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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
初心者脱却編
76/97

第74話 軍師たちの一局目

「もう我慢なりません」

 午前における<ロブスター>らの失敗の報も。

 補給部隊が細かく小さくバラバラにいろんな地方を回っているという報も。

 昼食後における忌々しいあの軍師が敷いた地雷による八門金鎖の陣――八門遁甲もどきを敷いたという報も。

 何一つ私達は動きませんでした。

 より正確に言うならば、動けませんでした。

 ルール無用、なのにマナーがあるということ。

 相手側が少人数であるが故に攻城兵器の使用を止められていること。

 その結果として出てくる結論は全て静観の構え――という名の傍観。

 相手は挑発しているとしか考えられない状態であるという名目があるからこそでしたが……、

「今回ばかりは、我慢なりません」

 仏の顔も三度まで、とはよく言います。ですが今回、私は何度仏の顔をしたのでしょうか?

「気持ちは分からないでもないところでござる。が、今一度の辛抱を」

「三度です」

「は?」

「もう既に三度、仏の顔をしました。これ以上私をバカにするようなあの女を今すぐにでも蹂躙したい」

 今報告に上がったのは、

「ここにきて八陣図の計ですよ!?」

 そう、あの女がまたなにか仕込んでいる、というものでした。

 八陣図の計――おそらくは石兵八陣と言ったほうが通りの良いことでしょうね。かの諸葛亮が夷稜の戦いにおいて追撃を追い払ったもの。というのが大まかな出来事になります。

 さて、それがどういったものなのかという実態については諸説あります。

 それは石を積んだ塔であったり、八卦を利用しオカルトじみた殺気を放つ石造りの兵であったり。どちらにせよ潮の満ち引きによって水没させる、近くの長江がよく氾濫するのを利用するなどあり正確にはよくわかりません。

 実際、作品ごとにも違いますしね。

「しかし軍師どの、まだ攻め時ではござらんぞ?」

 そう言わしめる理由の一つが、マナー。さらにもう一つ付け加えるなら、リアルでの都合となります。

 今はまだ夕食前という微妙な時間帯ですので、社会人プレイヤーがまだログインしていないころです。そしてログインしてくるころと言えば夕食後。

 その夕食後は人気のテレビドラマや公式サイトで行われる超人野球のストリーム配信などがある、ゴールデンタイム。

 これを見逃したくないプレイヤーも多く、この時間帯だけは一時休戦しましょう、という休戦協定を結んだ戦争も数知れず……まぁ、今回はそんなものなんてありませんが。

「何をバカな事を言っているんですか、小五郎! 単なる脳筋ではない、将として指揮できると思い、私はあなたに相談しているのですよ!? 何のためにあなただけを呼んだと思っているのですか!!」

 尊敬するガランティーヌさんは遅い昼食に行ってしまわれました。これは結局、全員分の料理を作らされたためです。さすがにメニューに応えることは出来なかったものの、ありあわせのものでおいしい料理を提供するとは……もはやさすがとしか言いようがありません。

 そして他のメンバーは、参加してもさほど意味がない、としか判断できません。

 故に、この作戦会議室にいるのは小五郎と私の二人だけです。

「それは重々承知の上でござるが……」

 小五郎は頭痛をこらえているということを誤魔化すように、何度か目頭を指先で揉みほぐします。

「たかだか土を盛っているだけではござらんか……」

 ええ、盛っているだけです。

 ですが、高さとその間隔、そして数が問題になっています。

「あなたはバカですか? 三メートルはある土の塔らが目の前にあれば、突撃もままなりませんよ?」

 諸説ある八陣図の計ですが、石の兵や塔の迷路で敵を迷わせ水責めを行うという点についてはまったく同じです。

 なぜ迷うのか? と問われれば、これは完全に憶測も混じる話になってしまいますが……要するに森で迷うのと一緒だと考えられます。

 八陣図の計を敷いた場所は非常に殺風景なところであり、石兵や石塔が乱立することによって森と同じように目標とできるものが無く、同じ場所をぐるぐると回ってしまうというものです。

 これがただのゲームであったのならば効果はありませんでした。真っ直ぐ前進キーを押し続ければいいのですから。

 ですがVRMMOは体感してしまいます。実際に体を動かさざるを得ないゲームです。そのために森で迷うなんてことも有り得てしまいます。

 ――つまりあの女は、人口的な迷いの森を作ろうというのです。

「その意見は分からんでもない話でござる、が、要するにゴーレムを突撃させて踏み砕いてゆけば済む話ではござらんか」

「そういう簡単な問題ではありません!!」

 あの手の攻略法は非常に簡単です。

 要するに破壊していけばいいのです。早い話が、今しがた小五郎の言ったとおりゴーレムを使って。ダンプカーのように。

 ほかにも魔法で風穴を開けてしまう、という手もありますね。

 今と昔は違います。当時はおそらく、破壊する方法が限られていたか、もしくは破壊することによる兵士の疲労を考えて破壊を避けたか――いろいろ考えられる話ではあります。

 ですが、周知の通りここは剣と魔法の世界。

 スマートではありませんが、迷宮を作られたとしてもゴールまで壁をぶち抜いてしまえばいいのです。魔法を使えば兵士の疲労など、数人分で済んでしまいます。全体から見れば、何パーセント程度にしかならりません。

「あの女、徹底して篭城するつもりですよ……この戦争を起こした私の意図を知ってか、完全に私が役に立たない状況を作りだして……きっとあの街の中であざ笑うつもりなんでしょうね!」

 思わず親指の爪を噛んでしまいます。治したつもりであった癖が、ついつい出てしまいました。

「……やりかねない、というところが恐ろしい話でござるな」

「そう思うでしょう!」

 はしたなくも思わず大声で同意してしまいました。

「レン殿は徹底して人の嫌がることを行う才能が……あり申す故に……!」

「そうです。今回もそのように動くでしょう」

 彼も私も、レンさんには恨みや反感のある人間。

 ならば彼女の事をある意味一番よく知っている人間は私達二人を置いていないのではないでしょうか?

「が、大局を見るならばここは攻め時でないのもまた事実にござる」

「また静観しろとでも!?」

「そうは言ってござらん」

 小五郎は腰に手をあて、悪い笑みを浮かべて自信たっぷりに言い放ちます。

「なるほど、考え(さく)がある、と?」

「なに、考え(さく)というほどのものではござらんよ……とりあえずひと当てする程度にござる」

「ひと当て程度、ですか……」

 大人数での奇襲はさすがに難しい話ですが、

「少人数での威力偵察ですか?」

 妥協点を探るならば、その名目しかありません。

「人選はどうするんですか?」

 人選も悩ましいところです。

 ヘタに主力部隊を出すわけには行きません。

 かといって斥候部隊を出すわけにもいきません。

「さて……ふさわしい人材などいましたでしょうか?」

「いるではござらんか」

 はて? そんな人材、記憶にありませんね……。

「冷や飯喰らいをしている、<ロブスター>という小さな傭兵ギルドが」



    [to be next scene Side Rob...]



 良く言えば捨て駒。

 悪く言っても捨て駒。

(まぁどっちにせよ捨て駒になんかさせちまって悪ぃな)

 地面に書いた文字を見て、俺のギルドのメンツも全員「気にしていない」といったようにかぶりをふったり、鼻で笑ったり、肩をすくめたり……まったく頼もしいやつらだ。

『よろしいですか? 作戦を伝えます』

 そんな俺たちに策をさくっと授けてくれる我らが軍師――李儒(りじゅ)様はなんともお心の広いお方のようで、人様を勝手に反逆者扱いしたくせにチャットを使って我々<ロブスター>たちに話しかけてくださっているではあーりませんか。

 つーか、三国志で李儒とかいたっけ? 本人が言うにはそこからキャラネーム取ったとかいってるけどさ。

 マジ、誰?

 まぁ……野球中継(ストリーム配信)見ながら検索してもいいけど、正直そこまでの義理はねぇしなぁ……。

「作戦って、いわゆる威力偵察だろう?」

 ものすごく大雑把かつかいつまんだものをさらに脳筋でも分かりやすく噛み砕いて言うと……突撃して、敵の戦闘力を確認したら、生きて帰ってくる。

 ちょっと前のアニメみたいに、「別に殲滅(たお)してしまっても構わんのだろう?」なんていうものじゃなくて、あくまでも偵察(・・)だ。

 つーか、そんな事言ったら死亡フラグだし。

 ついでにウチの山よりも深く海よりも高いお心を持つ軍師様の反感を買いかねない。

 まぁ最大の問題はこの威力偵察ごときに十数人という大部隊を送り込むわけだから戦争(ゲーム)におけるマナー違反に該当する可能性があるということだな。

 俺んところは小さくとも、俺を除いて十三人いる。ソレが総出で襲ってくるっつったら、ゲーム的には大部隊だ。

 良く言えば捨て駒。

 悪く言っても捨て駒。

 ――つまりはそういうことだ。

『ええ、あくまでも威力偵察です。ひと当てしたらきちんと戻ってくることを願っていますよ。ええ、何人減っていようと構いませんが、最低一人は必ず戻ってくることを願っています』

 なんつーか……作戦もクソもあったもんじゃねぇな。

『ついでに地雷も撤去していただきたいものですね、あとは破壊工作もお願いします』

 あれだ、ゲームでもよくある上司の無茶振りみたいだ。なんでもかんでも押し付けやがって、(おれ)の命をなんだと思ってやがるとか言いたくなるような……あ、これゲームだったわ。

『地雷がないのは、どういうわけかこちら側に面している北東(きもん)と、反対側にあたる南西(うらきもん)、そして東の三箇所になります』

 実際に街の城門があるのは東西南北の四箇所だから……まぁ威力偵察として攻め込むなら普通は東からだろうな。何も仕掛けていない分、敵兵が集中してそうだ。

 ま、地雷撤去と破壊工作がなければの話だけどな!

 ……つーか、こっちの軍師も何考えてるか訳わかんねぇなぁ。あからさまに真正面に罠を仕掛けていない、って……。

「で、どこが望ましいんだ?」

 まぁ、俺らが今いる地点は真正面なんだがな。

 だって馬に無理させないと予定時間よりも遅くなるし、威力偵察だから真正面から仕掛けないと……って考えるのは俺が脳筋だからか?

『地雷の威力確認と破壊工作を行って欲しいわけですから』

 ――おい、地雷撤去とか言っておきながらその実「踏み抜いて行け」ってわけか?

 こいつぁとんだ捨て駒だな!

『そうですね、北からお願いします。時間が遅くなるのは好ましくありません。兵は拙速を尊ぶともいいますので』

「りょーかーい」

 ひたすらテンション下がるわ~……。

 そんでメンバー諸君、悪いな、要領の悪いギルマスで。

『チャット機能はこのままにしておきます。逐次報告をしてください。撤退の合図および作戦の指示はこちらで行います』

「りょーかい、りょーかい」

 北へ向かうぞ、と手で合図をする。

 チャットだからこいつらにも話は聞こえているしな……無駄話を許してくれないお方だから、だーれも喋っちゃくれないし。

 なんつーか、楽しくねぇなぁ……お気楽傭兵部隊<ロブスター>としては、もっと雑談交じりにやるのがいつものパターンなんだけど。

(部屋で冷や飯食ってたほうがマシだったなー……)

 いや、実際はあったかいメシなんだけどな。

 メシはあったかいほうが士気向上に繋がるとか何とかさ……冷たい温かいよりも、美味いもんのほうがいいんだけどな、俺ら的には。

 不味くはないんだけど、味気ないんだよなー。もう一味、っていうか……なんでゲームごときに昔のミリメシみたいなもん食わなきゃならんのだ。

(あー、でもあの仮面野郎のステーキは美味かったな)

 あの肉汁たっぷりのステーキは美味かった。裏切り者扱いされたあとなのに、慰めるみたいにすぐに運んできてくれたんだよな……中二病くさく仮面つけてるところ以外はすげぇいいやつだったし、「これが本当の肉というものか!」なんて目が覚める思いだった。

 ま、残念なことにスキル補正のせいでその程度の料理ならゴロゴロしてるんだが……軍師(レン)と同じギルドの人間だって言ってたし、わざわざ美味いメシを食わせてくれたし、今度お礼にでも行っとかなきゃな。菓子折りでももって。

「っと、ちなみに斥候部隊とかは回りにいんの?」

『主観的なデータと客観的なデータが欲しいので』

 俺たちは見張られています、っつーことね……さっきの筆談も避けたほうが良かったかもな。

『では、ひとつ派手にお願いします。先走って突撃していった兵士たち、という感じで』

「りょーかいりょーかい、りょーかいしましたよっと」

 なんつーか、完全に捨て駒な件について。

 他のヤツが見てるってことは、俺らの生還するのほとんど期待してねーじゃん。

 チャットで常に報告するんだしよ。

「……よーしお前らー」

 どうせそんなこったろうとは思ってたけどな。あの“人斬り小五郎”とかいる時点で。

 まぁ、しゃーなし。生還はこの際捨て置いて……ここはお気楽傭兵ギルドの<ロブスター>の本領発揮といきますか。

「作戦前にブリーフィングを行う」

『遅すぎですがね』

 お前が作戦伝えるの遅すぎだからだよバカヤロウ!

「本日の依頼はー……」

 説明、めんどくせぇしな。

「前進! 制圧! 正面突破!」

『違います!』

 嫌がらせだよコノヤロウ!

「冗談はさておき」

『真面目にやってほしいものですね』

 たかがゲームだろうが。第一種みたいに、たかがですまないヤツでもあるまいし……。

「俺たちに課せられた任務はシンプルに二つだ。一つ、罠にかかって威力を確かめること」

 いつものように、メンバー全員が「ひとーつ! 罠にかかって威力を確かめること!」と復唱する。

「二つ、破壊工作」

『街は破壊しないよう注意してください』

「……だとさ」

 肩をすくめると、全員がそれを無視したように「ふたーつ! 破壊工作!」と復唱した。

「突撃は街の北側。方角を微調整しつつ、前進。今回は斥候を出さない。ま、今回はモンスターの心配がないからな」

 実際に不安なのは味方からの暗殺(フレンドリーファイア)と、敵兵だ。いくら初心者相手だとはいえ、相手側の斥候とかち合うのはあまり効率的じゃない。

 それに、敵本陣に突撃することも考えれば戦力をバラけさせるのもあまり得策じゃない。

 一対一の戦闘を数ヶ所でやる必要はない。

 十四対一の戦闘を何回も繰り返す……なんて言いたいところだが、実際は俺らよりも数は多くなるだろうな。

 そうなると、斥候を飛ばして戦力を分散させるよりはナンボかマシだろう。

「よーし、地雷は見つけ次第報告、その後踏む! 回復(ヒーラー)部隊は≪ヒール≫と≪エクセルヒール≫の用意! 符術部隊は土の山んところで≪ファイアーボール≫をばら撒け! 同時に総員、対友軍誤射フレンドリーファイア防御!」



    [to be next scene Side Len...]



 爆発音。

 方角は北門のほう、担当は確かキリヤちゃん。私のいる作戦会議室から街の外の音が聞こえるほどだ、よっぽどの事でもあったんだろうね。

(ああ、やっと襲撃してきたか)

 なんて思いながら北側の窓へと移動、懐中時計を取り出す――同時にコール音が鳴り響いた。

「はい、こちらレン」

『ねーちゃん! 大変だ! 敵! 敵襲!』

「分かってるよ。分かってるさ」

 ばらけさせた補給部隊は本当に何も考えていなかったとしても、わざわざ八門遁甲陣風に埋設させた地雷や今回の石兵八陣。

 李儒なんていう小説の三国志演義でも読まなきゃ分からないような、三国志演義においては史実と違って、董卓の娘婿である知恵袋的な人物の名前だ。

 小説ではご大層かつ史実においてはかなりマイナーな策士の名前なんてつけているから、三国志になぞらえた誘いには必ず乗ってくると思っていたよ。

 なにせ、こっちは諸葛亮の策を真似た計略……まぁ流行っているようだし、字のほうで「孔明の罠」とでも呼んだほうがいいかな? まぁ、私にとってはどちらでもいいけれど。

 とにかく、そんなことをやっているんだからね。必ずひと当て程度はやってくれると信じていたよ。

「さて、閣下。敵襲だよ」

「――やはりか!」

 爆発音を聞いてすぐに行動していたのは私だけじゃない。閣下もだ。

 もっとも、私と違って閣下はサーベルのような装飾のなされた日本刀を掴んで、今にも飛び出しそうな猪の一歩手前だったわけだけれども。

「儂が陣頭指揮を取れば良いのだな?」

「ああ、それには及ばないよ……」

 多分威力偵察だ。

 こっちは初心者で斥候や防諜の概念なんてほとんどないから無視していたけれど、相手は筋金入りの「策士好き」だ。斥候を飛ばしていないなんて考えられない。

「キリヤちゃん、および実働部隊は急いで街への避難。まだ陣は薄いし完成していない、そのうえ日も高いから街に戻るのは容易いはずだよ」

『戦わねーの!?』

「迎撃せんのか!」

「しないし、する意味がない」

 今は陣地設営のための工作にいそしんでいる途中だし、その上最初から篭城を狙っているんだ。襲ってきたのであれば、工作を途中放棄してでも篭城を選ぶね、私は。

「説明したとは思うけれども――」

 有名な鶴翼の陣。これは単純に包囲殲滅を目的とした陣形なんだけれども、間違っても完全に包囲しちゃいけない。

 敵軍全体を包囲すると、必ずどこかに“薄い”ところができるからね。ゲリラ戦を仕掛けてきた敵を包囲殲滅するのが面倒くさいのと一緒だ。つまり考え方としては傾斜陣形との組み合わせかな。

 そこで話を篭城に戻すけれども、これと一緒になる。

「篭城すれば、相手は包囲するか一点突破しかない。で、一点突破だと使われない兵士が多くなる。包囲すれば確実に“薄い”ところが出てくる」

 兵の密度が高ければ多対一の状況を非常に作りやすい。その上、こちらは壁に守られているという安心感が、射撃を正確にしてくれる。

 目くら撃ちでもいい、壁の内側から弓矢を雨あられと降らせるのも一興だ。もちろん、敵も同じ事をしてくるだろうけれども、外側と内側を確認できる兵士が作りやすいのはこちら側……その上相手はヘタにこちらの家屋などを壊すことができないとなれば、さて、弓矢や攻城兵器でよく知られる投石器の使用は限りなく控えるだろうね?

「まぁ、さすがに城門ぐらいは突破しようと、破城槌ぐらいは使ってくる可能性もあるけど……」

 そのためにこちらは石兵八陣という意図的な「巨大兵器を使いづらい場所」を作っている。城門から攻め込まれた場合は、それこそ鶴翼の陣のように柔らかく相手を受け止めて、半包囲状態にして殲滅する。

 まぁ門を破られた時点で負ける可能性が高いけれども、相手は策を使えない……つまり、この試合には負けても、私は勝負には勝てる。

 この上なく簡単、極上のイージーだ。

「理屈は、分かる、分かるが……のう? せめて勝負にも勝とうとか、そんな意気込みはないんかの?」

「粘り勝つつもりだよ?」

 何のためのトラップ地獄だと思っているんだろう?

 というか、私が仕掛けたものがただの地雷や土の塔なわけないし、それだけで終わるわけがないじゃないか。

 ゴーレムのおかげで人材が少なくとも労働力には事欠かないし……まったく、なんて素敵なんだろうね? 魔法がある世界は。

『つーか今逃げてんだけど! なんかやっばいぐらいの数いるんだけど! ちょ、助けて!?』

 ――っと、忘れてたね。

「何人くらいかな?」

『十人以上!』

「なら大丈夫だ、逃げ切ってくれ」

『ひどっ!?』

 敵の総戦力が分からないけれども……威力偵察に割いても構わない程度の人数がそれくらいなのかな?

 北側の窓に移動しながら、望遠鏡を使う。

 城壁があってこそここは狙撃し辛いところだから、外なんてあまり見えないんだけれども……いくらか地雷が爆発している煙が見えた。

 時々、≪ファイアーボール≫か≪フレイムボール≫か、どっちかはわからないけれども、それが何発も何発も、あさっての方角に飛んでいくのも見える。

「あの魔法は狼煙かな?」

「いや……≪符術≫スキルの可能性も否めん」

「概要は?」

「レンちゃんなら知ってると思うとったんじゃが……まぁ、魔法は一レベル級に固定されるが何発も同時に撃てる。レンちゃんとはまた違った趣のある魔術師での?」

 要するに魔導書(グリモア)型と違って威力は劣るけれども、≪セット≫が標準装備されたもののような感じらしい。

 札をばら撒けば、レベルと同数の魔法を同時に複数方向へ魔法をばら撒くこともできる……けれども、味方はおろか自分への誤射の可能性すらあるから普通はそんな乱暴な事はしないとか。

「実際にやっているみたいだけれども?」

「儂が知るかっ! その辺を考えるのが軍師の仕事じゃ!」

「……何でもかんでも私の仕事にしないで欲しいな、まったく……」

 その話が事実なら、彼らは愚を冒していることになる。

 十数人以上のパーティでそんな事をしたら、フレンドリーファイアの嵐だろうに。

「……ひとまずうがって見るなら、あれは≪エクスプロージョン≫の下位互換の再現みたいなものなのかな?」

 ≪エクスプロージョン≫も、自分を巻き込む恐れのある魔法の一角だ。高レベルであればあるほど爆発の範囲が広がる。三十レベルともなれば、指定できる起点と術者のポジションがちょうど重なるからそれ以上は伸ばしづらい魔法……その分、威力は折り紙つき。

 対してあちらは≪エクスプロージョン≫の範囲は狭い。威力も低い。そこをああやってばら撒くことで、範囲だけでもカバーしている、という見方もできる。

 であるならば……、

「命がけの破壊工作とも言えるね。まったく、頭のネジがどこか緩んでるとしか考えられないよ」

『お、おう……』

「そ、そうじゃな?」

 ……二人とも、なんだか私のほうも頭のネジが緩んでいるとでも言いたそうだな。

 私のどこが頭のネジが緩んでいるとでもいうんだろう? 私は、ごくごく普通に、本で読んだことのある知識しか使っていないっていうのに。

「……ん、魔法が止んだみたいだ」

 アレの効果が出た、のかもしれない。

「自滅かの?」

「キリヤちゃん、今、敵から追われていない?」

 追われていなければ撤退したか……あるいはアレ(・・)の効果が出たか。

『え? ……あれ? 死んでる?』

「焼死体?」

『いや、わかんねぇ。ピクリともしねぇし……』

 ふむ……。

「……閣下、弓兵隊を出してくれないかな? 念入りに矢を浴びせて欲しい。銃兵は火薬の温存をしておきたいから……まぁ、弓の練習に使う感じでいいよ」

『死体にムチ打つとかひっでぇ!?』

「死体じゃない可能性もあるからだよ」

 可能性は二通り。

 一つは≪符術≫スキルの乱暴な使用による自滅。

 もう一つは――

「あ、言い忘れてたけど地雷から出ている煙は吸わないようにね? それ、すごく危険だから」

「えっ、レンちゃんさらっと毒なんて使って……?」

「毒なんて一切使ってないよ? ああ、毒、なんてね」

 片手間に作った地雷がちゃんと機能している、という事なのだから。

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