第6話 ゾンビハザード!
「はぁああるばる、来たぞ地下墓地ぃいい」
嫌な替え歌を歌わないで欲しい……スプラッタは別に大丈夫だが、ホラーはダメだと言ったのに、彼らときたら、
「マスターはまだドラゴンと戦っているのか?」
「電話しても留守電で連絡つかねぇんだよ。まぁ、リーダーの魔法は三発撃ったら一分間のクールダウンが必要だからな。完全に長距離狙撃でちまちま削ってんだろ」
「他のパーティもおそらくドラゴン狩りに行っているはずだから、それほど時間はかからないと思うのだがね?」
「ドラゴン素材欲しさに暗殺者雇った相手らに大立ち回りしてたりな」
「ありうる」
ゾンビとはまったく関係の無い話をしている。「PKとは何だい?」とか聞き出す余裕なんてない、薄暗い地下墓地を、腰に下げられた頼りないランタンの明かりだけで歩いていくこの恐怖……!
地下墓地と彼らが呼ぶそこは、なんと先ほどまで私たちのいた町の真下にある。街の教会の、裏手にある階段から降りてすぐだ――知りたくも無かったよこんな情報は!
あああああ、あの墓石、ものすごくリアルだ! じめじめとした感覚と、何かが腐った匂いを感じ――なにかが後ろを通った気配がっ!?
「ひっ……!」
必死に声を殺す。声を上げたらゾンビや幽霊が一気に襲って来そうだからだ! なんでこの世界は土葬なんだ!? 徹底的に火葬すべきだ!! ゾンビがいるのならばなおさらだ!!!
「あ」
「な、なんだい? まさか……ゾンビかな?」
「うん、まぁ……ボコって、地面から出てくる音がするんだよね、ゾンビ。なんか聞こえた気がした」
「どの方角だいっ!?」
「ちなみにスケルトンはカラカラって音がするし、ウィスプはひゅ~って――」
「どの方角だいっ!?」
「……え、まさか、こわい?」
「当たり前じゃないか!」
「実物はそんなに怖くないから大丈夫だって」
「いや、そう感じるのは朋友よ、君だけだと思うぞ? 我も今だに少し怖い。一体程度ならばさすがに取り乱すほどではないが……」
「いや、怖いか? 多少内蔵が」
「「いうなぁああああ!」」
私とクロウの声が重なる――そして全方位から聞こえてくる、ぼこぼこ、からから、ひゅぅううう、という音、音、音!
「あーあ、大声なんか出すから……」
「出させたのは君だろう!?」
「よし、落ち着いて対処しよう。まずは現状を把握だ」
クロウがランタンで照らした先を、ゆっくりと見る。
「ひぃいいいいい!?」
全身に鳥肌が立つ。
ゾンビだ。
まごうことなきゾンビだ。
説明する必要もあるまい、というか、説明したくもない。とにかく火葬だ、火葬するしかない!
「≪ファイアーボール≫!」
どぅ、と一体のゾンビが火に包まれ、その炎が周囲を明るく照らす。
煌々と、周囲の、数十体近くの、ゾンビたちを、くっきりと。
「「ぎゃぁああああああ!?」」
私と、クロウ、は、もう、だめかも、しれない。
そんなに声出すほどかぁ……? 俺は炎で照らされたゾンビたちとは反対方向に駆け出した。そして鞘ごとベルトの帯剣帯から取り外して、鞘を投げ捨てながらサーベルを抜き放つ。
白刃を振るって、片手でゾンビの急所である頭部を急襲。一閃された頭部が斜めに切り裂かれ、落ちる。そのまま切っ先を跳ね上げるように、狙うのは次のゾンビ、眉間に突き。二体目も沈黙した。
(さすがにシステムアシストがないと厳しい)
元々は両手で剣を扱う、剣道スタイルが俺の基本の戦闘方法だ。奇襲のために片手での攻撃ももちろん練習したことはあるが、所詮それは奇襲用、使っている武器は握りの悪い量産品、手首に若干の負担が掛かるため、長くは持たない。
やはり負担の掛からない刃筋を通した斬撃をするには、両手持ちしかない――ショートソードを振り下ろしてくるスケルトンの頭蓋を、引き面で叩き割る。
一流の料理人になるための練習としてゲームを始めたつもりなのに、なぜか中高の部活でやった程度の剣道の腕まで上がっていく。
何やってんだろうなぁ、俺……って、ゾンビオックス発見、ラッキー!
「はははははっ! その極上の肉をよこせぇええ!」
「≪フレイムアロー≫!」
詠唱短縮とMP増加の組み合わせで、三レベル級の魔法となった一レベルの≪フレイムアロー≫を速射する。狙いは物理無効のウィスプ、動きは遅く、直線に高速で飛んでいくアロー系魔法にとってはいいカモだ、しかも三レベル級の火力なら一撃で落ちる。
先ほどは多少取り乱してしまった。が、ここでこのまま手をこまねいていてはそれこそリンチにされる、生きて帰れるのは、本人に実力があり突破力のあるランディのみ、ならば動いていくしかない。
「弟子よ! ゾンビどもに≪ファイアーボール≫を――っていうか気絶している!?」
いや、この症状は――異常心肺による強制ログアウト状態だ。一般的な婦女子の心臓にはよほど悪かったか……ゾンビたちよ、もう少しリアル志向から離れてくれまいか? その姿はさすがに、食材集めのために屠殺に慣れてしまったランディや、医者ぐらいしか直視できまいよ……というか、開発、仕事しすぎだろう。
「ええい! 一気に焼き払うぞ! ≪フレイムウォール≫!」
数テンポほど遅れて発動する七レベル級火炎魔法。文字通り炎の壁を作り出すこれは、通る際にダメージを与える。七レベル級となった≪フレイムウォール≫ならば、ゾンビのような足の遅いMOBは壁を通り過ぎる頃には落ちる。そうして燃えるゾンビの死骸が一種の肉壁となり、接近を難しくする。これは鈍足MOBを相手取る際の常套手段だ。
その魔法を周囲に何枚か張り、クールタイムを作りながら、乗り越えてきたスケルトンを、システムアシストまかせにショートソードで斬る。
ウィスプは浮遊しているため、さすがに≪フレイムアロー≫で叩き落すしかない。
そうやって≪フレイムアロー≫と≪ファイアウォール≫、そしてクールタイムのルーチンを数十回ほど繰り返す――我の感覚では、クールタイム時の自然回復も合わせて残りMPは半分をきった程度、と言った具合か。
「くそっ、弟子はまだログインしてこないか――!」
防具を布にすればもっと消費を抑えられるが、そうすれば今度は切り札を使えなくなる。我の抱える一種のジレンマだ。
「ええい! 朋友よ! 活路を開く! 撤退だ!」
「そうだな! コレじゃジリ貧だ!」
「弟子に見せられないのが残念だが――」
魔法使いの高等テクニックを使うために我は、試験管に入ったMPを回復するポーションを取り出し、ごくりと一口で飲みこんで、
「≪エクスプロージョン≫……!」
十五レベル級魔法を詠唱開始。そのままタイミングを合わせ、
「≪フレイムウォール≫……≪フレイムウォール≫!」
二度、同じ魔法詠唱を開始。複数の魔法を、タイミングをずらす事でほぼ同時に発動させる多重詠唱というテクニックの応用――発動体とした剣を魔法の発動タイミングに合わせるように振るいながら、発動地点をずらす――!
「爆炎剣!」
朋友の目の前に大規模な爆発が起こる。朋友は体を真横にし、サーベルを立てて最小限のダメージで抑えるような防御の構えを取っていたが――サーベルが砕け、リンネルのインナーは燃えて大破、鎧は中破した。
「あっぶねぇええ!」
「だが道は開けた!」
爆発が起こった左右には炎の壁が立ちはだかる。出口までは一直線だ。
「逃げるぞ、朋友よ!」
「後で弁償しろよ!」
「分かっている!」
なにもこれは我だけのテクニックではないが、我オリジナルの運用法は、複数種類の魔法発動に合わせて剣を突き立て、内側で魔法を炸裂させる。魔法の衝撃は術者にも及ぶために、盾を構え一部を金属の鎧で覆う必要があるのだが……今回は邪魔にしかならなかった。
「この技を撤退に使わざるをえないとは……! 忌々しいゾンビどもめ!」
完璧だと思っていたこの構成を、一から見直す必要がある――言いたくはないが負け惜しみを吐いて、
「≪フレイムウォール≫!」
我は、入り口に追跡を防ぐための炎の壁を作り出した。
ログインすると、私は酒場で突っ伏していた。
「――た、ただいま」
ゾンビを見た瞬間、異常心肺だと判断されて強制ログアウトを受けた私は、その後も心拍異常で数時間ほどログインできない状態だった。
「ようやくログインしてきたか……つーか、ゾンビ程度で異常心肺判定食らうとか……いや、まぁ、アレは慣れるしかないらしいけど、なぁ?」
「朋友よ、アレをみて平然としていられるのはうちのギルドでは朋友ぐらいのものだ。我も危うく異常心肺で強制ログアウト判定だった。心拍数異常上昇アラートが鳴り響いたのは久しぶりだったぞ?」
そんな機能があるのか……いや、まずは、
「ひどい格好だね。ランディ」
まるで爆発にでも巻き込まれたような――まだ顔は隠れているが――鎧の酷い有様に、私はひとまずの感想を言った。
「十五レベル級魔法の爆心地に限りなく近いところに居たからな。まぁ、PKスキルが入ってなかったから、俺自身のダメージは無かったけどな?」
入れられていたら死んでいた、とも、私には聞こえた。
「とりあえず、聞きたいことが二つ」
「PKのことか?」
「それと、クエストはどうなったのか」
酒場で受けたクエストは、連名したプレイヤー達がクエスト条件をクリアすることで達成されると私は説明されている。
そして今回受けたクエストはゾンビ退治、スケルトン退治、ウィスプ退治の三種類で、証拠品として特定の部位を拾わなければならない、というものだった。
「PKはプレイヤーキル、つまり人殺しが出来るスキルだ。フルスロットすると、安全圏ですらPKできる」
「鍵のついた宿屋に泊まる必要のある理由の一つでもあるな」
ただし、PKスキルがなくとも装備品に対しての攻撃は有効らしい。だからこそ、今のランディの状態があるわけだ。
「で、クエストのほうだけど……なんでオートでカウントしてくれねぇのかね? ここはゲーム的でもいいじゃねぇか、と」
「……なるほど、失敗か」
ゲームとはいえ、失敗は失敗。非常に悔しい思いが胸の中に広がって――
「……朋友よ、そんな勘違いさせることを言ってはならないぞ?」
「――えっ?」
「落として上げた方が喜びもひとしおだと思うんだ、俺」
「えっ?」
「拾ってくる数が多ければ多いほど追加報酬のあるタイプだった故、出来るだけ粘ったのだ。まあ、早々に戦線が崩れてしまったため、必要数だけしか確保できなかったが」
「いや、落ち込んだ顔がなかなかどうして可愛いな、レンは」
「――君と言うヤツは……!」
私の聞いた、ランディが楽しそうに軽く弾んだ声は、今日初めて聞くものだった。怒りを通り越して呆れさえもする。
「ま、俺は赤字だけどね。結局のところ、数人分しか食材は手に入らなかったし、武器も防具も壊されたし」
「朋友よ……今回は生きて帰れたことを祝おう」
「そうだな――じゃ、達成感ないかもしれんけど、依頼達成っつーことで乾杯すっか!」
嬉しそうに、彼はエールを三つ、注文した。




