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1-2

 始業間近の昇降口には、たくさんの生徒が押し寄せていた。今はテスト週間中のため、朝練のない運動部は、文化部と同じ時間帯に登校してくる。

 私たち三人は、そういった人の波をかき分けて、二年三組の下駄箱の前を陣取った。

 下駄箱の靴は、もう半分以上、外靴に入れ替わっている。

「うん、ここよ!」

 由紀が指差したのは、下駄箱の最上段だった。

 本棚のように横に仕切られた下駄箱の、一番上の右の端。

「私の上靴は、ここにあったの。」

「あった? いつも、ここを使っているんじゃないの?」

「ううん。いつも空いているところを自由に使っているの。」

「は?!」

 すると、突然、

「どけよ!」

と男子の声がした。

 声だけで分かる。

 私は、思わずメルの背中に隠れたが、恐る恐る声の主を覗きみると、そこには、不運にも加藤竜太君が立っていた。

「邪魔だ!」

 加藤君は、私たちを追いやると、持っていた靴袋から上靴を取り出して、足元に落とした。外靴を脱いでそれを履くと、今度は外靴を拾い上げて、下駄箱にしまう。そう、加藤君は、私たちの目の前で、由紀の指差したその場所に、自分の外靴をしまってみせたのだ。

(あわわわ……。)

 三人とも、それを黙って見つめている。

 その視線が不快だったのだろう。加藤君は、カバンを肩に担ぎ上げると、三人をにらんで、

「何だよ!」

と声を荒げた。

「あ、いや、あのね。」

 メルが説明しようとすると、それを遮るように由紀が笑い出す。

「うひゃひゃ、竜太宛てなの? うひゃひゃひゃ、あれって、竜太宛だったの?!」

 この奇妙な笑い方。

 私は、メルの背中にしがみつきながら、

(ああ、だから、言えなかったのよ。)

と思った。

 実は、由紀と加藤君は、家が隣同士の幼馴染だ。家族ぐるみの付き合いもあり、二人は、小学校から現在まで、ずっと同じ学校に通っている。そのせいで、二人は、会っても挨拶すら交わさない間柄になっていた。多分、自分の過去を全部知っている人間は、それだけで目障りな存在に見えるのだろう。

「由紀! 俺が何だ?! 何がおかしい!」

 とうとう加藤君が怒り出すと、由紀は、

「ごめん、ごめん。」

と涙を拭いた。

「あのね、あんたにラブレターが届いていたのよ。でも、間違って私のところに届いてしまって、本当は誰に宛てたものなんだろうって、三人で話し合っていたところなの。」

「ん? ラブレター?」

 由紀は頷くと、例のラブレターを加藤君に渡した。

「俺に?」

「ええ、そうよ。」

 加藤君は、そのラブレターを受け取ると、黙ってそれを開いた。四つ折りの紙を広げると、そこには、忘れな草の花に囲まれた三行の告白文が書かれている。

(あああああ! 見てる! 読んでる! 私の目の前で!!!)

 私は、加藤君とその手紙を交互に見比べながら、気を失いそうになっていた。

 読み終わると、加藤君は、

「へぇ~、ふ~ん、そうか。」

と、まんざらでもない感じに笑った。

(あわわわ。)

 そこに、読み終わるのを待っていたメルが、嬉しそうに、

「ねぇねぇ、心当たりはあるの?」

と尋ねた。

(わわわ、私の名前が挙がってしまう?!)

 すると、加藤君は、しばらく考えた末、

「全然、見当もつかないや。」

と、けろりと答えた。

 この顔は、私を気遣った顔ではない!

(ああ!! なんて、にぶいの?!)

 思えば、加藤君に片思いするようになって、すでに半年が経っている。その間、私は、ありったけの情熱を込めて彼を見つめてきた。教室にいるときはもちろん、彼の在籍するサッカー部の練習試合にまでついて行って、こっそり応援し続けてきた。なのに、彼は、私の視線に全く気づいていなかったのだ。実際、ラブレターを受け取っても、(もしや。)と思う様子も見られない。

「じゃあ、一体、差出人は、誰なのかしら。」

 由紀・メル・加藤君の三人は、真実を知らないまま、じっとラブレターを見つめている。

 もしかしたら、この少ないヒントで、差出人を突き止めるつもりなのか。私が、

「ねぇ、もうやめようよ……。」

と三人を止めようとすると、唐突に、メルが、

「ねぇ、字で分かるんじゃない?」

と言い出した。

「字?」

「うん、ほら、日直ノートよ。あれなら、クラス全員が一筆ずつ書いているでしょ? それと見比べたら、誰が差出人なのか、分かるかもしれないじゃない?」

(が!)

 それは、恐ろしい発案だった。

 その日直ノートなら、私も書いている。

「なるほどな!」

「よし! 教室に行きましょう!」

 三人は、顔を見合わせて頷くと、一斉に教室へと駆け出していった。


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