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(よし、万事順調!)
学校の使用許可は、神尾先生がとってくれるから、もう「場所」の心配はしなくていい。後は、小道具の準備と、人員の配置。それから、タイムスケジュール。……ああ、そうだ。いつも邪魔をしてくるメルを、今のうちにどうにかしておかないと。
私は、正門へ続く急勾配を下りながら、炎天下の校庭を見た。
部活動をしているのは、野球部と陸上部。そして、ラグビー部と入れ替わりで、サッカー部が練習を始めたようだ。その中で、ゴールキーパーの竜太は、すぐに見つけられた。
(あれが、かっこいいんだよな……?……。)
私は、少しだけ紗枝の気持ちになって、竜太を眺めた。
確かに、熱心に練習に励む男子というのは、「すごい。」と思う。かっこいいと言われれば、否定もしない。けれど、世に言われるような「ドキドキ」とか「キュンキュン」とか、そんな感情はこれっぽっちも生まれてこなくて、私は、だんだん馬鹿らしくなってきた。
(……帰ろ。)
竜太は、私の趣味じゃない。
私は、うだるような日差しを避けて、桜の木陰を縫うように歩いた。
すると、
「由紀ちゃん!」
と、突然、呼び止められた。
振り返ると、スポーツタオルを首にかけた河野先輩が、走ってこっちにやってくる。
河野先輩は、キラキラと輝く大量の汗をぬぐうと、私の前で一息ついて、
「どうだった?」
と問いかけた。
「は?」
「今、神尾先生のところに行ってきたんだろう?」
「ああ、はい。神尾先生の許可はもらいました。私の方の準備も、今週中に終わります。近いうちに打ち合わせをしますから、そのときはお願いします。」
すると、河野先輩は、スパイクの土を払いながら、爽やかに笑った。
「あはは。由紀ちゃんは、本当にすごいな。どうやって許可をもらったんだい?」
「別に。恩着せがましく真実を話しただけです。」
「なるほど~。由紀ちゃんは、本当にすごいね。感心するよ。」
河野先輩が私を賞賛している。
私は、そんな河野先輩が理解できなくて、
(そんなことで褒めるか?。)
と眉をひそめた。これが竜太なら「怖ええよ。」とドン引きするところだ。
「じゃ、私、帰りますんで。」
私が逃げようとすると、河野先輩は、
「ああ、待って。他に何か、手伝えることがあったら言ってほしいんだけど。」
と、また呼び止めた。
「いえ、先輩は部活動に戻ってください。あとは、メルに話すだけですから。」
「ん? メルちゃん? メルちゃんなら、もう話したよ。」
「?!」
このとき、私は、息が止まるほど驚いた。
(メルに話した?!)
メルは、話しようによっては、敵にも味方にもなる。
「いつですか?!」
「昨日だよ。隼人の家に行ったら、たまたまメルちゃんもいてね。それで、二人に話をしたんだ。」
木橋隼人は、メルの彼氏だ。私は、メルと木橋君が一緒にいる可能性を失念していて、
(しまったな。)
と思った。メルという強敵は、一番先に味方に引き入れるべきだったんだ。
「で、メルは、何と言ってましたか?」
私が身構えて問うと、河野先輩は、にこりと笑って答えた。
「うん、手伝ってくれるって言ってくれたよ。」
「え?」
何かの聞き違いか。
「あのメルが手伝う?」
「うん。もちろん、最初は渋っていたよ。でも、丁寧に話をしたら、ちゃんと分かってくれてね。」
「ええ?!」
とても信じられない。
あのメルを、理論武装の下準備もなしに、言いくるめることができるのか。
疑う私に、河野先輩が爽やかに微笑んでいる。
多分、本当にこの人は、あのメルを説得してしまったんだ。
「……先輩を尊敬します。」
珍しく私が他人を褒めると、河野先輩は、嬉しそうに照れながら、
「ありがとう。……でも、由紀ちゃんには、かなわないよ。」
と笑って頭をかいた。




