第67話 剣豪と剣匠
異教徒のオスの数は確か、半数よりも五人多かったはずでしたよね?
つまり三十人。
そこから、今私の足にしがみついている人数を差し引いて――……異教徒の死体は二十三体。
食屍鬼は五体。さきほど頭をGMゴロにしたものが、早速近くで死んでいる、近衛兵から剣と鎧を奪った異教徒のグラフィックをゾンビに書き換えながら立ち上がってきます。異教徒の死体は二十二体。
――首筋に深い傷跡があるだけで、とても損傷の少ない体ですね。頚動脈を引き千切られ、失血スリップダメージでの死亡でしょう。
(実にやっかいですね)
そう、この思考ルーチンと特性が実に厄介なのです。武器を持っていないかわりに、鋭い指先をしたガントレッドで心臓をえぐったり、頚動脈を狙うなど、人体の急所を実に的確についてくるのです。
そして死亡したキャラクターは、バラバラにせず放置していればこのように、食屍鬼の予備の体となってしまうのです。
スキルこそ使えないものの、装備はそのままですので強力なキャラクターとして存在してしまうことになってしまいます。ドラゴン装備を着た前衛が敵に回るなどと、実に考えたくも無いお話です。
そして私は、足止めこそできてはいるものの、じわじわと包囲は狭まってきます。未だに邪魔をする異教徒どもが正直ウザいです。さっさと逃げろと言うのに、逃げるのはダメだと言って聞かない。
「――人のスカートの中にてを入れるんじゃないよ! この変態がっ!」
そのうえ、人の体を勝手にまさぐろうとします。まだ武器を隠していないかと探しているのでしょうが……いくら顔が良かろうとも最低の行為を行っていることになぜ気付かないのでしょう? メイスで思い切り後頭部をぶん殴って床に叩き付け、OPKにて天に召されてもらいました。これで異教徒の体が二十三。こんな至近距離に現れてもらっては困りますので、頭部だけは念入りにミンチにしました。ですので、二十二体です。
「な、なにをするんだ!」
「こちらのセリフだっつってんだろうが異教徒!」
ハラスメントコールも無効化されています。むしろGMがいるからこそ、ハラスメントコールが無力化されてしまっているのでしょう。
「貴様らも見ただろうが! アレは近くの死体で復活するんだよ! 頭部ミンチにしとかないとこっちが危険なんだから当然の処置だろうが! さっきから人の邪魔ばっかりしやがって! ぶっ殺すぞ!!」
それでも殺さないでおいてあげているのは、ひとえに私の回復役としての矜持です。
人を癒す人間が、人を傷つけてはならない。ですから私は、敵以外に武器を振るったことはありません。敵でも味方でもない相手にも振るったことがありません。
異教徒どもは正直に言いますと、敵です。が、こいつらにかまっていては私が危険に晒されてしまいます。今のところ私の邪魔だけはしていますが、それだけですので。
私は決して倒れてはならないのです。
後ろには大切な、マスターやヘルフリート君、キリヤちゃんたちが控えているのです。パーティメンバーよりも先に死んでしまうのは決してまかりならない話。
「――しゃぁあああああ!」
蛇のような声でした。異教徒の体を乗っ取った食屍鬼が、聖水の結界を飛び越えて切り込んできます。
狙いは見え見え、心臓。でもそれを容易くくれてやるほど私は温厚ではないのです。
「ふぅんっ!」
私は左右どちらもいける打者です――アッパースイングからの、大根切り打法。一発目は剣を跳ね上げ、無防備になったわき腹に思い切りメイスの真芯で捕らえた、会心の一撃。それはきっと、異教徒を一人減らした功徳のおかげ、神様が奇跡を与えてくださったのでしょう。いまだに腰を入れづらい状況ではありますが、実に見事な一撃でした。
「おうっ……おうっ……おうっ……!」
ばら撒いた聖水にびしゃりと叩きつけられ、継続ダメージが発生したのかアザラシのように鳴き始めます。
うっとうしいので、頭をかち割りすりつぶして差し上げました。
「加護を得た私の命に、その殺意、届かせるのは至難の業ですよ!」
胸元に仕込んだ聖水四本を、聖水の範囲を広げるために広範囲へ投げて、叩き割ります。
ローブの下には、聖水と各種ポーションがまだそれなりに存在しますが――使用するにはローブを脱ぎ捨てる必要がありますし、また異教徒から奪われる可能性も考慮するならば、秘匿するのが最善でしょう。
――となれば、私が今取り出すことの出来る聖水は全て使い切ったことになります。
「おぉおぁおあぁおあああ……」
また新しい体です。これもまた損傷が少ない――異教徒は実に役立たずすぎですね、あっけなくやられるなど……残り、延べ二十一体。
聖水の守護範囲を広げておいて正解です。
「――あ、剣!」
異教徒が何かに気付いたように叫びました。
私の体から離れて、目の前にある頭の無い死体から、自分たちが奪った剣を取り返して戦おうと考えていることが、見え見えです。
「おいテメェ! そこの剣をさっさと返して来い! お前みたいなクズが戦ってもどーにもならねぇんだよ!」
「なんだと!?」
「女の後ろに隠れてる玉無し野郎に用なんてねぇんだ! さっさと盗んだソレ返してきやがれ!」
「盗んでない! 借りただけだ!」
そしてまた自分はお客様だ、だから神様だ、言うことを聞けというわけの分からない理屈が始まるのです。
――武器をもたれたまま死なれては利敵行為ですしね。私の中で『邪魔するしか能のない敵』から『明らかに有害な敵』という認識に切り替わりましたので、叩き潰して差し上げました。頭も綺麗に、すりつぶして。
「借りた、借りたと言ってるけどさぁ! このイベントは『この場にいる全員で協力して』達成するもんだったんだよ! それをお前らだけで何とかしようとか、おこがましいにも程があるわ! 婚活パーティに来てるやつらがなんで戦おうとか考えるんだ! ゲームを舐めるんじゃねぇよクソが!」
「お、オタクごときが……」
「お前らがそう思うならそうなんだろうな! お前らの頭の中じゃあなあ!!」
このゲームがどれだけの人に救いを与えているか、一切考慮しておりません。
「目が見えないやつも! 手や足が動かないやつも! 植物人間だったやつも! このゲームでどれだけ救われてると思うんだよ! オタクだ気持ち悪いヤツらだと言ってるお前らのほうがよっぽど愚かだわ! そんな素晴らしいこの世界を、お前らみたいなクズが婚活程度ごときに使うだと? ハッ! お笑い種だね! 現実が見えていないのは、お前らのほうなんだよ!!」
――私の怒りが爆発したのと同様に、そのとき入り口よりやや上の壁が、突然爆発でもしたかのように、砕け散りました。
[to be next scene Side Len...]
「うぁあああああああああああああ!」
衆目を集めるかのような、甲高い雄たけび。
アスールのものだ。
ゲリュオーンが握りつぶした壁の一部から、ゲリュオーンの反対の手の平に乗って、すっと差し込まれたその瞬間――その広場にいたすべての人間が、アスールを注視した。
「≪ブリザード≫!」
肺の空気を全て搾り出すようにして、狂戦士と呼ばれた中学生は一瞬だけ、それを詠唱する。
(いきなりかっ!)
私の視界が一瞬で真っ白になる――ゾンビの敵愾心を稼ぐために使用した低レベル範囲魔法は、そこを真っ白に染め上げることだろう。
「軍師! ≪セット≫でアタシの近くにブレイド系!」
「なんだって!?」
「二度は言わない! ≪詠唱破棄≫!」
たった一振りのサーベルを携えて、ゲリュオーンの手の平から戦場へと飛び降りた。地面には雪が積もっているけれど、それをものともしない。転んでしまうような失態を犯すほうがおかしいとでも言うような、そんな綺麗な着地だった。
「ひ弱な回復役ばっか狙って楽しくなかったでしょう? アタシが相手だ! 存分にかかってきなよ!」
ばさり、と白いマントを翻す。その体からキラキラとした光が放たれる――≪スコール≫で濡れてしまった体を≪ブリザード≫で凍らせて、細かい氷の破片を周囲にばら撒いたのだ。色々な光を反射して、美しいエフェクトへと変化していく。
まるで白馬の王子様……いや、雪原に咲く白百合の騎士だ。思わず見とれてしまうような、そんな雰囲気さえある。
「ふぅん……いい演出、そしていい演技じゃないか」
感心したように呟くのは、ランディだ。突入するゲリュオーンの手の平には、私とアスールしかいなかったのだから、わざわざ上って来たのだろう。
――ゲリュオーンで壁をぶち破らなくても、そのまま正面入り口から突入すればいいのではないかとも思うだろうけれど、ここまで飛び上がらなければ敵は逃げることもままならない……これは入り口を使用しないという突入作戦の基本でもある。実に理にかなっていた。
「アスールさん!?」
あっけにとられていた、というよりは見とれてしまっていたうちの一人――ルシーが声を上げた。
「増援だよ、軍師と一緒にねー!」
サーベルを持っていない左手で、Vサイン。こちらからでは見えないけれども、きっと明るく笑ってることだろう。
「むむむ……まさか正面から増援がくるとか思ってもみなかったぞ……!?」
ジルコニアGMが唸り声を上げ――そしてアスールへ完全に敵愾心が移ったのか、鎧を着たゾンビたちがぐるりとアスールを向いた。
「だぁあああが! 何度でも蘇る私の軍勢にたった一人で耐え切れるかなぁ!?」
――そこは酷い戦場だった。
ほぼ無傷のまま、なすすべも無く倒れてしまった近衛兵が何十人も転がっていて――そのその仲間入りをしてしまったゾンビすらいた。
(ここでアスールは、きっと倒れるだろう……)
それが私への仕返しなのだから。
(……けれども)
その罰を甘んじて受けてもいいのだろうか、とも思う気持ちも、なくはない。
「――アスール! 行くよ!」
それに、ここで全力を尽くさないと……死に戻ってきたときのアスールに、顔向けが出来ないじゃないか!
「よっしゃ! こぉおおおおい!」
私は「レンの魔導書・聖の章」のあるページを開く。
「≪セット≫――≪セイクリッドブレイド≫」
「伝説の聖剣が欲しい? よし、ならば今、作ってやろう」――とある老魔術師。
きっと使うことはない、そう思っていた魔法……近接戦闘用の、属性を持った魔法のバスタードソードを作り出すという、とてもシンプルな系統の魔法だ。
それを、アスールの目の前に召喚する。
「よっしゃぁあああああ!」
彼女は、その剣の柄をがしりと握った。
薄く雪の積もった地面を蹴って、滑るように走る。
「速っ!?」
そう言ったのはジルコニアGMだった。
「ひとぉおおつ!」
私の作った剣が、鎧ごとゾンビを真横に両断する――でも、それだけでは完全に死なない。まだ動いているソレの鎧の隙間めがけて、サーベルを突きたてる。
――縫いとめたのだ。
「軍師っ!」
魔導書をもう一冊取り出して、片手でページを開きながら詠唱を開始する。
「≪セット≫――≪フレイムブレイド≫」
「斬る、焼く、同時。あと、お前、喰うだけ」――イカれた料理人。
「よぉおおいしょぉおお!」
飛びかかろうとして、体勢を崩してしまいながらも突撃の形を崩さない、近衛兵の装備をした活きのいいゾンビに対して、≪セイクリッドブレイド≫を横薙ぎに振るう。
「もういっちょぉ!」
≪フレイムブレイド≫が床を削りながら跳ね上げられ――十文字に切り裂かれ、燃え上がる。火の砲弾と化したソレらは、アスールの頭上を越えて、後ろにどうと転げてしまう。
「ここはアタシの戦場だ! 本気を出せずに切り刻まれてけ!」
そして両手の剣を、先ほど縫いとめておいたゾンビへと叩き付け、完全にトドメを刺す。
「≪ブリザード≫!」
今一度の敵愾心を集める。
「≪詠唱破棄≫!」
私のブレイド系は七十八レベルだ。たかが一レベル程度の≪ブリザード≫数秒で消滅するわけがない。
「ガンガン召喚!」
「――≪セット≫」
私は「レンの魔導書」を投げ捨てた。
「≪アースブレイド≫! ≪アイスブレイド≫!」
彼女が望むのであれば、
「≪エアロブレイド≫! ≪サンダーブレイド≫!」
それに答えるのが私に科せられた罰のような気さえしてくる。
「≪ダークブレイド≫! ≪カオスブレイド≫!」
アスールの周りに≪セット≫で各属性剣が召喚される。
「――さぁお立会い!」
彼女は謳う。
「音に聞こえた“大禁呪の魔女”レンが鍛えし業物、天下八剣!」
彼女を囲む剣の結界、その中心で、
「命知らずは、かかって来い!」
まるで出来のいい演劇でも見ているかのような錯覚さえ覚えるように、彼女は謳う。
[to be next scene Side Lucifer...]
恥ずかしげもなく、まるで演劇の舞台にいるかのように。アスールちゃんは見事にその役を演じてくれました。
人の危機に誕生する救世主役。その姿は西洋の服装に似合わず、まるで剣豪将軍足利義輝。
さしずめレンさんは――そうですね、魔術書を持っていますし、賢者マーリンといったところでしょうか?
その美しくもかっこよく、そして可愛らしい姿に、私はすっかり毒気を抜かれてしまいました。
「ぶ――武器だあああああ!」
ですが無粋者はいつでもどこでもいらっしゃいます。おぉおおおおおお! という歓声を上げて、私にしがみついていた方々がその武器を奪おうと走り出そうとします――が、アスールちゃんのばら撒いた雪のおかげで滑って転んでしまいました。
ひどく滑稽ですね――そして、せっかくの救世主を補給部隊と間違っていませんか?
「踊り子さんに触れてはなりませんよ――っとぉ!」
先ほどまでの私は、一発だけなら誤射、その気持ちを忘れていた気がします。
ゴルフはやった事がありませんが……まぁバットのスイングを極端なアッパーにしたようなものでしょう。
「ぐふぉあっ!?」
痛みがないのは幸いでしょう……なにか折れた気がしますもの。
「な、なにをするんだぁー!」
「見ての通りゴルフもどきです……あんなに可愛らしい、剣豪少女アスールちゃんの邪魔はしちゃいけません」
右に打ったら、左に返します。
まるでほうきでゴミ掃除しているかのような気分に陥りますが――アスールちゃんが雪を撒いてくれたおかげで、実によく滑ります。
私にしがみついていた七人の異教徒たちを壁際まで……えっと、ゴルフだとパターでしたっけ? 転がすものは……ホールインワンしてしまいました。
こん、こん、すここん、と小気味よくいけた気がします。
雪があるからこそ、でしょうが、雪がなければもっとしっかりと踏ん張って転がせた気がします、非常に残念ですね。それだけは。
「せい――やぁあああああ!」
左手の≪セイクリッドブレイド≫で横薙ぎに切り払い――往復するように切り払います。あれこそアスールちゃんがあの大人気ない軍曹とかサブマスターどもに叩き込まれた、吉岡百人斬り。
本来ならば両手で剣を、ハサミのように開いたり閉じたりするように動かしながら複数の相手を斬り捨てつつ駆け抜けていくものらしいですが……なぜそれに吉岡百人斬りという名前が付いたかは不明です。
アスールちゃんは知らないそうですが……レンさんならば知っているかもしれません。
あの人の知識量も大概ですしね。
「ジャンジャンバリバリ作って!」
≪フレイムブレイド≫を投げつけて、今まさにゾンビにならんとしていた異教徒の頭部を貫いて、火達磨に仕上げます。
すぐさま手近な≪アースブレイド≫を引き抜くと、≪セイクリッドブレイド≫の死角になっていた右手側から近づいてきた食屍鬼に一発お見舞い。
さすがは七十八レベル級、属性蓄積重視系の魔法。一瞬で転倒してしまったソレの頭部を、兜ごと≪セイクリッドブレイド≫で貫きます。
――どうやらそこで耐久度がゼロになったらしく、ぱりんと砕けます。
すぐさま近くの≪エアロブレイド≫に手を伸ばしながら、≪アースブレイド≫を投げつけてまた縫いとめ、転倒させます。いえ、させ続けます。
続いて≪ダークブレイド≫を引き抜き、近づいてきた食屍鬼の腹部へ突きたてました。
アンデッドには闇属性に耐性がありますが、その状態異常への耐性はほぼありません。
そして闇属性の状態異常は「呪い」。STとMPにスリップダメージが入るもので――STを殺し続け、膝に手をつく強制息切れモーションにし封殺します。
どちらも耐性がある相手にも通用する、一つの時間稼ぎのテクニックですね。特に今回のような相手ならば、迂闊に殺してしまうよりは封殺してしまったほうがよっぽど楽ですから。
「≪セット≫――≪セイクリッドブレイド≫、≪フレイムブレイド≫、≪アースブレイド≫……!」
足りなくなると見るや否や、レンさんはすぐさまアスールちゃんの近くに剣を突き立てます。
(素晴らしい……)
剣豪と剣匠のコンビネーションに、感動すら覚えてしまいます。
――心強い仲間がいるからこそ、全力が出せる。
――後ろで支援してくれる人がいるからこそ、万全の体勢で戦える。
これも、その一つ。
「……ヘルフリート君。あれが、あなたの目指すべき境地ですよ」
彼とは遠くへ離れているため、聞こえないのは百も承知ですが……そういうことを気にするのは、野暮と言うものです。
[to be next scene Side Len...]
「――食屍鬼かっ!」
数体ほど見た瞬間、私の頭の中で特徴が一致することに気がつく。
「厄介な……!」
その特性とアスールの戦い方を見て、使用する剣を選択するように魔導書を拾い上げた。
「≪セット≫――≪アイスブレイド≫!」
ボロ布を着て、ほの暗いランタンを腰に下げた男は言う。「その魂、殺してでも奪い取る」――死神と呼ばれた男
アスールの近くに≪アイスブレイド≫が召喚され、突きたてられる。アスールはさっそくそれを握り、
「そこぉ!」
活きのよさげな食屍鬼の太ももに投げつけて、中ほどまで食い込ませる――水・氷属性の状態異常のひとつは凍結だ。斬ったところからパキパキと凍結し、体の大半の動きを封じ始める。
決して呼吸が出来ないような状態にはさせないよう、下半身を狙った精密な投擲――要は殺さずに封殺していき、死体をどうにかしてからのほうがいいのだ。
「お見事っ! ≪エアロブレイド≫!」
景色が歪むほどに圧縮された空気の刃を振りかぶる。「風の、大気の、空の重さを……とくと味わえ!」――鋭い眼光の魔法剣士。
「なんでコレなのよっ!」
それを受け取ったアスールは、返す刀で近くの食屍鬼からの攻撃を、叩き落す。
「アタシを殺す気!?」
「私を信じてくれ!」
「チッ――!」
さらに切っ先を翻して、突きたてる。
「離れてっ!」
言われたとおり、アスールが距離を取る。すると、
「ぉおおぁあおああぁあおおおおお……?」
≪エアロブレイド≫を突きたてられた食屍鬼は意味不明なダンスを踊り始めた。
「風属性の状態異常は混乱だ!」
そう名付けられているけれども、正しくはめまいを引き起こす。集団戦なら結果として混乱しているかのように仲間に攻撃をしてしまうこともあるだろうけれど、正確にはあらゆる行動が正しく行えない状態になる。
「こういうことかー!!」
地属性のように「転倒」させて動きをほぼ封じるものじゃない。けれど少しの間、平衡感覚や遠近感などを狂わせてしまうという、とても恐ろしい状態異常だ。
今みたいに密集していないような状態ならば、相手の攻撃が完全に意味不明な踊りになってしまう――他のゲームに慣れていると大きく勘違いしてしまう状態異常の一つだ。
「それに近づきさえしなければもう無害だ! 次は――≪サンダーブレイド≫!」
力強き巨人は、黒雲に閃く雷鳴を掴み取る。「けして砕けぬ盾ならば、斬ればよいのだ!」――雷の精霊
「わっかりやすいのきたーっ!」
雷属性は、そのままずばり「麻痺」。一定時間身動きをとれなくする。実にシンプルだ。
「こういうのがいいのよ! こういうのが!」
アスールは最後の一体に対してその剣を使い、動きを封じる。
「さぁ、死体を焼き払ってくれ! ≪セット≫――≪フレイムブレイド≫≪フレイムブレイド≫≪フレイムブレイド≫……!」
次々に召喚される刀剣を、
「火葬だ火刑だ煉獄だー!」
彼女は次々に死体へと投げ続ける。
それは一切狙いたがわず、死体へと突き刺さり――業火へと包ませる。≪ブリザード≫を使ったおかげか、近くの雪が解けて延焼を防いでくれている。
「……アスールが狂戦士と呼ばれている所以だな」
その姿を見て、ランディはポツリと呟いた。
「軍曹と俺が、きちんとした剣士に育てたはずなのにな。大体の戦闘ですぐに剣を投げつけんだよ、あいつ」
なるほど。つまりは毎回、あのようにして戦うことがあるのか……投擲に向かないはずの剣を投げ慣れているから、上手に投げて突き刺すことができたんだ。
そんな事を思っていると、動きを封じた食屍鬼を含め、火葬が終わったらしい。
「軍師! ちょっと!」
完全に安全を確保した、と自身を持って胸を張りながら、私を呼びつける。
「行ってこい」
「ああ、そのつもりだよ」
――結果として、アスールは私の予想を裏切った。
私の作戦ということにして、たった一人で戦いを挑む。そこで死ねば私の責任だ……だからどこかで手を抜くかと思っていたのだけれど、彼女は私の予想を裏切って、全力で敵を殲滅した。
(ちょっと、合わせる顔がないね……)
実に複雑な心境だ。
いや、ランディが見ているからその策を諦めた、と言えば辻褄が合うし、ランディから離れるわけだから……まぁ、そういう話なんだろうね。
私はゲリュオーンから飛び降りて、両手をつきながら着地する……アスールのように上手くは行かないね。転ばないように必死だよ。
雪道もなかなか歩き辛い……むしろ、彼女のところに行きたくない気持ちの現われなのかもしれない。
――とうとう、アスールの目の前だ。
「軍師……いやさ、レンさん」
わざわざ、素の自分の言葉で言い直す。
「……うん」
心が重たい。鉛になってしまったみたいだ……たった一言、返事をするのも、一苦労だよ。
「ん」
アスールは、右手を、顔よりもちょっと高くに持ち上げた。
それは――
「ちょっと、クサくないかな?」
――私の心を、ほんのちょっとだけ、軽くしてくれるような格好だった。
「クサいってちょっとー! ここは無言で乱暴なハイタッチでしょー!? 様式美ー!!」
彼女は最初から、私の事を敵だなんて思ってなかったんだろう。
ただの、私の、空回り。
くるくる、くるくる、散々回って……結局は年下の彼女に、心が救われる。
「ま、私とレンさんは恋のライバル、ってことで……そこんとこよろしく!」
――恋のライバル、か。
別に、勝つつもりは毛頭無いんだけれども……今では、ロミオとジュリエット効果のために、ちょっとした障害になってあげるのも悪くない気がするよ。
「こう見えて、私は策士だよ?」
だから、初心者という立場を利用して……アスールが嫉妬してしまうぐらい、もうちょっとだけ甘えてしまおうかな?
もちろん、ランディに、ね。
「私たちの軍師が、普通それ言っちゃうー?」
「……そうだね、不本意ながら、そうなってしまったね」
そういえばそうなってしまったんだった……もはや苦笑いしか浮かばないね。
「まぁ、今回はよくやってくれたよ。私の作戦のおかげだね」
「あっ、ずっこーい! 手柄奪うとかー!」
「なにを言うんだい? これは君が、最初に言い出したことなんだよ? 私には何の責任も無いさ……それに、ライバルなんだろう?」
さっそく私という障害を用意してあげよう。
大切な友達が、私という障害を、どう乗り越えるのかが楽しみだね。
「ぐぬぬ!」
「ふふ……っ」
悔しそうな顔をするアスールの、未だに上げている右手に、おもいっきり私の手の平を叩きつけてやった。
――痛くないのに、じーんと痛い。それがとても、心地いい。
なろうから出た作者さん達の小説を買いあさりました。
いつかきっとあんなふうに、とも思う今日この頃……そういう夢もあったなぁと思いつつ読んでみたいと思います。
……更新、遅れないように頑張りたいところです。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




