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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
初心者脱却編
77/97

第75話 諸葛レンのAB[C]

「さて」

 私は作成されている地雷――もちろん、起爆用の火種は取り外してある――をぽんぽんと叩いて、喉の調子を確かめるように一言告げた。

「私が作ったこの地雷は、実はただの地雷じゃないんだ」

「「うん、知ってた」」

 この作戦会議室に呼んだヘルフリート君とキリヤちゃんが、同じタイミングで同じ言葉を重ねる。

 まぁ、当然だよね。作ったのは彼ら二人を筆頭にしたプレイヤー数十名なんだから。

「あの鬼畜ねーちゃんがただの地雷とかおかしいしな!」

「つーか俺様たち全員、違和感ありまくりだったもんな!」

「そうだろうね」

 なにせ、地雷じゃ絶対に使わない材料が含まれているんだもの。

「まず地雷とはなんんぞや、と問われれば……殺傷能力は低くとも効率的な兵器とも言えるね」

 殺傷能力が低い、といっても危険でないわけじゃない。

「種類にもよるけれども、基本的には足、うまくいけば腕まで負傷させる“だけ”の兵器だ」

 ほかにも、正式名称はよく分からないけれども「飛び上がり地雷」という、空中で強力な閃光を発しながら爆発するものを射出して失明させるためのもの。

 キワモノでいうなら、旧日本軍の使用した対戦車用刺突爆雷という、ラバーカップのような形状をしたもの。これは地雷を踏んでも効果の少ない戦車に対し、人力で戦車にぶつけて爆発させるという発想のもと作られた特攻兵器だ。

今回(コレ)はその中でも、飛び上がり地雷を参考にしたもので、そうだね……便宜上、吹き上がり地雷、とでも名付けようかな」

「吹き上がり地雷、とな?」

「そう。まぁ純粋に即死級の毒でもばら撒くのが一番なんだけれども」

「さらっと恐ろしい事を言うのう……」

「いや、ゲームの仕様上即死させないとすぐに回復してくるから、そもそも地雷は使えないんだよ」

 HPを回復させる≪ヒール≫やポーション、薬草の存在。そして部位欠損を治す≪エクセルヒール≫の存在。

 地雷が使えないのは基本的にこの四つのせいだ。

 本来は足をやられて動けない兵士を健康な兵士が後方へと運んでいくから効果的に敵戦力を削ることができる、というのが地雷だ。

 それを最前線で治療できる、ともなれば即死クラスの爆薬を使うしかない。けれども主力になりうる銃器があるせいで火薬も節約しなきゃならない。

 となれば毒の霧を噴出すように作ればいい――なんて安直に考えてはダメだ。今度は毒みたいな状態異常を回復させる≪キュア≫という魔法が存在する。

 そもそも、毒の霧なんてどうやって作ればいいのか皆目検討がつかない。

 いくら推理小説を読んだことがあると言っても、それの知識は実に脚色されていて使い物にならない。

 例えばクロロホルム。実際にこん睡状態になるのには五分から十分かかる。ハンカチを使い一瞬でこん睡状態にするには、本当にびしょびしょにする必要があるし、もちろん揮発性が高いから自分も危ない。ついでにいうと、触れた部分が爛れる可能性があるし、大気中では毒ガスが発生してさらに危険だ。

 同じく青酸カリも即死しない。というか青酸カリ自体には毒性はない、酸性のものと組み合わさることによって、青酸ガスになった瞬間に毒性が発生するんだ。だからよく「アーモンド臭がする、青酸カリだ!」の判別は、同時に自分も毒ガスを吸い込んでいることになる。人間の場合の致死量は体重にもよるけれど約六十グラムだ。

 ついでに言うと、その青酸ガスによって十数時間苦しんだ上で死亡した事例だってあるからまさに即死する毒じゃない……手に入れるのは簡単なんだけれどね?

 あとはヒ素。容易に手に入るけれども気化させる方法を知らないし、もちろん即死するほどの毒素じゃない。

 毒ガスといえばある二種類の洗剤を混ぜ合わせて……という基本的かつ有名なものも確かに存在するけれど、これも即死するほどのものじゃない。非常に苦しんで死ぬ、だ。

 ――というわけで、私の知識の中に“一瞬で即死もしくはこん睡状態になるような猛毒”に関する知識は……まぁ、毒キノコぐらいかな? すぐ手に入りそうなのは。

「そして思いついたのが、まぁ作ったプレイヤーは知っていると思うけれども……あの吹き上がり地雷で発射するのは唐辛子の粉末、つまりカプサイシンだ」

 前にランディが言っていたけれども、辛味という味はない。

 昔は辛味というものがあったんだけれども、研究の結果、今はうま味というものに置き換わっている。辛味、というのはカプサイシンという成分が痛覚神経を直接刺激しているものらしい。

「ちなみにね、ちょっと前にランディが近藤さんにそのカプサイシンを混ぜたお茶を飲ませて強制切断させたことに着想を得たんだ」

「兄貴そんなことやってたのかよ!」

「なにやってんだよあのにーちゃん!」

「またやらかした、というわけかあの男め……!」

 また、ということは私が始める前にもやっていた事があるんだろうね。ランディ、ちょっとイタズラ好きで意地悪なところがあるし。

「しつもーん!」

「はい、キリヤちゃん」

「なんでそれで無力化できたんだ? 痛覚神経、ってことは痛いってことなんだろうけど、要するにたかだが辛いだけだろ?」

「うん、実にいい質問だね」

 そもそもなぜ辛味の痛覚刺激に限界を設けていないのか? 実は気になって運営にメールを送ってみたんだ。

 その質問に対する回答が来るまで、実に時間がかかったわけだけれども――答えは非常にシンプルで「システム上、辛さに制限を設けてしまうということは味に制限を設けてしまうことになってしまうから」だった。

 つまり、激辛が好きなプレイヤーがそれを味わえなくなるから、ということだ。

 ――あの運営がちゃんと答えてくれたことにびっくりだったのは内緒だ。

「ちなみに唐辛子の粉末が気管支に入ると、当然ながらむせる。しかも、痛みを伴いながらね? それはつまり喋れなくなるのと同義で、魔法が使えなくなるんだ。もちろん、心肺異常での強制切断のほうが早い可能性もあるけどね」

 これはとても簡単な、魔術師殺しの、化学(ケミカル)兵器。

「ここは、食べ物を粗末にするなと怒るべきかのう……?」

「と、言われても。唐辛子は古くから目潰しに使われていた歴史があってね? 今だとチカン撃退用のスプレーに入っている場合があるね。天然由来だから安心……というわけでもないんだけれども」

 ちなみにこれも忍者の目潰しに関する知識に入るので、今回はかなりの割合で忍者の知識を使っていることになるね。実際には金属の粉なんかも使って確実に“潰す”らしいけれど。

 それと唐辛子はその昔、日本においては食用じゃなかった時期がある。寒さを押さえるために手足に塗るという行為を行っていたという話が残っているんだ。

 痛覚を刺激するとは言うけれど、適度な刺激であればさほど痛みもなく血行がよくなるからだね。その効果を利用してか、薬局でダイエット用の入浴剤に入っているのを見かけたことがある。効果のほどは、試したことがないから分からないけれど。

「あと、ちょっと残酷な話になるけれども……童話で有名なカチカチ山で、ウサギがタヌキに“火傷によく効く薬”と偽って唐辛子入りの味噌を渡すパターンがあるんだよね」

 もちろん激痛にのた打ち回る。

 昔の人は経験で知っていたのかもしれないね、唐辛子は痛覚神経を刺激する、なんてことを。そう考えると、これは実に温故知新というものじゃないかな?

「こえええ!?」

「本当はザンコクなドウワってやつだな! えげつねぇぜねーちゃん!」

「神聖な食べものすら残虐非道な兵器にするとは……なんと恐ろしい!」

 なのになんでだろうね、私が全て悪いような、そんな酷い言われようだ……。

 ここはちょっとした小粋なジョークをはさんで和ませないと、私は冷酷な女だと思われてしまう可能性が高い。

 ――こんなこともあろうかと、私は一つ強力なジョークを用意してある。万事抜かりなんてないさ。

「ちなみに死体を検分したとき、単純な強制切断状態からの死亡であって、焼死ではないということを確認したうえで私はこう言ってみたんだ。軍師は罪を知った。とね」

「ホントだよ、ねーちゃん」

「……いや、今のは原爆が落とされた後にオッペンハイマーという科学者が言った言葉をちょっとアレンジしたブラックジョークで」

「原爆並みとは許されざるな!」

 ……しまった、閣下は戦中の人だったよ。

「原爆並とは許されざるな!!」

 よっぽど大事なのか、二回も言ったよ……。

「うん、まぁ……原爆よりは酷くない。原爆のほうは単なる比喩さ、後遺症もほとんどない」

「ほとんどとな?」

「……辛さは痛み、だから人によっては少しの間だけログイン中はジンジンしたり頭痛がしたり、あとはむせる程度だ。さすがに有害物質は」

 使ってるんだよね、黒色火薬の原材料として硫黄を。温泉地でもそうだけれども、コレが濃い場所は立ち入り禁止にされている。

 実はそこそこ毒性のある物質なんだよね。

「発射する際に使う黒色火薬の原材料ぐらいなものだから、銃使いは基本的にいつもその脅威に晒されていると考えるなら、ほとんどない、と言ってしまいたいところ、かな?」

「まぁ、その程度ならば良いのだが……」

 あ、いいんだ? 良かった。

 ダメだったら温泉の話になっていたところだよ。

「その他、この地雷の利点としては、あえて質の悪い火薬を使っている、というところかな?」

「ん? 利点になんの? それって」

「特定状況下では、という但し書きが着くけれどもね。基本的に黒色火薬は煙が多いんだ。質の悪い、というのもこの煙が多く出る、という意味だね。あと、安いのも高評価だ」

 黒色火薬を今でも使うものといえば打ち上げ花火だけれども、この黒色火薬の煙はその場に結構な時間停滞する。

 そのため、無風状態のときは煙のせいで花火が見えなくなってしまうので、花火大会では少しの間クールタイムを設けざるを得ないことが多々あるそうだ。

「石兵八陣は曇りの日など、視界が悪かったり、悪天候の際に有効な作戦だっていうのは覚えているね? 意図的に迷わせるために」

「……煙幕でその状況を作り出す、というわけであるか」

「そういうこと。だからそのための仕掛けは、土の塔のいくつかに仕込む」

 むやみやたらと壊せば……というわけだ。

「正直なところ、魔法やゴーレムで破壊されるなんて想定していないとか普通は言えない話だね。そもそも、これは剣と魔法の物語なんだからさ」

「ふむ……なるほど心強い」

「実際は今から作るんだけどな、俺様たちが」

「……まだ作っておらなんだか?」

「もう一つの手の内は温存しておきたかった、と言うのがひとつと……実際に作るとなると、構造上埋めるわけだから、少ない空気でも火種をどう維持するか、というのが問題でね……」

 なにせ、埋め火(じらい)は少なからず地表に近い場所で、そこそこ空気がある。

 でも今度は完全に土の中だからね……実に厄介な問題だった(・・・)

「まぁ、さっきようやく設計図が完成した、ってところかな?」

「軍師こぇえええええ!?」

「なんでそんなポンポン新兵器開発すんの? グンシってマグロみたいに泳ぎ続けるっつーか、なにか危ないモン作り続けないと死ぬ体質なの? なんなの?」

「そんな体質は聞いたことないね。強迫観念だったら精神科医のお世話になってるし……まぁ話を戻すけど、よくよく考えたら火種の種類に拘る必要って無かったからね」

 ≪スコール≫で無力化できるようにしたいからとはいえ、なんであそこまで線香や火縄に拘っていたのかが自分でも不思議でならないよ。

「そこに気がついたらあとはもう敷かれたレールのように、いつも通りに本の知識を使うだけだったのさ」

 要は長く停滞する濃い煙が重要であって破壊力や爆発力は二の次、しかも地雷と違って場所が完全に見えてる土の塔の中に確実に存在していて、最悪の場合は爆破処理という方法だってあったんだ。

 本当に、なんであそこまで拘っていたのかが不思議でたまらないね。

「そういうものを作るために、わざわざいろんな街にバラバラに行ってもらって、いろんなものを、それこそ嗜好品のたぐいまで買ってきてもらってたんだし」

 今回の吹き上がり地雷も、嗜好品の一種として調味料の一つである唐辛子を買ってきてもらったものを使用しているんだ。

 今回もそんなたくさんのものの中から必要なものを使えばいい。

「まぁ、かの有名な諸葛亮もウソか誠か地雷を発明したり、連射できるクロスボウを発明した話があるしね。軍師と兵器の作成は切っても切れない縁、って訳だよ」

 地雷の構造とかは忍者の知識だったけれども、そういう意味では徹頭徹尾この作戦は三国志における諸葛亮の作と策を使い続けていることになるね。

 ――だから地雷についても気付いていてくれていると嬉しいかな。

 うまく計に嵌ってくれている、という意味で。

「レンちゃんや……」

「なんだい?」

「お主本当に相手の事おちょくっとるのぅ」

「そんなつもりは……多少はあるけどね」

「あるんかいっ!」

 肩にヘルフリートくんのキレのいい突っ込みを受けて、私はようやく、ジョークが成立した事に満足した。

 本当はそんな気なんて一切ない。

 私は徹底的に、負けてもタダじゃ転ばないつもりで戦っているだけなんだ。

「よし。それじゃぁ一通り説明したことだし、そろそろ陣地設営に戻ってもらおうかな? 今度は爆破してしまった地雷の補充と、地雷改め発煙装置と、それが組み込まれた土の塔も作らなきゃいけないからね。大忙しさ」

 そしてこれもまた、ベテランの嫌がることでもあるんだよね。

 戦いが好きな彼らは真っ向から突撃しての爽快感を求めているらしいじゃないか。それなのに、こんな篭城して、不味いご飯を食べさせられて、さらにちまちました爽快感のない作戦を実行するための作業をさせられて……果たして、耐えられるのかな?



    [to be next scene Side Ri-ju...]



「ああ、もう!」

 あたまをかきむしりたくなる衝動を抑えて、私ははしたなくも机に突っ伏してしまいました。

「最初から気付くべきでした!」

 補給部隊をバラけさせたのはおそらく、空城の計。つまりは時間稼ぎ!

 その時間で地雷を作成し、すぐさま攻めがたく守りやすい陣地設営。そこにあえて八門金鎖の計を加えてこちらを誘っていた!

 それでも乗らない私達をさらに誘うための八陣図の計!

「最初から彼女は篭城を選んでいたとはまさかこの私の目をもってしても見抜けませんでしたよ!」

 攻城、というものは非常にややこしい策です。それこそ、一切合財を焼き払えればどれだけ楽なことか!

 今回のような退化している世界観においての攻城に必要な合計戦力は、相手の十倍と言われています。

 さて、我々の兵力はおおよそ三倍と予想されます。平野での真っ向勝負ならば勝てるほどの戦力ですね。今は亡き<ロブスター>たちの計測が正しければ、の話ですが。

「いや、寡兵なら普通篭城を選ぶだろ……だから穴熊決め込むとか言ったはずなんだけど……」

 ようやく戻ってきてくださったので思わず呼んでしまった、尊敬するガランティーヌさんの呆れたような言葉が実に耳に痛いです。

 まるで、偶然好きな人の近くを通りかかったときに、自分が好みの女性とはかけ離れている、ということを偶然聞いてしまったような……そんな心の痛みさえも走ります。

「むぅ……軍師殿はもう少し直情的であると思ったのでござるが……」

「アレは直情的だけど合理的だぞ? まぁお前は参加していなかったから知らないだろうけど……先月のデスゲームについてくらいは知ってるよな?」

 今では、ドラゴン愛護団体事件、とも言われているビックニュースですね。新聞の一面を飾りました。

「拙者新聞は読まないタチでござる!」

「……暗殺ギルドがドラゴン愛護団体を鎮圧、解散に追い込んだ話だ」

「アレがようやく潰れたのでござるな……いや、実に喜ばしい」

 そのスジの人間にとっては邪魔でしかない方々でしたからね。と言うよりも、彼らがほぼドラゴンを独占し利益を独り占めしていたとも言えます。

 ファンタジーの象徴だから殺してはいけない、なんてお題目を立てているギルドでしたね。ドラゴンを守るためだと言い張っての過激なPK活動や、ドラゴンを殺した人に対するネガティブキャンペーンもやっていたとの噂もありました。

 真偽のほどは、定かでは有りませんけれどもね。

「やったのは暗殺ギルドってなってるけど、まぁ間違いじゃないけど……それを指揮したのはレンだぞ?」

「あの木仏金仏石仏(こんどういさみ)を従わせたと!?」

「すみません、それは初耳です。説明を求めてもいいですか?」

 実に聞き逃せない話です。

 最大級と言っても過言ではない人数が揃う暗殺ギルドのギルドマスター、近藤勇。

 第一種特例の最古参プレイヤーで、近接職の最高峰である称号、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)を持つプレイヤーの一人。暗殺ギルドの礎となった自治組織団体のトップでもあった頭の硬い男です。

 巨大なギルドを運営しているだけに、その指揮能力は高いと見積もれる彼が、指揮権を譲った――実に聞き捨てなりません。

「近藤は実際バカだから、突撃しようっつー話だったんだけど……まぁ色々あってレンが作戦立ててだな……称号じゃないけれど、軍師って呼ばれ始めたのはそれが最初になるらしい。俺は現場にいなかったから、クロウからの説明になるけど」

「……かなり、前から、ですね」

 思わず渋い顔になってしまいます。

 つまり彼女は、私が知らないうちに、既に周りから軍師と認められていた、と。

 ――実に腹立たしいことです。

「死んで来い、って命令を平然と下した挙句、暗殺ギルドのメンバーがドン引きしたところを、平然と≪ファイアーボール≫で焼いたらしい」

「なんという……っ!?」

「鬼畜じゃないですか!」

「いや、こないだ俺らをハメた小五郎や、<ロブスター>を平然と捨て駒にした李儒が言えるセリフじゃないぞ、それ」

「戦うためのお膳立てにござる!」

「……あれは必要な犠牲です」

 ガランティーヌさんに指摘されると非常に心が痛みます。

 ですが裏切りの可能性もあったのですから仕方がないのではないでしょうか? 疑わしきは罰せずとはいいますが、実際に裏切られた後では遅い話です。今回はある意味で彼らが本当に裏切っていないかどうかを試すちょうどいい機会だと思いゴーサインを出したのですから、采配に間違いはないと主張したいところです。

「っと、そうでござった。<ロブスター>の全滅のおり、実に不可解な話がござる」

「なんでしょうか?」

 生きて帰っては来なかったものの、それを一部始終見ていた斥候部隊からの情報でも十分でしょう。

 とりあえず、今の話題を逸らさないと私の心に更なるダメージを負ってしまいそうですので、ここは戦略的撤退(わだいへんこう)です。

 やや強引でしょうが、成功すればいいのです。

「地雷の爆発力、さほどでもないようでござる」

「もともと地雷と言うものはそういう類の兵器では?」

「……≪ヒール≫、≪エクセルヒール≫、ポーション、薬草」

「確かにガランティーヌさんの言うとおり、それはあります。が、回復役(ヒーラー)は露見しますし、詠唱のための一時的なタイムラグは発生させることができますよ? そこを狙撃されてしまえばおしまいではありませんか?」

 どのゲームにおいてもよく「回復役(ヒーラー)から潰せ」と言うとおり、それが潰されてしまえば持久戦で大きなハンディを負ってしまいます。

 地雷原を仕込んでいるのであれば、回復役(ヒーラー)から潰していけば確実に撤退を選ばざるを得なくなるときが来るものです。

「撤退させるだけならばそうやって回復役(ヒーラー)を判別し潰せばいい話では?」

「それを考えないなんてことはないだろうし、確実にレンは篭城を狙っている、と言うのなら物資は限りなく温存しておきたいところじゃないか?」

「確かにそれも一理ござろう。篭城しだしたら今度は兵糧問題が発生いたす、最終的には包囲し補給線を断てばいずれ勝つことができるというもの」

「ふむ……」

 確かに篭城を狙うのであれば補給部隊を叩いてしまえば持久戦で勝てます……が、それではあまりにも彼女に策で勝ったとは言いづらいところですね。

「落としどころは間違えるなよ?」

「分かりました」

 負けては元も子もない、ということですね。確かに策に負け戦に負けてはしめしがつきません。

 ――ですがやはり、策にも戦にも勝ちたいですね。

「ではまず冷静になって、現状から分かっている情報から整理していきましょう」

「敵の陣地設営及び、地雷の件にござるな」

 私が頷くと、小五郎は斥候からの報告を上げていきます。

「まず地雷の爆発力、これは本当に大したことがないようでござる。ちょっとした金属鎧で簡単に防げる程度らしく、外傷を負ったようには見えなかったとのこと」

「……それは本当に地雷として機能するのでしょうか?」

「機能するかしないか、と問われれば……まぁ、機能しない、と答えたいところでござる。リアルとの前提条件が違う、つまり安易に回復できるがために、地雷を作るならばもう少し高威力にせねば成り立たないところ」

 ですが、こけおどし、というものではないのでしょうね。実際には<ロブスター>が尊い犠牲となったのですから。

「が、これが何らかの射出装置(・・・・)であるならば話は違うものかと」

「いわゆる花火ですか」

 小五郎は無言で頷きました。

「二つ目の報告にも、苦しんだ後に倒れこんだとのこと。そこからの推察にござる」

「毒でしょうか?」

「可能性は高く、なれど風向きによっては自軍に致命的なダメージが来る可能性があるのであれば、アレ(・・)がそうやすやすと毒などというものを安易に選ぶとは思えぬのもまた事実」

「確かに」

 ちょっとでも風向きが違えば、それは自滅の道です。

「最後の報告になり申すが、トドメを刺すためなのか弓兵を数人使ったとのこと。そして死体をわざわざ陣地内に運び込んだ、とのこと」

「弓兵は、念を押しただけでは?」

「毒系なら瀕死でも動ける、睡眠系はダメージで拘束が解かれる……故に、消去法で麻痺系の毒を使用したと仮定するならばそうとも取れるのでござるが……さて、問題は」

「死体を引き上げたこと、というわけですか」

「極端な話、装備が欲しければその場でかっぱげば良い話にござる」

「確かに極端な話で言えばそうなりますね」

 ですが、邪魔されぬように万全を期して陣地内に運び込み装備をじっくりと選別した、という見方もできるわけです。

 事実、金属鎧などはパーツが細分化されすぎており、パーツ単品ごとよりも死体(マネキン)ごとのほうが運びやすいですしね。

 ――ただし、

「うがった見方をすれば……」

「亡命のための演技、自陣に引き込むための工作とも」

「面倒な話です……」

 情報は命なのはどこでも一緒なのです。

 彼らは下っ端の雇いであって作戦もなにも知らせずに用兵していましたが、こちらで編成している部隊の総数、布陣、補給物資の在庫などといったことは、調べようと思えば調べられるものです。

「……まぁ、今更十四名程度の裏切りごときでひっくり返るような盤面でもないでしょう」

「いや、ひっくり返るだろ」

 呆れたように声を上げたのは、ほとんど口出しをしてこなかったガランティーヌさんでした。

「死んだ程度なら、こっちの兵力が十数名減った、で済むけどさ……それが亡命、って形になると倍の損害だぞ? 将棋と一緒だろうよ」

「それは……盲点でしたね」

 確かに全体の総数が変わらないのであれば、こちらの兵力が減り、あちらが増強されたことになります。

「となれば、弓で射られたのは単なる演技の可能性もござるな……回復魔法に回復アイテム、便利な世界故に実に厄介な……」

「ええ。死にさえしなければ容赦なく攻撃できますからね」

 こちらが十四名の損失。

 あちらは十四名の獲得。

 同時に起こっていなくとも、損益で考えるならば二十八名の損害をこちらに与えてきたとも言えます。なぜなら、その分だけこの兵力差が埋まるのですから。

 これが現実のように何千、何万という単位の戦争であるなら微々たる差でしょうが、これは所詮ゲームなのでそこまでの兵はかき集められません。

 ――仮にこちらを三百、向こうを百とした場合の話になりますが、そうすると兵力差は二.五倍に落ちます。

 もちろん、これは仮の話です。実際のこちらの総数はもっと少ないですし、向こうもそれが言えます。ですので、この倍率は最も高く見積もった場合の話でしょう。

「仮に亡命だとしても、まだ兵力差がある、というのには安堵しか有りませんね……」

「戦争なれば大なり小なり犠牲は出ると言うもの。なに、純粋な兵の質なればこちらのほうが上にござる」

「ええ、ですが……攻城戦は余計にやっかいなことになったとも言えます」

 魔法のないリアルの、このくらいの文明レベルの時代で十倍の兵力が必要であると言われていたのであれば、それこそ本当に魔法がなければ無理な話となっていたでしょう。

「……っと、この程度で悲観するところではござらんぞ? ややもすれば軍師か、もしくはその周りのプレイヤーが新しいレシピを見つけたか、“テスター”として選ばれた可能性もござる」

「新しいスキルや武装が実装されて、なおですか?」

 ですがある意味では納得はできるものです。

 主な理由としては、このゲームにおいて“地雷”という、威力が足りなければちょっとした嫌がらせ程度にしかならないものを使っているからですね。

 麻痺系の毒を使っている可能性を語っていましたが、それもまた風向きによっては自滅する可能性のある危険な代物です。

「地雷なんて、スキルを使わなければ使っていられない。というわけですね」

「まさしく地雷にござるな!」

 ガランティーヌさんがぼそりと「くっだらねぇ……」と批評しました。確かに小五郎の冗談については同意しますが……今回はとりあえず話を進めることにしましょう。

「納得はできます、が、果たしてそうそう簡単にGMが“テスター”に選ぶでしょうか? しかも、つい先日まで“テスター”であったあなたの身内を」

「良くも悪くも“テスター”というのはそういうものでござる。それにGMと顔見知りのガランティーヌ殿が目をかけている軍師(おんな)であるならば」

「俺が理由かよ!」

「あとはついこの間GMが仕事したばかりでござる。変なテンションでまたおかしなものを作っている可能性も高く……というのもござるが、最大の理由はこんなお祭り騒ぎにてパイソンGMの姿が見えぬというのもおかしい話である、というところにござろう」

 そのセリフには妙に説得力がありました。

 GM仕事しろ、との言葉は彼のせいで生まれたという噂すらありますからね。

「ああ……弱いくせに戦闘狂という、GM中最も職務怠慢なGMと呼ばれている……」

 まぁ実際のところちゃんと仕事はしているのですが、それを補って余りあるほどに、こういったプレイヤーイベントにまで参加するという放蕩三昧が問題なのですが。

「……前のイベントでいろいろとコテンパンにした覚えがあるな。やったのはクロウとアスールらしいけど」

「こちらにクロウ殿とアスール殿がおり申すな」

「九十パーセント以上の確率で……居そうですね……」

 非常にありがたいことですが、居ても居なくても関係がないというか……気がついたら死んでしまっていて、居なくなったことに気がつかないというGMなのですが。

「……まぁ、居ても居なくても問題のないGMは捨て置きましょう」

「で、ござるな」

 可哀想ですが、まぁ、その程度の存在ですし。

「このまま平野地での野戦になるかと思っていましたが、路線を大きく変更します」

 彼女から逃げられた後の私の予想では、兵士の士気も考えた上で、負ける要素を下げつつ戦うためにゲリラ的な作戦や野戦時に罠を仕掛ける程度だと思っていたのですが……予想を大幅に裏切っての、実にお堅い女だったようです。

 失策です、最初からガランティーヌさんの話をきいておくべきでした。

 そのおかげで、部隊の再編成や作戦の大きな変更を行わなければなりません。

「対篭城戦です。敵が完全に陣地を固める前に攻めたいところですが……それが不可能であり、削るように当て続けるのもこちらの兵力を削るだけの可能性もある今は静観しつつ作戦を練り直します」

軍師(アレ)はきっと徹底した篭城を考えると思われる故、向こうの補給線を叩いておきたいところにござる」

「確かに……かなりの手間ですが、やらないよりはマシでしょう。騎兵をいくらかそちらで見繕ってください、遊撃をお任せします」

「承った」

「ですが、深追いと数を多く仕留めることは禁じます。会戦に余裕をもって間に合わせるように」

 補給線がバラバラであるせいで、どこからでも叩き放題……ではあるのですが、そのバラバラであるが故にこちらも戦力の分散を余儀なくされてしまいます。

 そしておそらくは、陣が完成する前に帰還させるつもりでしょう。ならば数人はトカゲの尻尾のように見捨てることでしょう。

 ――なんとも厄介な。

「なぜ? そのまま挟み撃ちにするという考えもござろう?」

「きちんとした兵力差があれば二分するのもまた上策ではありますが、そうは言っていられない可能性があるというのは既にガランティーヌさんから聞いたでしょう? ヘタに分断してしまえば、挟撃するとはいえ兵力差が逆転する可能性がある以上は下策です」

「むぅ……」

「……もう何も考えずに突撃したほうがいいんじゃねぇのかなぁ?」

 ガランティーヌさんの言うことも、もっともでしょう。

 ただ勝つだけならば、それだけで十分です。スタンドプレーで自滅する可能性も無きにしも非ずといったところですが、そうならないよう振舞う程度にはわきまえているというのがベテランというものです。

「それでは私が勝ったことにはなりません」

 ですが、それは今の段階では許容はできません。

 ベテランによる蹂躙は最終手段、あくまでも私が彼女よりも優れていることを証明する戦いでなければならないのですから。

 残るはアトミックバイオか……いや、使わないだろうけど! 特にAのほうは!




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