Extra パジャマパーティ
初Extra!
今回は陰謀説メインです。
――戦争中とはいえ、ゲームはゲーム。そして時間は夜も夜。
キリヤちゃんやヘルフリート君のような年齢ならば成長ホルモンが出て発育に影響のあるような時間帯に差し掛かった。
こちらには大人も多少いるとはいえ、基本的には成長期の初心者も抱えた軍勢であるが故に、さすがにこれ移行の襲撃は明らかなマナー違反だ。というか、明らかな迷惑行為として非難される可能性すらある。
よって、この時間以降を狙い済ましたかのように襲撃することはまずないだろう。というか、襲撃されたらこちらはボロボロに崩れてしまうし、そうなったらさすがの私もあらぬ噂を流さざるを得ない。
条約こそ結んではいないけれども、相手の「常識的な」「節度ある」対応を期待することにして――
「本日は解散だ。お疲れ様、今日はよく頑張ってくれてとても嬉しいよ」
とだけ全軍に通達した。
「――なのにどうして君たちは寝ようとしないんだい?」
キリヤちゃんやヘルフリート君は未だ作戦司令室に居る。まぁ、閣下は成長期なんてとっくの昔に過ぎてしまっているし、そもそも第一種特例だから居ても居なくても変わりはないんだけれども……。
「いや、なんつーか……さ? 興奮して眠れねぇっていうか、夜はこれからじゃね?」
キリヤちゃんはまるで友達とお泊り会を開いた小学生みたいなことをいい出し――って、そのままその通りだったね。これはうっかりだ。
「俺様達はー! ここにー! 第一回パジャマパーティーの開催をー! ここに宣言――」
「しないでくれないかな?」
親からクレームが来て困ったことになった例があることを、ランディから聞いたというか……その原因になってしまってランディに申し訳ないことをしてしまった身としては、こういったことは非常に避けたいところだ。
「閣下も言ってやってくれないかな?」
「子供は元気が一番じゃと思う」
「閣下……!」
ダメだ。
閣下はまるで孫を見るような目をしている。
完全にダメだ。
「いいかい? 君たちは成長期だ。早くログアウトして、寝るんだ」
「「えー!?」」
「……ちなみに成長期に成長ホルモンが出ないと、男の子は背が大きくならないし、女の子は胸が大きく育たないよ?」
一番育ちやすいときに女性らしい身体への発育を促す女性ホルモンが出ていると胸が大きくなりやすいのは本当だ。
「大丈夫! オレ毎朝牛乳飲むし!」
「それ、迷信だからね?」
胸を揉むとか牛乳を飲むとかは医学的根拠のない迷信だ。
まぁ、好きな人に揉んでもらえば大きくなる、なんていう話もあるけれど……こちらはウソ半分本当半分と言ったところだと思う。女性ホルモンが胸を大きくするので、恋をして綺麗になりたいと思えば自然とホルモンが出てくるから、という理由付けができるからだね。
ちなみに妊娠や出産を経験してして胸が大きくなるのは、一時的にホルモンバランスが大きく崩れ、膨大な女性ホルモンが分泌されるからだと聞いたことがある。
――裏を返せば、成長期以降はホルモンバランスが崩れてしまわない限り胸が大きくなることはないし、ホルモンバランスが元に戻ればもちろんサイズダウンする。
要するに根本から胸を大きくしたいのであれば幼少期から規則正しい生活を送る必要があるのだ。もちろん、豊胸手術という手も無いでもないんだけれども。
「俺様の家はみんな背高いぜ? 従兄弟のねーちゃんなんてマジ巨人だし!」
「……隔世遺伝って知っているかい?」
背が高くなりやすい家系なのかもしれないけれども、なりやすいだけであって成長するかどうかは結局本人の成長ホルモン次第だ。
あとは運動だね、運動しないと成長ホルモンが分泌され辛い。これは「それ以上成長するのは無意味」と勝手に脳が決め付けるからだと思う。体格の良さというのはそのまま運動における有利さにも繋がるからね。
「……ねーちゃんってなんだかかーちゃんみたい」
「オレはオフクロ居ないからあんましよく分からねぇけど……普段からオレあんまりこんなに早い時間に寝ないぜ? 家事とかあるし」
「……キリヤちゃん、君は今すぐログアウトして寝るべきだ」
なんだか胸にくる話を聞いてしまったよ……。
「んー……じゃぁなんかお話してくれよ。オフクロ、てのはそういうもんだろ?」
「いや、だからね……」
「レンちゃんや、これはレンちゃんが人の心をもっておるかどうかの瀬戸際じゃぞ!?」
「どうして私が普段は人の心を持っていないような話になるんだい!? 私はまだこの世界での法を犯してはいないと言うのに!!」
「法律破ってないからって、やっていいこととわるいことってあるよな? ねーちゃん」
「つまりジンドウテキなドウトクってやつだな!」
「それでも私が非難される謂れはないよね!?」
「でも、お天道様に顔向けできないじゃろ?」
「つーか俺様、ねーちゃんに殺されかけたし」
「それ見てたし」
「国の宝を殺そうとは許されざるな!」
「くそ、何で分かってくれないんだ!」
「あ、そんなアタリマエの事より、俺様ちょうど聞きたい話がある!」
「いや、当たり前って……つまり私は普段からどう思われ――」
「冷血じゃね?」
「いや、キチクってヤツだぜ? だってねーちゃんだもの」
「いや、悪鬼羅刹じゃ!」
「……」
ひどい言われようだけれども、どうしてくれようか、本当に。
[to be next scene...]
「つーわけでササニシキコジロウ!」
「実においしそうな名前だね?」
そして実につまらないよ。
「ま、俺様の考えたテンサイテキなジョークだからな!」
……まぁ、テンサイ的ではあるね。局所的に寒波を招く、という意味でも。
「しかし、ふむ……佐々木小次郎であるか」
「ダメなのか?」
「いや、ダメと言うわけではないぞ! しかし、小次郎と聞くとなぜかあの小五郎のヤツめの顔がちらついてのぅ……!」
「まぁ、今は敵軍の将だしね」
「そして儂の街をめちゃくちゃにしよった下手人でもある……!」
まぁ、確かに手塩にかけて造ったと言っていたし、閣下自身もあの街を大切に思っているからこその感情なんだろうね。
「っていうか、佐々木小次郎って創作の存在なんじゃなかったっけ?」
「ばっ、キリヤてめーバカか! 宮本武蔵と戦ったんだぜ? 実在するに決まってるっての! な、ねーちゃん!」
「私は歴史の研究家じゃないから、断言できないんだけれども?」
「ねーちゃんなら断言しても大丈夫だって!」
「というか、私があまりよく知らない、という可能性は考えないのかい?」
「えっ? ねーちゃんにも知らないことあんの……?」
……普段から私はどういう目で見られているんだろう?
「さすがに知らないものは知らないよ?」
「じゃぁ佐々木小次郎は――!?」
「人並みには知ってるつもりだけど?」
「――やっぱ知らないことってないんじゃね?」
「いや、だから……さすがに私は専門家じゃないから知らないこともあるってことを理解して欲しいんだけれども?」
「その頭脳をもって、ぜひ儂にあの偉大なる大日本帝国がなぜ鬼畜米英に負けたかを詳しく教えてもらいたいものじゃな!」
「それについては物資、物量、人材、作戦、運、すべてにおいて負けていた。以上」
「じゃがカミカゼが――」
「その思想もダメだった、と」
「ぐぅ……!」
まぁ、戦争を左右するものなんて結局はそれまでの積み重ねだ。だから今必死に色々と積み重ねているわけなんだけれども……まぁ、今更って感じのものばかりなんだよね。今回のプロパガンダとか。
それはさておき。
「佐々木小次郎か……というか、なんで佐々木小次郎? だったら宮本武蔵のほうを聞きたがるような気がしないでもないんだけれども」
「いや、だってさ、ほら。俺様もそろそろ秘剣燕返しみたいなチョーかっこいい必殺技とか欲しいんだよね。だって勇者だし!」
「じゃぁ今回GMが使ったって証言のある秘剣『筋肉躍動す豪腕の刃』でも――」
「名前からしてアウトじゃね?」
「――だよね」
大体分かっていたよ、やっぱり名前は重要な要因だね。
「つーか、オレが聞いた話だとそれ、ただの突撃じゃねーか」
「そう言われると、ただの突撃がどれだけ恐ろしいかを実にじっくりと話したいところだよ」
中世においてランスを持った突撃専門の騎兵隊は「石造りの城壁をも突き破る」とまで言われるほどに強力な兵士であったんだけれども……まぁいいか。
「じゃぁ佐々木小次郎で、秘剣燕返し――だけどもまず最初に断っておきたいことがある」
「ん?」
「燕返しは他の流派に散見されるほどに、ありふれた技だよ? もちろん、流派ごとに名前こそ違うけど」
「「!?」」
実は宮本武蔵の二天一流にも似たような技がきっちり存在しているらしい。名前は虎口だったかな? 由来は、虎の口が閉じるようだから、だったような気がする。
「え、あの、秘剣じゃ……?」
「燕返しが秘剣たりうるのは、おそらく刀の長さなんだと思うんだよね。ともあれ、宮本武蔵と佐々木小次郎が生きた時代は天正十二年ごろから正保二年の、江戸初期頃だとされている。まぁ、ちょうど戦国時代も終わって仕事の無くなった侍達が仕官先を探すために誰も彼もが日本一だとか最強だとかと謳いながら遍歴していた時代だね」
「ぶらり日本縦断職探しの旅じゃな!」
そのいい方はみもふたもないのだけれども、おおむね間違っていないのだから腹立たしいところだね……!
「さて、佐々木小次郎なんだけれども。まず出生が怪しい」
「そりゃぁムメイからケンゴウになったオトコだしな!」
「……佐々木小次郎の生まれた日はよく分かってなくて、生年は天正もしくは永禄年間と言われている。ただ越前国宇坂庄浄教寺村、現在の福井県福井市浄教寺町で生まれた説。豊前国田川郡副田庄、現在の福岡県田川郡添田町の有力豪族佐々木氏のもとに生まれたという説がある。あとは、吉川英治の小説『宮本武蔵』で周防国岩国、現在の山口県岩国市の出身になっているね?」
「……なぁ、小説のほうはともかくとして、なんで本州と九州で正反対になってんの?」
「知らないよ。そもそも編纂した資料によってまちまちなんだし」
「どれか間違ってるって事か?」
「どうだろうね? 宮本武蔵の弟子が書いたものだったり、熊本藩の人が書いたものであったり……まぁ公文書的なものにも残っていて、とにかくそれらがズレていると覚えておけばいいよ」
「……佐々木小次郎は、実在するんだよね?」
ヘルフリート君が、とても、懇願するような目でこちらを見てくる。
まるでサンタクロースを信じている子供に、サンタクロースはいないなんて言っているような罪悪感さえ沸いてくるような……そんな複雑な気分になってしまう。
「大変困ったことに、専門家は信用できない資料である、と言っているね」
「そんな――!?」
「でもまぁ実際に『小次郎』という人物は実在していて、巌流という佐々木小次郎の剣術の流派を教えていた、という記述もあるから大丈夫だよ」
「マジかっ! すげぇな!」
「えー? 佐々木小次郎って創作じゃねーの?」
「……巌流島の決闘のイメージの元になった二天記の資料から言うと、佐々木小次郎は七十歳、対して宮本武蔵は二十九歳ごろになるね」
「ジジイ相手に無双とか大人げねーな宮本武蔵!?」
「え? あれ? 佐々木小次郎って確か十八ぐらいじゃなかったっけ……?」
「別の資料だとそうなるね。ちなみにさっきの資料だと姓ははっきりとしない。ただ、小次郎という人間と宮本武蔵が決闘した、という証拠にはなるんだけれども」
「何が正しいんだ!?」
「私が知るわけないじゃないか」
「レンちゃん! ウソはいかんぞ! ウソは!」
「私はウソをついたことがないことが自慢だよ!?」
代わりに本当の事も話さないけれどもね。
まぁ、その本当の事すらわからないのが佐々木小次郎なんだけれども。
「話を戻すけど……小次郎の姓が分かったのはまったく別の資料だ。そこで豪氏佐々木家の嫡男説が出るんだけれども」
「も?」
「津田姓の資料もあるんだよね、津田小次郎と名乗っている資料が」
「……ハハカタのセイってやつじゃね?」
「それだったらどれだけよかったことか……」
「えっ?」
「近世大名の織田信長の家系の出自を平氏とする説で、平家の子孫が近江津田庄に逃れ津田姓を称し、その末裔がのちに越前に移住し織田氏となったとされている。まぁ確証はないけれど……要するに織田信長の家系はその昔津田姓であって、そして津田姓の分家もちゃんと存在していて、さらに言うと織田家と津田家はとても深い仲にあった。その上越前は佐々木小次郎の出生地であるという説がある……ちょっと意味深な組み合わせに思えないかな? しかも天下は元織田家家臣の徳川家康が握っているわけで……」
「え? ちょ、ま……え? まさか……!」
「巌流島の決闘では宮本武蔵がトドメをささなかったという説がある。この後に武蔵の弟子が小次郎の事を助けた説もあるんだけれども、同時にその弟子達が息の根を止めたという説……そしてご推察のとおり、彼の家に再興されては困る派閥から、宮本武蔵をダシにして殺されたという陰謀説が存在しているんだよねぇ、面白いことに」
ちなみにいずれの場合も宮本武蔵はこれを機に決闘を行わなくなっている。
「なんでそんなヤバい説があんの!? 男同士の決闘ってヤツじゃなかったのかよ!!」
「陰謀説においては、そのような事に利用されてしまったことを悔やんで、以降決闘を行わないようになった、という話だね。武蔵は結局何も知らなかった。ただライバルとも言える彼が殺されて始めて、すべてを知ったというわけさ……ふふっ、ちょっとワクワクするよね。歴史のミステリーっていうのは」
「ワクワクしねーよ!?」
「まぁ実を言うと決闘の発端は弟子達が『自分の師匠のほうがすごい』という口論が発展していって、結局イヤイヤながらも戦わざるを得なかった、という説もあるんだけれど」
「なにそれ報われねぇ!?」
「でも逆にこう考えてみるとさらに陰謀説が膨らむよ? わざと口論した、ってね? ちなみに織田信長が死んだのは本能寺で、やったのは明智光秀――と知られているけれども、実際のところ徳川家が『このままでは天下を取れない!』と考え、本能寺の変よりも前に織田信長を暗殺したと言う説があるね。そしてひいては織田家が怖く、それの分家である津田家も怖かった、とか……まぁ、それほどまでに徳川家、いや徳川家康は織田信長が怖かった、とも言える。ちなみに明智光秀がやったという理由は兵を蜂起して本能寺へ向かったからと言われているけれども……実はただ『僕の兵を見てください!』という理由だった、という説も合わせて紹介しておこうか」
「もっと報われねぇよ!?」
「お、俺様……もう、何を信じていいのか……わか、わからな……!」
「死ぬなー! ヘイルフリィートォ! 儂が、儂がついておるぞぉおおおおお!?」
「いや、俺、ヘルフリート……」
閣下の横文字の言い間違いは今に始まったことじゃないけれども、まぁそうやって突っ込み返せるならまだまだいけるね。
というか、この程度のことで人間は死なない。精神的に死ぬという意味でなら死ぬかもしれないけれども、生命活動が止まるわけじゃないから大丈夫だね。
「ちなみにそのせいなのか、宮本武蔵は佐々木小次郎の名前を知らなかったという説があって、実際に彼の墓標には小次郎の雅号である『岸流』と記されている」
「ひどっ!? ってか雅号ってなに?」
「まぁ今となってはいわゆる一つのペンネームみたいなものさ、俳句のね? でも当時は技術段階によって雅号を改める、というのもあったから、階級を表しているものとも言える」
そして小次郎は巖流という流派の当主であり、実際に弟子がいたという記述もあることから、岸流とは巖流の最高位の号である可能性が高い。ということを付け加えておく。
「ちなみに実際に弟子がいた『小次郎』の方はおおよそにして宮本武蔵と同じ年齢になる。十八歳説は一体どこからきたのやら……と言いたいところだけれども、まぁ創作の一つに『佐々木小次郎は二人居た』というものや『佐々木小次郎は襲名するものであった』という面白い解釈があってね? たぶんそこあたりからなのかもしれない。私個人としては襲名説を推したいね」
「え? なんで?」
「だって佐々木小次郎には姓も名もあるけれども、諱も諡もないからだね」
「いみな?」
「おくりな?」
「なんじゃそれ?」
「戸籍制度が導入されてからは廃れたんだけれども……諱は忌み名、もしくは真名と呼ばれている。親や主君などのみに許され、それ以外の人間が諱で呼びかけることは極めて無礼であると考えられていた名前のことだね。朝廷との関係における公式名でもある。例を挙げると、紫式部。これは完全に諱だ」
まぁ紫式部はそのせいで本名不明なのだけれど。
「本当に豪族佐々木氏の関係であるなら、朝廷とも多少なり関係があってもおかしくないし、だったら諱がないとおかしい話だ。まぁ、諱の代わりに号を使う事もあったから、岸流がそれに当たるといえばそれまでなんだけれども……」
ただし、歴史的に見て諱の代わりに号を使っても良い時期であったかどうかまでは少し怪しいし、私も詳しくないのでよく分からない。
「で、諡は生前の事績への評価に基づく名のことで『贈り名』から来ている」
「えっと、つまり?」
「なんとか居士とかいうアレじゃな?」
「アレは違うものなんだけれども……まぁ、実のところ諡って天皇様とかが崩御なされたときに使うものであって、ただの豪族程度なら無くても構わないんだよね」
「「おいっ!」」
「まぁともかく、名前を複数持っているというのは一種のステータスというか、そういう風潮があったのも間違いないと思うよ? 宮本武蔵も、宮本姓と新免姓両方を使っているから、佐々木小次郎も佐々木姓と津田姓どちらも使っていたとすれば違和感がない。そもそも宮本武蔵は新免武蔵守藤原玄信、新免玄信、宮本二天という複数の名前を使っていたのだから何の問題もないね」
「名前多すぎだろう!?」
「何度も言うけど、親しくないのに本名を呼ぶのは失礼、という風潮もあったようだからね。そう考えていくと小次郎という名前も本当に小次郎という名前なのかどうかすら怪しくなってきて……」
「もうやめてくれ! ヘルフリートのライフがゼロだ!」
「生命活動が停止していなければ大丈夫さ」
「鬼じゃ! 鬼の子がおる!」
なんか、さっきから失礼だなぁ……。
[to be next scene...]
「まぁ佐々木小次郎はどうだか知らないけれども、小次郎という人物と巖流という剣術は実在した、というのは確か。というのが結論だね」
「すっげぇ遠回りした気分……!」
「ってーか、秘剣は? 燕返しは? アレってやっぱありふれた技なの?」
復活したヘルフリート君からの質問で思い出したけれど、そういえばこれ、秘剣燕返しについての話がメインだったね?
「ああ、あれが秘剣足りうるのは物干し竿とまで呼ばれる長太刀であったから、だと思うんだよね。私個人としては」
「んん? なんでだ?」
「文献次第だけれども、物干し竿は三尺余りの白刃……つまり全長じゃなくて刃渡りだけで約一メートル近い。コレを地面と水平に構えた時の手首に掛かる力は約三十キロと言われていて、それを振り下ろしてすぐさま斬り上げるとなれば、当然ながらそれ以上の負担がかかることになるよね?」
「……えっと、つまりは手首の力が異様に強かったって事か?」
「もしくは、ほとんど負担をかけずにその技を使えるような、そういった秘伝があったか、だね。もしもそういう秘伝を使った技であったのであれば、まさしく秘剣と呼ぶにふさわしいだろうさ」
ただものすごく気になるのは、佐々木小次郎の興した巖流という流派の元になったものは中条流という小太刀の流派であるという説がある。となれば、一体どこで長太刀を覚えたんだろう?
ある小説においては、高弟たちによるイジメから発展したとされている。通常の長さを持った日本刀を相手にする際の動きを学ぶため、まだまだ幼少であった小次郎に長い木刀を持たせて散々打ち据えていた……まぁつまるところ、弱い相手に高弟らが粋がって日常的に私刑を行っていた、というものだ。
もちろん幼い小次郎にとっては普通サイズの日本刀も物干し竿サイズになってしまうから、ある意味では筋が通っている。
「ちなみに当時の成人した日本人の平均身長は五尺前後――大体百五十センチだね。百六十もあれば体格がいいと言われている」
「そんな身体でクソ重いもん自由に振り回せてたら確かに秘剣とか言われてそうだな……」
「ただ」
「……おい、もうやめてくれ!」
ヘルフリート くん の こんがん!
しかし わたし には こうか が なかった!
「宮本武蔵の身長は六尺豊か……つまり当時の平均身長を三十センチ以上もオーバーする、百八十センチ台。プロレスだと身長と体重に一定以上の差があると絶対に勝てない、という法則があるけれど、宮本武蔵の戦績から言えば当てはまっていると言えなくもないかな。まぁ戦った相手の身長は確かによく知らないけれども、当時に百八十センチ台の人間がそうそういるとは思えないしね」
「なんつーか、みもふたもねぇえええ……でもそれって関係ないよな?」
「いや、関係あるんだよ。実のところ巌流島での決闘の浮世絵がこの世には存在していてね? それを見るとおおよそ宮元武蔵と同じ身長をしているから、佐々木小次郎にとっては当時の日本刀の刃渡りじゃぁちょっとばかり短くて使いづらかったのでは? という見方もできるわけで」
「もうやめてくれええええええ!?」
「秘剣燕返しはつまるところ単なる力技の可能性も否定できないから、やっぱりパイソンGMの編み出した秘剣『筋肉躍動す豪腕の刃』と一体どんな差があるのやら、と思うんだ」
「――神は死んだ!」
「仏になるよ、やったねヘルフリート君」
死ねばみな仏様。
うん、昔の人は言い事を言ったね。
「救いがねぇよ!?」
「仏様なら一切衆生を救ってくれるさ。五十六億七千万年後だけれども」
ただし、私の言っていることは半ばこじつけだし、五十六億七千万年後に救うのは弥勒菩薩だ。一応仏様の一柱だけど。
「まぁ三日後ぐらいに復活するかもしれない仏様だけどね」
それは大工の息子だ! という突っ込みを期待していたんだけれども……うーん、分かりづらかったかな?
「……俺様、もう、寝る」
「うん、それがいいと思うよ」
そういえば、バキバキに夢を壊された少年の見る夢は、はたして悪夢になるのかな?
――明日の朝にでも聞いてみよう。
「ねーちゃん」
「ん。なんだい?」
「この鬼っ」
「最後の最後で酷くないかい!?」
ちなみにこれはあくまでも「一説」であり、なおかつ「レンちゃんの考え」も入ったものであり実在の人物、団体、場所などとはまったく関係がない可能性もあります。
……ちなみに巌流島の決闘は「仇討ち」説や「佐々木小次郎とは仇討ちのための偽名」説、さらには「武蔵ではなく小次郎のほうが遅れてきた」説などなどなど……本当に諸説存在します。
なのでこれが正史であると主張するものではございません。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




