さん
ハナ五歳になりました。
この国は、科学のかわりに魔法が発達している。
暖炉には、魔法石が設置され火のように温かい。ほかにも、電球みたいなモノもあり非常に便利だけど「不便になった」と、使用人が言っていたので文明が退化しているのかもしれない。
戦争のせいで、何百年か発展が後れているのなら、私は『古語』を学ばなくてはならない。
一歳から始めた学習は、上手くいかず文字を覚えるのも一苦労だ。
家庭教師をつけてもらいたいけど「魔法石が足りない」と聞いたので、家計もギリギリなのだろう。ママは、内職をしているし、私も大きくなったら手伝わなくてはいけない。たぶん、平民よりは恵まれた生活をしていると思う。貴族としては微妙だが。
五歳の私は、そろそろ学校へ行く。礼儀作法は、ある程度身に付いたので問題ない。
もっと知識を詰め込まなくては!
つらつらと考えながら、魔法を構成する図形を描き写す。
魔法とは、陣を描き、それに魔力をとおすことで発動するのだ。
重要なのは、陣を綺麗にただしく描くことと、創造力である。難しい魔法ほど、壊れやすいので慎重に魔力を注ぐ必要がある。
「あー、けんしょう炎になる~」
腕をブラブラさせて、頭を上げると目眩がする。
こういった入念な下準備がきっと、のちに役立つだろう。
「血文字っーのが、ちょっと気持ち悪いけど……」
魔法は、自分の血で描いた陣じゃないと機能しないので仕方ない。こうした地道な努力がのちに実を結ぶのだ…………………………と、思いたい。
まあ、学校でこれらが必要になることはないだろう。
「ハナ様ー! どこですかー!」
こうして、沢山ある今は使われてない空き部屋にこもっていると、使用人にさえ見つからない。まさか、私が魔法陣を描いているとは思ってないだろう。
私は急いで立ち上がり、窓から庭に出て遊んでいたふりをした。
しげみから、ひょっこりと顔を出すと「そこにいたのですか」と安堵したような声がする。
「今日はジャガイモのスープですよ」
その声に若干うんざりしたのを隠しながら「今行きます」と返事をした。
戦争が長引いて、食生活は乏しくなっていく。だけど、それも仕方ない。