間章Ⅱ 〜罪償〜
望遠鏡を覗き込んだ。
見えるのは満天の星ではなく。いくつもの骸の残骸だった。
自分もあの中にいたかもしれないと思うと、背筋が凍る。
…というのは、真っ赤な嘘。
むしろ、あの中に自分もいたかった。
仲間は皆殺されて。
自分だけ生き残った。
仲間を盾にして。
敵を殺して。
右腕を失くして。
右目を失くして。
右足を失くして。
自分を殺そうとする奴を殺し。
敵が仲間か分からない骸の上を突き進み。
いつの間にか気を失って。気が付いたら骸の上で倒れていた。
…最後の力を使い、片足で立ち上がった。
心も身体も、ボロボロだった。
地面は全てたくさんの人の死骸だった。
遠くで、爆発の音が響く。
骸を踏み潰し、長い銃を頼りに前へ進み。
ようやく、守りたかったあの子に会えた。
彼女は王宮の中から逃げようと窓から身を乗り出していた。
銃を投げ出し、手を広げる。
彼女も気付いたようで、窓枠に足をかけた。
そして、飛び降りる…。
…その時だった。
王宮の真上に爆弾が落ちた。
彼女は空を舞いながら、吹き飛ばされた。
一瞬にして純白のドレスは黒く染まり、肌は焼け焦げ、綺麗な長い髪も全て焼け焦げてしまった。
そしてそのまま、彼女も地面を覆い尽くす骸へと成り果てた。
…守るものがあったから、戦っていた。
守るものは、失われた。
守れなかった。
力を失い、その場に倒れこむ。
こうしてしまえば、自分も地を埋め尽くす骸と同じ様に見えるだろうか。
右目はもうない。
焼き尽くされた。
左目を閉じる。
…このまま、死のう。
仲間と共に。彼女と共に…。
流した涙は、あたりの熱気で枯れ果てた。
…なのに。
気が付いたら、戦う前にいた自分の陣地に横たわっていた。
傷口は全て包帯で巻かれ。
血はもう絶え、鼓動の音も聞こえなくなっていたというのに。
持っていたリボルバーでこめかみを撃ってみても、痛みも感じず血も出ずに、死ぬことは出来なかった。
どこからか「君は罪を背負って生き続けるのだ」という声が聞こえた気がした。
何故、死なない?
自分の罪は大きい。
それを、生きることで償えと。
神は、チャンスを与えたとでも思っているのか。
…ふざけるな。
悲しくて、悔しくて、辛くて、訳が分からず、叫び続けた。
泣き続けた。
声にならない声で、喘ぎ続けた…。
…空は晴れることはない。
結局、死に絶えることはできなかった。
やっと、死ねると思った。
やっと、終わりに出来ると、思っていたのに。
…空は晴れることはない。
そうすれば、身分も気にせずあの子と一緒になれると思った。
「また明日」という約束も果たせると思った。
彼女の涙をぬぐってやりたかった。
…空は晴れることはない。
星となった君を見ることは出来ない。
もう、諦めてしまおう…。
どうして死ねないのか分からない。
生きているのかも分からない。
これが死後の世界とでもいうのなら、生前信じていた神を恨み続けよう。
永遠にも等しいこの世界と共に過ごそうか。
それしか手は無い…。
望遠鏡を覗き込んだ。
見えるのは星になった君ではなく。
真っ黒な灰と化した君だった。
胸元で十字を切る。
せめて、君にだけでも。
永遠の幸福なねむりについてくれ。
罪を償い終わるまで、自分はここで生き続けるよ。