10
百合子は自分の履いているスカートのポケットからそっと金属製の物を取り出した。それを僕の目の前に置いた。
「これ……覚えてる? 」
「これ?ん?」
僕は小首を傾げてしまった、そこに置かれたのは古ぼけた腕時計であった。良く見るとレンズの所は傷で目一杯なっていて、ベルトの金属部分は少し歪んでいる様にも見える…だが、針は動いてる。今見ていてもしっかりと時間を刻んでいる。あ!と僕は声を上げた。
「この腕時計…僕があげたやつじゃん」
百合子はふっーと、ため息をついて話をし出した。
「思い出してくれたのね。これは達哉から貰ったやつだよ…忘れていたなんて…でも貰ったの十年近く前だよね」
僕は百合子の話を聞きながら、古ぼけた腕時計を見つめながら、その当時の事を思いだした…
当時、百合子と僕は仲の良かった幼馴染み同士であった。小学校の登下校も一緒だったり、遊ぶのも百合子と二人だけの時が多かった。いつしか、年を重ねると、疎遠になっていったが…
実はこの腕時計は、僕の父親から貰った物なのだ。その当時の僕は大人がする腕時計に憧れを抱き、毎日出勤する父の右手首にある時計に興味を示していた。何度も何度も(ほしい!ほしい!)と言い続けて、やっと譲って貰ったのだ。【母親には父親を困らせるな!と言われたが、安物だったので父親は気にはしていなかった】
その日から朝起から腕時計をつけて、毎日学校に通った。友達など見せびらかせては(大人だ!)と言われる充実感を感じていた。それに気がついた百合子が(私もほしい)と言ってきたのだ、僕は(買って貰いなよ)と嗜めたが、百合子は(達哉がつけてるそれがほしい)と言ってきた。最初は拒んでいたが、顔を真っ赤にして泣きそうな目で毎日、毎日、ほしいほしいと、言ってきたので、渋々あげてしまった。
……
「まだ、持ってたんだ。これ」
「ずっと持ってたわよ。…でもね、ボロくなってしまったし、時間もずれて行ってるのよね」
「んで、これをどうして欲しいの? 」
「あんた、魔法使えるじゃん。これを治して」
……は?
僕は時計屋さんではない。その発言はどうすることもできない無理な相談であった。……もうむちゃくちゃやん。
「無理だよ…時計屋に持ってけばいいじゃん」
少しキレ気味で百合子が答える。
「時計屋さんでも無理だって言われたの!中の部品とかがもう生産してなくて、帰されたのよー!!あんたが魔法使えるって聞いたから、直せるかもって思ったのよ!そもそもこれは……」
その後、百合子はマシンガンの乱射の様に喋り続けた…【よー喋ること喋ること 汗】
百合子が落ち着いてから、僕は話をし出した。
「僕が使える魔法ってのはね……」と言いながら、右手の掌から小さな氷を出し、左手の人指し指からは蝋燭程度の火を灯して見せた。百合子は驚いたように両手を右往左往に見ていた。
「……やっぱり、魔法って存在したのね……ニュースの報道とかでは信じられないと思ってたけど、目の前で見せられたら…信じるしかないわね。しかも達哉が使えるなんて……」
百合子は目をきらきらしながら、僕の顔を見た。
「これしかできないだよ。何かを直すなんて出来ないよ」
その言葉を言い終わった後に百合子は、僕の右手の掌に無理矢理腕時計を握らした。【一瞬ドキッとしてしまった!】
「いいから!直してみてよ!やってみなくちゃ分からないでしょ?! 」
また、むちゃくちゃだった。
僕はダメ元に握らされた腕時計に念じた…… 直れ、直れ……
再度、腕時計を見たが何も変わっていない。僕はテーブルに放り投げた。
「な? 言ったろ? 無理だってさ」
「 …… 」
百合子は人の話を聞いているのだろうか?放り投げた腕時計に見いっていた。
僕もため息を着きながら百合子と視線を合わせる様に腕時計を見た。
……!
あれ?レンズの所の細かい傷が無くなってる!ベルトもくたくたではなくて、新品並の形を形成していし、秒針のテンポも良い!なんだ?これは?
僕は驚いた。百合子も同じ所に気がついたのだろう。百合子は恐る恐る手に取り、自分の腕に着けて喜んだ。
「すっごい!やっぱり直せたじゃん!! 」
「まぁ、なんだろうね、はは」
僕自信も驚いた。こんなことも出きるなんて…新しい能力だ。ふと、驚いていると僕の頭の中で、何かが聞こえた。
【達哉ってスゴい!まさか、タンスに腕ごとぶつけて壊したなんて言えないもんね!でも良かった】
……
「百合子…それってタンスにぶつけて壊したの? 」
百合子はぎょっとして、僕の顔を見た。