第78話 瀕死vs混乱
≪ファイアーボール≫の詠唱、からの≪ファイアアロー≫、さらに≪フレイムボール≫を唱える――レベル差による発動ラグと、ボール系とアロー系の弾速度ラグを利用しての速射テクニック。俗称三点バースト。
俺の敗戦暦から生まれた既死感が、これを大きく避けるようにと警告する。
――連続でくるぞ、と。
俺は筋肉を躍動させて、細かく足首だけで跳ね飛び避ける。
「パイソンGMがっ!?」
俺ほどのマッシヴな漢が全力で回避行動を行ったら、遥か彼方へと飛んでいって、墜死しまうからだ。
「避けたっ!?」
詠唱しているヤツの影で、≪詠唱無視≫スキルを持つプレイヤーの三点バーストが、俺の回避予測地点を通り過ぎる。
――俺はこの作戦で、三度殺された事がある。
「なんてヤツだ……いつものパイソンGMじゃねぇ!」
「いつもの俺だよっ! 失礼だなお前ら!!」
――まぁ、実のところ、着地したときにいくばくかHPが持っていかれた。それでも直撃よりはマシだ。
それよりも問題はスタミナのほうになる。
封印されし筋力上昇アーツ、≪パンプアップ≫。
その効果は絶大で、発動中はあらゆる行動でスタミナ消費が発生する事以外は完璧だ。
例えばポーションで回復しようとしても消費量のほうが大きくなるか効果時間内に飲めないから無意味だとかそういう点に目をつぶってさえしまえば完璧だ。
まぁ目をつぶったり顔をそらすだけでもスタミナを消費するもんから、そういった現実から目を背けられないスキルでもあるっていうのは皮肉な話だな!
いや、他のスキルとの兼ね合いや当時のテスターからの意見を考慮した結果、そう設定せざるをえなかった不運なスキルなんだが。
……もうすこしテコ入れしてもいいのよ? 上司様。
「つーかお前らは勘違いしすぎだ! 俺がちょっと本気になったら軽くラスボス並だぞ!?」
『このゲームってラスボス居るんですか?』
「いないだろ」
「いないけどな!」
特定クエストにおけるラスボス的な魔物は存在するが、今のところゲーム共通の魔物は存在していないから、まぁ単なる比喩以外のなにものでもないな。
しかし見事にチャットとの会話がかみ合ったな。聞こえないはずなのに……こういう偶然ってなんとなく面白いよな!
――それはさておき、スタミナチャージもそろそろちょうどいい頃か。
「さて、残り十秒ぐらいだが……」
多少GMとして大人げなさすぎると思われても仕方がないことではあるが、
「俺の輝かしい勝利のため、その十秒、付き合ってもらうぞ?」
ただ、今の俺の十秒間は――死ぬほど長いがな。
[to be next scene Side Len...]
「うーん……」
もう彼一人でいいんじゃないかなぁ? なんて思ってしまったけれど、結局そんなことは無かった。
「パイソンGMっていつもこんな風に、その……なんだ……端的に言って……バカなのかな?」
街の城壁の外から、死体の検分のために運び込んだパイソンGMの死体を見ながら呟く。
「バカには違いないの」
作戦会議室から久しぶりに――とは言っても、何日も篭っていたわけじゃないんだけれど――北門のところに運び込まれてきたパイソンGMは既に事切れていた。
どういうわけなのか、本人はとても良い表情をしている。
まるで、一つの事を成し遂げ終わったかのような――
「――死亡時どうなっていたか分かるかい?」
実に複雑怪奇だ。外傷がないのも気になる。もしかしたら私の知らない方法で、暗殺されてしまった可能性すらある……北門の射手長に聞いてみた。
「戦闘が始まって五秒もたたないうちにいきなり『これで俺の勝利だ!』とか言って……その後すぐに必殺なんとかブロウとか叫んで……気がついたら交信不能。その後は指示を仰いで――」
「ついさっきのことだから記憶に新しいね。確かに確認するための斥候を出すよう命令した」
けれども、なんというか、その交信不能になる前のセリフを聞く限りでは――
「まぁ、その指示通りに斥候をやったら……死屍累々とした場所にただ一人、仁王立ちしていたそうです」
――この人は武蔵坊弁慶か何かなのかな?
なんで源九朗義経を逃がすために立ち往生した彼のような、そんなかっこいい死に方をしているんだろう?
というか、なんというか……バカだ、としか頭に浮かんでこないよ。
「で、何で死んだんですか? 俺、生きて帰ってくるほうに結構な額かけていたんで、ちゃんとした説明が欲しいんですけど」
「……それはおそらく、反射ダメージだよ。殴ったら自分も痛いだろう? それと同じで、ゲーム的にはHPにダメージが入るんだ」
そういえば、渡した鎧を着ていない。
確か前にランディが、筋力が高いとこうなることもあるようなことを言っていたから、おそらく彼に渡したあの鎧はもう……そして最後の言葉から察するに、死因は――
「その必殺ブロウとやらの反射ダメージで、HPが一気に消し飛んだんだろうね」
そういえば彼は、最大筋力は百三十七レベルだとか言っていたハズだ。
おそらくはそれだけの負荷が腕にかかり、ゲーム的な処理のせいで一気にHPが消し飛んだ。
彼がよく熟知しているであろうゲーム的処理というものが、GMという立場上それを飼いならしているはずのものが、今回とうとう牙を剥いたというわけだ――けどコレはないと思う。
「……自滅ですか?」
「ああ、自滅……じゃな」
「そう、自滅だ」
外傷らしい外傷もなく、ただ満足げな表情を浮かべたまま死んでいる。
……勝ちたいとか言っておきながら相打ちで満足するってどうなんだろうね? いや、もしかしたら反射ダメージが適用されるのが極端に遅いだけなのかもしれないし、もしくは私達には知りようのない誇りかなにかを守り通したのかもしれないけれども。
――多分、アリスとランディのせいでまた会うことになるだろうから、その時に聞いてみるのもいいのかもしれない。
「とりあえず装備を剥ごう。せっかくの金属鎧をおしゃかにされてしまったし」
まぁ金属鎧と言っても、誰でも着れるで有名なベルト調整式のフリーサイズ版だったんだけど。
それでも、高いものは高いのだ。なにしろパーツ点数が多い。一パーツ千ゴールド均で売るようなNPCの防具屋で全部そろえようとすると、結果的にとんでもなく高価な装備になってしまうのだし。
「あ、儂魔剣が欲しい。どうせ使えないもんじゃろうが、えーぴーしーの店を相手にするならどんな魔剣も売ればそれなりの金になるからの」
「まぁ閣下は国庫がかかってるからね……」
なんというか、世知辛いなぁ。資本主義ゲームって。
「……あ、ちなみに賭けは?」
「十分以内に死んだからね。君はたしか、生存に賭けていただろう?」
しかし記録的に言うと「ぶっちゃけ五分も経ってない」のだから凄まじいね。実際に彼が本気で戦ったのであれば、おそらくは最強と名乗ってもいいかもしれない。
――まぁ、こんな基本的かつバカな死に方をしなければ、の枕詞がつくのだけれども。
しかし、実に驚異的な戦闘能力。そして殲滅力だよ、君の編み出した必殺技というのを生で見てみたかったね。そしてできるなら、死ぬなら敵を殲滅してからにして欲しかった。
本当に、もうちょっと賢ければ「もう彼一人で十分じゃないかな?」と思えるような実力だったのに……惜しいなぁ、本当に。
「まぁ、結果は見ての通り、十分以内に死亡。倍率は一.一倍。配当金の計算が終わり次第呼ぶよ」
「クソっ! やっぱり大穴は所詮大穴ってやつか!」
「よっし! 儲けた! さすが儂!」
「やっぱ配当金低くても安牌に賭けときゃいいよなー。いやー、悪いなヘルフリート、オレらだけ儲けさせてもらって」
「くっそ! GMだから十分は持つと信じてたのによ!」
信じる相手を間違えた、としか言いようがないね。
私を含めた作戦会議室四人の中で、この賭けに負けたのはヘルフリート君ただ一人だからなおさら悔しいのかもしれないけれど……やっぱりこういうものは時の運も絡んでくるのだ。
「私も大変儲かったよ。十分以内に死ぬのはさすがに無いかもしれないなんて思っていたけれども……蓋を開けてみれば下馬評どおりだね」
しかも胴元も兼任させてもらったしね……フフッ、結局はどう転んでも私は必ず儲かる仕組みなのは、キリヤちゃんやヘルフリート君はもとより、閣下にも黙っておこう。
「ちなみにレンちゃんや?」
そんな事を考えていたら、
「帝都への寄付はいつでも大歓迎じゃぞ?」
閣下が私の肩に、優しく手を置いてきた。
「……私の財政を遠い将来の方まで深謀深慮沈思黙考した上で、前向きによく考察し推察し調査し精査し検討し、国債購入や政治活動、増税賛成運動をも視野に入れた上で、できうる限り善処する方向で動くことにしようじゃないか」
「どんだけ払いたくねーんだよ、つーかどこの政治家だよねーちゃん」
「ムズカシイ言葉でケムにマク、キタナイオトナってやつか……やるな! ねーちゃん!」
「や、それは人としてどうじゃろう?」
周囲の非難の目が、とても、痛い。
「……しょ、しょうがないじゃないか! そもそも私、今働いてないんだから!」
働こうとしたら「火力過多だ!」とか「軍師は動くな!」とかみんなから言われて働けないし!
「増え続けるニートってヤツか! やべぇなねーちゃん!」
「……労働は、国民の義務じゃよ?」
「働こうよ、ねーちゃん……オレだって働いてるんだから」
きりや ちゃん の こうげき!
かいしん の いちげき!
わたしの HPは ぜろ に なった!
[to be next scene Side Ri-ju...]
「……すみません。もう一度、お願いできますか?」
その法国には、耳を疑うしかありませんでした。
「私には、その報告はどう聞いても……あのパイソンGMが十人規模のベテランプレイヤー達に勝利して、街を守ったようにしか、聞こえないのですが?」
「いえ、その……なにぶん、報告の通りなんですが……?」
「――そんなバカなことがありますかっ!」
本来ならば小五郎の仕事である斥候部隊のまとめ役をまかせた、この――名前もよく分からない方ですけど――誠実かつ堅実そうな山田太郎さん(仮)の話に、私は思わず怒鳴り声を上げてしまいました。
「パイソンGMといえば、あのパイソンGMですよ!?」
気がついたら死んでいるほどに弱いくせして対人戦好きのGMであり、彼とよくセットで仕事をしているジルコニアGMをして「私達の中でも最弱の男、GMの面汚しよ」とまで言わしめるあのパイソンGMが……十人を相手にして、勝利した!?
「ああ、ドッキリですか? それなら結構ですよ、ノーセンキューです。いやぁそんな余裕があるとは今の斥候部隊は実に頼りがいがありますね!?」
「いえ、あの、その……なにぶん、報告をまとめると、そのようにしか……」
「伝言ゲームじゃあるまいし、なんでそんなありえない話になるんですか!?」
ありえない、と言う言葉しか頭に浮かんできません。
「だって、十人ですよ!? たった一人で十人を退けるなんて、そんなプレイヤーは……居ますけど! 確かにゴロゴロいたりしますけれども!?」
あの≪PK≫スキルフルスロットでも対人戦でほぼ負け無しとまで言われ、対人特化型人型兵器とまで言わしめる小五郎を差し置いてその戦力差で勝つプレイヤーなんて――確かに居るには居ますが!
「あのパイソンGMがその中の一人だとか笑えない冗談にも程がありませんか!?」
「そう、なんです、が……!」
分かっています。
分かっていますよ!
GMの事についてもよく知るベテランであり、なおかつ誠実そうなあなたがそんなに報告しづらそうな顔をして、そんな冗談めいたことを言うのはつまり――本当だということが。
「落ち着け、李儒」
「――何をおっしゃるガランティーヌさん、私のどこが慌てていると?」
「手ぇプルプル言わせてるじゃねぇか。お茶こぼすぞ、書類の上とかに」
「ムチャ震いというやつです。お茶だけに。できれば飲茶でやりたかったジョークですが」
「普段ジョークも言わないようなお前が冗談言うとかホント重症だな!?」
ええ重症といえば重症です。
だって十人ですよ?
あの<ロブスター>らほどの人数を失ったこちらの総数から言えば、それなりの戦力を失ったことに等しいんですよ?
ヘタをすると寝返っているかもしれない<ロブスター>の存在まで考え始めたら、少しずつ戦力が同等になってきているところです。
「と、とりあえず状況を整理しよ? だってあっちにはおねえちゃんいるから、きっとパイソンGMをなにか見えない形で支援していたのかもしれないしさ!」
「なるほど、それです!」
思わずアリスさんの意見に賛同してしまいます。
「とりあえず下がってください。ひとまずはこれを正しい報告として仮定し、緊急で作戦会議を行いますので」
「え……あ、はい」
「ああ、それと取り乱してしまいすみませんでした。暴言の数々、申し訳ありません」
それと、名前を覚えていなくてすみません。
こちらはさすがに口に出せませんので、心の中で謝っておくことにします。
「いえ、そんな……私も信じがたいことでしたので……では、失礼しました」
そう言って、山田太郎さん(仮)が部屋を後にしました。
「――さて、向こうはGMを擁している、という判断は間違いありませんでしたが」
「戦闘力が……桁違いであるな……!」
「こういうときに小五郎がいれば何か思いつきそうなものなんだけど……」
「私の采配ミスですね」
小五郎は今、敵軍の補給部隊を叩いて回る騎兵部隊を運用しているため、この場には居ません。
多少手札を切っても、ここはダーククロウさんの空挺部隊による機動力を出しておくべきでした。それなら、こういった事態が起きてもすぐさま戻ってこれる可能性が高いのですから。
「そこはひとまず置いておくべき問題であるな」
「そうですね……まずはあのGMが勝利を収めた事実は本当なのでしょうか?」
「まー確かに、アレが勝つ姿ってロボフェチに彼女ができるぐらいに想像できないことだよねー」
私はあまり面識がないのでよく分かりませんが……アスールさんは、ありえない、と言いたいということだけは理解できました。
「とりあえず報告は全部事実だと仮定しよう」
「ランディさんや? そりゃーありえなくないんじゃないですかねー?」
「……お前それ何キャラだよ、アスール」
「え? 老人キャラ」
「ジョークは結構ですよ……で、本当であると仮定する理由は?」
「疑う理由がないから」
「ふむ……まぁ、身内の斥候すら疑ってしまってはきりがない話ではあるな」
「納得しました」
さすがは私の尊敬する、権謀術数で大量虐殺を行ったあの「史上最悪の料理人」ですね。ことここにおいて冷静さを一切失っていません。
「ガランティーヌさん」
「なんだ?」
「今後陳宮と呼ばせていただいても構いませんか?」
「誰それ!?」
「三国志では曹操の軍師として働き、後に呂布に着いた人ですね」
そういえばこの人謀反しているんですよね、曹操に対して。
そうして最後は曹操に処刑されてしまうのですが――
「――あ、やっぱり無しでお願いします」
裏切られたら敵いません。縁起が悪いにも程がありますね。
「俺も訳のわからん名前で呼ばれるのは願い下げだよ、まったく……」
「まぁ、それはさておき」
「実際にGMが勝ったとして……おねえちゃんがどんなトリックを使ったか、だね?」
「ええ、実に不可解です」
最初に一撃奇襲を仕掛け、そのまま交戦。
瞬間移動とも見まごうほどの速度で首を切り落としていき――最後の一人は拳で、金属鎧に身を包んだ戦士を、鎧ごとぶち抜いたとのこと。
「会戦時に鎧が弾けとんだところから、おそらくはいつもの如く≪筋力≫スキルを入れていたのではないだろうか、と推察できますね」
「全部筋肉関係でもおかしくないよねー、あのGM」
「たまーに、全部≪ソード≫スキルで埋めてるときもあるけどな」
「ということは、可能性としては≪ソード≫≪筋力≫? あと入れておかないと首切れないから≪PK≫ってところ?」
「≪ソード≫スキルを入れているかどうかは分からぬが……≪筋力≫と≪PK≫は必ず入れておろうな。そも、ヤツは筋肉に対して異様な執着を見せている」
「それだけでなく、鎧もはじけ飛ぶようなスキルといったら……ってところか」
「で、あるな」
「筋は通ってますね」
スキル構成が分かれば対応策もあります。ガチガチの近接職であるなら、接近させないように一方的に射殺してしまえばいいのですから。
「――で、肝心の話なんだけどさー?」
「なんでしょうか? アスールさん」
「その構成で本当に勝てると思う? あのパイソンGMが」
「……難しいのではないでしょうか?」
実際に戦ったプレイヤーからの連絡はありませんでした。そもそも、連絡する時間すら与えられなかったとも言えます。実際の戦闘時間にして、一分も使ったかどうかという凄まじい殲滅力だったそうですから。
ただし、それがあのパイソンGMに行えるか、と問われれば疑問符をつけざるを得ないような……普段からそういった戦績であることは間違いありません。
「一応、最古参であるアリスさんの意見を伺いたいのですが?」
「昔から負けてるところしか見たことがないからわかんない!」
「そうですか……」
となるとやはり、何らかの支援があったと考えるべきでしょうか?
「そうだ、≪変装≫をした別人の可能性はどうであろう?」
「油断は誘えますね」
ですがその中身が、ベテランを簡単にあしらえるほどに強いプレイヤーであるかどうか……というか、そういった人材が居るかどうか怪しいところです。
「……スキル構成の目星はつきましたので、もう要注意、という程度で置いておきましょう」
これ以上は不毛でしかありません。
それに、魔法による遠距離攻撃を持っていたとしても、それでも弓や銃には射程で敵いません。特に銃なんかは、弾速の関係でほぼ回避不能ですし。
「とりあえず、出てきた場合はアリスさんが」
「オッケー、チンすればいいんだね?」
「ええ、まさしくその通りです。念のため銃兵らの指揮をお任せします」
「なーんか、周りがどんどん部下持っていくのにアタシとガランさんだけボッチっぽいんですけどー?」
「兵らを有効に活用できる指揮能力があれば、今すぐにでも」
「あー……じゃ、アタシパース。面倒だし?」
アスールさんは指揮するタイプというよりは、指揮されて始めてその能力を開花させるタイプのような感じがしますし、彼女の判断は決して間違ってはいません。
――ただ、面倒だからと言う理由だけはいただけませんが。
「ガランティーヌさんはいかがなさいますか? 指揮能力も十分にあるかと」
「一人のほうが気楽。俺人見知りするタイプだし」
「そうですか」
まぁ分かりきってはいました。
人見知りするタイプとは言っていますが、彼の勇名は世間一般では汚名ですし……下に着きたくないと考える方も大勢いるでしょう。
「じゃぁアタシが部下とかDo die!」
「微妙に英語っぽい発音すんな、なんか死ぬようなイメージしか湧いてこねぇよ、それ」
「ドゥは行うやするという意味、ダイは死ぬという意味であるからして、ならばこれは『あなたのために死にます』と言っているようなものだと考えられると思うのであるが……」
「おお、まさにアタシの――」
「愛が重すぎるわっ! ヒく!」
「――思ったことと違うねー! うん! それ、ないわー!」
ガランティーヌさんはあえて気付いていないのでしょうね。
まぁ、相手はいくら発育がよくても中学生です。そう、中学生ですので、たとえゲームだとしても手を出してはなりません。
実に常識的な方ですね、さすが私の尊敬する人、素敵です。
「まぁ、それはさておき……」
「小五郎の定時連絡だっけ? おっそいよねー。これだから人の話を利かない人って嫌いだわー、アタシ」
「お前も大概だけどな」
「ああん、ガランさんひどぅい!」
「だが朋友はドSであるからして、平常運転であるな」
「てめぇ俺をなんだと思ってやがる」
「そーだそーだ、ガランさんディスってんじゃねーよ、ちょっと黙れよ中二ー」
あからさまなガランティーヌさん贔屓のこのコントも慣れてきてしまいましたね。いい事なのか悪いことなのかはさて置いて……、
「確かに、遅いですね」
こと戦闘に関わることならばマメな性格になる彼が、こうも遅れている、というのはいささか疑問です。
「――死んだ、とか?」
アリスさんの言葉に、一瞬、この場の空気が凍りつきました。
「いや、まさか、そんな」
「死んでも死なないタイプってゆーのかな? アレってそーいうヤツだと思うなー?」
「で、あるな! ヤツは漫画で例えるなら死んだと思っていたら次の話で実は生きていたというオチをつけてくれるような生き汚いやつである!」
「ま、コールしてみりゃ一発だろ」
実に冷静に判断し、ガランティーヌさんは時計を取り出しました。
「――」
誰もが、思わず息を飲んでしまいます。
なぜって?
ついさきほど、パイソンGMが勝ったからです。
「……」
故に、ありえないことがまた起こってしまうのではないか――そんな不安すらよぎり、
「あ、小五郎か?」
ガランティーヌさんのその一言に、一同、思わずため息がもれてしまうほどに安堵してしまいました。
「お前いつまで定時連絡遅れて……は? 自称正体不明の山賊に襲われてる途中?」
その報告はあまりにも、そう、小五郎にしてはあまりにもお粗末なウソのように聞こえて――
「――やられました!」
思い当たる事情に、私は思わず頭を抱えてしまいました。
「あの女……情報戦を仕掛けてくれやがりました!」
「は? 情報戦?」
「ええそうです!」
なんとも鮮やかな一手でしょう。
「あの女……自分達が初心者で寡兵であることをいいことに、初心者支援ギルドあたりを扇動してこちらと敵対させるつもりです!」
手も足も出ないのであれば、口を出すまでだ、とでも言いたいのでしょうね!
「というか、本当に、ここまでするでしょうか!?」
「あー……やるな、あいつなら、確実に。ルール無用だとか知った日には、そりゃもう盛大にプロパガンタ祭りとかやらかすな、絶対に。なにせ味方に魔法をうった前科持ちだしな……」
「というか相手が『正体不明の山賊』と自称した時点でもう手を組んでいると公言しているようなものじゃないですか!!」
それはまぁ、確かに、寡兵で勝つならどこかと同盟を結んでしまうのが一番手っ取り早い戦力増強の方法ですが――まさかここまであからさまにやってくるとは誰が想像したでしょう!?
確かにちまちました山賊襲撃はままあることですけど! だれが堂々と襲撃させると思いますか!!
「……あ、小五郎? すっげぇ全力で戦ってるところ悪いけど……っていうかお前余裕あんなー? 相手何人ぐらい?」
「ガランティーヌさんも大概余裕ありますよね!?」
「いや、周りが慌ててるから逆に冷静になってるだけで――え? 二十人? マジで? お前やっぱバケモンだわ、軍曹の次ぐらいに」
「ガランさん冷静すぎー!?」
「ごめんねー!? うちのバカどっかズレてて! しかもお姉ちゃんってば意外と鬼畜なのよー!?」
「軍師とは正気にしてならず……であるか……!」
「いやもうさー、軍師のこと暗殺しちゃわない? 絶対ソッチのほうが楽だって」
「あ、小五郎? とりあえず退却。正体不明の山賊ってぜってぇ初心者支援ギルドかその関係者だから。アイツ人の情とか余裕で利用する鬼畜だし」
「ガランティーヌさんなにを勝手に――っていうかもうそれが最善手でしたねすみません!」
今日は、もう、なにが、なにやら。
私の頭は、パンク寸前です。
「善意の第三者」というやつは怖いですね? 法律上だと「事情を知らない人」となるんですが……。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




