第91話 出撃!
お盆は強敵でしたね。
遅くなったのをお詫び申し上げます。
四足歩行型移動要塞開発プロジェクト、通称『ファフニール計画』。この機体はその計画名をそのまま受け継ぎ、ファフニールと名付けられている。
形状はドラゴン型。全高、全長、横幅がオプションなしで十メートルという巨躯。それは当然ながら相手へ心理的プレッシャーを与えるため以外の何者でもない。
外骨格型という設計の難しい構造をしたロボットであるが、その最大の特徴は搭乗員数にあると言える。
素体のメイン武装は頭部に積載されたメタルストームブレスおよびグラインダーブラスト。前足の硬化ネイル攻撃と比較的少ない。
しかしその最大の利点は、何よりもその強固な外骨格であろうことは想像に難くない――
「……マスター、敵影発見。数、五。人型、プレイヤーサイズ。距離、およそ一キロ」
――そのように設計図から読み取れる情報を整理し、そこから導き出される運用思想に思いを馳せながら、双眼鏡や肉眼などで敵影を発見する生体探査員として搭乗させていた私の自動人形の一体へ、よろしい、と返事を返した。
「≪ブラスターレイ≫を最大距離で使用してくることは想像に難くありませんね……百十メートルで≪スコール≫を使用し弾幕を張ってください」
「……了解。各員に通達、距離百十メートルで≪スコール≫使用、用意」
そして傍に置いている副官として重用している自動人形が命令を復唱。
「……了解。距離百十メートルで≪スコール≫使用、用意します」
副官の復唱に続いて、私の自動人形たちが私の命令を復唱していく。その様を見て私は思う――ああ、まるで艦隊戦のようだ、と。
「≪スコール≫による動力部の冷却が機能し次第、戦闘駆動へ」
「……了解。冷却確認後、戦闘駆動へ移行」
「ガソリンの残量報告頻度を巡航体制から戦闘体制へ」
「……了解。ガソリン残量報告頻度を巡航モードより戦闘モードへ移行」
巡航中に行動不能ならまだ手の打ちようもある、が、戦闘中に一時的にでも行動不能になっては困る話だ。
「本要塞はこれより戦闘態勢へと移行します。総員、配置に」
――プレイヤーサイズが五人、という言葉にいささか引っかかるものを感じるところもある……が、ファフニールをよく知る人間が敵陣営にいるのであれば、おそらくは奇襲も想定しなければならないだろう。
私はゆったりと、まるでアニメのような形状をしている艦長席に腰掛けながら、傍らに侍る副官へと新たな命令を下すこととした。
「個室にいるパイソンGMへ伝言を頼めますか?」
「……なんでしょう?」
「ゲリュオーンに搭乗し、待機せよ。敵は私たちの暗殺、白兵戦を狙っている……と」
「了解」
「頼みましたよ、ホーク」
痩せぎすで深い皺の刻まれ、背筋のぴんと伸びた初老の軍人風に造形した、実に信頼できそうな私の副官は、何も言わずにコクリと頷く。
[to be next scene Side Len...]
特に名前をつける必要がないというか、いちいち名前を決める場がない。そのせいか、あるプレイヤーの「まるで中国の中原みたいだ」という呟きから、ここは中原と呼ばれるようになったらしい。
(予想していたところからずいぶんとズレているじゃないか!)
帝都から少し進んだ場所にそこがあり、その先にある不毛の大地こそが私達の本来目指すべき場所だった。
なのにこんな場所で出会うとは思ってもみなかった。
(進行方向からして、帝都狙い、かな)
一体何が目的なのか……想像するのは容易だけれども、特定は難しい。
(まぁ、ろくでもないことであることは確かだ)
GMはいつもろくでもないことしかしないな……そう思いながら、私がログインしてからかなり最初のころに見た、あの巨大なドラゴンが黒く光る合金の鎧を纏ったようなそんなイメージさえ湧かせる姿が遠くで揺れているのを睨みつける。
――全高、全長、横幅、約十メートル?
ウソをつくな! 横に大きく、ファンが埋め込まれた巨大な翼が広げられているのだ、航空力学的に飛べそうにはないだろうけれども、決して十メートル程度なわけがない!
そしてあの左右に揺れる尻尾はどうだ? アレもあわせれば全長は二倍近く大きくなるんじゃないだろうか?
「設計者はちゃんと尺を計算していたのかい!?」
思わず私の口から出た言葉は、この場にいない相手への、そんな呪詛めいた言葉だった。
「タロスのことだ、おそらくはベースのスペックのみを語ったのであろうよ」
「フルスペックを教えて欲しかったね!」
背中にはゲリュオーンと思われる期待が乗っている。まるで竜騎士のようにすら見えるそれを見て、ひとまずは魔導書を開いた。
「か……かっけー……!」
とは、ヘルフリートくんの言葉。
「そういう感想を言うのは別に構わない、けど、ちゃんと役割は分かっているよね?」
「わーってるって!」
どこか着られている感の否めない、体に合わないやや大きめの銅鎧をがしゃんと鳴らしながら、ヘルフリートくんはホームベース状のナイトシールドを掲げて見せる。
「こーいうの、タンク、ってゆーんだろ? よゆーだっての!」
いつだったかルシーが貢いだ鎧と盾、そして両手持ちの大剣を背中に背負い、自信たっぷりに答える。
彼は軍曹たちとの狩りで、急激に自信をつけたようだった。
「俺様はもう初心者じゃねーし、大船に乗った気でいろよ!」
――ヘルフリートくんのスキル構成は限りなく平均的な、それでいて防御的な≪シールド≫≪アーマー≫≪ソード≫≪ファイアーボール≫≪ヒール≫が十五、≪ステップ≫が三レベル。
これは本来≪シールド≫と≪アーマー≫ではなく、≪MP軽減≫および≪詠唱短縮≫を入れる「勇者構成」らしいのだけれども、ヘルフリートくんは李儒さんの手によって一度即死している。即応力を犠牲に防御力を高める選択をしたらしい。
ただし、発動に時間がかかるというだけなのだから自分に≪ヒール≫を掛け続けるなら擬似≪リジェネレイション≫として利用できる……そのあたり、悪いことばかりじゃない。
「ああ、頼りにしているよ」
異常回復力によるタンクといえば、アスールだろう……けど、今ここにいない以上はヘルフリートくんが唯一のタンク役だ。防御力とタフネスがある分、アスールよりは耐えてくれるだろうと信じるしかない。
「向こうから見たら私達はまだ米粒程度にしか見えないだろうから、今のうちに作戦を改めて確かめるよ」
事実、一キロも離れていればあのファフニールの巨体も手の平に乗る程度の大きさにしか見えない。途中までを軍曹の召喚するバイコーンで走ってきた私達は、文字通り米粒程度にしか見えないはずだ。
「言ってしまえば私達は本命であり陽動だ。手っ取り早くしとめるために、≪セット≫からの≪ブラスターレイ≫を真正面から打ち込む――おそらく、相手は≪スコール≫でどうにかするだろうね」
「敵の攻撃は俺が前に出て防ぐって訳だな!」
「その通り。私の支援もかけて、防御力を高めるから、かなり耐えられるはずさ。あとは距離を縮めて≪グラビティ≫を使う。物理的に耐えられる金属だったら、もうどうしようもないけれど、動きは確実に鈍るはず」
「そこでオレや」
「私達の出番、というわけですねっ!」
むふっ、と鼻息荒く気合を入れるキリヤちゃんとブリュンヒルデさん。
「とはいうもの、我は≪ファイアーボール≫を封じられては半ば近接型となるし、そもキリヤは遠距離を使わん構成であるからして、≪スコール≫の中に突っ込んでいくのはいささか勇気がいるな」
≪スコール≫はダメージを与えるのではなく、スタミナを削る魔法だ。下手をするとその場で身動きが取れなくなってしまう……と言いたいんだろう。
「その懸念はもっともなんだけれども、人数が限られているのだからやれることも限られてしまう、しょうがないと割り切ってもらうしかないさ」
「相殺できればいいのであるが……」
「それを許してくれる相手だったら楽なんだけどね?」
「で、あるか」
「ともあれ、陽動と言う意味では大きく動いてくれたほうがいい。特にクロウは、低レベルでも≪グラビティ≫を持っているだろう? 近づいたら積極的に狙っていってくれ」
「分かっている」
「まっ、オレだって狩りゲーで大型モンスターは何百匹も狩ってきたわけだし……その辺の分析力とか、攻略知識とかには期待してくれよな」
「ああ、頼んだ」
キリヤちゃんは狩りゲーと称されるゲームで、主に近接系――話によれば双剣を用いた回避型――で相当鳴らした腕を持つらしい。
それを裏付けるかのような彼女の構成は非常にシンプルだ。
≪パンチ≫≪キック≫≪パンプアップ≫、全て二十六レベル。≪ステップ≫を切った上での、自己強化型完全近接格闘タイプ。足が悪くて上手く移動できるか不安だけれども、今は居ないランディの言によれば「ゆっくりよりかっ飛ばしたほうが安定する」らしいし、軍曹やお父さんと一緒に狩りに出た経験もある、信頼してもいいだろう。
「じゃぁ、個々人の役割をできる限り守って行動してくれ。連携の練習をしたことはないから、役割から逸れてもいい。今回負けても、GMが余計な事さえしなければ二度目の機会もある」
二度目になれば、ここに居ないタロスが機体調整を終えているはずだ。そうなれば、戦術の幅はもっと広がる。
「私達は本命であり、陽動だ。今回ダメだったとしても、捨て身の威力偵察にはなる。相手の行動をよく観察しながら行動してくれ」
そこにいるメンバー全員が、おう、と気炎を上げた。
[to be next scene Side Python...]
装甲に豪雨が叩きつけられる音を聞きながら、俺が若いときに見た背もたれ付きのバイクシートに似た操縦席に跨って座り、F1のようなベルトで体を固定する。
外で「グッドラック」と俺にサムズアップするグラサンつけた初老の男性型自動人形に「おう」だなんて思わず意欲的に答えてしまいつつ、レバー操作で胸部装甲板を下ろしていく。
胸部装甲板が下りていくのに合わせながら、ゆっくりと視界を確保するための銅鏡やら計器やらがせり上がってくるという謎技術を身ながら俺はこう思うのだ。
(なんという才能の無駄遣い……)
外から隔離されたことで俺はげんなりとしながら、外界の様子を映す意外と歪みない銅鏡が最初に移したのは、視界の端で白く真っ直ぐに伸びる光条が雨に溶けていく様子だった……しかも移動要塞の装甲に届く前に消え去り、損傷や衝撃とかは皆無って、予定調和にも程があるな、なんて思う。
『えー、パイソンGM。聞こえますか?』
乗り込む前に開かされたチャットから、この話をジルコニアに持ちかけてきた張本人の声が聞こえてきた。
「不具合があったらシステム側でメンテが必要になるな」
ぶっちゃけ、俺はこんなもので戦いたくない。刃と刃がかち合い、筋肉が弾け、血湧き、肉踊る……そう、まるで筋肉が唸りをあげてぶつかり合う肉弾戦が好みなのだ。
戦えるよ? と聞いたから喜び勇んで≪筋力≫六十八、≪パンプアップ≫十レベルというマッシヴな俺にこそふさわしい構成に耐えられるようなガッチガチの鎧や剣を用意して、さぁ筋肉祭りだ! と移動要塞というものに乗り込んだらこんなもので戦えと抜かす。
――今、俺は普通に不機嫌だ。
(しかも無駄に無駄の無い無駄な技術力で作ってあるし……)
コクピットは、こう、なんというか――例えるなら、リアル系ロボットにガテン系働く車の操縦方法を加えてみました、的な。
『ゲリュオーンIII型、つまり今あなたが乗っているソレは試作型やI型、II型のようなワンオフ機と、量産型の中間地点にある機体であると想定されます』
同志と言って憚らない相手が作り上げたソレの設計図を盗み見たマミーは、俺に対して優しく語り掛けるような言葉を紡いでいく。
ジルコニアとの付き合いで参加している的な位置づけの俺としては、まぁ適当なところでコレが壊れて動かなくなるのを期待していたりする――肉弾戦に持ち込むための建前が今のところ無いからだ。
『ソレは直感的な操作性も考慮しているようです。ただし、アクセルやブレーキはありません』
「おい、俺は普通の車しか運転できないぞ」
動かすための燃料がもったいない、というのと、操縦の練習で目立つのはあまりよろしくない、など理由があったらしい。俺が乗ったのはコレが初めてだ。
――が、絶対にこれはジルコニアの嫌がらせだと確信している。
だってアイツ、俺が居ない間に自分の部下を乗せて試してたもん。
そのせいでバレただのなんだのと言って予定を早めて侵攻することになってんだもん。
じゃぁ最初から俺を乗せろよと小一時間、ついでに、普通に戦わせろよと小一時間。合わせて二時間ほど問いたい、問い詰めたい。
泣いて謝るまで問い詰めたい。
『ゲームと一緒ですよ、ギアを一速以上に入れたらあとは方向キーで操作できる的な感じです。左手側にあります』
「ずいぶんとふわっとした説明だな!?」
『右手側の攻撃レバーを引くと右手で攻撃します。タイミングよく引くとコンボが発生します。防御レバーを引くと左手に標準装備された盾が前に出ますので、攻撃は上手く盾に当ててください』
「いいのか!? こういうロボットってそんな操作でいいのか!?」
そんないろいろとアカン情報で動かせと抜かされている。
大丈夫かコレ。
『サイドブレーキみたいなのを引いてからギアを操作すると抜剣します。あとは攻撃と同じで――』
そこからはまるでゲームの説明のようだった。やれジャンプはこのレバーだ、とか。ガトリングはトリガーを引くだけでいい、とか……思わず、ゲームかよっ! なんて叫びたくなるほどだ。
もうゲームのコントローラーを渡されたほうがよっぽど分かりやすいぐらいだ。
『――そしてこれがとても重要な話なのですが』
「なんだ?」
どうせろくでもないことだろう、そうだろう?
『その機体、上下の振動などを緩和する機構や装備は無くはないのですが、正直に言うと、あんまり意味がありません』
「あ?」
『横G等もそうですが、縦だけに絞れば、戦闘機動に入ると上下運動に十センチほどずつ揺れます。触れ幅が二十センチですね』
「おいちょっと待て」
ベルトが食い込んで痛いだろうが、と思った。
が、話はまったく違った。
『ぶっちゃけ一速であってもコクピットはシェイカー状態になるので、体は両足で踏ん張るようにして頑張って耐えてください。これはどうやら≪筋力≫スキルが必須になるようですね。いくら必要になるかは計算していませんが……できればバイクのようにシートを股で挟むようにしていただければ最高です』
それが、俺を選んだ理由であり、アクセル等がない理由です、なんて言われる。
「ちょ、おま、ふざけるなぁ!?」
≪筋力≫スキルを普通に入れているからパイロットに選びましたとかずいぶんとハードルの低い選抜じゃぁないか、クソっ!
『まぁ、当然の話ですね。人よりも巨大なモノの中にいるのですから……そうそう、そのせいでジルコニアGMの部下が殉職してしまったんですよ、予定通り。計算上分かっていた事ですが、念のためパイソンGMに練習させなかったのは謝ります。すみません』
開いた口が塞がらない、というのはこのことか。
『我々は≪スコール≫の弾幕内から≪グラビティ≫を警戒して行動します。場合によっては追加兵装のスモークディスチャージャーで姿を眩ませることも考慮に入れています……そちらも弾幕内で行動するか、≪ブラスターレイ≫に注意しつつ≪グラビティ≫が飛んで来る前に敵を仕留めていくことをオススメしますよ。それ、脱出装置がありませんので』
「ガチ神風仕様じゃねぇか!」
自滅する可能性も考慮すると、神風でもなんでもない気もしないでもないけどな!
『ではギアを一速に入れ踏ん張りつつ、方向レバーを前方へ傾けるのと同時にジャンプレバーを引いてください。健闘を祈っていますよ――グッドラック』
「おい、マミー! マミー!?」
パタン、という音と同時にチャットが途切れた。
タロスさんの無駄技術が世界を救うと信じて……誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。
あ、続きます。




