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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
初心者脱却編
74/97

第72話 兵糧問題

「――小五郎、斥候からの連絡は?」

 作戦会議。

 かつてあれほどまでに萎える言葉が、今はどうしてこれほどまで福音のように聞こえるのでしょう? 手を回し策を弄して軍師を直接この戦場に引きずり込んだ甲斐というものがあるというものです。

「なんとも言えぬ話でござるが……」

 我が軍の副将にして共犯者、頼もしい“人斬り小五郎”が地図にいくつかの赤い駒を置いていきます。我々にとっての敵軍という意味で、使用した駒から小規模な部隊が広範囲に渡って散っていることが伺えました。

「これは何の部隊でしょう? 工作員にしてはお粗末過ぎるように感じます」

「……これ全て、補給部隊にござる」

「はて」

 私の目にはとてもではありませんが、伸びきっているというよりは散らばっていると言ったほうが正しく感じてしまいます。

「ゲリラ的な策を用意しているのでしょうか……どう思いますか、アリスさん?」

 あの忌々しい軍師の従妹(いもうと)にして暗殺ギルドと深い関係にあり、人外と名高い軍曹や史上最悪の料理人(あんさつしゃ)を召抱える、古参組ならば知る人ぞ知る悪名高き<アリス・イン・ネバーランド>のギルドマスターは、しばらく考え込むように地図上を見ました。

「んーと……本陣がほとんどがら空きっぽいから、誘ってるのかもしれない。罠かも?」

 私と同じく銀色の髪をツインテールにしているところからつながりを持ったアリスさんたち(・・)を私の陣営に引き込めたことは、私にとって朗報でした。

 敵を知り己を知れば百戦危うからずとはよく言いますが、これ程までに相手の手の内を知っていそうなプレイヤーらがいるでしょうか? リアルでもゲームでも、つながりというものは大切にしておくものですね。

 ――まぁ、あまりにも深い関係すぎていまいち信用しきれない部分はありますが。

「罠を張り巡らすなど……卑怯者にござるな」

「で、あるな。仕方がないとはいえ、正々堂々と戦ってこそ楽しめるというのに……」

「……アタシの記憶が正しかったら、軍師が直接戦ってるところってほとんど無かったように思うな。いつも誰かの後ろに隠れてる感じ?」

「レンは……まぁ、生産者でもないから……消費者的なプレイヤーだからな」

「ガランさーん、敵の肩を持つなんてひどくないですかー?」

「客観的意見だっての……」

 中二病の魔導騎士(ミスティックナイト)、雪上の狂戦士(バーサーカー)、史上最悪の料理人(あんさつしゃ)……ここに人外や現役警察官、シスターがいれば彼女の味方のほとんどをこちらへと引き入れたようなものでしたが、まぁ社会人プレイヤーは仕方のない話でしょう。

 募集は既に締め切られ、今さらにインしてきたとしても指を咥えて伝聞に聞く程度しか戦争(これ)に関わることはできません。

 ――この戦い、裏切りさえなければ勝ったも同然と言えるでしょう。

「それで、あなた方はこれを罠だと思うのですね?」

「で、あろうな」

「右に同じー」

「左に同じはまかせろー! ばりばりー!」

「殿中、殿中にござる! やめるでござるよ!」

「……あまりふざけてもらいたくないのですが?」

 この戦い、私があの軍師(おんな)よりも優れているということを証明する戦いでもあるのですから。

 もっとも、小五郎やアリスさんにとっては無理やり勉強をさせられた恨みを返すためだそうですから、そもそもの意気込みが違うと言えばそれまででしょうか?

「ガランティーヌさんはどう思いますか?」

 この中で一番信用できる人といえば、彼ぐらいでしょうか?

 ――正しくは信用というより、尊敬の念からくるもの、でしょうか?

 過去のデスゲームにおいて、反撃の余地を与えない毒殺という手段を取ったがために卑怯者と罵られた事のある方ですが、そもそも反撃の機会を与えないように戦うのはプレイヤー間でもやっていることではないでしょうか?

 圧倒的な人数を揃えて確実に叩くのと、こっそりと毒を忍ばせること、ここにどういった差があるのでしょう? 私の見解としては、双方の違いは策の違い。罵られるならばお金に釣られて徒党を組む者たちのほうだと私は思うのです。

 その点、毒殺するためにひたすら忍び、そして周りから信用を勝ち取り、最後は大量殺戮を果たした……実に素晴らしい策ではないでしょうか?

 ですから、私は史上最悪の料理人(あんさつしゃ)というプレイヤーを尊敬しているのです。

「何も考えてない」

 ――ええ、尊敬していますとも。

 こんなことを言われても、そしてこの言葉にウソ偽りがないことが分かっているとしても、私は彼を尊敬しつづけるでしょう。

「こちらの補給線を叩くためのゲリラ部隊を配置しているわけでもなさそうですし、そもそも相手は初心者……なら同数でもこちらが有利だと思います。ですので、補給部隊を叩き敵戦力を削っていくのがいいと思うのですが」

「プレイヤー自体が強い場合がござるよ?」

「ゲーム自体は初心者でも、リアルでは凶悪犯を相手にしている現役警察官……という話は、お父さんがいい例であるな」

「なるほど、うっかり見落としていました」

 進言されなければ、言い直すつもりではありましたけれどもね。

「ですが補給部隊は叩いてしまいたいと思いますが、何か意見はありますか?」

 補給部隊を叩く、というのは戦略的に大きな意味を持ちます。

 軍師という称号が存在しなかった、という理由の一つにはこういった戦争における後方支援を行うプレイヤー達にも自衛手段――と言うにはいささか生ぬるいほどの実力があるからです。

 理由の根拠は、モンスターを倒せるだけの実力が必要になるからです。

 普通の戦争ならば斥候や歩兵による護衛を用意するところ、ゲームならばそれが必要ありません。スキルと作戦でどうにでもなってしまいます。最低限、モンスターをハメる事ができるような……俗に言う「パターンに入る」よう動けば生産職でも戦うことが出来てしまいます。

 そう言った意味では、初心者支援ギルドでは盾のスキルを推奨していますね。もちろん、白兵戦に限定した場合なのですが。

「悪くないんじゃないかな? おねえちゃん、ちょっとプレイヤー散らしすぎてるみたいだし、囲んじゃえば……」

「そんな作戦、山賊のようで好きにはなれんな、(オレ)は」

 中二病の魔導騎士(ミスティックナイト)様は、プライドや対面を気にするタイプですね。アリスさんはどちらかと言えば効率を重視するタイプのようです。

「効果的なのは認めるところでござるが……素直に言えば、会戦時に単騎駆けしたいところでござるな」

 このコメントには、心強い、とでも言えばいいのでしょうか? 戦闘狂(ウォーモンガー)ですね、頼れる“人斬り小五郎”は。

「我はそれも好きではない。小五郎、お前は協力プレイをなんだと思っているのだ?」

「まーまー、効率だけ考えたら遠くからチンしたほうが手っ取り早いんだし。それ考えたらまだ良心的じゃん」

「アタシは考えるのパース。言われたことだけやるわー」

 アスールさんは、少々考えることを放棄するきらいがありますね。もっとも、有能とは言いがたいので戦線に出てもらうつもりでしたからいいのですが……全員の意見はバラバラと言ったところでしょうか?

 こういったプレイヤーらは上の命令を無視して作戦外のことを行う場合が多々あるので、要注意ですね。

「ところで――ガランティーヌさんは、どう思われますか?」

「無意味だろうな」

 尊敬するガランティーヌさんは即答しました。

「理由を伺っても?」

「敵戦力を完全に把握していないだろ?」

「……あー、おねえちゃんならやりそう」

「ふむ」

 アリスさんとガランティーヌさんには思い当たる節があるようです。

「もう一度言いますが、理由を伺っても?」

「少人数の補給部隊がバラけすぎていること、かな」

「おねえちゃんなら、こっちの戦力がバラバラになったところを突撃するってこと、考えててもおかしくないし」

「……もう一声ほしいところだな」

「もう一声、とは?」

「出費」

 なるほど、軍資金問題ですか。

 そこに目は付けていませんでしたね、盲点でした。

「追撃、っていうか……確実に勝つためにはこんなにバラけている相手をするには少し人数を割かなきゃいけないけれど、そうすると出費が増えるだろ? 例えば、馬とか」

「馬、必要?」

「必要だろうよ。このあたりとか、こっちからだとかなり遠いし。ここにいたっては、敵本陣近くを通るじゃないか」

 ガランティーヌさんが、私達の軍を示す青い駒を一つ使い、シュミレーションするように進ませていきます。

 ――かなり迂回しないと、本陣に直撃しますね。

 きちんとした会戦の日時を守る必要は、本来どこにもありませんが……それを卑怯と罵られては「あの軍師を倒した名軍師」という、私の意図するところから遠ざかる可能性が高いです。

 その上、プレイヤーたちは基本的に大規模な会戦を目安にリアルの予定を組んでいます。こうなると「ログアウト中のプレイヤーすら虐殺した極悪人」というレッテルまでつく可能性もあります。

 戦争においては明確にルールは定まっていません。が、暗黙の了解というものがあります。それに沿って考えるならば、暗殺や補給部隊を叩く、というのはかなりギリギリのラインとなるのです。

 さらに言うなら、大将と副将を暗殺する程度では終わらないことが多々ある、という事情もここに絡んできてしまいます。

「つまり、ここは静観の構え、ということですか」

「部下にも示しがつかないだろうしな」

 他のメンバーが難色を示すのは当然、といった風に言ってくれます。

 このあたりは初心者支援ギルドに所属していたことのある、あのムギさんから問題児を押し付けられていた経験があるからこその思いやり、といったところでしょう。

 ――やや不器用ですけれど。

「やはり単騎駆けが最強でござるな!」

「小五郎、貴様は少し協調性というものをだな……」

「ガランさーん、ちょっとリアルのほうで小腹すいてきちゃったんで一旦ログアウトしたいんですけどー、ちょっと体見ててもらえませんかー?」

 アスールさんの体が赤く、うっすらと明滅します。そして小さな警告音も響いてきます。

 どうやら私のスキルに反応しているようですが……まぁ、これは仕方がない、と納得しておくことにしましょう。

「まぁリアルならば仕方ないところであるが……アスールよ、もう少し言い方を――」

「じゃぁ正直にトイレ行きたくなったから戻りたいって言えってかこの中二ー!」

「――すまん」

 同い年としての情け、と思いあえてスルーしておいたのに……空気の読めない男ですね。

「いいから行って来い、めんどくせぇ……」

「タロス殿や拙者のように、オムツ着用者(パンツァー)となれば楽でござるよ?」

「黙れ変態!」

 なかなかどうして、実に協調性のない作戦会議です。これでは勝てる戦いも勝てないのではないのではないでしょうか?

 ――もっとも、彼らはあの軍師に近しいプレイヤー達です。私のスキルに反応しないため演技だとは思えませんが……あまり信用しないでおいたほうがいいでしょうね。

「ところでさー、バカガランー」

「バカをつけんじゃねぇよ!」

「ゲームのほうも小腹が空いてくる頃なんですがー?」

「その辺のレーション齧ってろ、クソガキ」

「ちょ!? 第一種(わたし)みたいなのはゲームのご飯が楽しみなの、知ってて言ってるでしょ!!」

「バカをつけるやつに食わせる飯はねぇ!」

 そういえばアリスさんは第一種特例でしたね、私と違って。

 そう考えるなら、実に酷い言い草ですね――ちょっとだけ、ゾクっとしてしまいます。

「いいから作れバカガラン!」

「チッ、うっせーな……で、何食うんだよ?」

「とんこつラーメン! ハリガネチャーシューマシマシ!」

「用意してねぇよアホかっ!」

「あ、我は塩ラーメン。メンマ抜き」

「知っているか? ソバどころ山形と呼ばれているが、実はラーメンのほうが消費量が大きい……あ、拙者は冷やしらーめん、トッピングはとろろで。味はしょうゆで頼む」

「……リアルから戻ってきたら手伝うよ、ガランさん」

「お前だけは味方だな、アスール」

「いやー……でへへ、そう?」

「ああ、手伝うなんて言ってくれるヤツはお前しか――」

「代わりに特製ふわとろオムライスが食べたいかなー、なんて……」

「――悪い、前言撤回」

「えっ、なんでっ!?」

 お守りは大変そうですね。

「あ、言っておくけどさー」

「毒なんて入れるわけねぇよ! 皮肉のつもりか!」

 まぁ、尊敬はしていますが――前科がありますからね、ガランティーヌさんには。



    [to be next scene Side Len...]



「……今のところ、補給線は無事のようだの?」

 定時連絡を欠かさずに送ってくる輜重部隊の報告をまとめてくれているプレイヤーの一人が部屋から去ってすぐ、閣下は不思議そうな面持ちで私を見る。

「何も考えていないからさ」

 人は不思議なもので、何かを隠そう、と考えると必ずどこかでおかしな癖というものが出てくる。

 例えば口元を隠す。確か、ウソをついていることを悟られてしまいたくないからその大元を隠そうとする心理だそうだ。

「よく、目は口よりも物を言う、と言うじゃないか。でも実際は目でウソかどうかを判断するのは難しいし……そもそもそのことわざはウソの判断じゃなくて、欲しがっているものを凝視してしまったりしたときに使うものだろう?」

 実際にウソをついている場合は目よりもそれ以外の挙動に現れるものらしい。というか、目は口ほどよりも物を言うということわざのせいで、目を見れば分かるなんてヘマをする人はかなり少なくない。

 こぶしを強く握ったり、手をポケットに入れて隠したり、腕を組んだり、持っている本を抱きかかえるようにしたり、腕や指をせわしなく動かして強調したり……実際にはこういうのがウソのサインになる。

「ウソをウソと勘付かせないためのコツはね? 隠す、守る、攻める、そういった行動を起こさないのが一番なんだ。イスに座って、肘掛けに両手を置いて、リラックスした状態でウソをついたほうがよっぽどバレにくいんだよ」

 もっとも、それは呼吸をするようにウソをつくことと同義でとても難しい――というのは別に話す必要なんてないか。

「……儂にウソはついていなかろうな?」

「ウソは言ってないよ?」

 必要のない真実も話してないけれどもね。

「さて、戦力図に戻ろう」

 定時連絡に沿って移動させた、自軍の駒を並べた地図上に目を落とす。

「見ての通りだけれど、輜重部隊としてそれぞれの街に向かわせた人数は、こちらの三割前後。そして今のところ、会戦時に間に合う程度のペースを保っている」

「問題がなさ過ぎて困るんじゃが……」

「まぁ……襲ってきたとしても、こちらの戦力を削る以上の意味はないからね」

 食事は病気にならない程度で、ゲーム上差し支えのない程度のもので十分。おいしいご飯は士気を上げると言うけれど、メンバーのほとんどが初心者だからこそゲームはゲームと割り切っている。だから凝った料理をつくる必要性は低いし、むしろマズい料理でも構わない。というか、マズい料理で十分だ。

 ――そして真っ先に根を上げるのは、よっぽどこのゲームで美食を極めたようなベテランプレイヤー、という寸法でもある。

 今度行う面会時、この話を出したときにその苦情を言ってきたプレイヤーが何人いるかにもよるけれど……かなり絞り込めるのは確かだね。

「襲ってこないのは、その、戦力を削る以上の意味がない、という理由かの?」

「しいて言うなら、私達の後方にいる輜重部隊を叩こうとするなら、こちらの陣を大きく迂回しなきゃならない、という意味もあるね。そうなると人間の足じゃぁまず追いつけないさ」

 私達を倒す意味というのは、しいて言うなら名誉以外はほとんどない――ここに来る前、<ロブスター>たちが言っていたとおり、私達に勝った場合の褒賞金額はさほど高くないんだ。

 無駄に出費をして、それで勝ったとしても結果としてギルドとして立ち行かなくなる……なんてことは避けたいギルドマスターも、きっと多いことだろうね。

「敵陣側近くのは捨て駒に聞こえるのじゃが?」

「捨て駒だなんてとんでもないよ。襲われたら荷物を捨ててでも逃げていいとも言っておいたし、街に入れば≪PK≫スキルフルスロットじゃなきゃ傷つけられない。仮に襲われたとして……事情を知らないプレイヤー達がこれを見たらどう思うだろうね?」

 こういうゲームは、不必要なほどの親切心に溢れたプレイヤーが大勢いる。それが偽善であれなんであれ、こちら側が「助けて!」と叫べば相手側は「勘違いで」大量のプレイヤーを敵に回してしまう可能性が高い……利用できれば、なんともおいしい状況じゃないか。

「だから、私は何も考えてない」

 輜重部隊に関して言うなら、これ以上に考える必要がないんだもの。

「敵に回したくないタイプじゃが……味方であれば頼もしいの、レンちゃんは」

「私自身はそんなに頼もしくはないさ。だって、事情を知っているプレイヤーもいるかもしれないんだもの。捨て駒じゃないとは言ったけれど、捨て駒に使われたなんて思われた可能性だって高い」

 私が指示したのは、ちょっとした注意以外は「どこそこの街までお使いに行ってきて欲しい」というものだけだったのだから。

 ――まぁ、リアルでの職業や特技を考えたうえで、だけどね。

「あとは、相手が私に軍師って称号が与えられた逆恨みで、私に戦争を仕掛けてきたんだ。しかもこっちが圧倒的不利になるよう根回しまでして……それが、これぐらい考え付かないとか、正直、頭にくる」

 そして、この、目の前にいる、そんなやっかいな称号を、与えた、閣下にも、ちょっと、腹が、立つ。

(閣下には旗印になってもらって、最前線で討ち死にしてもらうのが一番の理想、だね)

 食事で士気が上げられないなら、勇敢に戦った自軍の将が盛大に討ち死にしてしまったほうが、それを餌にして士気を上げやすい。

 コレ(・・)に人がついてくるかどうかと問われれば疑問には思うけれど、本性さえ隠していれば老獪なベテランプレイヤー、と思わせるには十分だ。

 そこまでくれば、あとは赤穂浪士のような話だね。

 ゲームだからこそ、そして初心者だからこそ、ここで一気に洗脳――じゃない、意思統一してしまう。

 これは看守と囚人の心理実験のようなものだ。人は「与えられた役割」をこなすようになっていくから、最初に限って言えば「そういうロールプレイをしてくれ」と頼むだけでも大丈夫だろう。

 そうすると、深くハマってくれているプレイヤーに対しては、過激な宗教家がよくやるような人間爆弾に仕立ててもいいね。

 閣下の大好きな神風特攻(カミカゼ)だ、とでも言えば喜んで引き受けてくれる可能性が高くて、それでいて相手は手出ししづらくなってしまう。

「――まぁ、ゲームなんだ、楽しくやろうじゃないか」

「お、おう……そうじゃな?」

 おっと……ちょっと顔に出たかな?

「さて、そろそろお昼時か……」

 私は昼の献立を思い出す――ああ、今日はアレだ。

「今日はブラックスープだね、実に楽しみだ」

 豚の血のスープで、味付けには苦いキモを使ってある料理だ。見た目が本当に黒いのでブラックスープ、安直だね。

 味は言ったとおりとても苦い。食べるだけで心がすさんでくる――ハズなんだけれども、試食したとき、私はなんとなくあの苦味をおいしいと感じてしまって、人と嗜好がズレていることに愕然としてしまった黒歴史でもある。

「えっ、またあのクソ苦い黒い汁を飲まねばならんの?」

 閣下がとても嫌そうな顔をする、それだけで私の心は少しスッキリしてしまうよ。

 ちなみに今晩はすいとんだ。戦時中のものを忠実に再現して、さらにアレンジまで加えたとてもとてもマズい料理にしてある。

 ――こちらは普通にマズいと感じたから、私の味覚は多分セーフだよね?

「スパルタ、の語源となったスパルタンという国では、戦争を待ち遠しくするために兵士には平時、これを食べさせていたという伝統的な兵士用の食事だよ?」

 まぁ、今は平時ではなく戦争中なんだから、出す状況が違うじゃないか、と言われればそれまでだと思われるかもしれない。

 でも、戦時中逆にマズい料理を出して「早く戦争を終わらせなければ!」と兵士に思わせて士気を高めていたところもあった……なんていう「史実(いいわけ)」もちゃんと用意してあるから気にするほどの話じゃないね。

「あの、儂、第一種……」

 うん、知ってる。

 だからこっちの食事がとてもとても大事な娯楽だっていうことも、ちゃんと理解してる。

 ――でも、それでも行わなきゃならないんだ。

「司令官ですら全て同じ食事を取っていたというじゃないか。それに、同じ釜の飯を食べた仲、とも言う。同じ料理を食べるというのは心理的にも親近感や連帯感を増加させるのにとても重要なファクターなんだよ?」

 そして閣下への嫌がらせの一つでもある。

「それに、そうやって文句を言うタイプほどこのゲームのベテランである可能性が高い……とは前に説明したじゃないか」

「……先に第一種が釣れる気がしないでもないのじゃが?」

「それこそ、ベテランの可能性が高いよ」

 このゲームの歴史は、第一種特例として選ばれたプレイヤーがかなり大きく深く関わっている。だからベテランの可能性が高い――んだけれども、最近になって第一種になったプレイヤーもいるのだから、この判別方法だけだと信用できない。

「まぁ、閣下以外にいなかったわけだけどね」

 そもそもゲームの歴史上から言うと、第一種特例であるかどうかぐらいはすぐに調べてしかるべきだ。もちろん真っ先に調べたけれど、いないことは確定している。

「だからこんな遠回りまでして、ハチの巣を煙で燻しているような段階なんだ……だから、徹底して付き合ってもらうよ?」

「レンちゃんが鬼じゃ……将来鬼嫁になるタイプじゃ……!」

「失礼だね」

 せいぜいで軽く尻に敷く程度じゃないと、反抗されてしまうじゃないか。ヘタをすれば、三流ドラマでもよくある浮気からの離婚問題だ。

 年金には離婚分割などそういうものもあるんだけれど、そうすると結果としてお金の総額が減ってしまうという。離婚するのは賢い選択じゃない。

 あとは別居もだ。ヘタに相手かこちらが内縁関係になると今度は遺産相続問題でややこしくなってしまう。つまりこれも賢くない。

 結論として、法律的に考えるならば――

「夫婦関係は円満じゃないとダメじゃないか」

 ――それが仮面であったとしても、だ。

「そうか……レンちゃんも普通の女の子なんじゃな。ちょっと安心したぞ?」

 この考えに至った理由を言ったら普通の女の子の発想じゃないと言われそうなので黙っておくとして、

「人をなんだと思っているんだい?」

 この戦争の原因になった閣下をなじる程度の理由が出来たことにひとまず喜んでおこうかな。

「ひとまずこの酷い事を言う閣下には、二倍ぐらい苦くしたものを食べてもらおうか」

「鬼ー! 悪魔ー!」

 ふん、なんとでも言うがいいさ。

 美味しい兵糧か不味い兵糧か……兵糧一つとっても、軍師の思惑というものがあったりするんです、というお話。



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