第62話 小五郎の暗躍
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(実に不可解だ)
これが推理小説ならばノックスの十戒に反している。ゲームであるから、という理屈で片付けてしまうには少々強引過ぎる。
小五郎は私たちよりもいち早く帝都に到着していた。馬ではなく、足で。
絶対に不可能だ。
大人数が勘違いをしているが、≪敏捷≫スキルでなくともスピードを上げる方法はいくらでも存在する。例えば、私のように≪筋力≫スキルをフルスロットにすること。
≪敏捷≫……と聞けば、実に足の速さに関してのみ作用するように聞こえるが、実際はすべての動作に対して効果がある。
なにも難しい話ではない。
私の得意な機械工学――内燃機関を用いたバイクにでも例えようか。
例えば速度を得たい。ではどうするか? 排気量が決まっていると馬力が決まってしまい、結果としてタイヤの仕事量も決まり、最終的には速度も決まってしまう。
排気量を変えずに速度を得るならば、なに、簡単な話だ。エンジンの回転数を上げればいい。常にレッドゾーンで回せば、それなりの馬力を得ることができ、結果としてタイヤの仕事量も増え、最終的には速度が上昇する。
≪敏捷≫スキルとはそういう意味で速度を上昇させるのだ。常に自分というエンジンを高回転で回す。足はもとより手の仕事量も上昇する。結果として全体的な速度が上昇し、最終的にはDPS調整硬直が短くなるため、DPSが上昇するという攻撃力上昇の効果も見込める――他のゲームから来た人間なら、想像しない現象だ。
もちろん、足の運動速度が上昇するため≪ステップ≫の初速が上がることは言うまでもない。だからこそ名前だけで勘違いし、本質を見誤る。
――この現象は≪筋力≫スキルにも言えよう。
≪筋力≫、実に文字通りだ。全身の筋力が上昇する。故に、“武器にかかるG”という解釈とも取れるDPS調整硬直を強引に短くし、さらには攻撃力も上昇する。
例えるならばバイク自身の排気量の上昇。それは単純にエンジンを高回転で回さずとも馬力の上昇につながり、結果としてタイヤの仕事量も増え、最終的には速度が上昇する。
(そうだ、速度も上昇する)
≪敏捷≫という高回転エンジンによる速度上昇ではなく、≪筋力≫という高排気量エンジンによる速度上昇。
言わずもがな、速度を上昇させるという点において、楽なのはどちらであるか――あえて議題にすることはしまい。
(聡いレンのことだ、疑問に思っていることだろう……が、確認するすべはない)
私は真っ先にゲリュオーンの整備へと回されてしまった。整備が出来るのは嬉しい、が、少々残念でもある。
その説明役を買って出られなかったことについて。
(どちらのスキルでも、馬には追いつくことなどできない……)
これは私が二足歩行ロボットを開発しているとき、必要出力を求めるため人体の限界を調べたことに由来する。
その論文によれば、人間の最高速度理論値は時速約六十四キロである。対して馬の最高速度理論値は時速約九十キロ、通常の競馬ですら約七十キロ以上出している。
この時点で、そもそも勝てる要素はどこにもない。初速で振り切る? バカを言うな、馬だって初速は速い。≪ステップ≫だって、強制的に最高速度へ達するアーツではなく、結果として最高速度へ達するアーツだ。実際は横方向への長距離跳躍のアーツと言ったほうが正しいだろう。
――故に≪ステップ≫を使おうと、馬に勝てるかは怪しい。
(もちろん、ゲームだから、という論理を振りかざせば、人間だろうとこれ以上の速度は出るだろう)
が、圧倒的にスタミナそのものが足りない。
計測ギルドの叩き出した「大陸を≪敏捷≫フルスロットで丸一日かかる」というのは現実とゲーム両方のスタミナ問題を無視した場合だ。実際は駅伝のように何度もキャラクターが交代しつつ走って計測している。
そして、このVRMMO独自の問題点――自身の心理的な速度の抑制および、それぞれの肉体面における差異。身長や足の長さ、スタミナ……ステータスが同じでも実際の速度は、実は個人で違う。
身長と座高から出来る限りそれを排斥した値だというが……果たして本当に、すべてのプレイヤーが丸一日で走破できるのかと問われれば疑問符がつく。
――どの角度から見ても、いくらステータスが上昇しようとも、馬に勝つということは不可能だ。
(だからこそ不可解だ)
科学とは物事の本質を理解し、それを再現するためにあらゆる数式を用いる分野だ。
ゲームにはゲームなりの物理演算方程式というものが存在するだけに、ゲーム内での科学を学ぶということはゲームをより深く理解する事にもつながる。
その素晴らしさを知らぬゲームバカなギルドメンバーに、あの素晴らしい知識と科学の才能を持つレンが汚染されなければいいのだが……。
「……フられてしまった私が考えることではないな」
思考がだいぶ逸れてしまったが、今はなぜ小五郎が先回りしていたか、という疑問を考える必要があるだろう。
(高回転型はエネルギーを食う。よって≪敏捷≫スキルで追い越した、などとは口が裂けても言えんハズだ……ゲームをより長くやっているものほど)
このあたりはガランティーヌあたりから教えられているだろう、が、彼もまたゲームと言う幻想に囚われた一人だ。
おそらくは馬に勝つことは不可能ではない、と言う可能性はある。
しかし、聡いレンならば気付くだろう。
(小五郎はまだ裏切り続けている可能性)
――いや、気付いているに違いない。
だからこそ、いや、おそらく、蒸気機関などという起動に時間のかかるまどろっこしいエンジンを搭載したゲリュオーンへ整備と言う名目でいち早く私をここへよこしたに違いない。
「……押し続ければ案外簡単に折れるかもしれんな」
私は、賢い女が好きだ。
共に技術的な話をし、科学とふれあう。別に、オイルにまみれなくともいい。共感し、それとなく協力してくれさえしてくれれば、もう何も言うことなどない。
そう、たとえ家事が出来なくとも専門の業者に頼めばいい。そのほうが需要が高まり、経済が潤う。自分で出来ることを全て自分でするのはかえって金銭の循環を鈍らせる。
私が伴侶に欲しているのは共感であり、理解なのだ。
「いや、しかし……あのタイプは強情だ。押し続ければ押し続けるほど硬くなる」
あたかも、鍛造することによって炭素含有量が調節され、強靭な鋼が出来るかのごとく。
恋愛とは実に科学的で難しい議題だ。だからこそ『幸せのS字曲線』という恋愛理論を提唱した機械工学教授だっている。つまり、同じ機械工学畑の私が恋愛理論を提唱しても別段おかしい話ではないのだ。
――ゆえに、私の提唱する恋愛理論『幸せの機械工学』は、恋人となる相手の性格や思考をよく理解することから始める。
そしてここから導き出される答え……それは、なにごとも最適な形にするには適切な加工が必要である、ということだろう。
(そうと決まれば)
少しでも心証が良くなるように、おそらくはレンが私をここに配置した理由も鑑みて、さっさとゲリュオーンの魂に火を入れなくてはならないだろう。
「ふむ、タロス殿は一度玉砕した相手にもう一度告白するつもりでござるか」
――その声に、私の背筋がざわりと怖気立つ。
「……その声は小五郎か」
「はっはっは、拙者以外に誰がいるのやら」
「軍師から何か命令でも下されたか?」
「そうでござるなぁ……どうやら道中襲われたそうではござらんか? なに、簡単なこと。GMのバカなことに付き合うため、城下へと出るつもりでござる」
――白々しい男だ。
「そうか……お前一人でか?」
「マスターの信頼篤く、帝王より軍師の称号を賜りしレン殿の采配故、致し方なし」
一人かどうかと問いかけたつもりだったんだがな……。
「学者殿は何を?」
「見て分からないか? ゲリュオーンの整備だ」
「ははぁ……なるほど。しかしたった三十分程度であるのに、整備など必要なのであろうか? それほど精密機械には見えぬ」
「私にとってゲリュオーンは、構造こそ大雑把で原始的だ。が、この世界では当然ながら精密機械に分類されるだろう。膝関節には大きな負担が掛かるのは当然ながら、腕が胴体にただくっつけているだけで、肩関節には常に負荷がかかり続けている。もちろん、肘関節部のパーツも重力で伸び続ける。腰部パーツに至っては攻撃の要石だ、上半身全ての重量がここにのしかかり、武器を振るえば大地に固定された下半身と上半身との板ばさみとなって大きな負荷がかかる。動くだけでなく止まっているだけでもこれだ。戦闘すれば言わずもがな、保管するにしても、仰向けに寝かせれば背面に負荷がかかり痛む。かといって立たせ続けるわけにもいかない……理想は分解して保管、もしくは専用のデッキに固定することだな」
片膝立ちにしてある私の専用機、ゲリュオーンI型改を見ながら、裏切り者の疑いが晴れぬままに思わず饒舌になってしまった。
「だからこそ変形、合体機構というのはある意味合理的だ。保管しやすい形状にすれば、保管を容易にする。変形時の運用や各機の個別運用を考えるなら戦術の幅が大きく広がる」
「なるほどなるほど……しかし変形合体にそのような利点があるとは思わなかったでござるよ」
「問題は変形、合体時における動力伝達部への異物混入だな。これだけは細心の注意を払わなければならない。たったの砂一粒で異常を起こす。それに二足歩行ロボットのロマンを考えるならば、出来る限り変形しないほうが安定するような機体には仕上げたくない」
「機械とは実に難しい」
「が、逆にそれが楽しい。科学はそういうものだ」
「タロス殿はとても楽しげな顔をしている。きっとそうなのでござろうな」
小五郎は笑っていた。
まるで子供のように。
あのとき襲ったのはまるで別人だったとでも言うように。
「しかし残念でござる」
「なにがだ?」
「本来なら万全の状態にて一戦剣を交えてみたかったのでござるが、叶わぬ夢となりそうで」
「なんだ、そんな事か。久しぶりに気分がいい、この仕事が終わり、街へ帰ったら――」
――ずるり、と。
「街に帰ったならば、一手ご指南いただきたいものでござるなぁ」
左の肩口から右の横腹までの一直線――袈裟というのか、逆袈裟というのか。この方面に疎い私は、いつの間にか斬られていたことに気付く。
滑らかに。
滑り落ちるように地面へと、右肩から落下する。
――意識は、まだあった。
だが――いつ、斬られた?
「時計は首級代わりに頂いていく……なぁに、同じギルドのよしみ、スキルジェムは後々お返しするでござる……もっとも、こちらは拙者の首級コレクションに加わらせていただくがな!」
くそっ、レンたちにこのことを伝える手段はない……“辻斬り小五郎”はやはり、裏切り者だった。
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「……まっずいなぁ」
結構な数だけれど、アタシにとってはどうというレベルじゃない――本来の装備ならね?
「レイピアってこんなに脆いんだ……」
半ばにして折れたレイピアを放り捨てて、走る――アタシの受けた軍曹のシゴキは伊達じゃない! 突進してくるゾンビオックスを跳び箱みたいにしてぽーんっと避ける。すぐ後ろにも迫ってくるヤツの背中を踏んづけて、跳ぶ。
ゾンビウルフ――コイツとは実はあまり戦ったことがない。ガランさんはアタシよりとっても強くて、すぐこいつらを全滅させちゃうからだ。
「許すまじ、ガランさん!」
今度デートだ! 嬉し恥ずかしのデートだ! 三泊四日の温泉旅行でも可! いやむしろそっちのほうがいい! ゲームだから既成事実ができちゃったってオッケーだ!
「――っざったい!」
乙女の純情跳び膝蹴りで狼の牙ごと顎を粉砕しながら、着地。ちょっとぐらい傷ついたって、
「≪リジェネレイション≫――≪詠唱破棄≫!」
これで万全! すぐに破棄したのはMPの温存のためだね。
っていうか武器が欲しい。マジほしい。
狼ってすっごい機敏だ、本当に腐ってるの? 武器が少なくて不安なのにこんなのとまともに相手していられない!
「アンタたち本当にゾンビかぁああああああ!?」
淑女の嗜み回し蹴りが決まる。スキルなしで威力が弱くたって二、三体はまとめてなぎ払えるんだ! そして私は逃げる!
ガランさんからはすぐ戻って来いって言われたからとにかく戻らなきゃ。アタシは従順なオンナなのだ!
っていうか、私が剣を持っていないから弱いとでも思ったか! 軍曹のシゴキは伊達じゃない!
あと、鍔競り合いで容赦なく指に関節技極めるの狙ってくるガランさんとかもうホント勘弁してほしい。おかげで部活でもついつい足が出そうになる。
実践剣道ってもう剣道じゃなくて剣術だよね!? あとなんで日本居合連の型も練習させられてんだろうねアタシ!?
っていうか、絡めるなら恋人みたいに! 優しく! 甘く! そんな乙女心を理解してくれないガランさんなんて――
「大好きだけどムカつくわぁああああ!」
痴漢撃退パンチは牛の頭骨も粉砕だ! 道を開けなきゃ食らわすぞ!
「いっつもランディランディってさぁ! ガランさんにべったりでさぁ! ガランさんなんか軍師がプレゼントした剣なんか使っちゃってさぁ! 妬ましいわぁあああ!」
そりゃ護拳がなくなったからそういう戦い方もするんだろうけどさぁ! その知識の先が軍師ってのもムカつくけどそれ知ってる軍師ってちょっとチートじゃない!? 知識お化けだ知識お化け! あのオッパイには脂肪じゃなくて脳みそが二つ詰まってるんだろうね!
っていうか軍師はアタシの敵だ。恋敵的な意味で!!
「っていうかレイピアでも斬れるとか言ったヤツ誰だぁあああ!」
誰だっけね? 斬るのにも使えるとか言ったヤツは――軍師か。
「どこまでもアタシを苦しめるのか軍師ぃいいいいい!」
ドイツ剣術とかフェンシングの知識とか持ってるんだよ? やったことないのに。っていうかなんで知ってるんだろうねあの人、中二病?
――中二病の仲間は小五郎とメカフェチで十分だ!
「っていうかさすがにヤバい……!」
さすがにそろそろスタミナがマズい。現実のアタシのスタミナが。
くそぅ、ガランさんに見せるためにドレス買いに来ただけなのに……GM死ねっ! 苦しんで死ねっ! もしくは孤独死しろっ!
この恨みはなんとしてでも晴らすとして……とにかく、こういうときはどうすればいいか軍曹も言ってた。
「戦略的撤退!」
とはいうものの、前後左右がゾンビだらけ。
いくら食材の仕入れで戦い慣れていても、見続けるのに慣れているとはいえ数が揃うと実に厄介な相手だ。そのうえ腐っても狼な機動力の高いゾンビウルフ、突進速度だけは速いゾンビオックスまでいる。どこに逃げる――?
そんなの一方向だけだ。屋根の上!
「人力ステェエエップ!」
一番背丈のありそうなゾンビを蹴り飛ばすように踏み台にして、
「ステェエエップ!」
二段人力ステップ。アーツじゃないから硬直がないもん!
「ステェエエエエエエップ!」
三段目。今度は最寄のゾンビの頭を蹴りながら、より高く! といっても一メートル以上は飛べない。アーツのステップと違ってこっちは人力、飛べる高さに限りがあるから踏み台が必要なのだ。
おかげで二メートルと半分ぐらいの高さまで跳躍できた、これで十分! 一番低い、一階だけしかない最寄の屋根に手をかける。
「よぉおおおいしょぉおおおお!」
軍曹から叩き込まれたパルクール、こういうときには役に立つね。
「――ふぅ……」
ひとまずゾンビたちにはこの機動力はない。狼が上ってくるかもしれないけれど、下はすし詰め状態だから、飛び上がれるほどの余裕はないはず。とりあえずMPを温存しつつ戻るには差し支えない。
「……武器なしでもなんとかなりそ」
ほっと一息だ。
あとは叩き込まれたとおりだ。道なき道――屋根伝いにとにかく走る!
「――アスール殿!」
そんなときだ、後ろから声がかかる。この声、間違いない!
「小五郎!」
振り向けば小五郎が屋根伝いに走ってくる。
コイツは元暗殺ギルドで“辻斬り小五郎”といわれて恐れられてた≪PK≫スキルフルスロットのバカだ。
屋根に上るにしても、「刀を足がかりにするのでござるよ、忍びの術でござる」なんて素で答える真性のバカだ!
しかもそれを覚えた理由が「無論犯人をいち早く斬れるよう先回りするためでござるよ!」なんて答える救いようのないバカだ!!
「なんでこんなところに!」
「武器を」
「武器!?」
そう言うバカの手には、メカフェチのロボットに積んでたアタシの愛剣。二振りのサーベルがあった。
そういえば、ガランさんに遠くにいるって言ったっけ……。
「ガランさん……!」
受け取った剣を思わず抱きしめてしまう。
「呆けている場合ではござらんっ!」
小五郎は腰に差している愛刀を、アタシのすぐ後ろに一歩で踏み出しながら抜き放ち、飛びかかってきていたゾンビウルフを一刀の元に伏せる。
居合い、抜刀術とも言う――小五郎の強さの秘密は専守防衛、後の先の塊とも言える居合いを小さいころからやってきたからって聞いたことがある。
確か、その筋には有名な居合神社っていうのが実家の近くにあって……かといって居合いが盛んというわけではなかったらしいけれど……居合いの原点、林崎夢想流の門下生で、小さい頃から真剣を使って竹の芯が入った巻き藁を何度も斬るわ、自分用の真剣を所持しているわとすごいらしい。
それがどれくらいすごいことかは分からないけれど、軍曹や軍師曰く、どうやらかなりすごいことだとか。
とにかく、現実の技術があるならこちらでも通用する、その典型の一人なのだ。
「拙者が殿を勤める、早く戻れ!」
振り向けば、既に刀は鞘に納めていた。屋根の上には血振るいしたのか、血痕が飛び散ってる――まぁ当然か。ゾンビとはいえ、多少なりとも血はあるし。
「大丈夫なの?」
「なに、斬りたい放題なら拙者の独壇場でござる! 正直巻き藁を斬るよりはよっぽど訓練になり申す!」
「あ、ああそう……」
アタシちょっとドン引きだよ……一瞬でもいい人だとか思ったあたしがバカだったよ……!
「じゃ、じゃぁお願い!」
待っててガランさん! すぐ戻――
「――って、あれ?」
少し駆け出したとたん、急に体が重くなる。
いや、リアルよりは確かに身体能力は高いぐらいだけれども……効果から≪バインド≫? え? どこからか魔法が飛んでできたの!?
ヤバい……効果が低いのが気になるけど、ヤバい、リッチがいる!
「小五ろ――!」
「なんでござろう?」
小五郎はアタシの時計を拾い上げて、にこりと笑った。
「――っと、体が重くなたのはそのせいかー!」
うっかりどこかで、時計を吊るしてあった鎖にダメージが入っていたみたい、アタシはマヌケにも、時計を落としただけみたいだった。
「危ないでござるよ?」
「うん、マジあぶなかった」
時計がなくちゃ≪リジェネレイション≫が使えない。ガランさんから常日頃言われ続けて、MPポーションの他にHPポーションも持ち歩くようにしている。
だけど数本だけだ。それじゃぁ心もとないし、安物だから味が悪いから、できれば飲みたくない。
「助かったよー」
受け取ろうとして、アタシが数歩歩み寄ったところだった。
「では、拙者はコレにて」
「は?」
それ、渡す前に言う? 変なヤツだなぁ? と思っていたけれど――思い出した。
コイツ、裏切っているかもしれなかったんだ!
「はっはっは! 生きていれば手合わせ願おう! さらばだ 竜殺しの弟子!」
「ちょ、待――!」
GMが消えるときと同じように、ふっと居なくなる。
「――やられたっ!」
あのバカは、強いプレイヤーと戦うことが何よりも好きな“辻斬り小五郎”だった! だからアタシを殺さなかった! 時計だけ奪うことにしたんだ!
軍曹の弟子だから、竜殺しの弟子だから! 時計もなしにここを突破するほどの実力があるなら戦いたい! その程度のことで!
あの戦闘狂なバカは、GMに加担していたんだ!
[to be previous scene...]
「――もう一人居るんじゃなかったのか?」
転移しバイソンGM殿と合流した拙者に投げかけられた言葉は、至極尤もでござった。
「いやぁ、彼女を倒せば計画がバレてしまうでござるよ?」
腐っても新撰組を模した組織ではない。
連絡は密にし、徹底して連携を取る――そこに在籍していたからこそ、手の内はよく分かっている。
「通常ゾンビに牛と狼。相手が次に取る手は?」
「教会は押さえてござる。城にあるやもしれんが、ひとまず≪聖別≫はできぬ。そして一度襲撃して分かったが、ここは連携を取るのが上手い国でござる、一度死んでみた甲斐があり申した。拙者一人では少々てこずる……しかし聞く話によれば街が傾くほどの出費、軍師殿は心優しき故に、大仰な魔法は使えん」
牛や狼単体は、突進力に優れていることと、機動力がある程度。実のところ、総合力では普通のゾンビのほうが強うござる。
が、しかしこのような高い外壁を持つ街では外に逃げることも叶わぬ。牛と狼を放ったことで≪ファイアーウォール≫をされたとしても火牛の計として働く。
「故に、策は単純なる人海戦術。民も戦い慣れてはいるようでござるが、しかし連携は取れてない……なればこそ、こちらのほうが圧倒的に上回る」
連携が上手いのは、軍のみでござった。
十人ほど斬って確かめたのだから、間違いなどあるはずがない。
「俺でも倒せそうか?」
「無理でござろう」
「無理なのかっ!?」
「バイソンGM殿は基本的に戦いのセンスが存在しないゆえ……遺憾ながら致し方ないことでござる」
「そうか……」
バイソンGM殿はあまりにも火力に偏りすぎている、攻撃力はあるが硬直の大きな大剣を、攻撃力こそ正義とばかりに二回りも大きくし、さらに硬直時間を伸ばすという失点を犯している。
そこへ来ての≪ソード≫スキルをフルスロット。確かに剣ならばどれだけ巨大であろうともこれで扱える。しかも攻撃力が上昇する。いかにもバイソンGMの好みそうな構成でござるなぁ。
その大剣が重すぎて機動力が衰え、一撃は重くとも硬直が長く格好の的。せめて機動力が通常かそれ以上でござったら、薩摩示現流がごとく一の太刀のみを信じる一撃必殺の剣士となったことでござろう……。
ここまで来ればネタにござる。ネタ構成もそれはそれで面白きプレイではござるが――剣の道も往かぬバイソンGM殿には酷というもの。
勝ちたければまずは身の丈をわきまえる事から始めるべきでござろう……まぁ、拙者の食指が動くほど剣の才があるわけでもなし、教える義理もない。
そもそも、運営なのだから分かっていてやっていることでござる。とやかく言うのはかえって野暮というもの。
「さて、あれが誠の軍師ならば火牛の計には早々に気付くでござろう。故にウォール系は自ら禁ずる。同じ理由で火属性は火事の恐れがある故禁ずる。町の破壊を恐れ、≪ブラスターレイ≫も使わぬであろうし、そもそも遠距離戦など挑んでは来ぬ……なればこそ」
「接近戦というわけか」
「その通り」
ただ歩き回られるだけで厄介なとなるカラクリ人形を唯一操れるタロス殿は早々に仕留めた。アレを用い、ゾンビを踏み潰しながらも教会裏のゾンビ発信基地を押さえられてはこちらが不利。
そうでなくとも、あのカラクリは意外と精密な動きをする。踏み潰さずとも緩慢な動きをするゾンビ相手には「ちぎっては投げ」を文字通りやってくれる。
「しかしこの度は転移を少々使いすぎた」
「いずれスキルの一つにと考えているだけに、テストだと思ってくれ」
「この刀もでござるか?」
「そうだな。ここまで大々的にやれば噂にもなる」
「そもそも、更新履歴に書くだけですむと思うのだがな?」
「探す楽しみがなくなるだろう?」
なんと天邪鬼な……。
「まぁ、君のおかげでデータ調整も捗っている。テストプレイヤーとしての報酬である転移のスキルジェムとその刀……情報が出揃っていない状態でどう扱うかは君次第だ」
「刀は使わせてもらうでござるよ、転移は分からぬでござるが……」
長くGMと戦場を駆けていれば、ときどきこういった依頼もある……戦うことが出来、新しいアイテム、新しいスキルを体感できる。
もちろんデータ調整も行わなければゲームバランスが崩れる、そのため拙者のコレは現状データ改ざんが容易な拙者専用のユニークアイテム扱い。故に使い勝手が常に変わっていく……この依頼が終われば、次のメンテナンス明けまでお預けとなり申すが、それでも面白いものは面白い。
――実に役得でござった。
「あとは面白おかしく、引っ掻き回させてもらうでござるよ」
「俺も楽しみだよ。いまどき初心者達に『スライムを倒して~』とか『ドラゴンを~』なんてぶっ飛んだ企画を持ってきてくれる面白い“お客様”だ! だがスライムはさすがに酷だからな、ゾンビみたいなザコでたっぷり楽しんでもらおうじゃないの!」
「ソウデゴザルナー」
――そのあさっての方向へ向く行動力こそ、昨今において「GM仕事しろ!」と叫ばれる原因であるということは、まぁ、黙っておくのが武士の情けでござろう。
「さて……そろそろ城門にゾンビが揃う時分、拙者は拙者で楽しませていただく」
「おう、俺は俺で暴れさせてもらうぞー! もう弱いなんて言わせないっ!」
……それは、無理というものでござろう。
[to be next scene...]
書き溜め分投下終了。今更ながらちょっと長くなりそう……。
第十八話でタロスが「弾丸の如く」魔法使いを取り押さえていましたが、こういう理屈でした。
そう、字面だけで思いこみ、思考停止に陥ることこそゲーム脳……!
ちなみに幸せのS字曲線は東北大学大学院工学研究所の堀切川教授が提唱しております。ちょっと納得してしまいますよ?
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




