テリアの魔法講座 後編
では本番です。
あと前話のタイトル少し変更しました。
「じゃあまず最初に、ウィルは魔法を使うには何が必要か知ってる?」
テリアはまず基本的なことを質問してきた。
「えっ、魔力でしょ?」
これは流石に常識中の常識として知っている。今さら何を、と思ったのだが・・・
「それは当たり前のことでしょ。私が言っているのは自分の魔力を魔法にする為に必要なモノのことよ」
テリアはダメな生徒へ分かりやすく説明するように、言い方を変えて質問をし直してくれた。俺は思いの外、理解力の低かった自分に少し落ち込みつつもその答えを考える。
「えっと、確か『詠唱』でしょ。あと・・・『イメージ』も必要だったっけ」
俺はうろ覚えな魔法知識を呼び起して、何とか答えることが出来た。
「はい、よく出来ました。正解です」
答えが合っていたことに安堵する。そういえば前世でもこんな授業を受けていたみたいだ。何だか少し懐かしい気分になる。初めての授業なのに懐かしいだなんて妙なものだ。
「では、まずは『詠唱』についてね」
そんな俺のバカらしい感傷に浸っている間にもテリアの授業は進む。
「『詠唱』とは魔法を起こす為のキーとなるの」
そう言ってテリアは片手を上げて呟く。
「【火を灯せ 灯火】」
テリアの指先から小さな火が現れる。無論、俺にはそれは見えないが、テリアが『詠唱』らしき事をしたので魔法を使ったのだろうと推測出来た。
「今使ったのが一番簡単な火の魔法よ。指先から小さな火を起こすだけの魔法だけど、薪に火を付けるときなんかの種火として重宝されるそうよ」
俺はその説明を聞いて、前世にあった『らいたー』という道具を連想した。使用方法や火の規模からいって恐らくその考えは間違ってはいないだろう。
「この程度の魔法くらいなら適性があれば大抵の人が使えるようになれるそうよ」
テリアがここで言った『適性』。
この時、俺はテリアのその言葉を聞き流してしまった。
その言葉の意味を理解していなかった為に俺は窮地に陥ることになる。
だがそれはもう少し先の未来の話・・・・・
「テリア、魔法を実践して見せてくれたところ悪いけど、僕には何をやっているか見えないよ」
俺はだから実際に使わなくてもいいよと言外に伝えたつもりだった。
だがテリアはそれを聞いて「ああっ」と叫んだ後に何か1人でブツブツ呟きだした。
何故だ? 予想外の反応だ・・・
「そうか・・・でも見れないならイメージも・・・・・」
暫くの間、テリアがブツブツ呟きながら何か考え込んでいたが、このまま時間が無為に過ぎていくのは流石に嫌なのでテリアを呼び起すことにする。
「テリア、テリアったら! ほら、どうしたのさ?」
本当は身体を揺することもしたかったが、生憎テリアは寝台の上から動けない俺の手が届く位置にはいない様なので、声だけで呼びかけてみることになった。
「えっ、な、なに?」
幸い、テリアはすぐに正気に戻ってくれた。もう夜なのであまり大声は出したくなかったのだ。
「えっ、じゃないよ。いきなり考え込んでどうしたの?」
まだ少し呆け気味の様なので、目を覚まさせる為に強く質問を行う。
「あ、えっとね。私が教わったのと同じやり方じゃ、ウィルには上手く伝えられないかもしれなくて・・・」
んっ、どういうことだ? 俺には伝えられない? よく意味が分からなかったのでテリアに話の先を促す。
「『詠唱』の方は覚えればいいだけなんだけど・・・」
テリアは一呼吸開ける。
「問題は『イメージ』の方なの・・・」
テリアは言い辛そうにそう答える。
「私たちが教わったやり方はね、まずは魔法の詠唱を覚えさせるの。そしてその次にその魔法を見せてもらうの」
見る。確かに今の俺には出来ないことだ。だが何で・・・
「魔法を使うのに『イメージ』はとても重要なモノなの。例えどんなに魔力があっても、詠唱が完璧であったとしても・・・その魔法の『イメージ』が不確かならば、その魔法は絶対に成功しない」
その後に「逆にイメージさえしっかりしていれば詠唱もいらなくなる様になるらしいしね」とテリアは言っていたが、その辺りで俺はテリアが何を言いたいのか分かった気がした。
「イメージを得るのに最も簡単で確かな方法は―――実際にその魔法を見ること」
一気に俺の心の一部が冷えていく。
「簡単な魔法くらいなら、その魔法を見ただけでイメージが固まり、直ぐに使えるようになる人もいるそうよ」
あぁ・・・つまり、またか。
ここでも俺の失明が大きな壁になってくるのか。
何処までも、何をするにしても、このハンデが俺に付きまとってくる。
本当に忌々しいな・・・・・
俺は失望や諦観、そして怒りが入り混じった複雑な感情の中で暫く呆然としていた。
だが直ぐに気持ちを切り替えることにした。何かある度に落ち込んでいても仕方ない。
しかしその間、テリアはずっと俺の様子を黙って見ていたようだ。聡いテリアがかける言葉がないという訳でもないだろうから、つまり下手な慰めをしないという気遣いだろう。
9歳でその気遣いが出来るテリアさん、素敵です。
「ま、まぁ、『イメージ』に関しては追々何とかするとして・・・」
俺の所為でこの場に重たい雰囲気が漂ってしまったので、それを払拭する為に強引に話題を変えることにする。
「今はとりあえず、知識的なモノを覚えることにするよ。ご指導よろしく、テリア先生」
そうして何とか授業を再開させることにした。
そこから先は、俺が質問してテリアがそれに答えるといった形で進んでいった。
まず俺が質問したのは、今知っていた魔法知識に関する補足内容である。
● 何故、人は10歳ぐらいまで魔力を感じられないのか? また10歳になるより早くに魔力を感じる人との違いは?
⇒ 人は誰でも無意識に身体から魔力を出している。だが子供の内はその量が少なく、成長するにしたがって増えていく。
そして成長に従い身体から出る魔力がある一定の量を超えると自分の身体に違和感を覚えるようになる。それが魔力を感じたこととなり、その魔力量まで成長するのは大体10歳前後と言われている。
また10歳以下の子供が魔力を感じる場合は、生まれ付き魔力量が多い、魔力の成長速度が速い、魔力の感知能力が高いことなどが挙げられるそうだ。
● 魔力とは『マナ』と『己の生命力』を掛け合わせること生成される力である。ではこの『マナ』とは何か? 何処から来るモノか? マナと己の生命力を掛け合わせるとは如何にして行うのか?
⇒ 『マナ』に関しては、ただ大気中にあるモノとしてしか認識されておらず、それが何処から来ているのかはテリアも知らなかった。
魔力の生成については魔力を感じる様になれば、まるで呼吸をするの如く感覚的に行えるようになるらしい。まぁ、人は無意識に魔力を出しているそうだし、そういうモノだと思っておこう。いつか使える様になれば分かることだろう。
● 魔法を使えない人は存在するのか? また使える魔力は増減するのか?
⇒ 魔力は命あるモノは絶対に持っている。その力は個々で大小はあるが、全く使えない人間はまずいないとのことだ。
また魔力は使用し続けていけば生み出せる量は増加し、身体の成長にあわせても増えていくらしい。ただし個々の資質により、その成長度や限界は大きく違いがあるとのことだ。
これには俺も安堵した。
生きているのならば『魔力』を持たない―――否、生成できない者は存在しない。
つまり『魔力』さえどうにか出来れば『魔法』は使えるということになる。
問題はどれ位あるか分からない俺の魔力量だが、鍛錬次第である程度までは成長出来ると見ていいだろう。
ここで俺は魔法を使えるようになる為には如何すべきかと考えを巡らす。
今この時でも行えること、1番必要な事とは・・・・・
「ねえ、テリア。テリアが自分の魔力を感じた時ってどんな感じがしたの?」
魔法を使えるようになる為の第一歩、それは自分の魔力を認識すること。
時が来れば自然と認識できる様になるらしいが、それだと俺は後3年も待つことになってしまう。その時が来るまでただ待つにしても3年は長い。だから少しでも速くできる様になる為に足掻くことにする。
「えっ、何でそんなこと知りたいの?」
テリアは俺のした質問の理由が分からず聞き返してくる。確かに今までしていた魔法に関する質問とは方向性の違う内容だからな。
「だって身体から違和感って言われてもよく分からないんだもの」
本当にこんな説明だけじゃ、どのような感じがするのかイマイチ伝わってこない。もっと詳しく知っておけば自力で魔力認識をする為のヒントになるかもしれない。だからその時の詳細を知っておきたいのだ。
「うーん、でもホントに違和感ってしか言えないからなぁ」
いや、もっと何かあるでしょ。俺はそうあってほしいと思いながらもテリアを追及する。
「そうだなぁ・・・なんか、身体にモヤモヤっとした感じのモノが纏わり付いている様な感じがしたかなぁ」
テリアは抽象的であるが何とか答えてくれた。そこから更に「それって身体の何処に感じたの」と続けて聞くと「うーん、身体中から感じたよ」といった感じで答えを返す。
その後も俺はテリアに質問を続けていった。例えどんな些細なことであっても、知っておけば後に何かの役に立つと考えた為だ。俺は決して無駄知識が無駄のままに終わるとは思っていないのだ。
魔力の認識についての質問が終われば、その後の魔法の基礎の話になった。
この村では魔力を認識できたら、村で最も魔法について詳しい人物に基礎を学ぶことになっている。そしてこの村で現在その役割をする人物こそ医師であるジューン女史である。
テリアは俺に彼女から教わったものを教えてくれた。
魔力の操作方法、コントロール練習、簡単な魔法詠唱など、今の俺には出来ないことなのだが、それでもとても面白く興味深かった。
だが、その様なことを詳しく聞いている内に夜も更けてきた。俺とテリアは話に夢中で気付いていなかったのだが、俺たちの話している声を聞いて父親が注意をしにやってきたので漸くそれに気付いたのだった。
そこで今回の魔法講座はお開きとなった。テリアは自分の寝台に潜り込み、俺も布団を被って寝ることにした。
だが布団に包まりながらも俺はテリアとの授業の内容を反芻する。聞いた内容を決して忘れない様に頭に刻み込んでおくことにして、後は今回聞けなかったことや聞き忘れたことなどをまとめておいて次の授業で質問しようなどと考えてながら眠りについた。
しかしテリアとの授業らしい授業はこの日で最初で最後のものとなってしまった。
そうなる事となった理由を俺が知ったのは、もう暫く先のことである。
あと余談ではあるが、俺は翌朝に寝坊してしまい叱られた。
ずっと興奮していたので眠りに入るまでにかなりの時間が掛かってしまったので仕方のない事だったと、俺は心の中で言い訳じみたことを思ったのだった。
伏線いくつか入れてるけど忘れそうで怖い・・・