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3-5

(よし、万事順調!)

 学校の使用許可は、神尾先生がとってくれるから、もう「場所」の心配はしなくていい。後は、小道具の準備と、人員の配置。それから、タイムスケジュール。……ああ、そうだ。いつも邪魔をしてくるメルを、今のうちにどうにかしておかないと。

 私は、正門へ続く急勾配を下りながら、炎天下の校庭を見た。

 部活動をしているのは、野球部と陸上部。そして、ラグビー部と入れ替わりで、サッカー部が練習を始めたようだ。その中で、ゴールキーパーの竜太は、すぐに見つけられた。

(あれが、かっこいいんだよな……?……。)

 私は、少しだけ紗枝の気持ちになって、竜太を眺めた。

 確かに、熱心に練習に励む男子というのは、「すごい。」と思う。かっこいいと言われれば、否定もしない。けれど、世に言われるような「ドキドキ」とか「キュンキュン」とか、そんな感情はこれっぽっちも生まれてこなくて、私は、だんだん馬鹿らしくなってきた。

(……帰ろ。)

 竜太は、私の趣味じゃない。

 私は、うだるような日差しを避けて、桜の木陰を縫うように歩いた。

 すると、

「由紀ちゃん!」

と、突然、呼び止められた。

 振り返ると、スポーツタオルを首にかけた河野先輩が、走ってこっちにやってくる。

 河野先輩は、キラキラと輝く大量の汗をぬぐうと、私の前で一息ついて、

「どうだった?」

と問いかけた。

「は?」

「今、神尾先生のところに行ってきたんだろう?」

「ああ、はい。神尾先生の許可はもらいました。私の方の準備も、今週中に終わります。近いうちに打ち合わせをしますから、そのときはお願いします。」

 すると、河野先輩は、スパイクの土を払いながら、爽やかに笑った。

「あはは。由紀ちゃんは、本当にすごいな。どうやって許可をもらったんだい?」

「別に。恩着せがましく真実を話しただけです。」

「なるほど~。由紀ちゃんは、本当にすごいね。感心するよ。」

 河野先輩が私を賞賛している。

 私は、そんな河野先輩が理解できなくて、

(そんなことで褒めるか?。)

と眉をひそめた。これが竜太なら「怖ええよ。」とドン引きするところだ。

「じゃ、私、帰りますんで。」

 私が逃げようとすると、河野先輩は、

「ああ、待って。他に何か、手伝えることがあったら言ってほしいんだけど。」

と、また呼び止めた。

「いえ、先輩は部活動に戻ってください。あとは、メルに話すだけですから。」

「ん? メルちゃん? メルちゃんなら、もう話したよ。」

「?!」

 このとき、私は、息が止まるほど驚いた。

(メルに話した?!)

 メルは、話しようによっては、敵にも味方にもなる。

「いつですか?!」

「昨日だよ。隼人の家に行ったら、たまたまメルちゃんもいてね。それで、二人に話をしたんだ。」

 木橋隼人は、メルの彼氏だ。私は、メルと木橋君が一緒にいる可能性を失念していて、

(しまったな。)

と思った。メルという強敵は、一番先に味方に引き入れるべきだったんだ。

「で、メルは、何と言ってましたか?」

 私が身構えて問うと、河野先輩は、にこりと笑って答えた。

「うん、手伝ってくれるって言ってくれたよ。」

「え?」

 何かの聞き違いか。

「あのメルが手伝う?」

「うん。もちろん、最初は渋っていたよ。でも、丁寧に話をしたら、ちゃんと分かってくれてね。」

「ええ?!」

 とても信じられない。

 あのメルを、理論武装の下準備もなしに、言いくるめることができるのか。

 疑う私に、河野先輩が爽やかに微笑んでいる。

 多分、本当にこの人は、あのメルを説得してしまったんだ。

「……先輩を尊敬します。」

 珍しく私が他人を褒めると、河野先輩は、嬉しそうに照れながら、

「ありがとう。……でも、由紀ちゃんには、かなわないよ。」

と笑って頭をかいた。


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