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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
ファフニール編
91/97

第87話 プロジェクト・ファフニール

 現在、この暗殺ギルド本部の会議室に居るのは、私と李儒さん、この話を持ってきたタロス。

 次いで真っ先に暗殺ギルドへと向かったお父さんと軍曹、そしてその二人とタロスからの連絡を受けるまで一緒に狩りをしていたヘルフリートくんにキリヤちゃん。

 人数が多いほうがよくて、そして私達のギルドのサブマスターという理由で道すがらコールして呼んだクロウ。

 実はシーズン中だというのに、本業そっちのけで彼を追い回(ストーカー)しているブリュンヒルデさん。

 最後に暗殺ギルドの代表として、最高責任者(ギルドマスター)の近藤さんが出席している。

 なお、アリスは残念ながら今日は定期検査の日。そして距離的に間に合わないだろうと判断したランディとアスール。この三人には連絡を入れていない。ギルドマスターとサブマスターの片方が不在という状態だけれども……まぁ、しょうがない。

 ――暗殺ギルドの秘匿技術、その塊である「ファフニール計画」の流出。

 実際に内容を聞いてみないことには判断しかねるけれども……それでも会議は、対策本部としてはやけに人数の少ない状態で開始された。



「――これは急な案件だから資料などは作っていないし、そもそも資料を作っていいものではない。ここから先の議題は全て口頭になり、そして一度しか言わん」

 暗殺ギルドの会議室に、近藤さんの苦々しい言葉が響く。

「ファフニール計画。言ってしまえばこの馬鹿を筆頭に我々暗殺ギルドの人員数名のみで構成された計画――だったものだ」

「要するに、陸上戦艦(ランドシップ)建造計画だな」

 近藤さんの言葉を引き継いだのは、タロスだ。

「らんどしっぷ?」

「戦車のことだよ」

 ヘルフリートくんの疑問に対して、私は非常に簡潔に答えた。

 少しだけ補足すると、私達の歴史上、地球の七割が海という環境であるために乗り物には基本的に「船」とつけることが多い。

 例えば飛行船、宇宙船などだね。ちなみに戦車も、開発中は「ランドシップ」と呼ばれていたらしい。

 ただし、現在では通常の船舶以外では大型の乗り物に限って「船」とつけるようになっている。それ以外において陸上を走るのは「車」、それ以外は「機」などといったものに置き換わっている。

 ――総合すると、ファフニール計画とは要するに大型戦車の開発計画だったようだ。

「なるほど……しかし、だった、というのにはいささか引っかかるものがあるな」

 次いで疑問を口にするのは、ブリュンヒルデさんと並んで座るクロウだ。

「計画の頓挫ですか?」

「……この馬鹿が計画を私物化したのだ」

 近藤さんが怒りを抑えるように、言葉を絞り出す。頭痛でもするのか、眉間を押さえてうつむきながら、だ。

「あー、ロボットつくっちゃったんだな……アホかよ」

 キリヤちゃんの言葉には前面的に同意したい。

「馬鹿を言うな、この計画では(・・)作っていない。これはそういうものではないからな……もっとも、私が暗殺ギルドの設備や敷地などを使っている対価の一つとして、技術提供がある。ならば、私の持てる技術を提供するのは当然の事だとは思わないか?」

「いやいやいやいや。この計画『では』ってなんだよ、『では』って。つーかタロスさんってやっぱアホなのかよ。自重しろよいい大人が」

 本当に、キリヤちゃんのツッコミには諸手を挙げて賛同したい。

「まぁそれがタロスくんのいいところでもあり悪いところでもありますし……そんなこと、今更言ってもしょうがないことでしょう?」

 擁護しているのか追撃しているのか分からないよお父さん……。

「コイツのそういうところは死んでも直らん。ならばこれからの事、そして相応の対策などを含めた建設的な話をすべきだ……そもそも、まだ自分たちには『どのようにして技術漏洩が発生したのか』という説明もない。これでは我々も動きようがない」

「今まで説明もなかったのかい?」

「近藤が、軍師の到着を待つ、という方針を出したのだ。責任者(トップ)の決定に従わなければ命令系統が破綻する。自衛隊でなくとも常識だろう?」

「命令系統云々に関しては同意するけどさ……」

 なんてはた迷惑な……その気になれば軍曹一人でも解決できそうなのに。

「とにかく、軍師が来た。そして会議は始まった。回りくどい説明は後にし、先に進めてくれないか?」

 要するに、タロスが計画を私物化した云々はどうでもよくて、自分はどのように動けばいいかをさっさと説明しろ、と言いたいわけか。

 ……実に軍曹(じんがい)らしいなぁ。

「軍曹の要望の前に、軽い説明をさせてもらおう。予備知識なしではさしもの軍曹もどうにも出来ん。いかに強くともな……アレは、そういうモノだ」

 タロスはタロスで、自分の作ったものに絶対の自信があるのか、ひとまず説明させろと口を出す。余計な煽りつきで。

「タロスさんの言い方には若干引っかかるものはありますが、予備知識はあったほうがいいでしょうね。敵を知り己を知れば百戦危うからず、と言いますし」

 釘でも刺しておこうか、と思ったときには既に李儒さんが言っていた。

「まず、先ほどから『流出した』という言葉が使われていますが、この際『盗まれた』が正しいのではと思いますが?」

「そうだな、盗まれた、と言ったほうが正確だ。設計図もろとも、主要パーツがな」

「――おい、近藤。ここの警備はザルなのか?」

 軍曹は若干キレた声を必死で抑えているような言葉を上げて、近藤さんを睨みつける。

「タロスのモノは姿かたちこそアレ(・・)で、誰も見向きもしないようだが、実質は戦車のようなものだぞ? 貴様は所属する駐屯地から戦車丸々一台盗難されましたと上官に言えるほどの大馬鹿なのか?」

「まぁまぁ。確かに、軍曹さんの言いたいことも分かりますが落ち着いてください」

 警察も自衛隊も、廃薬莢ひとつ紛失しただけで大騒ぎになるほど管理が徹底していると言うし……それを加味して考えれば、軍曹の言いたいことは分からないでもないかな。

「ところで、実際にはどうなんでしょうか?」

「いや、うむ……申し訳ないが、返す言葉もない。しかし弁解させてもらえるのならば、スキルの多様性、その良し悪しだとしか言えん」

「スキルの多様性ですと……ああ、小五郎くんから聞きましたよ。確か≪テレポート≫でしたね、新しく実装されたのは。ですがあれはテスト版でも実装版でも屋内に入れない仕様なのでは?」

「いえ、アレは存外、工夫次第でどのようにも使い道があります。そもそも室内から外へ出るのは可能です。室内から室内へは無理ですが」

 実際に壁抜けを行った李儒さんが、お父さんの疑問に対して補足する。

「もっとも、実際に現場を見てみないことには断言できませんが」

「おっと、これはうっかり。確かにそうですね。現場検証も行わずに本部で断定するなど愚の骨頂でした。私の本業だというのに……駐在所勤務が長すぎて勘が鈍りましたかね?」

 お父さんが、はははは、と恥ずかしそうに笑う――私はお父さんとはあまり一緒になったことはないけれども、笑い方がどうも演技臭い気がする……いや、軍曹よりは格段に上手なんだけれども……私にはアスールとはまた違ったムードメーカーの役割を買って出ているように見えた。

「あ、私のせいで中断してしまいましたね。すみませんでした。タロスくん、どうぞ先に進めて下さい」

「ああ。実際の盗難方法は私の(・・)部下に当たらせている」

「お前のじゃない、我々の人員だ」

「貸し出された以上は私の部下になる……そして、今のところ収穫はない。それこそ≪テレポート≫を使ったかのようだ」

「指紋はどうなんだい? 指紋がなくとも、最近は手袋の跡から犯人がどのような手袋をしていたかも分かるんだよね?」

「ええ、分かりますとも……でも、指紋はともかく。手袋などについてはこの世界にとって、オーバーテクノロジーというものですよ?」

「リアルで再現できる技術なら、こちらでも再現できない技術はほぼない、というのは私自らが試しているがな」

 ――そう口にしているタロスのロボットのほうが、明らかにオーバーテクノロジーに感じるんだけどな?

「ともあれ、残念なことに抜け毛とかありませんからねぇ、この世界。切ったりはできるんですが……きっと鑑識も、こちらの世界では証拠品を集めるのには一苦労でしょう。まぁ、このごろ気になり始めた私にとってはリアルもこうあって欲しい気もしますが……と、私語でしたね。すみません」

「私個人としましては、この際盗んだ方法はどうでもいいと思いますね。もっとも、後の防犯には繋がるでしょうが……ともあれ、タロスさんが言うには人手が多いほうがいい、でしたが、見る限りでは事に当たる人数が少なすぎるように感じますね? さては、レンさんお得意の寡兵による計略でしょうか?」

「私は寡兵での戦いが得意と言うわけじゃないんだけどな……まぁ実際、これは本部会議のようなものなんだろう? 実際にはもう少し人数が増えるはず……だよね、近藤さん?」

 機密事項なんだから、ギルド全体で動いてもおかしくはない。

 少なくとも、ここの街に居る人員だけでもきっと動かすだろう……私はそう信じて近藤さんに目を向ける。

「正直、これ以上の人数は割けん」

 ――けど返ってきた言葉は私の想定とは真逆のものだった。

「君は馬鹿かい?」

「あなた阿呆ですか?」

 私と李儒さんの口から出た言葉は違えど、気持ちが一つとなった瞬間だった。

「仕方があるまい! どこぞの馬鹿が雷管など開発するから悪いのだ! こっちの幹部連中で情報統制を行っているのだからこの場に出席できるのは俺以外いない! 最悪のパターンを考えて一般人を避難させるために非番の者も召集したのだ! それを統制するのにも手一杯だというのだ! 正直、こちらからはもうこれ以上の人手は出せん!」

 暗殺ギルドのトップが悲痛な叫びを上げる。

 一応、在籍数から考えるなら規模は最大らしいけれども……まぁ各街に散らばっているせいでもあるんだろうね。それらを統率するのに右往左往している合間を縫ってここに参加しているというわけか。

「……なぁ、俺様ずっと気になってたんだけどよ」

「なんだ小僧!」

「普通に閣下に頼むのとかアリじゃ――」

「一国の主に渡せる技術ではないっ!」

「――なんでだ? ただのエンジンと……銃の弾だよな?」

 言わんとすることは分かる。

 たかがその程度の基礎技術ぐらいいいんじゃないのか? と言うことなんだろう。

「いえ、絶対に渡せない技術ですよ」

「なんで?」

「とりあえず、雷管があればまともなリボルバーや、ガトリングガンが作れますね。アサルトライフルも、ボルトアクションの狙撃銃も対物ライフルも……ああ、ライフリングを施すのが先ですね。フリントロックは構造的にライフリングが難しいので」

「そうだね。あとはガトリングガンの場合は回転数を一定に保たないと弾詰まりや暴発の原因にもなりうるから、エンジンとはいえ一定の回転数にし続けることができる動力があるとずいぶん安定するハズだ」

 現存するガトリングガンの重量の半分近くはバッテリーとモーター、あとは弾薬だったりする。

「こうなるとキルゾーンも簡単に作れるし、今まで密集形態をとっていた戦術が一辺するね。防具も金属鎧は廃れる可能性が高いよ、貫通するから」

「……そうなの?」

「当然だよ。金属鎧で十分身を守れるなら、銃を持った犯人を相手にするときは今までの金属鎧を着たまま突撃したほうが楽だろう? そもそもクロスボウが登場した時点で、歴史的に金属鎧の存在意義が薄くなって……まぁともかく、あらゆる方面でパラダイムシフトが起こる」

 要するに、銃一強になった場合のバタフライ効果が大きすぎるんだよね。剣を作っていた生産職のほとんどが職を失い、そして既存の鎧が意味をなさなくなるから防具類を作っていた生産職のほとんども一気に廃業してしまう可能性がある。

 そうなると、剣で戦うプレイヤーの数は恐ろしく少なくなるだろうね。スキルで動体視力が上がるものがあるかもしれない。けれども、それを使ってでも銃弾を避けられるような人でないかぎりは、大半のプレイヤーは銃に乗り換える可能性が大きい。

 その上魔法よりも早い。こうなると魔法は広域殲滅専門は生き残るだろうけれども、それ以外はスキルレベルの構成的に大幅な制限がかかる。あとは殺傷能力にもよるけれど、李儒さんの使っていた銃を見る限りではほとんど一撃だったから、回復役(ヒーラー)も数を大きく減らすだろう。

 雷管ができれば信管だって作ることができるだろうから、いずれはミサイルなんてものも現れる可能性だってある。そうすると魔法職はほとんど死に絶えるだろう。

 なぜって? ――アウトレンジから一方的に嬲り殺せる。とても効率のいい近代戦闘が始まるからさ。

「まぁそうなるとさすがに修正が入りそうな予感もするけれど」

 ただし、確実に修正されるとは言いがたい。まさに運営(かみ)のみぞ知る、だ。

「まぁ雷管はともかくとして、エンジン自体は自動車やバイクに詳しい人間だったら容易に設計できるし、≪鍛冶≫スキルがあれば簡単に作れるだろうさ。だからエンジンぐらいなら別にいいんじゃないかなと思わなくもないけどね。燃料が少しばかり厄介だけど、ちょっと前に流行ったトウモロコシとかから作るバイオエタノールぐらいなら余裕で――」

「ああ、言い忘れていたが燃料はドワーフから提供されている。きちんと精製されたガソリンだ」

「――は?」

 えっと……なんだって?

「ドワーフって実在したんですか!?」

 そういえば私も見たことがないし、聞いたこともなかった。ただ、エルフもいるのだからいてもおかしくはない、程度の認識だったんだけれども……実際に居るんだ?

「エルフがいるのにドワーフはいないというのは、なかなかユニークなゲームになりそうだが……現にいるのだからしょうがないだろう?」

「えっと……秘匿したい真の理由って」

「ドワーフの存在でもある、ということだな。近藤は口に出したくもなかったようだが」

 近藤さんに目をやると――両手で頭をかかえていた。

「……近藤さん、説明」

 私の催促に対して、近藤さんは深いため息をついて、諦めたように口を開く。

「エルフと違ってドワーフは街で見かけん。それどころか街の外でも見かけん。稀に鉱山で目撃されることもあったが……その場合はこちらから情報に規制をかけていた」

「理由は?」

「軍師のほうがよく知っているだろう? ドワーフとエルフは仲が悪い、と」

「……ああ、そういうことか」

 なんとなく理由を察することが出来た。

 ――確かに、秘匿しておかないと厄介だね。

「はいはーい! 俺様にも分かりやすく教えてくれ!」

「っつーか、価値観が違うからお互い嫌いなだけなんじゃなかったっけ? オレはゲームだとそういう風に聞いたことがあるんだけどさ」

 まぁ、今時はそういう風に説明されているんだろうね。

「ふむ……ここは久方ぶりの、軍師講座であるな!」

「――全然久方ぶりじゃない!」

 この間、デュラハンの説明をしたばかりなのに。みんな、私を何でも知っている辞典か何かだと勘違いしているんじゃないのかとも思えてしまうよ。

「……とりあえず成り立ちを説明すると、今のドワーフは北欧神話に伝わる巨人ユミルの体にわいた蛆虫が、神によって知性を得たことで生まれた闇の妖精ドヴェルグが起源だ」

 本筋とは関係のない「ドヴェルグには三種類いる」だとか「太陽光を浴びると石になる、もしくは弾けて死ぬ」なんてことはとりあえず端折る。

「彼らは地中を住処にしているんだけれども、伝承の伝わったヨーロッパでは山岳などに穴を掘って住む民として変化していった。その後から現在に至るイメージはまたもやトールキンの『指輪物語』がメインになる」

「面白い話ですよね、指輪物語」

 ブリュンヒルデさんがうきうきとした様子で相槌を打った。

「私の知っているかぎりの話ですと、ドワーフは三回、エルフとトラブルを起こしています。一回目はエルフの王が美しい首飾りを贈られたときに。色々あって戦争になりました」

「そうだね。その物語における二つ目は、壮麗な都を築き、地中深くあった稀少金属(ミスリル)を求めて掘り進んだせいで眠っていた悪鬼バルログを呼び覚ましてしまったことが原因だ。近くに住んでいただけだったエルフはとばっちりを受けたんだ」

「最後はちょっと物語がわかっていないと訳が分からなくなるので色々あったで説明しますけど……ドラゴンに住んでいたところを追い出されて、取り返そうとして問題を起こしました。まぁ、この時は色々あって結局同盟を結ぶことになりますけど」

「ろくなことやってねーなドワーフ!?」

「一方的に迷惑をかけたら嫌われるのも当たり前だぜ……」

 私とブリュンヒルデさんの、いろいろと端折った話を聞いて、ヘルフリートくんとキリヤちゃんは呆れたような声を上げた。

「とはいうものの、一回目はドワーフが悪いわけじゃないんだよ。不幸なことに、贈られたドワーフ製の首飾りの出来がよすぎたんだ」

「なんでそれが不幸なんだ?」

「モチヌシを呪うホーセキってやつか!」

「原因が宝石なのは違いないね。呪いはないけど……まぁ、首飾りの出来が素晴らしくて気を良くしたエルフは、ドワーフに結婚のさいの装飾品を作って欲しいと依頼をしたんだ。それだけならまだ良かった……でもその物語でのドワーフという種族は綺麗なものに目がなくて、それでいて綺麗なものを作ること()大好きだった。だから『コレを使えば素晴らしいものが作れるだろう』という理由だけで一族伝来の宝石を使ってしまった。で、実際に素晴らしいものが出来上がって、先に贈られた首飾りとその装飾品を合わせたらすごく綺麗だったのが悲劇の始まりさ。エルフはその美しさに目がくらんで、盗った盗らないで数世代かけた大喧嘩、氏族丸ごと巻き込んでしまったんだよ」

 ちなみにその一族伝来の宝石は、その世界で三つしかないと言われていたりする――これ、社会制度が未成熟な中世世界あたりだと普通に全面戦争が起こるよね。実際に起こったけど。

「エルフもろくでもねーな!?」

「そもそも元の神話からしてエルフは光の妖精(アールヴ)、ドワーフは闇の妖精(デックアールヴ)。さらにお互い頑固だったりプライドが高かったりで仲がいいほうがおかしいぐらいだよ?」

「光と闇は永遠に戦い続ける運命! 故に最初っからソリが合わないと言うわけでであるな!」

「あとエルフがドワーフを一方的に大虐殺したという話もあるね。あれは小ドワーフだったけど、ともあれエルフ側がそれをやった理由が『ただの狐狩り(たしなみ)』だそうだ。他にもエルフはドワーフの事を『醜い!』と言ったこともあったらしい」

「ろくなことやってねーなエルフ!?」

「ちなみに豆知識ですけど、英語圏でDwarfという表現は小人症(Dwarfism)のニュアンスがあります。差別表現になりかねないので注意してくださいね?」

 英語に強い人がいると心強いなぁ――それが母国語の人だけど。

「要するにどっちも悪い、ということですか」

「まぁ、おおむね李儒さんの言う通りだね」

「言ってはなんだが……(オレ)としてはそう設定し定着させたトールキンが諸悪の根源だと思うのだがな」

「それを言ったら元も子もないよ?」

「……説明も終わっただろう? そろそろ話を戻させてもらってもかまわんか?」

「ああ、どうぞ」

 というか……無駄に時間を使ってしまった気がするから、さっさと止めてもらっても構わなかったんだけどな?

「ともあれ、エルフは街にいることがある。それでいて、ドワーフは街にいないが確実に生活に関わるところにいる……さて、先ほどの説明にもあったとおり、仲の悪い二者が互いの居場所を知った場合どうなる?」

「あー……」

「なんつーか、ガキみてぇだな」

 それはキリヤちゃんが言うべきセリフじゃないと思うんだよね。まだ小学生だし。

「下手をすれば街を巻き込んだ戦争に発展しかねん。そうなった場合、仮に抵抗するとしよう、奴らは同盟を組んで襲い掛かってくるだろう……機密として扱いドワーフを保護しているようにも見えるが」

「その実、隔離しているようにも見えるね?」

「混ぜるな危険、というものだ……差別的に思えるかもしれんが、我々も自分の身が可愛いだろう? 我々の場合は、別のゲームをやっていたうちの若いのが気になったらしく、個人的に両種族に確認したから判明したことだ。そこまで詳しいわけではなかった。より軍師のほうが詳しいだろう、と言ったのはそういう理由からだ」

「なるほど」

 今更だけど、こんなに長い説明をする必要ってあったのかな? とも思わなくもない……ブリュンヒルデさんに引っ張られた形になってしまったようだ。

「それなら確かに、離しておこう、なんて考えてしまうよね」

 ともあれ、気になったら確認してみる、それは英断だったと思う。

「で、だ……ガソリンがドワーフ産であることが街のエルフにバレた場合どうなるか予想がつかん。故にそれを知る人間は少ないほうがいい。事実、ガソリンがドワーフ産であることを知っているのは暗殺ギルドでは幹部連中と、タロスら開発陣だけだ」

「エンジンよりもそちらのほうが重要そうですね……それは流出したんですか?」

「私がそんな事を設計図に書き込むと? それこそ馬鹿な。どこで手に入れることができるか、どのように精製するか程度の端書ならしたかもしれんが……ともあれ設計図についても、本当に大切なところはリアルのほうに置いてきてある。ゲーム内からでは手出しは出来ん」

 精密なところも多々あるだろうに……それを暗記してゲームで再現するって、タロスって結構すごいところもあるね。

「この際言っておくが、ゲリュオーンにガソリン式の内燃機関を使用することを頑なに拒んでいたのはこういう理由だ」

「なるほどね」

 技術流出――というよりはドワーフの居場所がエルフに流出しないようにするための配慮だったというわけか。

「さて、私としてはロボットについては本当にどうでもいいので話を大きく戻させていただきますが……実際、タロスさんが私物化したという陸上戦艦(ランドシップ)建造計画はどういったものなんですか?」

「盗んだ方法などはいいのか? その……レンの弟子?」

「さきほども言ったとおりどうでもいいです。それに、私は李儒です。弟子じゃありません」

 李儒さんは憤慨するも、それでも冷静でいることに勤めるよう、声を抑えた。

「盗んだ方法等は結局のところ、暗殺ギルドの管轄です。私達が話し合って決めることではありません」

「いや、タロスにも一因が」

「ないものとして進めます。どうせこの人はロボットを広めようと考えて敵にわざと技術流出させる恐れが――」

「――その手があったか!」

 輝く笑顔のタロスが吐いた一言に、場が一瞬で凍りつく。

 監視については近藤さんらに任せることにしたらしい。李儒さんは咳払いを一つついて、そのまま話を進めようとする。

「……ともあれ、所詮は間借りしている人間です。管理者責任で言うならばそちらの落ち度、一因はあれど一個人ではどうしようもないことでしょう?」

 李儒さん、強引だなぁ……。

「まずは敵を知らなければなりません。私物化したとの事ですが? どうせろくでもないモノでしょう?」

「ろくでもないとは失礼な。単騎での戦闘能力およびゲリュオーンタイプの輸送を視野に入れた――」

「完全に私物化してますね? でも聞きたいことはそれではありません。ドラゴンに匹敵するとは誇大広告ではないんですよね? スペックを教えてください」

「――せっかちな」

 いや、李儒さんが正しいと思う。

「恐ろしく簡単に言えば外骨格型の設計をし、安定性を重視した四足歩行のドラゴンタイプだ。武装はそれほど多くない」

「がいこっかくがた? 何かに着せんの?」

 ヘルフリートくんの質問に呆れたようにため息をつく。

 なんでそれくらい分からないんだ、とでも言いたそうだ――でも普通外骨格型ロボットと言われて察することができる人は少ないと思う。

「通常のロボットはだな、まず骨格を作り、その上に動力を乗せ、動作を確認後、装甲を用意するという工程を経て作られる……なぜだか分かるか?」

「いや、オレらが知るかよ」

 キリヤちゃんの言うことはもっともだ。

作りやすい(・・・・・)、それだけだ」

「みもふたもねーな!?」

「そうだな。だがそれ以上に、これほど分かりやすい理由もないだろう? ともあれ、話を戻そう。外骨格型というのは、まず装甲ありき(・・・・・)だ」

「……あ、蟹」

 李儒さんが突然おかしなことを言い始めた――わけではない。

「そう、蟹などの甲殻類。もしくはカブトムシなどの昆虫類でもいい。学校の生物学で勉強したことはないか? 外骨格というのは、表皮が骨格の役割も果たすということを」

「タロス、生物は中学校の勉強だよ? いや、理科で若干勉強しているかもしれないけれどもさ」

「む……そうなのか。最近は遅れているな」

 遅れているわけじゃないと思う。まぁゆとり教育とかその反動とかで実態がどうなっているかは分からないけれども。

「このタイプは逆に作りづらい(・・・・・)。当然だな、装甲のデザインからその内部構造、配線などを最初で一度に仕上げなければならないからだ。故に、まず骨を作り、動力を乗せ、動作を確認してから、デザインされた外装を乗せる……というのが主流になっている」

「はぁ……で、そのメリットはなんですか?」

「なんと言っても、軽い事だ。そもそも骨がないのだから当然だな。言わなかったが、内骨格型は外装それ自体が既にデッドウェイトだ。重要な部分を守るために仕方なく装備しているわけだが、巨大化させるにつれてこのウェイトは非常に厄介だ。乗せた外装を直接張り替えることで修理を行ったり、武装を切り替えるなど、鎧のように扱えるという意味では確かに利点だが、動力の出力不足に悩まされる可能性が高い」

 裏を返せば、外骨格型として作ったからにはそれ相応に巨大なモノとして作った、と言うことになるのか。

「……それ、ドラゴンに似せて作る必要、ありますか?」

 李儒さんの根本的な質問が飛ぶ。

「例えば車輪とか」

「車輪の半径以上の段差は上れない。上るための工夫をすると重くなりすぎる。重くなりすぎるといくら内燃機関とはいえ出力不足だ。無限軌道(キャタピラ)も、まぁ同じ理由だな。それを攻略したとしても、次は燃費だ。無限軌道(キャタピラ)で試算した場合、燃費はリッター数百メートルだからな」

「みじけぇ!?」

 内燃機関の利点は、同サイズの外燃機関と比べ出力が非常に高いところだ――代わりに燃費が非常に悪いんだけどね。

「安定性を考えるならば四足よりも確実に六本足以上のほうがいい。だから八足歩行タイプのスレイプニル計画も立ち上げたのだが……こちらは様々な理由によって燃料不足に陥り、結果として航行距離が伸び悩んだため破棄した」

「待て、そんな計画があったのは初耳だぞ!?」

 近藤さん、タロスに私物化されすぎて、何も知らされてないんだね。

「まぁ、いくら軽量に作れても燃費だけはいかんともしがたい。手っ取り早いのは正直二足歩行だな」

「……ねぇ、ねーちゃん。なんでこのおじさん二足歩行にこだわんの?」

「よく分からないけれど、浪漫、じゃないかな……」

 それしか説明のしようがないもの。

「浪漫……ふむなるほど確かにそうだ。が、二足歩行と言うのは存外にエネルギー効率がいい。骨格受動歩行と言って、一定の動きさえ得られればそもそも『足』というモノは勝手に歩行するように出来ている。実に不思議なものだ。だから、やらねばならんのは姿勢制御と路面へのアプローチのみになる」

「それって、すごく難しいんじゃないかな?」

「ロボット魂さえあればなんとかなる。というか、してやった」

 そんなムチャクチャな……。

「ともあれ、コスト面や運用面などで最終的に残ったのが四足タイプのファフニール計画だ」

 それ以外にも色々な計画があったとしか聞こえない。というか、確実にあったんだろう。

「……で、肝心のスペックは? 私は開発経歴を聞きたかったわけじゃないんですが?」

 それでもじっと黙って聞いてあげている分、お人好しだよね。李儒さんって。

「巡航時速はだいたい五キロ前後だ」

「……ねーちゃん、これ速いのか?」

「成人の歩行速度がだいたい四キロだからお察しだね。アパートの公告とかで『駅から○分』というのは大体時速四.八キロだ、つまり早歩き程度かな」

「オレが走ったら普通に追い抜くってか」

「遅いなマジで!」

「全高、全長、横幅、おおよそ十メートル前後の巨体だ、燃費を考えるならば速過ぎると困ってしまうから仕方がないだろう? ちなみに最大速度は三十キロ、まぁ理論値だがな。ここに最新型のゲリュオーンIII型が一騎積載されることを考えているが、速度は落ちんはずだ」

「で、俺様めちゃくちゃ気になるんだけどさ……結局弱いのか? 強いのか?」

「III型はかなりの縮小化、高性能化に成功したからな……全高三.八メートルで巡航速度三十キロ、最大速度六十キロ前後の試算になる。正直な話、実際に戦えばこちらのほうがよっぽど強く感じるだろう」

「なんだ。じゃぁ弱いのか」

「まぁ、実際に戦った場合の体感だがな」

「――つまり、火器類が凄まじいということですか?」

「そうだ、とも言えるな」

 察しよく李儒さんが口を挟み、タロスはそれに答える。

「ブレスの代わり、と言ってはなんだが……グラインダーブラストおよび、メタルストーム社の作った兵器、メタルストームを参考にしたモノを撃ち分けられるような形で装備してみた」

「――君は馬鹿かい!?」

「――あなた阿呆ですか!?」

 私と李儒さんの心が再び一つとなった。

「なにそれ、ヤベェの?」

「ヤバイってものじゃない! メタルストームっていうのはね、インクジェット――つまりプリンタの要領で火薬の起爆を行う機構を使用して、銃身に銃弾と発射火薬を一定間隔で詰めたものを幾重にも並べて、一分の間に数百万発以上の銃弾を発射する凶悪な兵器だよ!!」

「あれ、動画を見たことがありますが、音がもはやビームです。当たった瞬間ミンチより酷い状況になるでしょう。現在最も大量に銃弾をばら撒くことのできる銃火器です」

「サイズに合わせてかなり改造したが?」

「ア ホ か ぁ !」

「まぁそれは実質オマケなんだ」

「「オマケッ!?」」

「内部火器は重量問題で、遠距離攻撃はそのブレス程度しか装備させていない。が、純粋な格闘能力が高い。四足歩行ゆえに、不用意に片足を上げるとあっけなくバランスを崩すのだが、それを逆に利用して全体重を乗せた前足の攻撃を可能にしている。外骨格型は軽く作れるからな、内骨格型とほぼ同じ質量にまで持っていくと、もはやドラゴンの牙や爪程度では装甲を抜けんし、ドラゴンを容易く傷つけることができるようになってしまうのだ……故に戦闘能力はドラゴンに匹敵すると言った。つまりだ、これぞまさしく私の夢の結晶……現時点で最高の機動要塞ということだ! 素晴らしいとは思わないか!?」

「おもわねーよ!?」

「俺様、コイツこそ魔王じゃねぇの? って思い始めてきたぜ……!」

「それほどでもない」

『ほめてねーよ!?』

 ――その瞬間、全員の心が一つとなった。

悪竜計画プロジェクト・ファフニールと書きます。

 タロスさんはいつでも愉快だな。



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