Extra 軍師、軍師を返上するために頑張ってみた
「――と、悪いね。仲間からのしょうもない話だったよ」
時計をしまいながら、私は改めて彼女へ向き直る。
「別に待っていませんでしたし、なかなか面白い講釈でしたよ? どうせ私は撃破数をカウンティングするだけでしたし、いい気晴らしになりました」
李儒。
つい先日までは私と戦争をしていた、軍師になりたかった少女……それが今では、軍師になってしまった私と一緒にこうして仲良くやっているのだから、なにか皮肉と言うか、運命めいたものを感じる。
(少しばかり、乙女チックかな?)
とは言うものの、そんな甘い話じゃないんだよね。プロパガンダ、ちょっとだけやりすぎちゃったせいで彼女を受け止める先がほとんどなくなってしまったというか……正直に言えば“性根を入れ替えて”“私の下で”“一から勉強しなおしている”という名目がないと不便になったというか、戦国時代で負けた武将が恭順の意を示すために傘下に入ったとか、そんな感じになったというか。
――とにかくそういう状況にしちゃったんだよねぇ。
「ゴメンね李儒さん」
「何を今更」
今でも恨んでますよ? なんて、いい笑顔で皮肉を返してくる。李儒さんのいっそすがすがしいまでの物言いに、私も思わず苦笑いが浮かんでしまうよ。
「……皮肉もあまり通じませんか」
「そんな、私は結構傷ついているよ?」
「では、良心の呵責は?」
「あるさ」
「そうは見えませんけどね」
「参ったなぁ……」
もちろん、李儒さんはそこまで根に持っているわけではない。ただ単に、皮肉屋なだけだ――それで人の心を抉ってくる、というところに、一抹の不安を隠せないのだけれど。
まぁ、まだ彼女は中学生だ。いずれそういう機微も身についてくるだろう。
そんな事をしているうちに、アリス――によく似せて造形された自動人形『ラビ』の機動実験は続いている。
とはいえ、もうほとんどの実験項目は消化してしまっており、今行っているのは最終実験、初心者脱却の試練用に使われると言われた一時間以内のヤマタノオロチ討伐だ。
遠かろうが近かろうが、子供ほどの大きさのある金属製のスーツケースを開いて盾のように構えながら、大型のリボルバーでもって即座に撃ち殺し、五秒とかからないリロードによって危なげなく蛇の頭を打ち貫いていく。
「――レンさん、兵器開発はしたことがなかったんじゃないんですかね?」
「ないよ?」
「アレは新兵器と呼べるものでは?」
「ないない」
私は即座に否定する。
「多銃身式拳銃、の変形というか……それをそのままリボルバーにしたらああなる、という形なだけさ」
それは、銃身と薬室が一体化した銃身をレンコンみたいに三本以上束ねて連射を可能とする形態の銃器の事を指す。ちなみにデリンジャーは銃身が二本なのでこれに含まれない。
名前の由来は、レンコン状になった銃身が胡椒を挽いて振り掛けるアレに似ているからだ。いわゆる、リボルバーの前身とも言えるべき拳銃だね。
一応、値段がリボルバーの三分の一程度という安価であり速射性があるという点によってアメリカ全土に普及してしまい、そのせいでリボルバー発明の祖であるコルト社は一度倒産してしまったという話もあるくらいだ。
「どう見てもただのリボルバーです、本当にありがとうございました」
「まぁ、見た目はね」
バスン、バスンとラビがその銃を連射する。確かにリボルバーのように見えるだろう。
「ただ、中身は違う。そもそもが十八世紀にドイツのアウクスブルクで製造された三つの銃身を持つフリントロック式の銃があるんだけれど……まぁそれを参考にして限りなくリボルバーに近づけただけだよ?」
ちなみに私は設計思想を伝えただけで、あとの製作者はタロスだ。さすが気軽にロボットを作る変態なだけあって、「そんな非精密機械なんぞ、スキルさえあれば一時間もかからん。構造を考える時間のほうが長いくらいだ」とのこと。末恐ろしいね。
ちなみに先込め式なのはまったく変わってない。ただ装填速度を速めるために中折れ式型で、弾丸は弾倉ごと変更するという荒業で何とかしているというだけだ。
元々多銃身式拳銃に限らず、現状で存在している銃器は銃身と弾倉の一体型だ。あの銃はそれを分離したというより、弾倉がごくごく短い銃身として使用され、その後の弾道を安定させるためさらに別途で銃身を用意しているようなものになる。
「発想自体がなかった、というわけじゃないんだろうけど……」
この手の銃の最大の欠点である「一発撃つと暴発して弾が全部発射されてしまう」現象――チェーンファイアだけは完全に防ぎきれていない。万が一フレームに弾丸が命中すると故障する最大の原因にもなるという非常に厄介な性質まで生まれてしまっている。
きちんと整備していれば一応は防ぐことのできる現象であるけれども、それでも完璧じゃない。
その上、チェーンファイア時にフレームと弾丸が衝突しないよう銃身に次弾が装填されていると残りの二発がちょうどフレームの外側に出るような正三角形状に配置しているせいで、今度は相手に残弾が見えてしまう、という欠点まで生まれてしまっている。
さらには装填速度を速めるための機構として考えた弾倉ごと変更するシステムは、かさばる弾倉自体を幾つも抱えなければならないという問題を抱えているせいで、少ない弾数制限にさらに制限を作っている。
あと、先込め式なので戦闘後は弾を弾倉一つ一つにこめて行く細かい作業が必須になってしまっている。このせいで実戦闘時間に対して準備時間がとてもじゃないけど割に合わない。
ちなみに弾数を増やそうとすればするほどチェーンファイアの危険性が高まるし、作業の回数も増える、口径を小さくしないと重量が増えるというか巨大になりすぎる。今でさえちょっとした大型拳銃サイズなのだから、その先は推して知るべし。
しかもフリントロック式は元々正面から見て非対称のせいで、発射した際に狙いがズレやすいという欠点があるので、それまでも引き継いでしまっている。本来ならば両手で保持するからこその命中精度を、片手で保持するだけの拳銃にしてしまったがゆえの弊害というわけだね。
だからカウンターウェイトを詰むことも考えたんだけれども、そうすると今度は銃自体が重くなりすぎて、取り回しが劣悪になってしまう。
――もちろん欠陥を上げればもっと上がるんだろうけど、とにかくそれを上げることすら不毛なくらいの、とんでもない欠陥拳銃だ。
「まぁ、とにかく欠点が多いし実用化するのは非現実的だった、というのもあるかな」
正直に言えば、こんなものを作るくらいなら大人しく練習したほうがいい。なぜなら、ただのマスケット銃だって慣れれば二発目は十五秒で再発射可能なのだ。スキルを使えばもっと短縮することだって可能になる。
しかも先ほど上げた欠点のほとんどを廃して、だ。
「ちょっと現実的に考えるなら、そうだね……技量やスキルの恩恵が大きいせいで、発展させる意味がない、という現状のせいなんだろうね」
失敗は成功の母と言うのであれば、必要は発明の父ということだ。
「まぁ、そうでしょう……ですが、今のところその欠点が出ていないように見えますね」
「出ていないだけだよ。可能性が一パーセントでもあればそれは“起こりうる現象”なんだから」
ちなみにペッパーボックスピストルについて、作家のマーク・トウェインは「銃身が回転するので的に当てにくい」「暴発して装填された弾が全弾発射されることがあり危険である」「ペッパーボックスを撃つときには、そばに居ないほうが良い。ただし背後に居る分には危険がない」などという言葉を残している。
なお、最後の言葉をさらに意訳すると「わずか五メートルの的にも当たらない」となってしまう……つまり、アレの性能は押して知るべし、と言うことだね。
「せめて雷管があればねぇ……」
バスン、バスン、バスン。と三発撃ったところで素早く弾倉交換。本当なら振り出し式でもいいんじゃないのかと思われるかもしれないけれど、そうするとフリントロックで着火したさいに弾倉がはじき出されてしまう可能性も存在する。言ってしまえばコレも欠点だね。補う方法はなくはないけれど、着火の要である部分が故障する原因になる可能性が高いから採用できない。
さらに中折れ式は構造上、折った瞬間に弾が自動的に排出される仕組みだ。その仕組みを直接弾倉をはじき出す仕組みに変更しているのだから、振り出し式にするうま味は本当に少ない。あるとすればフレームの強度が上昇する、そんな程度だ。
「雷管、ともなれば錬金術師の領分だと思うんだけれども――」
「私の専門は人造人間や自動人形など、自分の手足になるものですから。そして趣味は戦術を練ることですので正直期待されても困ります」
「――そう言うと思ったよ」
錬金術師で、本気で薬学をやっているプレイヤーを見たことがないね。
まぁ即戦力になる合成獣の作成や、売れ筋の一般的ポーション類さえ押さえられれば、あとは本当に趣味に走れる職業なんだろうけど。
そんな会話をしているうちに、ラビがとうとう百匹目の蛇の頭を打ち抜いた。
「今ので百匹目です――現れますよ?」
そう呟く李儒さんのほうが早いか、激しい地響きが起こる。
めり、めりと地面に亀裂が入り、割れ、その隙間から黒光りする爬虫類独特の鱗が見えはじめる。
「ラビ!」
私は今まで「蛇を百匹殺せ」としか命令していないラビに向かって声をかけた。
「……はい、なんでしょう?」
自動人形独特の、遅延のある返事が帰ってくる。
「切り札を使ってヤマタノオロチを倒してくれ!」
「……了解しました」
庇うことも考慮し、でも銃器を使うための視界を確保するためにヘルム以外を装備させたラビが、リボルバーもどきをスーツケース内部のベルトに固定、そのまま破棄。次いでマントの影から切り札を取り出す。
「――どこからどう見ても、まごうことなきガトリングガンです、本当にありがとうございます」
人間が持つにはいささか大げさすぎるだろうというほど、巨大なソレをマントの影から取り出したのを見て、李儒が引きつった顔で私のほうを見る。
「全然違うよ?」
アレは形状こそ似ているものの、一八六一年アメリカ合衆国の発明家リチャード・J・ガトリングによって製品化された機関銃の系統などでは決してない。
見た目は確かに似ている、そのせいで回りもぎょっとしている。
でも中身はまったく別物――まぁ構造上似通った部分は確かにあるけど――なのだ。
「アレもフリントロック式ペッパーボックスでね?」
「訳が分かりません、というか、一体どこに隠していたんでしょうね? 全然見えなかったんですが?」
「鎧で着膨れしているし、マントをつけているし、サーコートも着せている。ただ背中がもっこりしているから、それで判別できると思うけれども?」
「普通にカバンか何かだと思ってましたよ!?」
「カバンはほら、盾兼カバンの、スーツケースがあるし」
あの中には替えの弾倉が大量に用意されているから、ある意味では武器庫とも言えるんだけれど。
「……控えめに言ってもレンさんって頭おかしくありませんか?」
「……ひどくない?」
「正当な評価かと」
なぜか久しぶりにバカにされた気分だ。
「じゃぁなんであんなにジャラジャラと長い弾帯が伸びているんでしょうね?」
「製作者曰く、毎分二百発だってさ。理論値らしいけど」
「それ最初期のガトリングガンと同じ性能ですよね!? それがなんで片手でひょいと持ち上げられているんですか!? というかアホですか? アホなんですねレンさんって!!」
「酷い言い草だね!?」
それに持ち上げているといっても、アレの総重量はさほどない。本体だけでせいぜい五十キロ強だ、弾帯はおおよそにして十キロ強になる。
そしてそれは片手でひょいと持ち上げているわけではなく、ベルトで鎧に固定しているだけだ。まったく持ち上げられない、というほどのものではない。
そこにさっきまで使っていた装備や弾丸もあわせればようやく百キロいくかな? という程度だ。ゲームで普通に活動する分にはまったく問題がない。
――そのせいで高機動戦闘を行うことが出来ないので、現状ではほぼ固定砲台となっている。
「まぁアレのせいで銃戦闘を行っていると言っても過言じゃないんだけれども」
「アレ護衛ですよね!? いざとなったら肉壁になる予定の自動人形ですよね!?」
「まぁ確かに、そのための金属鎧だね。だからこそいざとなったらすぐにパージできるようにしている。でも、そもそも敵を殲滅したほうが早い、という攻撃的防衛思想で思考回路の制御をしているからね」
「護衛なのに!? その思考構成おかしいですよ!?」
「まぁ武力による抑止力みたいなものさ。アレの存在が恐ろしければ恐ろしいほどアリスを襲おうだなんて考えを殺せるし……そもそも私は護衛だの軍略だのといったものは知識にあるだけであって、一切分かっていならないからね?」
「軍師なのに!? というかダウトですよダウト!!」
「なぜか軍師に任命されただけなんだよ……それとダウトとか言わないでくれ、さっきも同じように言われて、ちょっとショックだったんだから」
あのガトリングガンのシステムは実に単純だ。さっきのリボルバーもどきと同じように、フリントロックに対応した薬莢が用意されている。
トリガーは一応存在するけれども、それは単なる安全装置だ。実際に発射を行うのは銃の側面に装備されたクランクだ――ちなみにトリガーを引いていないとクランクは空回りするだけ――これを左手で回すと発射プロセスに入る。
回転させることで装填された銃身がフリントロックのある頂点のところに到着すると、着火し発射される。そのままクランクを回すと排莢だ。なお弾帯とは非分離式であり、そのままドラムの中へとらせん状に収納されていく。クランクの回転によっては単発で発射も可能ではある。
ちなみに現在の装備弾数は二百発なのでちょうど一分で全弾使いきる計算だ。なのに弾込めに一時間以上かかるというこれまた面倒くさい代物でもある。
しかも清掃しないとチェーンファイアの恐れがあるので、さらに時間がかかる。
これももちろん、私は設計思想だけ伝えただけであり、その大部分のシステムはメイドイン変態だ。
「まぁ、だからこそ返上できないかなぁと思って、こういうものに本格的に手を出し始めたわけなんだけれども」
私はただ本で読んだことがあるというだけであって、知識はあれど近代の兵器群に明るいわけじゃない。だから設計思想をタロスに伝えるだけになっている。
なので、こういうものに本格的に手を出したとはいえ、正直言って大半の手柄はタロスにあると言っても過言じゃない。
――軍師の称号はいつ返上できるんだろうなぁ。なんて思わなくもない。
「……控えめに言って、頭のお医者様に行ったほうがよくありません?」
「なんで病気を心配されるかな!?」
はなはだ不愉快だと思いながら言い返したその瞬間、耳をつんざくような炸裂音が連続して発生する。
重量だけはあるガトリングガンなので、一発程度ならば普通の銃弾程度の反動はあまり問題にならないくらいだ。が、それが何百発ともなれば話が違う。
――斉射されるガトリングガンもどきの反動を殺しきれないせいで、弾丸は散弾気味にばら撒かれ、ばら撒かれた弾丸が首や体に命中するたびに血潮がはじけ飛び、肉片がちぎれ宙を舞う。
その宙を舞う肉片の一部すらも食い散らかしていくガトリングガンもどきが撃ち終わるころ……ヤマタノオロチはもはや見るも無残な肉片と化していた。
赤字確定の瞬間である。
[to be next scene...]
「今日は大変勉強になりました。レンさんは『エロイ』のではなく、非常識なだけなんですね」
「ちょっと待ってくれ」
今、李儒さんはとても聞き捨てならないことを言った。
「エロイ、とはなんだい?」
「えげつない、ろくでもない、いやらしい。その頭文字を取った『褒め言葉』だそうです」
そんな褒め言葉があるとは私も知らなかったね。
いやぁ、実に不勉強だった。
これは言い出した人ときちんと『お話』する必要があるかな?
「ちなみに誰が言っていたのかな?」
「小五郎ですね。ああ、そういえば体のラインが云々とか……は、別の人だったかもしれませんが、腰つきとかが特に、なんて」
……へぇ、そんな事を言っていたんだ?
なんという、女の敵なんだろう?
「そうかい、分かった。ありがとう――ラビ、弾込め開始」
「……はい、分かりました」
ラビがキリリと顔を引き締める。
弾込めする前にはきちんと清掃するよう思考回路を制御している。実際に弾を装填し終わるまでおそらく三時間以上はかかるだろう。
――それまで私は小五郎との『お話』をどのように運ぶか、それを考えなければならない……!
(相手は“人斬り小五郎”とまで言われた対人戦の猛者……これを綺麗に罠に嵌めるには……さて、どうしてくれようかな……!)
「……あの、レン軍師様? いつになく、その、お顔が、怖いのですが?」
「怖い? どこが?」
「怒ってませんか?」
「全然?」
「いえ、怒ってますよね?」
「まったく、これっぽっちも?」
「じゃぁなんでそんな凶悪な笑みを浮かべてるんですかぁああああ!?」
「やだなぁ……どうやって小五郎を策に嵌めて嬲り殺すかを考えているに決まっているじゃないか」
私の魔法ハ強力すギて使えナいしネ?
「レンさんちょっと控えめに言っても頭おかしいですよ!?」
「おかシくないヨ? 軍師として実に真っ当な考えだヨ? あア、手伝うカい?」
「――メディック! メディーック!! 軍師がご乱心、ご乱心んんん!!」
フぅん……李儒サんは、ちょッと、ウルさイ人だっタんだネ?
Extra二連続、というのも気が引けましたが、やりたいからやってしまいました。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




