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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
婚活編
66/97

第65話 ファンブル!

「――バイソンが殺られたようです」

 軍師さんの連絡(コール)を受けた私は、軍師さんから言われたとおり、それとなく近づいてジルコニアGMに告げ口をします。

「だがヤツは我ら四天王のうちもっとも弱い小物……っ!」

 やって楽しい四天王ごっこ。

 ですが今回はちょっとばかり冗談ではありません。街の規模で襲われたわけですから。

「小五郎も倒されたようですが」

「……アレはもともと裏切り者。魔王(うんえい)の右腕を気取っていたようだけれど、所詮はそれまでの男だったのよ」

「はぁ、そうですか」

 バイソンGMと小五郎さんとジルコニアGMが四天王らしいですね。あと一人はよく分かりませんが。

 でも冗談で済む範囲なのでしょうか?

「ところでジルさん? そろそろ負けを認めればよろしいのでは?」

 いわゆる、降伏勧告ですね。

 無理だとは言っておきましたが、軍師にやれと言われたのでやるしかありません。立場上、彼女のほうが上なのですから。

「え? こちらは勝ち負けとかそもそもどうでもいいんですけど?」

「あ、そうでしたか」

「ログアウトした後、プレイヤーが『今日も楽しかった』と言ってくれれば商売的に私達の勝ちなわけですからね」

「普通そうですよね」

 MMOとはつまり、お化け屋敷のようなものです。

 暗くて転びやすい、なんて不親切なんだ。しかも恐ろしい、こんなところにいられるか――でも楽しかった。そう言わせるのがお仕事です。

「まぁ何が言いたいかっていうとねー? 降伏勧告? は受け入れられないんだよねー」

「当然の話ですね」

 でもやはり、同じことが多いと飽きます。あらゆる行為が「作業」に思えるようになってしまうのです。

 どのゲームでもそうですが、適切な装備とスキル、そして下準備さえあれば最強存在だろうとハメ殺しできます。マスターが≪ブラスターレイ≫一筋なのは、対ドラゴン戦を想定しているからです。

 そこで運営や開発陣(かみがみ)の出番になります。

 彼らはそのバランスをとるため、時には「決してやってはいけない事」にまで足を踏み入れることすらあるのです。

 だから私は無理だと言ったのですが……まぁ軍師には少しだけ早すぎるお話でしたね。

 そもそもゲームをやるのも初めてという噂、知識としては知っていてもそこから先が伴っていない……なら、実体験で覚えてもらったほうが手っ取り早いです。

(私が面倒くさいということもありますが……)

 MMOゲームなんか特に、ある程度キャラクターが完成すればやることなんてほとんどありません。

 ログインすればいつもの溜まり場へ行き、仲間と喋ってゲームを終える……あとは自分に制限を加えてゲームをする縛りプレイヤー、キャラクターに着せる可愛い装備やエッチな装備、あとはかっこいい装備を着せるために狩りという名の作業(・・)をするプレイヤーなどもいますが、最も悲しいことはフェードアウトしてしまうことでしょうね。

 そうならないためには小五郎さんのように対人を行うなど、スポーツ的またはゲーム内でのゲーム的な楽しみを見つけるしかありません。

 ――実につまらないとは思いませんか?

 だからこそGMは「余計な事をやらかしてくれる」存在なのです。それがどれほどありがたい存在かは……きっと若いうちは分からないのでしょう。


 あ、私のことを若くないとかそう思ったり呟いた方は即座に正座してください、三時間ほどで結構です。座布団の代わりに画鋲ないしは洗濯板をご使用ください。


 ともかく、結局のところGMの暴走は場を盛り上げるためのハプニング装置に過ぎません。そういうことなんです。

「恨み言はきっと言われるけれど、それがモチベーションになって楽しいバカ騒ぎが続けられる、素晴らしいことだと思わない?」

 そうすると小五郎さんへのフォローは考えているのでしょうかね?

 まぁ小五郎さんはさんざん言われ慣れた方ですし、そもそもその凶行の数々が犯罪抑止として働いてくれているというお得なタイプなだけに、大丈夫でしょうけど。

「それはそれとして。こっちとしても、ゲームでゲームの仕事をするならいいとして、ゲームに来てまで現実の仕事されるっていうのもあまり面白くない話だったりするんですよねー」

「なるほど」

「そこに第一種特例の社会復帰って名目があっても、結局のところ使い潰されるって見えてんじゃん」

 マスターも言っていましたね。

 実に難しい問題だと思います。

 医学の進歩で、いずれは復帰できる方も多くなるでしょう。

 マスターはまだ若いので、その「将来復帰できるかもしれない」方の一人です。

 今回のGMの暴走イベントは、ある意味で私達が失敗すべきものでしょう。

 でも、成功させる。

 私達はそういう楽しみ方(・・・・)を選んだのです。

「――始まりの街でシスターのロールプレイをやっています。罪悪感が芽生えたなら、オフの日にでもいらっしゃってください。懺悔をお聞きしますし、悔恨する気があるのであれば、もちろん主は許してくださるでしょう」

 ただし、ゲーム内でしかも神父相手ではなくエセシスター相手の懺悔で、主が許してくださるほどお心の広い方であるかどうかは総本山のバチカンにでも聞かなければならないでしょう。

 まぁ、私はキリスト教徒でないので、そうまでする必要などありませんけどね?

「んー……私この仕事に誇りがあるからなー」

「そうでしたか。失礼しました」

 予想の範囲内ですね。

 ここから先は私の自己判断に任せると言われてしまいました。責任は取ってくださるとのことで、気楽ではありますが……軍師の言うとおりなら、仕掛けてくるとのこと。

 私としてもきっと仕掛けてくると思います。

 はぁ……専門家(エクソシスト)ではないんですよね、私。

「それでは、お仕事頑張ってください」

「当然頑張る! 超頑張る!」

「では、私はヘルフリート君とキリヤちゃんを守らなければなりませんので」

「そっちも全滅しないように頑張ってねー」

「まぁ、ほどほどに頑張りますよ。ゲームは楽しく行わなければなりません。それが(うんえい)の試練であってもです」

「よくぞ言い切った! そういうの嫌いじゃないよ!」

「私はあなたの事はあまり好きじゃありませんよ」

 私が好きなのは可愛い思春期ごろのお子様達であって、人外に用はありません。

「それでは降伏勧告は無意味に終わったということで」

「頑張ってねー」

 ヒラヒラと小さな手を振って私達を応援してくれます……これが可愛い可愛いお子様だったらもっと気合が入ったのに。

 私は、壁際に待機させているヘルフリート君とキリヤちゃんのところへと戻ることにしました。

 ――ちなみに“お客様”と閣下さんや近衛兵さんたちは眼中にありません。

 閣下さんと近衛兵さんたちはそういうことに慣れているでしょうから気にするものではありません。

 “お客様”は正直目的と手段が入れ替わってき始めている時点で守る気が失せています。

(ああ、私の本職はシスターであってエクソシストではないというのに……)

 どうせ“お客様”が暴走して営業さんのほうからバッシングを受けて面倒くさいことになって……憂鬱な気分になりながら壁際へ歩いていきます。

 ――この憂鬱な気分を吹き飛ばすために、ヘルフリート君とキリヤちゃんを思う存分愛でましょう。

 少なくとも、頭を撫でるぐらいの猶予はあるはずです。軍師の言うとおりであれば、ガランティーヌさんの使った≪ブリザード≫が入り口を中心として三十メートルほどを、雪で封印したとのことですし、駆逐作戦もずいぶんと進んでいるようです。

 こうなると正攻法でこの城に入るには少々手間取りますから、おそらくはMOBの直接配置(・・・・)でしょうね。

 ゲームとして見るならば、本来やってはいけない事です。だからこそ、地下墓地からゾンビを出すという、わざわざ回りくどい方法をとったわけです。

「ただ今戻りました」

 私がヘルフリート君の頭を撫でようとすると、彼に思い切りはたかれてしまいました。ちょっと気持ちいですが、悲しくなったのでキリヤちゃんに標的を切り替えて――拳が私の腕を捕らえて、弾き飛ばされました。

「……ちょっとくらい頭を撫でたってバチは当たらないと思うんですよ。お姉さんの労をねぎらうつもりで」

「「断るっ!」」

 酷い話です。私が一体何をしたのでしょう?

「そんでルシーはさ、ねーちゃんから頼まれたことちゃんと出来たのか?」

「無理でした」

「やっぱ変態って使えねーな!」

 ヘルフリート君がまた生意気になってきました。

 お姉さん、ちょっと悲しいです。

 でも生意気なところも可愛いので許しましょう。ゲームでの私は敬虔なシスター、罪を憎んでも人は憎まず――そう、人は許されなければならないのです。


「――と、いうわけでぇ! レディース、エーン、ジェントルメーン!」


「ってか、なんかGMが叫びはじめたんだけど?」

「無理でしたと言ったじゃないですか」

「変態マジつかえねーな!」

「そんな事を言われても仕方がない話です……ほら、始まるようですよ?」

 パーティ会場の中央で踊っていたのは会場中に声がよく通るようにするためなんでしょうね。

 妖精型アバターのジルコニアGMは、飛んでいた高度をゆっくりと上昇させていきます。遠くの人にもよく見えるようにとの配慮でしょう。

「本日のぉ! メーンイッベーンツ! 私の騎士様っ! 襲ってくる敵から守って!」

「ちょ、聞いてませんよ!?」

 その声を上げたのは営業の――えーっと、どなたでしたか。男の方でした。

 でも、目的と手段があべこべになってしまった“お客様”は「おお!」と楽しげな声を上げます。

(ああ、これは不味いですね……はやく避難勧告をしなければ)

 そう考えてた刹那、ある一名は唐突に近衛兵さんの一人から剣を奪います。

「――って、ちょっと!? あなた一体何を!」

 それを皮切りに、次々と武器を求めて近衛兵から武器を奪っていく“お客様”たち……中には鎧を剥ぎ取ろうとする方々までいました。

「ちょ、お客様!? お客様ー!?」

「ふははは! 早くしないとゾンビたちがやってくるぞぉおおおお!」

「これは……ああ……っ!」

 ここぞとばかりにジルコニアGMが煽り、次々に武器や防具が奪われていきます。

 それと同時にGMの足元からゆっくりと、混沌とした暗いエフェクトがゆっくりと広がっていきました。

 これはもう……避難勧告を出すタイミングを確実に逸してしまいました。「イベントとして成立させる」これがGMの策というならば、まさに悪魔の所業。

 耳を済ませば、ゾンビのような声まで聞こえるじゃありませんか。これは召喚のちょっとした応用でしょうか? でもまだ手も何も出ていません。ただひたすら声だけ。

(わざとでしょうねぇ……)

 装備品をかっぱいでいきます。営業さんが悲鳴を上げます。近衛兵さんたちは抵抗して――いるように見せかけて、けっこうすんなりと渡しています。

 まさか防具まで奪われるとは軍師さんも予想していなかったでしょうが、きっと近衛兵さんたちは想定していたんでしょうね。ちゃっかり、「我々の高級な武器防具を奪うとは何事だー」なんて抗議までするんですが……もう少し演技力をつけてはどうでしょうと思う方々ばかりです。

「ちょ、俺様の武器盗るんじゃねーよ!」

「うるさいっ、子供は大人の言うことを聞いていればいいんだ!」

 ――大人としてどうでしょう? 結婚を考えているならばなおさら。

「俺たちが守ってやるから大丈夫だからそれを貸せ!」

「あーおれのぶきがー」

 拳と脚で戦うキリヤちゃんにとって武器なんて飾りですので、痛くもかゆくもありません――が、演技力がなってませんねぇ。

 軍曹さんも含めて、彼の弟子の系譜ってどうしてこう演技力が乏しいのでしょうか?

(まともに戦えるのは戦えるのはキリヤちゃんだけですかねぇ……)

 子供の防具はサイズ的にさすがに着れませんので防具まで奪うことはないで――

「ちょっと防具だけ貸してくれ!」

「「「はぁあああ!?」」」

「悪いようにはしない、オタクだろうと腐女子だろうと守ってやるから!」

 ――ちょっとカチンときますねぇ、これ。

「サイズ合いませんよ?」

「ゲームだから大丈夫だろ!」

 はい、ゲーム脳ですね。

(……ここの結婚相談所には登録しないようにしませんと)

 年齢と婚期的に登録をそろそろ考えようかと思っていた私にとってはとてもいい情報です……あ、若くないとか思った方、有刺鉄線を追加してください。

「ちょっと借りるからっ!」

「あ、はい」

 そうやって気を抜いていたら私の見せ武器(スタッフ)が奪われました。女性です。

 実にバイタリティ溢れるようで、うらやましい限りですが……あなた、趣旨から外れていますよ?

(騎士様に守ってもらうのがメインであって、騎士様を守ってどうするんでしょう?)

「魔法ってどう使うの!?」

「まっすぐ腕を伸ばして、杖を突き出して相手に狙いをつけて魔法を唱えれば大丈夫ですよ。≪ファイアーボール≫が使えますね」

 最初にスキルジェムを貰っていれば、の話ですけれども。

「ありがと!」

 そう言って駆け出していきます。

 実に混沌としています。

(丸裸とまでは行きませんが、ヘルフリート君は武器なし……)

「――ってなんだこれ!?」

「くそっ! 着れねぇ! 使えねぇ!」

 ヘルフリート君とキリヤちゃんの防具と、防具に見えていたキリヤちゃんの武器(ガントレッド)ががしゃんがしゃんと放り捨てられます。

 キリヤちゃんの武器はともかくとして、防具は投げ捨てられた衝撃で曲がり、歪み、着れそうにないような状態に変化しました。

 柔らかいというのも考え物ですが、そもそもが軍曹の言う中空装甲として作られた防具であり、ちょっとのことで壊れることが大前提。

 作った方の責任ではありませんし、まして防具の責任でもありません。

(なんて人達でしょう……!)

 忠告はしました。

 それなのに捨てるとは、あまつさえ壊すとは、なんということをしてくれるのでしょう?

「あああああ……オレの武器がぁああああ……!」

「……あんな安物壊されても俺様気にしちゃいねーし……あんな安っぽい鎧なんてどうでもいーし……!」

 ――強がってはいますが、精神的なダメージは大きいようです。

 当然ですよね。急遽用意したとはいえ、ギルドからお金は出したとはいえ、初心者のうちから買い与えすぎも悪いと身銭を多少切らせたわけですから。

 ゲームで初めて買った武器……しかも、ちゃんと装備している実感があるもの。そんなちょっとした思い出の品を、あんなふうにされて、冷静でいられるほど彼らは大人ではありません。

(……異教徒どもが)

 このゲームに初めてログインしたとき、体の能力が上がるせいで、一種の全能感を覚えます。俺様勇者系特有の、根拠のない自信もそこから来るのです。

 ――その鼻っ柱を叩き折ってくれるような厳しく強いMOBたちと戦ったことのない甘ちゃんたちは、いったい何分ほどで全滅してくれるのでしょう?

 まぁ、ゾンビなら全滅はしないでしょうね。数によりますが。

(――と、いうか)

 もう婚活の体裁すら保っていませんよね? あなた方ゲームしにきたんじゃないんですよね? 婚活しにきたんですよね? そこの分をわきまえていただきたいところですが……まぁ、今更なにを言っても無駄でしょう。

運営(かみさま)、どうかこの異教徒どもに最大級の罰を)

 そして、どさくさにまぎれて営業二人も殺そう。

 幸いながらメイスはローブの下に隠し持っています。あの時ガランティーヌさんが借りずに断ったことが今になって幸いしました。

 これも運命でしょう。

 一発だけなら誤射ですしね――

「さぁ! 暗闇に住まう闇の精霊よ! その眷属の妖精たちよ! ここはその威光をしめす絶好の機会! さぁ現れよ! 闇の住人達!」

 もう少し中二臭くてもいいんじゃないかなと思うところはありますが――そこそこ盛り上がる口上と一緒に、それ(・・)がゆっくりとせり上がってきました。



    [to be next scene Side Len...]



「軍師ー、お姫様抱っこは良かったー?」

 うん、迂闊だったね。

 目的地が一緒なら、途中で合流する可能性もあった。

 今回は目的地に同時に到着したという形になったけれど――アスール、顔、超怖い。

「あんま茶化してやんなよ」

 ランディがいなかったら、私はきっとなます斬りにされていたかもしれない。

 狂戦士、きっとそれが彼女の二つ名だろう。

「仕方なかったんだ。今回は許してくれよ……ああ、今時計を返すよ」

「ありがと……でもタロスでもよかったんじゃなかったんですかー?」

「そうだな」

「タロスは正直ごめんこうむりたい、わかるだろう?」

「「むぅ……」」

 タロスとアスールの声が重なる。

 そういう理由ならタロスでないのはしょうがない、というのは理解してくれたようだ。しぶしぶ、と言った様子だけれどね。

 タロスは別の意味で唸っているのはちゃんと分かっているけれども、ごめんこうむりたいのは本当だ。

「まぁ、それについて今はどうでもよかろう」

「……まぁ、今は、ねぇ?」

 ――単なる誤解なんだけれどな、どうせ吊り橋効果だから。仮に初恋だったとしてもそれははしかみたいなもので、一過性なんだし。

 いつまでもそれが続くわけがないじゃない……それをどう説明しよう?

 実に面倒なことになってしまったな。

「さて、朋友(とも)の技には(オレ)も驚きであるが……十レベル級≪ブリザード≫でいいのだな?」

「そうだな」

「面倒くさいものを残してくれたものだな……」

 状態異常系の副産物は残るものもあるらしい。つまり≪ブリザード≫の雪はその一つということだ。

 そして問題なのが、雪はオブジェクト扱いであるということらしい。

「簡単な話、炎で溶かせば良いのだが……」

 簡単な話が、火事を恐れている、ということだ。

「内側から≪ブラスターレイ≫はどうだろう? アリスに連絡を取って――」

「城を壊せと言うようなものであるぞ? それに、雪崩の恐れがある」

「かまくら、というものがあるじゃないか。立っていられるほど硬い雪ならちょっとした穴ぐらい大丈夫だと思うけど?」

「ふむ――……目測ですまないが、雪が縦に積もりすぎて重量が重くなっている。氷山と同じように崩れ落ちるぞ、軍師」

「そうか……」

 私の案に対して、タロスからの忠告が飛んで来る。彼は機械工学に詳しいから、目測でも侮れないだろう。

「……アスールは何かいい案、あるかな? たしか雪国の出身だったよね?」

「べっつにー?」

 ――まずいなぁ、完全に嫌われてしまっている。

 頼りにしているんだけど……そっぽをむかれてしまったよ。

「アスール」

「ごめんなさいガランさーん。でも今は思いつきませーん」

 原因は分かっている。

 私のせいだろう。

 鈍くなければ全員が分かっていることだ。

「まぁGMがやらかした上に小五郎が裏切っていたのだ、イラついていい案も浮かばないのは仕方あるまい」

 クロウはそれを小五郎と(・・・・)GMのせい(・・・・・)にして(・・・)、この空気の緩和を図った。

「いや、この場合は――」

「タロス、黙ってろ。命令だ」

 分かっているからこそ、ランディも命令を下す。普段は命令という言葉を使わないランディが、だ。

 空気が読めていない人は一人いるけれど、気付いていない人は誰もいない。

 実に最悪だ。

 士気の低下と言い換えてもいい。

 不本意ながら軍師としての称号を与えられてしまったのだから、せめてそれが取り消されるまではこの空気をどうにかする責任が私にはある。

 ――でもその方法が思い浮かばない。

 悔しいな。

 私の知識は結局のところ、本の真似事なのだから。

「……いっそこのあたりを≪ブリザード≫で埋めてしまおうか? そうすればかまくらみたいな道を≪ブラスターレイ≫で作成するのは容易だし」

「城が雪の重みに耐えられるかが問題であるぞ?」

「じゃぁ城から少し離して――」

「内側から≪ブラスターレイ≫でやるとして、雪全部ぶち抜けるかどうかあやしいんじゃねぇのか? アリスのだと」

「――それもそうだね」

 ここで少しばかりおさらいしよう。

 ≪ブラスターレイ≫。光、または聖属性に分類される属性固有魔法でアリスの得意技だ。能力は至極単純。貫通属性の高い、太いレーザー光線を発射するというもの。固有魔法の名前を冠しているだけにその効果はとんでもないもので、障害物などをほぼ問答無用で貫通して焼ききる。

 最大射程は三十メートル。

 貫通できる最大距離は、レベルメートル……アリスのレベルは二十六レベルなので、二十六メートルの厚さまでならばほぼ問答無用で貫通する。

 防ぐには同じレベルに達するほどの魔法やスキルでの対消滅――例えば一レベル級≪ロックウォール≫を二十六枚以上、もしくは二十六レベル級以上の≪ロックウォール≫を一枚使用するのが手っ取り早い。

 だから、アリスの協力を得られれば扉とこの雪の壁に穴を開けることぐらいは容易い。私が七十八レベル級の≪ロックウォール≫をすぐ近くに立てておけば、理屈の上ではアリスの発射できる三発すべてと相殺できる計算だ。

 でもそれが出来ない理由がある。

 それは雪の壁が崩れることだ。雪崩とも言っていい。高さおよび幅は三十メートル、厚さ三十センチ。それが一気に崩れればどうなるだろうか? 想像したくもないね。

 ――私はそんなことすら想像できないような人間じゃない。

 そしてオブジェクトだからこそ、私の≪ファイアーボール≫は破壊力過多。雪崩を起こす可能性を考慮するならほかの魔法で穴を開けることも難しい。

「……大人しく裏口から突入かな」

「で、あるが……今中で何が起こっているかも分からぬ状況でちんたら城の中を走る訳にはいかぬ」

 意外な事に、雪は防音に優れている。城に張り付いたソレが中の状況を私達に伝えてくれないのだ。

 そして今は連絡が取れずにいる――確実に中で何かが起こっているのだ。

 それはきっと、手が離せないような何かだろう。もしかしたら、GMの仕業かもしれないけれど、それはどっちにしろ深刻であることに変わりはない。

「かといって、雪を崩したら余計に突入が難しい――と言うよりは、雪崩に巻き込まれて死ぬ可能性があるな」

「一度崩してみて、二階か三階から突入、壁や床を破壊しつつ進むという手もあるが?」

「それはどこの特殊部隊だい……?」

 でもそういう手は確かに考えた。本当に最終手段とも言うべき手だね。

 二階か三階と言ったけれど、この城の構造上入り口から入ってすぐがロビーになる。三階をぶち抜いた吹き抜け構造だから、相応の高さから落下することになる――それのダメージをどう回避するかが問題だ。

 私達は、クロウみたいに特殊な訓練をしているわけじゃない。

 飛び降りずに魔法で支援してもいいけれど、そうすると戦力になるのは私とクロウだけだ……ランディは強化さえしてしまえばある程度の高さなら大丈夫だけれど、そのある程度というのがほぼ感覚頼りだから、算出できない。

 アスールは自己強化系を使ったことがないから、振り回される恐れがある――クロウを使ったエアボーン戦術?

「クロウ」

「なんだ、軍師」

「エアボーン戦術は取れるかい?」

「ふむ、エアボーンとは?」

「空挺戦術。かなりかいつまんで言うと、人を乗せて飛んで、目的地で人を降ろす戦術」

「出来なくはないな」

「本当かい!?」

「が、それは乗る人間の実力も問われるところであるぞ? つまるところ重量が二倍三倍と増えるわけであるし、空中での姿勢制御の邪魔にもなる」

「そうかい……」

 至極もっともだ。飛んでいる姿を私は目撃したのだから、理解できないわけがない……八方塞がりか。

「ごめん、ちょっと頭が煮詰まってきたよ」

「――アスール、ちょっとレンの話相手になってやってくれないか?」

 ランディ、ありがたいけれど……私はどう話していいかわからないよ。

「いいですけどー……」

「俺らはタロスの機体を発掘するぞ」

 ――二人きり!?

「ランディ、それは」

「命令だ」

 ランディの声が、いつもと違って、ひどく冷酷に聞こえた。



    [to be next scene Side Lucifer...]



「闇の妖精より借り受けて! 黄泉よりいずるは闇の住人!」

 完全に現れたそれ(・・)は、専門家(エクソシスト)でなければ、とてもとても面倒くさい相手でした。

「さぁ踊れ! 死体よ踊れ! 妖精の操り糸に手繰られて! 踊れ踊れぇ!」

 ジルコニアGMは、非常に楽しそうなセリフを告げるのでした。

「な、なぁルシー? アレってなんだ?」

「すっげぇものものしい鎧着てるんだけど……」

 二人にとっても荷が勝ちすぎる相手でしょう。武器がなければ特に。

「ゾンビですよ」

 ええ、一言で表せばそれだけです。

 実のところ、鎧を着ているゾンビの種類は数が少なくありません。生前は兵士であったという設定でもあるのか、金属鎧を着ているゾンビソルジャー、ゾンビナイト、ヘビーゾンビナイトなどがいますし、革鎧系ならゾンビソーズマンなどがいますね。通称ですが。

 でも、鎧を着ているから強いというわけではありません。確かに防御力は普通よりも増すことになるでしょう。ですが鈍重な動きがさらに鈍重になる……それだけであって、実に些細な事です。

「アレ、たぶんパラサイトゾンビだと思うんだよねぇ……」

「おや、マスターもいらっしゃいましたか」

 予想通り、杖を奪われています。

 なんてことでしょう、これでこのロビーに居る、戦力になりえそうなのは私しか居ません。

 そして実にのんきな異教徒たちは、

「たかが五体だー!」

「鎧着てようがゾンビなんて怖くねぇ!」

「俺たちに任せろー!」

「魔法で支援しますね!」

「後ろは任せてください!」

「囲め囲めー!」

 などと言って、サイズの合わない鎧を無理やり着こんで、奪った武器を振り上げて襲い掛かる始末……。

 連携もなにもない、ただ群がって攻める幼稚な作戦。

 このゲームはそんなに甘くないって、最初にガランティーヌさんから説教されたときに理解しなかったんでしょうかねぇ……。

「「パラサイトゾンビ?」」

「みんながそう言ってるからそう呼ばれているだけだけど、ゾンビパラサイトって言う人もいるねー」

 マスターもどこかのんきに構えています。さきほどからマスターの時計が鳴りっぱなしですが……これはコール音ですよね?

「マスター、時計が鳴りっぱなしですが……」

「たぶんお姉ちゃん」

「出ないのですか?」

「アレが全滅してからでいいかなぁ、って……なんだか閣下も近藤もほとほと愛想が尽きたとか」

 なるほど、どこかで見ていらしたんでしょうね。

 いえ、もしかしたら隊長さんが伝えたのかもしれません。

「確かに異教徒は即刻死すべきだと私も思いますね」

「あー……キレちゃってる?」

「……憤怒は、大罪です」

「うん?」

「でも異教徒(あくま)に向けるのはその限りじゃないと思いませんか?」

「――ねぇ二人とも、聞いた? コレがルシーだよ」

「「おっかねー……」」

「マスター? ちょっと卑怯じゃありません?」

 私は二人にとって優しいお姉さんのイメージで通ってきたのに、それを台無しにするなんて……本当に酷い話です。

 せっかく好感度を上げてフラグを積み重ねているというのに……まぁまだ挽回可能な範囲でしょうけど。

「ところでなぜパラサイトゾンビだと?」

「Wikiに載ってたってことと、あとは勘!」

「なるほど……まぁ私も同意見ですけどね?」

 パラサイトゾンビ、またはゾンビパラサイトと呼ばれる存在ですが――けっこう希少なゾンビです。

 金属鎧を着ているのも特徴ですが、なにより最大の特徴は何も(・・)持っていない(・・・・・・)ということでしょう。

 ソルジャーを始めとした鎧系ゾンビは必ず何らかの武装をしているのです。ランダムらしいですが、重装備になればなるほど、両手持ちの巨大な武器となっていく確率が高いそうです。

 そしてさらに鈍重になって、相手しやすい敵となるのですが……まぁそれは放っておいて説明を続けましょう。

「パラサイトゾンビはHPがゼロになると、近くの死体でパラサイトゾンビとして復活するという特殊能力があります」

「なんだそりゃ!?」

「もしかして、オレとかが死んだとして――」

「ええ、そうですね。ですから、寄生する死体(パラサイトゾンビ)と呼ばれているのです。近くに死体があると延々と戦うハメになるので、倒さなきゃいけないときは少数のときに少数で相手しなければならないそうです」

 ――何気に冥府の王の近くに五体ほどしかいない希少種でもあります。

(そういえば軍師さんの言っていた『食屍鬼(グール)精霊(ジン)をどうにかしない限り近くの死体に宿って同じ事を繰り返す』というのに似ていますね)

 ということは、アレの正式名称はパラサイトゾンビではなく、食屍鬼(グール)なのでしょう。今のところ食屍鬼(グール)と呼ばれるMOBはおらず、むしろ食屍鬼(グール)もひとまとめにしてゾンビと称しているような風潮ですので、まぁ当然なのかもしれませんが。

「……そういえば、パラサイトゾンビなのですけれど、軍師さんの言っていた食屍鬼(グール)の特徴によく似ているように思います」

「お姉ちゃんって何でも知ってるなぁ」

「軍師なだけあるよなー!」

「さっすがー! どっかの変態とは大違いだぜー!」

「そうですね、どこかの小五郎(へんたい)とは大違いです」

 ……ヘルフリート君とキリヤちゃんが何か言いたそうですが、今はスルーしておきましょう。

「「――で、弱点は?」」

「そこまでは聞いてません。けど、ゾンビと同じだと思いますよ? でも、確か燃やすか浄化すればいいと言っていたような?」

「ルシー、シスターなんだし≪祈祷≫とか≪ターンアンデッド≫とかそういうのないの?」

「私は専門家(エクソシスト)ではありませんので」

「「この変態つかえねー!?」」

「ですから私は専門家(エクソシスト)ではありませんと言っているじゃないですか。ただの回復役(ヒーラー)に何を言っているのですか、まったく……こういう場合、軍師さんに聞くのが一番手っ取り早いかと思いますよ?」

「んー、そうだねぇ。じゃぁしばらくしたら聞こっか」

「では隊長以下に、撤退してもらいましょうか。正直、装備もなにもない状態でアレはありません」

「私も≪ブラスターレイ≫封印命令出ちゃったしねー、やっぱり撤退が一番かー……」

 装備を根こそぎ奪い、我こそは勇者であると攻めていく“異教徒”たちがボコボコに殴られるのを横目に見つつ――

「――みなさん何をしているんですか! 助けてくださいよっ!」

 厄介なのに掴まってしまいました。

「とはいうものの……装備を奪われまして」

「こういうときのために居るんでしょう!?」

「何とかならないんですか!」

「なるわけありませんよ。魔法使いは魔法を使うための杖を奪われ、剣士は剣を奪われ……ほぼ身包みはがされた状態ですよ? 割に合いません」

「拳で!」

 ……ああ、もうなんかバカらしくなりません?

 せっかく大人しくなったかと思ったのに、常識が身についたと思ったのに、蓋を開けてみればこんな具合で――

「――なぜ宗教家の人間が、戦う武器に鈍器やクロスボウを選択するか分かります?」

「今そんな事を話している暇があるんですか!?」

「ありますとも」

 とりあえず私は、うーん、と背伸びをして体の調子を整えます。

 これは本当に久しぶりですからね。

「血を流さないためと、一撃で殺さないためです」

 鈍器で殴れば血が出るかもしれませんが、出ないように殴ることも出来ます。クロスボウの矢なら、刺さっても栓になって流血が防げるわけです。

「……はぁ?」

「血を流してはならないのは宗教的戒律です、もう一つのほうはつまり、不殺生の事なんですが……つまり一発なら(・・・・)誤射なんです(・・・・・・)

 私は腰を入れて、思い切り男のほうの右頬を右手の甲で叩き――飛ばしてやります。

 このゲームはステータスが一律になりますが、それは体重も同じこと。そして私の筋力でも、なにも身構えていない人一人を平手で吹き飛ばすには十分な威力となります

 放物線を描いて飛んでくのは――もちろん次々と人の死ぬ戦場。

「な、なにをするんですかぁ!!」

「よく、右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ、って言うじゃないですか。あれって当時右利きが多くてですね、右を叩くにはこのように手の甲で叩かなければならないんですよ。それ、屈辱だったらしいんですってね?」

 その上左の頬もぶたれるということは、最大の屈辱をさすそうです。神は、神の子はそれを耐えろというのです。

 宗教的マゾヒズムを感じざるを得ませんね。私、サドですが。

「つまり何が言いたいかと言うと、往復ビンタとは最大の侮蔑を込めた行為ということなんですよ」

「いみがわからない!」

「でしょうねぇ……要するに、人のものを盗んでおいて、さぁ、死にそうになったら助けろとかねぇ、ほんっとうに成長してねぇっつってんだよ! ということです」

「ぜんぜん繋がってないじゃないですかっ!」

「まぁまぁ、この際いいじゃないですか。支離滅裂な言葉なんて」

 女性の方の胸倉を掴みます。

「ちょ、なに、を」

 いやぁ、恥ずかしながらこれでも昔、レディースに居たことがありまして……ちょっとお上品でないことは承知しておりますが、もう我慢の限界というものです。

「憤怒は大罪の一つで、支離滅裂な言葉になりやすいものですし」

「だから」

「つまり、異教徒は人にあらずということです」

「言ってる意味が」

「死んで来い異教徒」

 言いたいことを言い切りますと、私は思い切り彼女を放り投げました――耳をつんざくような悲鳴を上げられて、物理的に耳が痛いです。

「……おー、ホールインワーン」

「イーグルですかね?」

「ごめんゴルフはわかんない」

「そうですか……」

 まぁ私もよく分からないまま発言したのですけれど。

「「ルシー、こええ……」」

 おっとしまった……怖がらせてしまったようです。これはいけません。さっそくフォローしなければ。

「私は怖くないですよ?」

「いやなんか目ぇヤバかったし! めっちゃヤバかったし!」

「俺様を襲ったときよりも怖い目ぇしてたぞ!?」

 そんな、二人が怯えている……フォローが失敗した!?

 なんということでしょう! これまでヘルフリート君とキリヤちゃんに積み重ねていたフラグが異教徒の手によって台無しになってしまいました!

 このままではヘルフリート君とキリヤちゃんとのハーレムエンドフラグが……いや、まだ挽回できる……けどっ!

「ああ……なんという時代でしょう……!!」

 これでは確実にハードモード突入です……主はどこまでも私に試練を与えるつもりなのですか?

 残るフラグは――

「あ、言っとくけど私は攻略不能キャラだから」

「――ジーザズ! 神は死にましたっ!」

「シスターがそれ言っちゃいけねーだろぉおおおおがぁあああああ!」

「やめろヘルフリート! この変態に突っ込んだら負けだぞ!」

「はいはい、バカなことやってないで、さっさと逃げますよー?」

 マスターが二人を引き連れて階段を上っていきます。

 そしてうなだれた私の後ろでは、怒号と悲鳴と、GMの笑い声だけが響いていました。

 手段と目的をはき違うとき、惨劇が始まる――というか、酔ってます。自分の力に。

 それは大人版初期型ヘルフリート君のような……突然の覚醒って怖いですよね。

 それはそうと、


 ぐんし の だいすろーる!

 ぐんし は ちめいてきしっぱい!

 きょうせんし と はちあわせてしまった!

 こまんど?



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