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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
デスゲーム編
9/97

第8話 おにく、おいしい

2012/12/30

 アスールの名前をノワールと間違えていたことが発覚。訂正しました。

 私のギルド加入手続きが終わったことをNPCに告げられると、アリスは「このまま酒場にいたらたぶんみんなと合流できないよね」と言い出す。

 元々、彼女の――いや、私達のギルドのたまり場と言えば彼、ランディの店なのだという。いずれは豪華な家を用意してギルドメンバー全員が安全に宿泊でき、騒げる場所を作るのが夢であったアリスにとって、設立当初から関わっていたランディが家持ちであったことが悔しくてあんな態度なのだとクロウがこっそり教えてくれた。

 だったらみんなでお金を出し合って、ランディの家を拡張すればいいと思うが。アリスは負けず嫌いだからそんな事を言い出すことはないだろうというのが私たちギルドの考えらしい。いずれ札束でランディの頬を張り倒すと鼻息を荒くしているとか、なんとか。

 この世界の従妹(アリス)は、本当に生き生きしているな……できれば知りたくなかった一面も知ってしまったよ、お姉ちゃんは。


「ただいまー」

「おかえりー」

「こんばんわー」

「いらっしゃいませー」

「おじゃましま――ってちょっと待ってくれ」

 今、なにか、従業員のような声が、聞こえた気がする。

「どうしたの?」

「いや、なにか、声が」

「弟子よ……地下墓地でよほど怖い思いをさせてしまったんだな……(オレ)は師として大変遺憾に思うぞ……」

「いや、たぶん、アスール(従業員)のことだろ」

 ランディが言うが早いか、ひとかかえもある籠にたくさんの野菜を詰め込んだものを持ち歩いて、カウンターの下――おそらく地下に貯蔵室があるんだろう――からコツコツとカカトを鳴らしながら浮き上がってくる少女がいた。

 すぐに目に付いたのは、青い髪だ。ゲームだから、現実では出来ないような色にしたかったのだろう。ただ、真っ青ではなく、なかなか自然な感じ仕上がった青色の髪だ。

 籠をずらしながら、こっちを見る。目が合った――瞳まで青い。おそらくは青が好きなんだろう。

「マスター……と、リーダー。それに皆まで。まだ開店してないよ」

 声も若いし、背も低い。百六十はない程度で、まだまだ未熟な――未熟? な体をしている。中学生ぐらいだろうか……?

「数日振りだな蒼き雪原の魔女よ!」

「げっ、中二……!」

「現役中二なのはそちらだろう? 我は大学三年なのだからな!」

 やはり中学生だったか。

「ええい、アンタとは話がかみ合わん! ――マスター、この中二追っ払ってよ~」

「アスール、お客様は?」

「神様です!」

「そういうことだ」

「そんな殺生な~!」

 アスール、と呼ばれた彼女はがっくりと肩を落とす。

「ガラン、お姉ちゃんが状況についてこれてなさそうだけど?」

「あー、初対面だったな、そういや。クロウのせいで忘れてた」

「我のせいか!?」

「アイツはアスール。ウチに住み込んでやがる従業員で、ギルドメンバーの一人だ」

「アスールでーす、よっろしくぅ」

 籠を置いて、Vサイン。私服なのか、真っ白な布地に刺繍の入ったワンピース――午前中に見たあの店のものだ――を着ている。

「こっちは今朝の取れたて新人、新メンバーのレン」

「紹介に預かったレンだ、よろしく」

「リーダーとは従姉妹同士らしい」

「おおう! リーダーのお姉さん!」

 大げさに驚いてみせる。私にとってアスールは、どこかムードメーカーっぽいというか、能天気というか、そんな印象だった。

「アスール、ロリコンガランから何もされなかった?」

「しねぇよ」

「体の発育だけは良いからな、朋友(とも)がどこからともなく拾ってきたときは全員で『すわ誘拐か!』と騒ぎ立てたほどである」

 事実、暗殺ギルドも動いていたほどらしい。

「ウチの裏で毎日残飯あさりながら、絶望した顔して路地裏でログアウトされてたら気になってしょうがないに決まってるだろうが!」

「いや~、最初の一年はいつ純潔を奪われるか気が気じゃなかったよ~」

 けらけら笑う。いや、笑い事なのかな?

「結局三年も居つくことになっちゃったんだよね。いや、働かされてるけどさ」

 ――絶望した顔で路地裏でログアウトしていた小学生、そのフレーズに少しだけ覚えがある。ああ、その子は救われたんだな……。

「あの一件後、シスターが孤児院を作ると言い出したのはいい思い出である」

「いやいやいやいや、孤児院とか。リアルに両親健在ですし、アタシ」

「っつーか、俺と軍曹で戦う方法叩き込んでやってんだ、もう一人で次の町だろうがどこだろうがやっていけるだろうに。いまだにすねかじりで困ってんだよな」

「アタシ、中学生ですから!」

「えばんな! お前のせいで俺の生活はカツカツだ!」

「生活費は入れてんじゃーん! っていうかマスター、お小遣いちょうだい!」

「自分で稼げ!」

 親子みたいなやり取りだ……というか、気付いているのかな? ランディ、君には間近に春が来ているよ?

 年齢的にはちょっとマズイけれど。

「やれやれ、と言った様子だな。弟子よ」

「ああ、まぁ、そうだね」


 中世の世界観で湯のみと緑茶、それにせんべいというのは果たして……という疑問はさておき、私がギルド加入したことや、今日の出来事など、他愛の無い会話でギルドの親交を深めていく。

「いやー、とうとうアタシも先輩ってわけかー」

「実年齢はお前より上だけどな?」

「いやいやマスター、ここは実力主義っしょ」

「戦闘について、朋友と軍曹をメインに純粋培養された狂戦士(バーサーカー)と、我が真剣に魔術師(マジシャン)として育てようとしている弟子、どちらが強いか。確かに少々気になるところではあるな」

「弟子になった覚えはないんだけどね」

「でも単純な魔法使いだとしたら、私かクロウぐらいだよね、育てられるの」

「私は静かに読書をして過ごしたいんだが……」

「スクロール型、いや、魔導書(グリモア)型魔法使いか……その発想はなかった!」

 曰く、スクロールを束ねて本にした魔導書型という魔法使いのタイプがあるらしい。

 自分で魔導書を作るという作業とスクロールのための資金が必要だが、使い捨てだが何百にも及ぶ魔法をほぼデメリットなしで使えるこのタイプは、ある意味では最強の一角と言われているという――いや、私はそもそも戦うつもりは無いんだけどな……。

「そうと決まれば、さっそく解読スキルと筆記スキルを買わなきゃね! お姉ちゃん待ってて、ちょっと買ってくる!」

「買い与えんなクソ幼女」

「うん、気持ちは嬉しいけど、単に力を与えられるだけじゃぁダメだよ」

「さすがお姉ちゃん! ……ガレンとは大違い」

「俺は買い与えられたことなんてねぇよ! 中高で剣道やってたからシステムアシストなしで戦えるだけだ」

「ずるいよねー、アスールちゃんもそう思うでしょ?」

「え、いや……あはは、アタシも剣道やってますし……人のことは言えないかなー、なんて……」

「アスールちゃんはいっつも謙虚でいい子だよねっ! ガレンとは大違い!」

「あー、PKフルスロットして来ようかなぁ……」

「ま、マスター! そういえば今日の十時ごろ公式イベントあるって見た!? この街の中央公園集合だって公式HPに載ってたんだけど!!」

「ああ、見た見た」

「アタシが思うに、そろそろ夏祭りの時期だと思うんだけど……!」

 少々強引な話題変更だが……ふむ、アスールは勇気を振り絞ったようだ。ふふっ、これは面白いことになりそうだ。

「あー、そうなると屋台の準備が必要だな……」

 ――そこは気付けっ! デートの誘いだぞ!?

「朋友よ、今更屋台など無理だろう。イベントならば雨を降らすことなどしないはずだろうが、そもそも屋外で屋台を出せるようなほど、材料に余裕があるわけでもあるまい」

 クロウ、ナイスアシストだ! ――どうやら私の反応に気付いたらしく、クロウは密かにサムズアップした。

「おそらくは去年屋台を出した人間達が既に場所の確保を行っているだろうし、時期を見越して素材の備蓄をしていたところもあるはずだ。今回は大人しく見て回るだけにしたほうがいいと、我は思うぞ?」

「かき入れ時だってのに、散財するだけか……」

「アタシは食べるのも勉強だと思うな!」

「それじゃぁ私はおねえちゃんと二人きりで見て回りたいな! リアルだとそういうことできないからさ……」

「そういえば第一種障害者特例だったな、マスターは」

 なるほど、そうやって二人きりにしてあげるんだな。アリスは賢いな!

「我は次にログインしてくる者たちがこの店に来るであろうから、ここで待機していようではないか。そもそも我自身、人混みは苦手であるからして。どうせなら更なる魔導の探求を行いたい」

「まぁお前はそうだよな。じゃ、店のものに手ださなきゃ勝手に飲み食いして良いぞ。味はかなり落ちるけどな」

「構わん。自由に使わせてもらおう」

 アスールの顔が輝いている。うん、青春だ。きっと初恋だろう、見守っていてあげたいな……とりあえず、思い余って一線を越えさせないよう、注意しなければならないけれども。

「じゃ、ちょっと早いし身内だけだけど、店でも開けるか」

「おお、貸切であるか!」

「マスター、アタシも手伝う!」

「ウェイトレスに徹してろ、メシマズ中学生」

「マスターひどくないっ!?」

「ガラン、今日のメニューは?」

「ああ、いい感じの熟成肉が手に入ったから、このままシンプルにステーキにでもしようかって思ってる」

 なるほど、メニューはシンプルにステー――待て、今、なんと、言った?

「アスール、食糧庫から……まぁ、三年も手伝わせてんだ、任せるわ」

「おっけー!」

 熟成された肉は、たしか、ゾンビから――!

「安心するがいい、弟子よ。彼が今出す肉はおそらく、ゾンビオックスの肉である。ここの地下墓地ではごく稀にしか出ないのに運がいいな弟子は! そして朋友は、そんな極上肉を剥ぎ取らないわけがない! 今日はリアルでもめったに口にすることのできない最高のステーキを食すこととなろう! フゥハハハ!」

「私はゾンビ肉って時点で嫌なんだよっ!?」

「お姉ちゃん」

「アリスっ! 分かってくれるよね!?」

「肉はちょっと腐ってるほうが美味しいよ?」

「そんな意見はいらなかったよ!!」

「焼き加減はどうするー?」

「炭になるほどに焼いてくれ! これでもかってくらいにだ!」

「ガレン、お姉ちゃんと私はミディアムレアで」

「あいよー」

「裏切ったね!?」

「我はレアがいい」

「マスター、アタシの分とかあるよね!?」

「あるから仕事しろ仕事」

 ――おねえちゃんは、もう、おにく、たべれないかも、しれない、です。

書き溜め分はこれで終了です。書き溜め速度にもよりますが、不定期更新になる可能性があります。

 感想は出来るだけ返したいところですが、とある事情により、どうなるかわかりません。

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