頭の中で響いた声は百合子の声だが、口では言っていないのだ。多分、思っていた事だろう。心の声として僕の頭の中に聞こえてきたんだ。なんだろう?これはもしかするとテレパシー的な物だろうか?そこで僕は実験をしてみることにした。
「百合子お願いがあるだけどいいかな? 」
「なにする気なの?変なこと? 」
百合子は疑っているが、無視して頼み込んだ。
「何でもいいから、何か考えてみて。それを当てるから」
「?」
百合子は小首を傾げながら、瞳をつぶった。しばらくしてから、また、僕の頭の中に声が響いた。
【達哉は何考えてるの? めちゃくちゃ怖いんだけど……】
「今、僕の事怖いって思ってるでしょ?」
「!!」
百合子は驚いていた。そりゃそうだ、自分の考えていることが見透かされたので驚く。これって腕時計に何か魔法がかかってしまっているのかな?わからない。
「多分なんだけどさ、その腕時計に何か不思議な力が入ってるんだと思うんだよね…だから、百合子の思っていることが読めるんだと思う」
百合子は腕時計を見ながら、僕の話を聞いていた。少し複雑そうな顔をしながら、うんうんと言いながら…
僕の話を聞き終えると百合子はそっと腕時計を外した。
「……この腕時計外すとどう?私の考えていること解る?」
そう言うと、百合子は目をつぶった。……頭の中に声が聞こえない。
「今度は全然聞こえないよ。その腕時計を着けてる時だけだと思う」
「あのさ、腕時計を直してくれたのはありがたいんだけど、変な魔法とかは要らなかったわよ」
「僕だって解らないよ。ただ、直れ直れって思ってたんだけど…直すだけではなくて要らん能力つけちゃったんだね」
しょぼんと僕は顔を下げてしまった。人の考えていることを読み取ってしまうなんて、悪いことだと思っている。世の中の人達は、嫌な事や辛い事を隠しながら生活をしている、心では思っていても顔は笑顔で仕事したり…もし、心の中の思っている事を顔色で表していたら、世間は争いが絶えない世になっていただろう…
「悩んでいるでしょ? 」
百合子は言った、当たったいる。
「百合子も魔法で僕の思っていること当てたの?」
「違うわよ。達哉は悩むと眉間に皺がぎゅっと寄るんだもん。昔から変わってないわね」
百合子は微笑みながら話をした。そして、時計を腕にはめた。
「変な魔法かけられたのは困ったけど、腕時計は直ったわ。ありがと」
「ああ…良いって」
僕は駄目だと思いながら、百合子の心の思っているを聞こうとした。
【大丈夫よ。本当にありがとう】
その声は本当に心の底から聞こえた、その一言は美しくも優しい、百合子らしい言葉であった。