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神尾先生は、蛍光色のベストを着ていた。
先生は、同じベストを着ている集団の中にいて、どうやら、祭りの警備をしている。子供のころは気づかなかったが、この夏祭りの運営には、町内会だけではなく近隣の学校も参加しているらしい。
俺が息を殺していると、先生たちは、階段を上がって本部のテントに入った。テントでは、はっぴを着た役員たちが、お神酒を手に先生たちを出迎える。
(ふぅ~。)
神尾先生は、俺たちの存在に気づかなかったようだ。
だが、このまま見つからないとは限らない。
俺は、茂みの陰で、神尾先生の動きをじっと見張った。
俺のすぐ下では、仰向けの村井が茂みの中で震えている。
「……あ、ああ。」
村井が何か声を発したので、俺は慌てて、
「し!」
とそれを制した。
今は、村井の言うことを聞いている暇はない。余計な物音など立てて、神尾先生に気づかれる訳にもいかない。
村井は、俺の緊迫した空気を感じ取ると、口元を抑えて、うんうんと頷いた。
(大丈夫だ。俺が守ってやるからな!)
俺は、心の中でそうつぶやいて、ぐっと村井を抱きしめた。
そのうち、神尾先生は、別の警備の先生らとともに、テントを離れた。どこに行くのかと思ってハラハラしていると、役員の人たちにぺこぺこと頭を下げながら、再び表参道を下りていく。
(よし。)
ひとまず危機は去った。
だが、この夏祭りの会場が危険であることには変わりがない。
俺は、力強く立ち上がると、
「ここはダメだ!」
と言った。
すると、村井は、珍しく、
「私もそう思う!!」
とはっきりと意思表示した。
たぶん、村井が、こんなにちゃんと自分の意見を言ったのを初めてだ。
それに、俺と同じ事を考えていたらしい。
俺は、そのことが妙に嬉しくて、
「じゃあ、行こう!」
と、村井の手を引っぱり上げた。




