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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
ファフニール編
94/97

第89話 臥竜と鳳雛

「GMならば……としか答えられぬ話でござるな。特にジルコニアGM、彼女はプレイヤーへのいたずら行為に関しての逸話が多くござるよ。本人はいたずら好きの妖精を気取っているので、役割(ロール)としては正しい話でござろう」

 ――動き出した、というべきでござろうか。

 タロス殿がいつログインするかは不明であるため、もう少し遅い可能性も考えてはいたのでござるが……いやはや、運が良い

『悪いね、受験勉強中に』

「なんのなんの。迷惑を掛けたこともあるならば、これくらいの事は至極当然にござる」

 だが拙者にとっては、運が悪い。

 軍曹が居る。その情報は既に掴んでござる――が、八月の半ばにもなり危機感の覚えぬ受験生が居ようか?

 それも、かような浪人生が? 拙者はそこまで廃人ではござらぬ。

(誠、運がなかった)

 そして此度の戦、拙者にとっては本懐すら遂げられぬと考えられる。まったく、なんともまぁ無意味な話……乗らず、正解にござる。

「まぁ、あとは信じてもらえぬかも知れぬところでござるが――此度の事件、拙者は一切関与しておらぬ故、ゆめゆめ忘れることなきよう」

『そうかい。確かめる方法はないけれど、信用はしておこう』

「それだけでもありがたい話……では、続きがある故に」

『邪魔して悪かったね』

「構わぬ話でござる。では……」

 ――懐中時計を閉じる。

 拙者はそのまま懐にしまい、そのまま改めて机に向かうこととした。

「ウソツキはっけーん!」

「そうだ! 俺たちに関わっていないとは……なんという大ウソツキだろう!?」

 来年こそは、と言う意気込みを挫くがごとく、馬鹿二人(GMたち)に声を掛けられる――事件に関わってはいない、が、お声はかかるというもの。

 魔王(うんえい)の手先、四天王(バカルテット)が一人と呼ばれし者ならば、これは至極当然の流れでござろう。

「――先日、今回は参加せぬといったばかりでござるが?」

 リアル浪人は肩身が狭い。時代劇にてよく使われる、気ままな貧乏旗本三男坊を決め込んでいる場合ではないのだ。

 もっとも、アレはアレで肩身が狭いはずでござろうが。

「第一、腕を振るう機会がない。その上、おかしなカラクリで戦えなどと……」

 元はタロス殿の造るゲリ……ゲリオン? の最新鋭機(しんがた)であることは知ってござるが、されど戦いは己が身一つ、刀一振りで戦うからこそ面白い。

 まぁ確かに≪テレポート≫のテスターはやってござる。が、それもこれも「もし相手にするのであれば」との想定のため。敵を知らねば対策も立てられぬ……あの時はそれ故話に乗ったまで。でなければ、ただの山賊役で満足してござる。

 ゴーレムとの戦いなぞ飽きるほどやった。当然、鎧つきともやった。巨人と見まごう程の(mob)とも幾度となく戦った。なのになぜ今更その代用品との戦い方を学ぶために手足を働かせねばならぬのやら……。

「おかしなカラクリとは心外ですね」

 言葉が過ぎる、とは自分でも思ってござる。が、男子たるもの言わねばならぬときは必ずある――そんな拙者の考えを知ってか知らずか、魔王の手先、四天王が最後の一人とも呼ばれるその男、ドクターマミーが反論するのだ。

母親(マミー)のつづりは、はて、どう書くのだったか……)

 Mommyだったか、Mummyだったか……単純なスペルミスで点を落としたくはない拙者としては、ミイラ男を見て思うことはただその一点のみでござった。



    [to be Next scene Side Len...]



「ミイラのMummyとママのMummyはスペルが違うんですけど、これはアメリカ英語なんですよ。イギリス英語ですとミイラのMummyとママのMummyは両方ともMummyになるんです。母国語が英語だって言っても、私は基本がイギリス英語ですので、ごく稀に変だって言われちゃうのが悩みですかね」

「へ~……でも真面目な話、聞いただけだと全然違いがわかんねーぜ!」

「オレもだぜ……こんなんで中学の英語、大丈夫かな……?」

「スペルの違いだ。oとu。アメリカ式だとoで、イギリス式英語だとuになる。彼女の発音だと、どちらもuだな。ママはMommyと発音する……ああ、そういえば同僚に生粋の英国人がいてな。英語をイギリス式からどうしても譲らんのが今職場で問題に――」

「わざわざマミーなぞ書いた覚えはないな、自分が中学の頃は」

「大丈夫ですよ。いざとなったら、できるだけ私達が教えてあげますから。これでも大人ですからねぇ、一応、公務員の」

「頼りにしてるぜ! おっさん!」

「ははっ。そういえば私も、すっかりそんな歳ですねぇ」

「自分はまだまだ現役だと信じていたのだが、少しショックだな」

「おじさんなら許可する、と言ってあるはずだが。まぁ、それはともかく――」

「私から見たら日本人って全員若く見えて羨ましいんですけど……まぁそれはさておき、だからできるだけ日本語使うようにしてるんです。ちょっと変でも、外国人だから、で済むじゃないですか」

「――……なぁ、割り込まずに聞いて欲しいんだが」

「ブリュン、流暢すぎてちょっとそれは苦しいぞ?」

「Oh!?」

「……だから、私の補足に対してだな?」

 全員が意図的に元凶(タロス)を無視しながら、ブリュンヒルデさんが驚愕の声を上げる。私はそれをただ生暖かく見ていた。


『――私が出せる結論から言えば、ファフニール自体は≪ブラスターレイ≫一発で終わる。しかも、別に高レベルでなくてもいい』


 ≪ブラスターレイ≫、ソレ(・・)はそういう魔法だ。問答無用で壁を貫通するのだから、装甲も何もあったものじゃない。

 タロスの話を聞けば、外骨格型とはいえ重量問題もあるはずだ。そのせいでエンジン部が一メートル以上の分厚い装甲で守られているわけじゃないだろうとは予想が簡単につく。

 なにより戦闘機動時の最大速度は時速換算で三十キロ、的も大きい。よしんば手足に当たろうとも、それだけで機動力は確実に落ちるし、穴を空けられた装甲で自重を支えつつ戦えるわけがない。

(――たぶん、私がそう言ったせいなんだろうね)

 私は軍師じゃないと言い続ける覚悟はしていたけれど、まさか一つだけ攻略法を挙げただけで戦勝ムードが漂う、というか、その作戦だけで安心して、近藤さんら暗殺ギルドが場所を特定するのを待っている間中、あとは雑談に費やそうとするというのは果たしてどうだろう?

 ふと、そんな事を思った。

(まぁここで私が強く出たところで「やっぱり軍師だ」という話にしかならないし……)

 はっきり言って、相手に対応策が用意されている、ということも考慮しなければならないというのに……まぁ一度痛い目を見ておいて、私の作戦には穴がある、と思わせておけば私的にはかなりおいしいんだけどね。

 これで軍師返上だ、なんて……思わず頬が緩んでしまうよ。

「……ちなみにイギリス英語と聞けばクイーンズイングリッシュを想像することも多いだろうけどね、これはこれでまた別なんだ。イングランド南西部方言、スコットランド方言、アイルランド方言とかね」

 この波に乗っておくことに越したことはない――そう考えた私は、そのままブリュンヒルデさんのイギリス雑談にさり気なく混ざることにした。

「へ~……」

「日本と似てんのな」

「United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandですからね~、だいたいイギリスと一言で言われてますけど」

「……ねーちゃん、どういうこと?」

「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国……イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四つの国から構成される立憲君主制国家だって事だよ」

「へ~……」

「ブリュンヒルデさんが言いたいのは、イギリスや英国が一般的だけど、語源的にはその語源はいずれもイングランド単体との関係が深い言葉でありUKやグレートブリテンと言い表すにはいささか違うんじゃないか、という考えがある、というものの典型だね」

「でも面倒なので、普通にイギリスでもいいんですけどね」

「どっちだよっ!?」

「通じればいいんです。英国人はプライドが高いとか言われますけど、私そんなにプライド高くないですし」

「そうだな、(オレ)も紅茶に関しては怒られると思ったが……」

「さすがにアレはゆっくりと調……矯正するつもりですよ?」

「ファッ!?」

 クロウ、全力で地雷を踏み抜いたね……というか、調教するつもりだったんだ? さすが英国人だよ。

「――そういえば、職場でイギリス式から治さない奴だが、当然の如く紅茶に対して激怒していたな。思わず、大阪のおばちゃんを思い出してしまった事があった」

「大阪ってクロウの住んでいるところですよね?」

「あ、いや? 兵庫? であるぞ?」

「……出身地についてとやかく言うつもりはありませんが、マナー違反ですよ? ブリュンヒルデさん」

 ゆったりとした様子で、無言で紅茶を嗜んでいた李儒さんが、さすがにリアルの情報を漏らすのはダメだと言わんばかりに注意する。

「そういうのは二人きりのときだけにしてください。リアルで迷惑がかかるのはクロウさんですから」

「Oh……すみません」

「クロウさんも、もう少しウソは上手についてください。スキルなしでもバレバレです」

「むぅ……自信はあったのであるが……」

「私にしてみれば、訛りで大体は想像がつくので」

 何気にスペックが高いよね、李儒さん……と言えなくもないけれど。一つの県ですら二つ以上の方言があるところだってあるんだし、もしかしたら李儒さんは兵庫に住んでいる可能性も無きにしもあらず、と言ったところかな?

 他県の方言を全て事細かに知っているなんて考え辛いんだし……李儒さんも迂闊なところがあるね?

「――ちなみに私は生まれは確かに兵庫ですが、今は別なところに住んでいますよ? なので変な勘違いを犯さないでください、レンさん」

「……ん、顔に出てたかな?」

「いいえ? エロイ人ですのでそれくらいは考えるかな、と」

 この場合、えげつなくてろくでもなくていやらしい人、という意味らしいといことは前に聞いた。

「ひどい言い草だね!?」

 だからこそ思わず声が大きくなってしまった。

「別に、正当な評価かと思いますよ? たった一つの策だけ出して、失敗しよう、だなんて考えてそうな人の頭の中って……大体こんな感じですよね?」

「……バレてたのか」

「カマかけ程度ですぐ諦めるのも策のうちですか?」

 ――李儒さんは本当に人を煽るのが上手いよね?

「私は、ウソをついたことがないのが自慢でね」

 同時に、真実も言わないのだけれども……なんて言うのも、一体いつ以来だろう? とにかく、恨みがましく睨みつけながら、言ってやった。

 ――それがいけなかった。

「ちょっと待つが良い、軍師よ」

「何度でも言おう、私は軍師じゃない」

「どうせ失敗して私に考えさせようだとか、そうやってどうにか自分の称号をなくそうと考えてるんですよ、この人。なので、計略(ドロ)を全部吐き出させるまでは絶対に信用しないほうがいいです」

 ……李儒さんは本当に、本当に余計な事を言う。

 私を追い詰めるのが上手い、上手に煽ってくる……思わず、エロイ人なのは君だよ、と言いたくなる。

「それが真実だとしても、すぐに考え付いたのはそれだけだよ」

「今はいろいろと考えつくんですね、分かります」

 人の事をよく見ているというか、考えを見透かすというか、なんと言うか、本当にやり辛い……!

「軍師よ……まずは全て吐いて楽になるべきではないだろうか?」

「――ゲリュオーンが必要になるかもしれん、少し席を外す」

「まぁねーちゃんならさぁ、失敗してもすぐ別な作戦思いつくだろうし、今は一つだけ、っていうのは分かるけどさぁ……?」

「さすがにオレらに危険な橋を渡らせるっつーのはねーんじゃねーの? オレらなんか底辺なんだし、金に余裕なんてねーぜ?」

「軍師は指揮官と同じく、部下の……いや仲間、つまりの我々の命を握っているのだ。さすがにそれは自分勝手すぎる。それは無意味に兵を死なせる考えだ」

「すみませんレンさん……さすがにそんな考えですと、私からは何もフォローできませんよ?」

「まぁ私は、私とクロウさえ生きていればあとは知ったことじゃないですけどね。足には自信のある魔導騎士(ミスティックナイト)ですから逃げるのも楽ちんです」

「――酷評ですね?」

 全員から私へのバッシングを聞いた李儒さんは「してやったり」といったふうに、にやり、と笑った。

「……私に何か恨みでもあるのかな?」

「無い訳ないじゃないですか。少なくとも、あなたのせいでほとぼりが冷めるまで住んでいた所を追われたんですし……お礼と言ってはなんですが、絶対に軍師から下ろさせなんてしませんよ?」

 さすがにそこまで言われると私も引けないので、

「ああ、ありがとう。実に関心するね? 弟子の忠義ってものは」

「~~~~~~っ!? 私はあなたの弟子じゃありません!!」

 とりあえず、逆鱗に触れておいた。



    [to be Next scene...]



「おい、おおよその場所が特定でき……なんだ? この空気は」

 近藤さんが入ってきた会議室の空気は実に最悪だったろう。

 私と李儒さん、半ば冷戦状態だものね? お父さんは場を和ませようとは努力してくれたんだけれども「……さすがに年頃の女の子は難しいですねぇ」なんて呟いてたし。

「気にすることはないよ。ちょっと白熱した話し合いがあっただけなんだ」

「そうですね。ちょっと冷戦に近いですが」

「……まぁ、喧嘩は同じレベルの相手としか起こらない、と聞くからな」

「同じレベルだなんてとんでもない」

 李儒さんは確かに頭がいいけれど、さすがに年下と同レベルだなんて思いたくもないし、思われたくもない。

 まぁ、別に私が軍師だから優秀だとか、そんな事を言うつもりもないけれどね? そもそも軍師って汚名を返上したいんだし。

「そうですね。私もそう思いますよ」

 李儒さんは一体どう考えているのかまでは分からないけれども、大体同じ結論に達したらしい。

 若干険悪な雰囲気のまま、私達は「そんな事実はなかった」という形にする。

 ――嫌なところで息が合うねぇ、本当に。

「じゃぁ改めて、考えうる作戦を出し合っていこうじゃないか。李儒さん?」

「ええ、そうしましょう。いい加減、弟子だなんだと言われるのは癪ですし、私もどんどん意見を出していきますので覚悟してくださいね?」

「はは、頼もしいね?」

「いえ、こちらこそ?」

 ――視界の端で、ヘルフリートくんが若干怯えているように見えた。

「タロスが居ないから詳しいスペックこそ今は分からないけれど、私から言えるのは『ファフニール自体は≪ブラスターレイ≫一発で終わる』だ」

 続いて、それについての理由も説明する。

 むしろ近藤さんへの説明という意味が大きいので、今までここに居た全員は改めてその内容を再確認し、なるほど、と頷く。

「ふむ……実に“穏便”に終わらせられそうな意見だ」

 一応、巨大な兵器と戦うわけだから穏便とは言わない。でも近藤さんの反応を見る限りでは、やっぱりドワーフの存在さえバレなければすべからく“穏便”なんだろうね。

 まぁ、後で改めて再確認する必要はあるけど。

「あとはゴーレムの投入、というのも考えられるかな……タロスには悪いけれど、そもそもタロスのやっていることは無意味に近い。サモン系統の魔法と違って、あれらは機械であることが逆に難点だ。使い潰しが出来ないからね」

 結局のところ、相手の数倍の戦力を用意する、というのは戦いにおいて勝敗を決する大きな理由の一つだ。

「戦力の逐次投入は愚策、と言われているけれどもね? ことサモン系に至っては話が別さ。術者さえ無事なら、常に再生し続ける敵を相手にしているようなものなんだから」

 まだゲリュオーンとも名前がついていない試作型の頃、それはゴーレムと戦い、潰していたという情報がある。あの時はゴーレム三体だったか……つまりゲリュオーンの戦力は基本的に同サイズのゴーレム三体分と換算できる。

 ――裏を返せば、ゴーレムを四体以上用意すればゲリュオーンを潰せるということだ。

「この場合の戦力というのは術者の事であって、決してゴーレム自体のことじゃない。使い潰せない機械だからこその弱点さ」

 これは軍隊が前線の兵を常に交代させつつ、疲労を極力押さえ、英気を養わせつつ、ほぼ新鮮な戦力のまま相手を削り殺す――

「上杉謙信が考案して川中島の合戦で使ったと言われている車懸りの陣、その変形だね」

「はて、上杉謙信の車懸りは創作では?」

「確かに、薬師如来の護衛の神軍が最も得意とした戦法で……北方に毘羯羅神将、南方に珊底羅神将を配置し、それぞれの方向に八万四千の軍勢が十二に分割されそれぞれが順番に敵に攻撃をしかけ離脱して各個に連続して攻撃を繰り返す戦法だった、という伝説もある。そういう意味では上杉謙信考案、というのは創作だろうとは思う」

 薬師如来の元を辿っていけば、古代インドの戦争にまで遡れる。ここまで遡ればほぼ最古の戦術と言えるだろうね。

 ただし問題の戦術のほうは、局所的に見ると戦力の逐次投入となんら変わらない。交代時に渋滞現象が起こる可能性もあるから確実性がない。

 利点というより利用法としては、少数の敵を時間を掛けてじわじわと削り殺す、というものなんだけれども……川中島でそんな時間があるのか? 実際に運用は可能だったのか? などと、色々と疑問符がつく。

「正直に言えば実践的じゃないね。欠点を承知で使ったとすれば、渋滞現象を起こして自陣ごと敵陣をバラバラにして一騎打ちに持ち込もうとするときぐらいだろうさ」

 ちなみに川中島の合戦では武田信玄と上杉謙信が一騎打ちをしてしまうという常識的にあり得ないような状況に陥ってしまったと言われている。

 ――そう考えれば、「毘沙門天の加護ぞある」と謳う“軍神”上杉謙信の面目躍如、稀代の戦上手という評価は不動のものだろうね。

「それはともかく。ゴーレムは常に湧き出させ続けることが出来る。それでいて使い潰すことを前提にすれば、これほど相性のいい陣はないとも言える」

「車懸りといいつつ、その実ただの鉄砲玉ですね」

「そうだね。そして実際に車懸りの陣を運用するとなると鉄砲玉扱いするしかないと私は思う。でなければ、相手を削り殺すためには高い練度が必要になるからね」

 創作ではないだろうか? と言われる所以はこれもあったね。戦国時代という背景上、練度の高い兵――つまり常備兵は難しい話なのだから。

 まぁ、上杉謙信のところは農兵にしては練度が高かったらしいというのは、付け加えておくけれども。

「……タロスのように、未来兵器を作る人間は近代兵器を作れると言う事でもある。自衛隊としては、自分達が使い慣れた兵器を作れる人間というのは少々応援したい。だが軍師の話を聞けば、なるほど魔法の有用性は高い、と感心するほか無いな」

「私は軍師じゃない」

「というアピールですので、お気になさらず」

「ただ、まぁ……ローテクな自分にしてみれば、魔法の有用性が高すぎて使いこなす自信がない、とも言いたくもあるがな」

「そうですねぇ、魔法があるだけでも難しい話です……が、それのおかげで対抗策はある、と喜んでおきましょう」

 この冷戦状態の空気をどうにかしたかったのか、軍曹が珍しく弱気な事を呟き、お父さんへのトスを上げた――まぁ、前と比べれば五割増しの演技力だった。

「ふむ……つまり、だ。軍師は≪ブラスターレイ≫による狙撃もしくはゴーレムによる人海戦術を取るべきだ、ということか?」

 結果は、無意味だった、としか言えない……事情を知らない近藤さんは、そのまま気にせずに話を進めた。

「またはその両方を同時に進めること、だね……でも近藤さん、自分のギルドから出兵しないくせになんでそんな確認をするんだい?」

「そちらの対応で出た被害に対する対応に追われるからに決まっているだろうが。わざと言っているのか?」

「そうだよ? それくらいの嫌がらせはさせてくれ。人を軍師呼ばわりするんだから」

「つまりはツンデレということです」

「そうか」

 ……李儒さんの口、縫えないかな? なんて思ってしまったよ。

「で、李儒さんも当然ながら策はあるんだよね? どんどん意見を出していく、という言葉を私は忘れていないよ?」

「レンさんの提案が終わってからと考えていましたので。そもそも、そんなに慌ててどうするんですか? 急いては事を仕損じる、とも言いますよ?」

「うっかり忘れてしまっていなければいいな、という確認さ。慌ててなんかいないよ?」

「これは大変失礼しました。もっと策が出るものかと思っていましたので……まぁ、私の勘違いのようでしたが」

 ――本当に口の減らない人だね?

「レンさんの計略を改めて確認しますと、魔法の使用にばかり目が行きがちですが、正直に言えば正面突破となんら変わりません」

 別にそこまで言及する必要があるかどうか、なんて言うまでもないと思う。

「私の場合は逆の意見ですね。魔法を使う必要などありません」

「その言い草……我としては、魔法ごとき、と聞こえてしまうのであるが?」

「別に魔法は否定しませんよ? 有効な手札の一つです。でも、それだけですよね?」

 李儒さんの物言いから、全方位喧嘩外交、と言う言葉を思い出す。

「相手の戦力はドラゴンに匹敵、いえ、それ以上とみなすことが出来ます。場合によっては魔法の基本射程である三十メートル以内に入ること自体がやや難易度が高い上に、その射程は相手側にとっても有効射程内……いえ、むしろ相手のほうがよほど射程が長いはずです」

「有効射程が長い、であるか」

「相手は雷管を用いた火器を装備していますので」

 ちなみに通常のアサルトライフル程度の五.五六ミリ口径なら二百メートルから四百メートル程度。大口径でも十二.七ミリの対物ライフルは千五百メートル前後はあるとされている。

 まぁ、もっとも――

「有効射程なんて使用する口径や火薬量、風向きなどにも由来する数学と物理学の問題だ。『雷管を用いた~』というのは的外れも甚だしいんじゃないかな?」

 ――という結論に行き着く。

「言葉のあやですし、なぜそう重箱の隅をつつくんでしょう?」

「私としては、間違いを訂正しただけだよ? 子供も居るんだ、間違った知識は与えないことに越した事はないと思ったまでさ。老婆心ながらね?」

「さて、どうだか」

 李儒さんは、敵愾心をもって私を睨みつけてくる。

 まぁ私は素直に『事実』を言ったまでだから、そんな視線なんて気にするほどのものじゃない。年下にいちいちムキになるなんて、年上としてどうかと思うしね?

「それより、李儒さんはつまりどうしたいんだい? まさかソレが言いたいだけじゃないよね?」

「当然です。結局のところ射程内に入るのは危険ですので、気付かれないうちに射程内へ入り込む必要がある、という理由により、私は≪隠密≫スキルをフルスロットにした全力での奇襲を提案します」

「奇襲……奇襲ねぇ?」

「何か?」

「いや、好きだね、と思っただけさ」

 私のところへ攻め込んできたのも、堂々と奇襲宣言をした上での正面突破――と見せかけた突撃だった。

 まぁ、奇襲の定義に当てはまるのだから奇襲ではあるだろうね?

「戦力的に、こちらの数倍ですよ? 勝つには奇襲、蟻の一穴を作る必要があるかと」

「でも、そうなると連携が必要不可欠だ……そうやって他人に不必要なほど完璧な連携を求めようとするから、今までダメだったんじゃないかな?」

 それは自分による自分のための自分の人造人間(ホムンクルス)部隊を作ろうとしていた事からも伺える。

「はっきり言えば、同じギルドであっても足並みが揃わないのは当然さ。警官や自衛隊のように特殊な訓練をやっているわけじゃないんだから」

「……いちいち突っかからないでくださいます?」

「私は私の意見を言っているまでだよ? それに、そもそもフルスロットでどうやって相手を倒すつもりだい?」

 李儒さんの先ほどまでの話では、奇襲とは言いつつただ懐に入ることしか想定されていない。私が疑問に思わなくても、必ず誰かは疑問に思うだろう。

「ええ、考えはあります。そも、有人機の弱点は“人が乗っていることが前提”ですよね? 裏を返せば、エンジン部よりも何よりも、当然ながらパイロットという部品(パーツ)が最大の弱点であることは自明の理」

「相手がそれを想定していない、なんて甘い考えが許されるのかい?」

「当然対策しているでしょうね? ですが、接近してしまえば大半の武装は使用できません。そもそもタロスさんの言を信じるならば、背中に乗ってしまえば攻撃手段は無いと断言できるでしょう」

「あえて転倒するということも考えられるけれどもね?」

「ええ、ですので≪隠密≫となります。当然ながらフルスロットで。これでキャラクターの表示速度を意図的に遅らせ、発見を困難にするのです」

 ≪隠密≫スキルについては私はあまりよく知っているわけではない。使ったことも、使っている人が回りにいるわけではないからね。

 ただ、内容としては李儒さんの言ったとおり『キャラクター表示速度を遅らせる』効果と、もう一つに『キャラクター表示距離を短くする』効果があると説明されたことはある。

 ――要するに、一昔前のネットゲームで処理速度を速めるための処置を≪隠密≫に転用しているだけ、という話らしい。

「フルスロットならば、もって八秒弱か」

 人間の視力の限界で、人をどれくらいの距離から発見できるか……というのは実際に計算しないとちょっと分からない。

 ちなみに角度一分を見分けることができる視力を視力一.〇としているので、そこから計算すれば三角関数を用いて計算はできるだろう。

(正直面倒だからやらないけどね)

 でも人が見えないほどの距離ほども離れていれば、はっきり言って八秒弱も消えていようが関係のない距離だ。

 そこからいくらか補正が入るんだろうけれども……まぁ実際にどうなるかは使ってみないことには分からないし、聞いてみるしかないね。

「ちなみに、どれくらいの距離まで“消えて”いられるんだい?」

「……キロ単位ではありますねぇ。私も正確には覚えていませんが」

「プレイヤーや、ほかのオブジェクト数にもよるとしか言いようがないからな。平原ではほぼ無意味だ」

「なんだ、使えないじゃないか」

「ですが、≪ソナー≫は誤魔化せます。確かに陽動も必要にはなるでしょうが、有効な一手だと思いますよ?」

「よしんば接近したところで、どうやって倒すんだい?」

「最善は内部へ突撃しての撃破、次善は関節部の破壊ですね。攻撃は基本敵に火薬、火器を使用します」

「その作戦のほうがよっぽど鉄砲玉じゃないか」

 それに、火薬を使うということは天候にも左右されてしまう。

「相手は移動“要塞”だよ? 当然、火事に対抗する方法が存在してしかるべきだ。その上、こちらは≪隠密≫フルスロットで戦闘能力は弱体化、けれども相手は別のスキルで埋められるから戦力は維持することができる。つまり侵入は下策も下策。暗殺なんて無理難題じゃないか」

「基本的に、です。対人ならばあなたが便利なモノを作ったじゃないですか。唐辛子地雷、アレで私の軍が何度泣かされたことか」

「あ……アレを、兵器に転用したという噂は、本当だったのか……!?」

 私の背後で、近藤さんが戦慄した――が、気にするほどのものじゃないね。

 アレは遅かれ早かれ兵器として確立していたはずだから。

「でも、ランディやアスールには通じないじゃないか」

「――あのロリコンはもはや別の生物か何かだ!」

 近藤さんの言いたいことは分かる。でも今言うべきことじゃないと思うし、ランディを性犯罪者呼ばわりするのはいささか頭にくるね?

 彼は私に優しくしてくれている、恩人でもあるんだから。

「ともあれ、確実性がない」

 まぁ、今怒っても仕方がないので無視するんだけど。

「ソレを言ってしまえばそちらもですよ? そもそも、≪ブラスターレイ≫でなんでも片付くのであれば、それ一色で染まって当然だと思いませんか?」

「……どういう意味だい?」

「魔法は魔法と相殺する、というのがこのゲームの魔法の基本です。≪ブリザード≫、いえ≪スコール≫あたりで十分でしょう。ああいったモノの影響下ではそもそも魔法が発動しない場合がありますので」

「――その程度、知らないとでも思っているのかい?」

 これでも魔導書は何度も読み返した。だから、ほとんどの魔法効果は頭に入っている。

 はなはだ不本意ながら、大禁呪の魔女、と呼ばれた経歴は伊達じゃない。

「魔法は≪ファイアーボール≫に始まり≪ファイアーボール≫に終わる。というのはクロウからの受け売りだけどね?」

 ボール系は威力を上げると、着弾時の破壊力が上がる。同時に炸裂する範囲も微増するから、簡易の範囲魔法としても利用が可能だ。

 ついでに言えば、吹き飛ばした土砂でのOPKも狙うことができるし、そうでなくとも、上手く打ち上げてやれば落下死を誘うことも可能――実に汎用性が高いのだ。

 故に、魔法は≪ファイアーボール≫に始まり≪ファイアーボール≫に終わる、というわけだ。

「確かに視界不良になるほどの雨粒での攻撃(・・・・・・)だ。それを張られたら≪ブラスターレイ≫は無意味に終わる」

 分厚い壁を用意されているわけでもないけれども、常に相殺させられ続けるのだ。≪ブラスターレイ≫も≪エクスプロージョン≫も、サモン系だって例外じゃない、強化や弱体化以外の魔法はほぼ全て、凄まじい勢いで減衰させられ、消滅する。

 ――自分すら巻き込む無差別範囲攻撃の唯一の利点だ。

「つまり……結局は正面突破しかないということか?」

「身も蓋もないけれど、確実性を問うなら、そうだね。軍曹の言うとおりさ。ただし、自己強化ぐらいは入れるけれども」

「そうですね、残るはプレイヤーがログインしていない状態での襲撃……基本は夜襲ですが、果たして意味があるかどうか疑問ですし、それ以前にメンバーが集まらなければ戦力の逐次投入になりかねません」

「なんというか、いつも通りであるなぁ……」

「脳筋にならざるを得ないというのがはなはだ不愉快だけどね」

「ええ、まったくです」

 李儒さんとは、その部分だけは意見が一致しているようだ。

「まぁ、もっとも……相手の人数が完全に確定していないから今はこれだけしか策が練れないというのもあるけどね」

「さすが軍師ですね? あ、いえ、司馬懿(ひきこもり)でしたね?」

「そっちこそ夜襲だなんて……あ、諸葛亮(ひきょうもの)だったね?」

 私達の会議はおそらくもっと踊ることになるだろう……李儒さんとの睨みあいで、そうした予感がした。

 ○○社××課くるまがかり……いえ、なんでもないです。


 遅まきながら「李儒ちゃんが諸事情により一発キャラから昇格した理由」ですが、「今回のようにレンちゃんがちゃんと働いてくれない可能性があったから」でした。


 え、どちらが臥竜で鳳雛かって? ……さぁ?




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