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閉じた瞳が映すモノ  作者: 雨薙 雄
1章 村人
6/11

目覚め

先週あたりからアクセス数が増えてきました。

ありがとうございます。

テリアの魔法教室があった夜から3日程が過ぎた。

その間は特筆することは何も起こらず、俺はまた寝台の上で1人、暇を持て余すことになった。

それでも以前の様に、自身を悲観したり未来について悩んだりはしなくなった。無論、それは現実逃避や問題の一時棚上げとなるのだが今は置いておく。


その代りに、俺は1人の間は専ら瞑想をするようになった。

その理由は勿論『魔力を認識する為に』である。



魔法を扱うにはまず自分の魔力を感じる、つまり魔力を認識することから始まる。

そしてそれに至るには一定の魔力量を得るか、または魔力の感知能力が高ければ出来るようになるとテリアに教わった。


今の自分に魔力を増やす術はなく、自然に成長するまで待つしか方法がない。

ならば今自分に出来ることは、もう一方の感知能力を高めるようにすることにある。そして如何にすれば自分の感知能力を高められるかと考え、俺は単純な発想のもとに瞑想を行うことにした。

それに近頃、俺は五感の1つである視覚を喪失した為にか他の感覚が鋭敏になってきていた。

それならば、もしかしたら魔力というモノを察する第六感的な何かも高まっているのではないかという理由もあっての行動である。



だがこの3日、ずっとそれを行っていたのだが今の所まったく成果は無かった。

やはりそんなにも都合良く成果を得るようなことは出来なかったが、今の自分に出来るのはこれくらいなのだ。


そして今日もそんな風に過ごすつもりであったのだが、それは中止を余儀なくすることになった。理由は俺の処にかなり久しぶりとなる訪問者がやってきたのだ。


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「ふむ・・・経過は良さそうだね」


ウィルは今現在、訪問者による診察を受けていた。

因みに今の発言をしたのは、この村唯一の医師にして現在この村の魔法の教師でもあるジューン女史である。

既に50を超える老婦人なのだが、いろんな意味でこの村最強の人物である。本日はウィルの怪我の状態を確認する為にやって来てくれたそうだ。


「これなら今日の治療を最後に、後は自己治癒力での回復に任せても問題無いだろう。若いから治りも随分早いみたいだしね」


ジューンはウィルの身体を診察した結果、そう判断した。診察といってもジューンはウィルの身体に手をかざしただけだったので身体には一切触れていない。

それが見えないウィルからすると診察らしいことは何もされていないのだ。ウィルは何故そう判断出来たのかが分からなかったので直接ジューンに聞いてみることにした。


「ねえ、ジューンさん。どうして何もしていないのに怪我の状態が分かるの?」


この人に限って無いとは思っているが、おざなりに診察をされた可能性もあるのだ。確認しておいても損はないとウィルは考えていた。


「んっ? ああ、治癒術の一種でね。患部に魔力を流して傷の状態を確かめておいたのさ」


他人の身体に魔力を流す? そんなことも出来たのかと、テリアにも教わらなかった魔力の使用方法にウィルは驚く。それに何時の間に魔力を流されていたのか、まったく気付くことが出来なかった。


「魔力を他人の身体に流すことも出来るんだ。僕、初めて知ったよ」


ウィルは子供らしく素直に感想を言ってみた。同時にそんな自分の言葉使いに気持ち悪さも感じていたが・・・・・


「まぁね。患者に魔力を送る。それは治癒術は基本さ。そもそもそいつが出来なきゃ治癒術なんて一切使えないからねぇ」


その時ウィルは声には出さなかったが、ジューンのその言葉に何かを感じたのかその身体を微かにピクッとしていた。


「そういえばテリアに聞いたが、魔法について勉強しているんだって?」


だがジューンはそれには気付かず、ウィルに質問をして来た。


「うん。じっとしたままでいるのは暇だしね」


以前、テリアにも言ったことがあるその理由を話す。本当の理由は魔法への純粋な興味であるが・・・・・


「まぁ、それは無謀なことをした罰だと思うんだね」


ジューンはそれに苦笑しながらそう言ってきた。

だがウィルはこれが罰だというなら、他の連中には自分と同様に相応の罰を受けたのかと思う。そしてそんなことは決して無いだろうと確信できてしまい、ウィルはそれに内心で強い憤りを感じてしまう。

だがウィルはその思いを表には出さない様に隠して、それが顔に出さないようにするのに苦労する。ウィルは今はこの思いは内に秘めておこうと考えていたからだ。


「でも、魔法を覚えようとするのは良いかも知れないねぇ」


ジューンは話を続けてくる。幸い、ジューンには自分の心情に気付かれなかったようでウィルは安堵した。


「魔法を使える様になれば、いずれ『魔力感知』が出来るようになるからね」


その初めて聞く言葉にウィルはすかさず聞き返す。


「『魔力感知』って?」


ジューンはそのウィルの勢いに苦笑しながらも答える。


「ある程度に魔法を、いや魔力を扱えるようになるとね。自分の周りにある魔力を感覚的に感じ取れるようになるのさ。例え目をつぶっていても(・・・・・・・・・)分かる程にね」


ウィルはその事実に驚愕する。


「まぁ、その感じ取れる範囲は人によって違うから、確実に役に立つとは言えないけどね」


ジューンはそう言っているが、それはウィルにとっては朗報に他ならない。それを習得すれば少なくとも人のいる位置(・・・・・・)を察知することが出来るということになる。生きているモノには魔力がある以上、それは可能となるからだ。ウィルは棚上げしていた今後の問題についても、光が見え始めた気がして興奮を隠せなかった。



この後、雑談は一時中断してジューンはウィルの治療を始めていた。

現在、治療を行っている部位は右足。頭部の怪我を除けば、そこがウィルの最も重症であった部分である。何でも聞いた話では、岩に潰されてグチャグチャな状態だったそうな・・・切断なんてことにならなくて本当に良かったです。


この怪我を負ってから、ウィルはもうこれで数回に亘りこの治療を受けている。

何故一気に治療を行われないのかというと、それについては理由がある。

この世界において、あまり治癒魔法を多用してはいけないという常識がある。常に多用していると、段々と治癒魔法の効き目が悪くなってしまうらしい。



それにそもそもこの世界に存在する癒しの魔法は回復(・・)魔法ではなく、治癒(・・)魔法であるのだ。

前世の知識によれば、この2つは似ている様だがその実態はまったく違う。回復魔法は傷をアッサリ塞いでしまうらしいのだが、この世界での治癒魔法はあくまで自己治癒力の強化である。

例えば、バッサリと切られた傷に治癒魔法を使っても、精々血を止めて傷口を少し塞ぐ程度の事しか出来ない。傷を完全に治すなんて不可能なのである。


そんな理由でウィルの治療には、長い期間を要することになっていたのだ。



「ふう・・・とりあえず、これで私に出来る治療も終わりだね」


そう言ってジューンは行っていた治癒魔法を中断した。


「これで数日経過を見て問題なければ、もう立ち上がるくらいは出来るだろう」


それを聞き、ウィルはやっと寝台から出られると思い嬉しくなる。一月も寝台の上から動けず、じっとしているのはもう苦痛だったのだ。

まぁ、瀕死の重傷から一月足らずで立ち上がれる様にまでなることは、魔法の無い前世の世界からすれば驚くべき処なのだが・・・・・


そんな浮かれ気味なウィルの様子を見ていたジューンは一言釘を刺す。


「いいかい、あんまり浮かれて怪我を悪化させたら承知しないよ!」


その声に抵抗してはいけないと思わせる威圧感を感じて、ウィルは反射的に肯定の返事をしてしまっているのであった。




「ねえ、ジューンさんにお願いがあるんだけど・・・」


治療も終わり、帰ろうとしていたジューンにウィルは声をかけた。


「んっ、一体何だい?」


ジューンは既に帰り支度をしていたが、ウィルの方を見て尋ね返した。


「うん、実はね。最初に診察で使ったっていう魔法をもう1回、僕にして欲しいんだ」


ウィルはジューンに頼み事の内容を話すが、その予想外のお願いにジューンは困惑した。彼女は目の前にいる少年が何故そんなことをして欲しいと頼むのか、その理由がまったく分からなかった。


「・・・何故そんなことを頼むんだい?」


ジューンは少し考えてみたが答えは出ず、直接聞いてみることにした。


「あの診察の魔法って相手の身体に魔力を流すんでしょ」


確かにあの魔法に関する認識はそれで間違っていない。にも関わらず何故それを頼んでくるのか? 魔法を教えて欲しいとかなら理解も出来るのだが、とジューンは更に困惑する。だが次のウィルの言葉にジューンは驚愕する。


「あの魔法を使って僕の身体に魔力を流してもらいたいんだ。それも出来るだけ多く。そうすれば、もしかしたら少しぐらいは魔力を感じ取れるかもしれないと思って・・・・・」


その言葉にジューンは絶句した。予想も出来なかったその理由に驚かされたのだ。それと同時にジューンはウィルの考えていることを理解した。この子供は自らの身体に魔力を流して、強引に(・・・)魔力認識するつもりなのだと。

ジューンは考える。この提案を受けるかどうか。ジューンはこれまでにこの様なやり方で魔力認識を行ったなんて話は聞いたことがない。だが理屈の上ではそれは可能かもしれないとも思う。治癒魔法ではなく診察する魔法を使うのならば身体に害もないだろう。だが、それを行うべきかどうかジューンは悩んだ。


その一方でウィルも考えていた。

ウィルがこの提案を思いついたのは、今日診察の結果を聞いた後にジューンへ質問した答えを聞いた時だった。

治癒術とは魔力を相手に送る術、ならば他者の魔力を自身の身体に流されている瞬間は、普段の自分が持っている魔力よりも多く身体にあることになる。その時ならば魔力認識することも可能ではないかと考えたのだ。

それに実際、ジューンに治癒魔法を受けている時にウィルは魔力を感じ取ろうとして意識を集中していた。だが結果は失敗、魔力を感じるには至らなかった。

だがそれでもウィルは諦めきれず、ジューンが帰る前に頼み込んで最後にもう一度挑戦したかった。今度は事情を話して流す魔力量を増やしてもらおう。そうすれば今度こそ上手くいくかもしれないとウィルは考えていたのだ。


そしてジューンは決断する。結局ウィルの頼みを聞くことにしたのだ。

それにジューンはあまり危惧することはないだろうと思っていた。診断の魔法に使う魔力を多少増やした所で大して身体に影響はないだろうし、それにジューンはこの試みに対して強い興味が湧いていた。もう老いたとはいえど新たな試みには誰しも心が浮き立つものなのだ。




「じゃあ、魔力を流すよ」


ジューンの言葉にウィルは無言で頷く。ウィルはすでに魔力を感知する為、全身神経を傾けて集中を始めている。

そしてジューンはウィルの掌から少しずつ魔力を流し始めた。腕から頭へ、頭から胴体へ、胴体から足へといった具合に。

全身を一周したら魔力量を増やして、もう1度行う。それを何回か繰り返していった。

それを続けているとジューンから汗が流れ落ち、段々と疲労の色が見え始めてきた。

そして・・・・・


「ふう、ここまでだね」


ジューンは魔力を流すのを中断する。流石にこれ以上魔力を流し続けるのは限界だった。深く息を吐いた所でジューンはふとウィルのことを見てみる。ウィルはもう魔力は流していないにも関わらず一言も喋らない。それどころか未だ微動だにしていなかったのでジューンは声をかける。


「ウィル、どうしたんだい?」


漸くウィルは反応を見せたのだが「ああ、うん・・・」と、どうも曖昧な返事しかしてこない。だがジューンはこの試みの結果が気になっていたので、ウィルを急いて聞いてみることにした。


「で、どうだったんだい?」


ウィルはそれに少し考えてからこう答えた。


「うーん、何となくそれらしい感覚はあった気がするんだけど・・・・・今は何も感じないんだ」


ウィルはまだ心ここに在らずといった様子だった。

ジューンはそんなウィルの様子を見て落胆しているのだろうと思った。

だがジューンは「そうかい・・・やっぱりそう上手くは行かないもんだねぇ」と軽い物言いで返事をしておいた。それは下手な慰めはやめた方がいいと考えた末の発言だった。


だが実際の処、ウィルは落ち込んでなどいなかった。

ウィルは確かにその感覚を掴んだ気がしたのだ。流されていた魔力が途切れた瞬間にそれは消えてしまったが、微かにであったがこれまでに感じたことが無かった感覚を感じ取れたのだ。

ジューンが中断を宣言した時からウィルが暫く黙っていたのは、その感覚を忘れぬように記憶に刻み付ける為に反芻していたからだ。


魔力認識を成功するには至らなかったのは確かに残念だったが、微かにではあってもその感覚を掴むことが出来たのは大きな収穫だったと考え、ウィルは内心で喜んでいたのだ。



その後、ジューンは「まだ、動き回ってはダメだからね!」とウィルにもう1度、念を押してから帰って行った。だが今回、彼女のおかげで貴重な経験を得ることが出来たのだ。ウィルは丁重に礼を言ってジューンを送り出した。


そして1人になったウィルはまた瞑想を始める。

だがこれまでとは違う。ジューンの協力のおかげで明確な指針を得れたのだ。ウィルは先程の感覚を思い出しつつ、深く意識の底に入っていった。




そしてその日の夜・・・・・


夕餉が済み、今では寝台で眠りについているテリアを尻目にウィルはまだ眠りにつかずに瞑想を行っていた。


ずっと瞑想を行っていると時間の感覚が失せていく。ウィルは気付いていなかったが、もう深夜をとうに過ぎていた。それ程までに集中し続けていた。

そして―――――


「っっ!?」


それに何の前触れもなかった。

だが突然、ウィルはこれまでに無かった感覚に満たされる。


身体の内側から感じるモノ、身体を覆っているモノ。



昼間にジューンの魔力を流された時に感じたモノとは僅かに違う気もしたが、ウィルはそんな些細なことは気にしない。それは個体差なのだろうと勝手に解釈する。


「ふ、ふふふ・・・」


ウィルは口許を歪める。歓喜のあまり笑い出しそうになるのを我慢するが、僅かに漏れてしまった。


だが仕方ない。

怪我を負い失明してからというもの、ずっとウィルは停滞していた。何も出来ない、出来そうもないという現実に絶望していた。それが漸く前進することが出来たのだ。それは喜び以外に他ならなかった。



この日、ついにウィルは魔法への第一歩を踏み出せたのだった。


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