第60話 軍師、キレる
「――彼女がお主の秘蔵っ子か。のう、料理人?」
レンに軍師の称号と男爵位を与え、指揮権を丸投げしてすぐの事だ。俺に、閣下から声がかけられたのは。
「……よく分かったな」
面識はなかったはずだ。少なくとも、伯爵以外には。
「正体がバレたら本性までさらけ出すとは、まったくおめでたいヤツじゃのう? ……伯爵からすぐ教えられたわい。近藤と親友が匿っておるとは思いもよらなんだが」
なるほど。そういえば週に一度は帝都に報告しに来るんだったな、伯爵は。
近藤のヤツは組織の求心力のためだけに、わざと報告していなかっただけだからちょっとばかり違うが。
「……それより、なんで爵位なんか渡した?」
昔、帝立錬金術研究所がまだ帝都にあったころの話だ。所長のサンジェルマンには当初爵位などなく、また帝都は貴族制でもなかった。
だが、ゲームでもリアルでも「自分のほうが優れている」と誇示したい者は少なからずいて、それが合成獣暴走事件のきっかけとなってしまった。
この問題に対し、帝王は貴族制を導入する。
それは中世世界観のゲームという先入観を利用するもので、効果は絶大であった。それだけ「貴族」という称号は特別なものだったのだ。
――今では「貴族」として扱われる男爵以上には、権力が与えられてしまうほどに。
「レンちゃんは、恩を与えれば返さねばなるまいと躍起になるじゃろうて……これもまた、青田買いじゃな」
「クロウまで巻き込んでか、この外道……!」
「クロウはなーんも知らんよ。それに、外道はどちらかのぉ……?」
「レンに……俺の仲間に手を出してみろ。お前の料理に毒が混ざることになるぞ」
「おお、怖いのう、怖いのう」
腹黒タヌキが……っ!
「……さて、具体的にレンちゃんの策は悪くないが、ちょいと詰めが甘いの」
コレと同意見になるのははなはだ不本意だが、確かにそうだ。この作戦では、いずれ「決闘させます」と言っていることになる。
「GMも余計な事ばかりしよるし、襲ってきた男がのうのうとココにいるのはいささか怪しい……」
確かに気にはなっていた。
凡人の俺だって気付いているんだ、レンも気付いているだろう。
だがコイツと同意見であることだけは癪だった。
「よきにはからうがいい、竜殺し」
そんなこと、言われなくてもやるつもりだった。
「――待機中の兵にはきちんと質のいいものを。もし暴動が起こったら大変だしね」
「はっ! 早速取り掛かります!」
こちらの密談がちょうど終わった頃か。レンの指示も終わっていたのは。
「レンちゃんは詐欺師みたいじゃのー?」
閣下がそこへ、ノコノコと出て行く。レンを信頼して、全て任せているといった表情――どっちが詐欺師だ。
「どうして閣下は人間のクズみたいな性格に生まれてしまったんだろうね?」
胸がすくような暴言だな。
レンがそんなことを言うなんて、実のところ初めてじゃないのか?
「それはちょっとひどくはないかの!?」
「諫言だよ、甘んじて受けてくれ」
そうだ、甘んじて受けやがれ。クズ野郎が。
実の息子である隊長も同意見なのか、笑いを噛み殺そうとして、変な表情になっていた。
「おい、隊長。何がおかしい?」
「いえ、なにも」
白々しく咳払いを一つ、
「それでは、私はこれで。失礼しました、閣下!」
「おい待て隊ちょ――チッ、行ってしもうたわい、あのドラ息子め……!」
閣下の制止も虚しく駆け足でその部屋から離脱していった隊長へ呪詛の言葉を投げかけるように、隊長が出て行った扉へ向かってブツブツと呟く。
「さて……あとは起こりうる問題を考えて、タロスは急いでゲリュオーンの整備をして来て欲しいな。もしかしたら、肩に乗るとか言い出しそうだし」
「ふむ、わかった」
タロスはすぐさま席を立つ。
その嬉々とした表情から読み取るに……こんなところで引き篭もっているより、ゲリュオーンの整備でもしていたほうがよっぽど建設的だ、だろうな。
「アスール、小五郎、沖田さんはちょっと城外の見回りをお願いしてもいいかな?」
「なんでさ?」
「GMが余計な事をやらかさないために」
「オッケー」
「了解した」
「任せるでござる!」
――小五郎が外に出るのか、ちっとばかし厄介だな。
三人は立ち上がり、そのままドアのほうへと向かっていく。
「ヘルフリートくんとキリヤちゃんは、ちょっと会場がどんな雰囲気か確かめてきて欲しい。軽くでいいから、参加者にどんな感じか聞いてみてもらってもいいね」
「さすがに越権行為じゃねぇのか?」
「いいじゃないか。大人だと婚活の邪魔になるけれど、子供だと話題の一つになるからね」
さすがに子ども扱いされるのは嫌なお年頃なのか、ヘルフリートとキリヤはムッとした表情になる。
が、口にすることはなかった。悪気があって言っているわけではないというのは、分かっているからだ。
「俺様は別にいいけどさー……そういうのってここの近衛騎士の仕事じゃねぇの?」
「ヘルフリート君は従騎士に任じられたんだから、いいんだよ」
「いざって時は俺様一人で十分じゃね?」
「キリヤちゃんは伝令役って感じかな」
「オレはそれでいいとしても、一人で耐え切れるとか思えねーぜ?」
「なんだとー!?」
「だって囲まれたらリンチだぜ?」
「そんなの俺様の実力にかかればどうにでもなる!」
ヘルフリートにはあとで囲まれる危険性を教えねぇと、不利だろうが逃げずに死んじまうヤツになるな。
危ないと判断したら逃げる。というか、そういう危ない状況にならないよう危機管理をきちんとするのは、冒険者としての基本だ。
「ルシー、ヒーラーとしてついていってあげてくれるかな?」
「ええ、任せてください」
――レンは正気かっ!?
「ちょ、この変態舌なめずりしてんだけど!?」
「大丈夫、変な事をしたら迷わずプラカードの刑にするから」
材料も買ってあるよ、と付け足す。
「あ、普通に頑張りますのでソレだけはやめてください」
うまい具合に御するようになったもんだ……サブマスターとして着実に成長していると判断すべきだろう。
不安の残る采配は、ともかくとしてだが。
「それじゃぁ三人とも、さっそくお願いするよ」
「うへー……!」
「はいはい」
「分かりました」
そしてまた三人減ることとなる……残っているのは閣下、アリス、俺、クロウ、レン、近藤の六人だけとなる。
――それはまるで、俺たち首脳陣だけを残すように指示したかのようだった。
「レン?」
一体何を考えているんだ。そう、問いただそうとする。が、彼女はそれを片手で制した。
そして、こほん、とひとつ咳払いをし……次に彼女が言葉にしたのは、
「第一回、ギルド合同首脳会議の開会を宣言するよ」
ある意味では予想内であり、そして予想外の言葉だった。
「議題は、三つ。決闘は避けられない。GMの動きが気になる。そして小五郎が怪しい」
「ほう……?」
閣下は目を細めて、嬉しそうに笑う。まるで孫がテストで百点でも取ったかのような、そんな笑みだった。
「決闘のほうは、引き伸ばせて一時間程度。これは、それ以上長引くと夕方を越えて夜になってしまうから。だからそんなに長くは持たないだろうと思う。できれば早めに、さっさと解決したい」
「やっぱり止められないんだねー」
「まぁ、ほのめかしてしまったからにはなぁ?」
ロビーに子供二人を送り出したのは話題そらし――意識をそらすために打った布石か。
「ときどきルシーと連絡を取って、状況を確認する必要があるだろうけど。たぶんそのあたりの判断は現場の営業二人のほうが詳しいと思う。上奏に来たらさっさと解消させよう」
「それがよさそうだな」
「次、GMの動き……これはもう判断に困るね。バイソンGMだけじゃない、ジルコニアGMも何をしでかすか」
「そこで、ルシーってわけね?」
「言い含めてはいないし、察してくれていないと思うけどね」
「軍師、最悪のパターンはなんだ?」
「特定の攻撃を無効にするMOBが大挙して襲ってくること、かな? 多分、『弱い敵』のイメージが強いスライムだと思う」
「うわぁ……ありえそう」
「事実、元々の進行プログラムは見ている可能性がある。注意して損はなかろう」
「近藤さんにはギルドで塩をたっぷりと用意しておいて欲しい」
めったに会わないはずのスライムの弱点も勉強したのか。将来は有望だな。
「だがそうそうに用意できるものではないぞ?」
「リアルのナメクジと同じなら、浸透圧の差で水分が抜けていくんだ。溶けているわけじゃない。だから砂でもいいんだけれど……スライムは実物を見たことがないから分からない。だけど、生息地はあのじめじめした地下墓地だと考えるなら、砂だろうが灰だろうが、乾いていて水を吸う特性のあるモノなら効く可能性はあるよ」
「なるほど……砂ならその辺でかき集められる。念のためそちらも集めさせよう」
「レンちゃんはさすがに物知りじゃのう」
確かに。レンの軍師という称号は、その蓄えられている知識もあってこそだと言っても過言じゃないだろう。
「即効性は薄いが、毒も有効だぞ。毒餌は大概のMOBに効果があるから、これも集めやすいし、スライム以外が来ても無駄にならないはずだ」
「なるほど、そういう手もあるね。さすがだよ、先輩は」
……なんでそんなくすぐったい言い方をするんだ?
表情も特に変わってはいない……そういう趣味じゃなさそうだし、俺の精神衛生上悪いからやめさせなければ。
「いつも通りでいいよ、ランディで」
「……いいのかい?」
何を心配そうに閣下をちらちら見ながら――ってそうか! 俺が顔隠してるわ名前を言わないわで、遠慮してたのか!
別に事情を知ってるわけじゃないのに、こりゃぁ閣下の前じゃずっと気を使わせちまってただろうなぁ……後でなんか奢ってやるか。
「むずかゆいからそう呼べよ」
「じゃぁ、ランディ」
「おう」
「さすがじゃの?」
――それは皮肉か? それとも僻みか?
「とりあえずGMがまたMOBを引き連れてくる可能性は高い。もしかしたらもう準備に取り掛かって、今にも襲ってくるかもしれない――念のため準備はさせておいてほしい」
「儂に動け、と?」
「私がまとめて壊滅させていいのであれば、特に何もしなくていいよ。ただし、また中身入りが来たらさすがに街の安全まで保証はできないよ?」
≪PK≫スキルがない状態では、プレイヤーに対して状態異常とダメージは与えられない。その縛りの中で多数の相手をするならば……十中八九、属性固有魔法の使用に限られる。
レンのソレは大禁呪指定クラスだ。劣化である≪バインド≫ですら落下ダメージを強化させて与えられる。これがもし≪エクスプロージョン≫なら――その爆発の勢いで吹き飛んだ相手は、地面ですりおろされるか、または恐怖の自由落下を楽しむことになるだろう。
「仕方あるまい。任されよう」
「じゃ、最後。というか本題。小五郎についてだけど……なんでアレがここにいるの? 裏切ったのなら遅れてきてしかるべきだと思うんだけれど」
「……裏切った、だと?」
その手にはかなり厳しい規律のあるギルドの長、近藤はすぐさま食いつく。
「初耳だな、その話は」
「我らを襲ったのだよ、あんこ入り山賊としてな」
確かに。気がついたらいなくなっていて、そして気がついたら先に到着していた。どこに行っていて、どうして先に着いているのかは少しだけ気になってはいたが――
「そういえばそうだねー……ガラン、なんか聞いてた?」
「――トイレのために一度ログアウトするから、先に行っていてくれっては言っていた」
「トイレか……ありきたりないい訳だね。じゃぁ質問だけれど、追いつくか、追い抜くことは可能なのかい?」
「可能であるな」
そう――結論で言えば可能だ。
どのゲームにでも言えることだけれども、移動速度を上昇させるスキルやテクニックは、少なからず存在している。
このゲームで代表的なのは、≪敏捷≫スキルのセットという基本的なことから、クロウのように魔法で吹き飛ぶことを利用したノックバック移動法となる。
「追いつくために≪敏捷≫フルスロットにして走ってきた。だから追い越したんだろう……問いただしたときはそう言っていた」
「なるほど」
近藤は簡潔に小五郎の言葉を告げる、が、決定的に足りない。
レンはよく知らないだろうが、≪敏捷≫スキルで確かに移動速度は上昇する。が、それでは決して不可能だ。
「――それでも街と街の間なら、馬のほうが速いけどな」
≪敏捷≫スキルフルスロットでも、上昇量はおおよそ四倍程度。ゲームでの身体能力はトップアスリート並だからこそ敏捷を上げれば馬に勝る場面も出てくるが――それは短距離での話だ。
「今回は馬を使い潰すつもりで走らせたから、余計にな」
そもそもプレイヤー自身の持久力が最大のネックだ。
このゲームは第一種特例以外にとってはダイエットにも使えるほど負荷がある。
≪敏捷≫スキルでの速度上昇は、実のところ足を素早く動かしてスピードを稼ぐピッチ走法だ。負荷はかえって上昇する。
――それを、走って来た?
街と街との距離は、あの軍曹でさえリアルで少し息切れするほど離れている。何の理由もなく俺たちが馬や馬車を使っているわけではないのだ。
「ありがとうランディ、それで確定した。小五郎は今だにGMの仲間だ」
確かにそれなら、問題なく先回りできるだろう。
なにせ「ゲームデータを合法的に改ざんできる」GMが仲間なのだ、キャラクターの座標データを改ざんして瞬間移動する、などは朝飯前――
「――おい、マズくないか?」
「ああ、野放しにしてしまったことを言っているんだね? ランディには敵わないな、もうそこまで辿りつく」
「普通に買いかぶりすぎだ」
最初に口にしたのが俺なだけであって、ここにいる全員はそれくらい簡単に予想できる。
「軍師……そういう采配をした手前、手はあるんだな?」
「ないよ?」
「無いのかよっ!」
「お姉ちゃん……」
「軍師よ。我は何らかの手があると思って、あえて口を出さなかったのだぞ?」
「レンちゃんはもう少し聡い子じゃと思ったんだがの……」
「とりあえず支部の人間に見回りを強化させよう。見つけ次第拘束する」
「……ねぇ、みんな。何か勘違いしていないかい?」
レンは呆れたように眉をひそめた。
「そもそもデータ改ざんが出来るGMが仲間にいる時点で、こちらが手を尽くすのは無理なんだよ? 外に追い出したのは、行動を縛る意味でもあったんだ」
「つまりどういうことなの?」
「儂にも分かるような説明が必要じゃな」
「一つ、GMは余計な事をする。二つ、小五郎はGMの仲間。三つ、可能性として高いのは『弱い敵』として認識されているスライムが大量発生すること。ここまではいい?」
レンは人差し指、中指、そして親指の順に立てていきながら列挙する。
「よいぞ」
「それじゃぁ一つ目の説明だ。これはもはや大前提だね、崩されない限りは警戒しておくに越したことはない」
人差し指で軽く円を描くように説明を開始し始めた。
「二つ目、GMの仲間である小五郎が求めているのはなんだろう? そう考えれば、おおよそ察しはつく――戦いだね。確か“辻斬り小五郎”って呼ばれていたんだよね」
「その名、帝都にも響いておるぞ」
「へぇ?」
「ここではナマハゲ扱いじゃがな」
帝都じゃナマハゲ扱いか……えらくアレな存在になってんだな、小五郎。
「まぁ、伝統行事の話はまず置いておこう。三つ目の話だ。これは一番確率の高い話だったんだけど――小五郎は今フリーになったから、かならず二つ目がクリアできるように動くことになると思う」
……ああ、なるほど。
「つまり、可能な限り小五郎が自由に戦える状態――『弱い』イメージがある中で、さらに人型である必要が出てくるっつーことか」
「そういうことさ」
「だから小五郎をフリーにしたんだね!」
「であれば、ゲームで弱い人型の存在を列挙していこうではないか」
「ふむ……コボルド、ゴブリン、トロールだな」
「着ぐるみで森の熊さん!」
「熊はただの害獣じゃねぇか」
「バカガランは黙ってて!」
「体長的にコボルドとゴブリンはありえんな。GMなら外見を弄れるだろうが……」
「そも、今列挙したもので閣下が手塩にかけて作り上げたこの街を外から襲うのは不可能だと断言しよう」
「中に突然湧いて出てくる可能性があるね」
中に突然、ねぇ……まぁ、確かにGMならやりかね――
「あ」
「ランディ、どうしたんだい? 急におかしな声を上げて」
「とうとう痴呆でも始まったの? 勘弁してよー……もー……」
「ちっげぇええよ! 今めっちゃ嫌な予感がしたんだよ!」
「嫌な予感?」
「というか、多分――」
ピピピピピピピッ!
りんりんりんりんりん!
「――ゾンビじゃね?」
近藤と俺の時計がけたたましく鳴る中、思い当たった心当たりを告げた。
「ゾンビ……ッ!?」
「しかも、もう出てきてる」
レンが明らかに嫌そうな顔をする。それもそうだろう、最初のクエストで当たった相手がゾンビで、強制切断を食らった相手でもある。
いい思い出なんて、あるわけがないだろうな。
「しょ、証拠はなにかな?」
動揺しているところを悪いが、
「俺と、近藤の時計が鳴ってるのがその証拠だな。たぶんアスールと沖田だろ。で――」
ばぁん! と蹴破るような勢いで扉が開かれる。
「閣下! 一大事につき失礼します!」
そこには息を切らした隊長がいて、
「地下墓地よりゾンビが多数出現とのことです!」
「――はい、確定ー」
帝都は暗殺ギルドと帝都軍は別組織であり、それぞれフォローしあいながらの警備を行っている。
街に突然ゾンビがあふれ出た、となれば閣下に「一大事!」と伝えに来るのは至極当然の事だろう。
「は!? なにが確定ですか!?」
まぁ、事情が飲み込めないわな。今来たばっかりの隊長には。
「どういうことだい、ランディ」
「いや、さぁ……教会はどの街にもあって、地下墓地もどの街にもあるもんなんだよ。あと、映画にもなったゲーム、今でもあるじゃん……ゾンビを倒していくシューティングゲームがさ?」
「……ああ、なるほど。そうであるな。我も、映画は見に行ったことがある」
「ファンタジーとはちょっと違うけど、ゾンビを銃で倒していくゲームってゲーセンにも普通にあるしなー……」
「つまり、弱い、ザコ、って、わけ、だね?」
「それっぽい被り物と服装で変装できて、小五郎の意見に合致して、そしてこの街を外側から襲う必要の無い、とてもとても便利なお手軽MOBだ」
ただし普通のゾンビは足が遅いので、GMや小五郎の扮するゾンビだけは非常に早いシュールなものになるだろう。
「ああ……なんてことだ……!」
レンは天を仰ぎ見るように嘆いた。
「私はホラーだけはダメなんだよ……!」
なるほど、そうだったのか。
まぁ、それでも戦力は多いほうがずっといい。
「レン、会場のヤツらには伝えるか? 『ゾンビ襲来! お姫様を守れ!』とかでっち上げれば普通に手を貸してくれそうなもんだけど」
「……使えるものは使いたいし、私が参加しなくてもいいならぜひそうして欲しい。けど絶対に小五郎とバイソンGMが邪魔だね。ふふ……ちょっとシメてくるよ……!」
復活したレンは、どこか虚ろな笑いを浮かべながら本を携えつつ、立ち上がる――まるで、≪バインド≫を使いすぎたあの日のような、正気を失った目をしてた。
(……死んだな)
バイソンGMと、小五郎、そしてこの街が。
「頼むから、街に被害は出さないようにな?」
「ああ、分かってる、分かっているさ……けど、こんなバカやらかしたあの二人だけは許さないけどね!」
「そ、そうか……」
鬼気迫る表情だ。
完全に追い詰められた状態なんだろう。
「隊長! 数は分かるかい?」
「はっ! そればかりはなんともわかりかねます! ゾンビは教会裏の地下墓地入り口より次々に出てきております!」
「分かった――閣下は軍を動員! 近藤はギルドメンバーに緊急出動要請! アリスたちはここを守ってくれ!」
「ふむ、分かった」
「まっかせて!」
「軍師、作戦は?」
「私が頭を潰す。みんなは各個撃破しつつ、湧き出してくる地下墓地入り口まで押し返してくれ。街を壊さないようにしたいから単体魔法以外は禁止、近接に限定してほしい。あとは小さなゴーレムを大量に召喚して、突撃させる。できるのであれば、そのままゴーレムで圧殺だ」
とっさに彼女が出した結論は、至極単純な戦術。そう、
「人海戦術か……」
単に数で圧倒するだけ、作戦とはいえないようなものであった。
「儂は、レンちゃんはもっとアクロバテイクな作戦を行うと思ったんだがのう?」
「人海戦術は兵を疲弊させる代わりに、どの局面でも使えるとても優秀な戦術だからね。一分一秒が惜しいこの状況でそんな作戦は思いついても使いたくない。それと、疲れを知らないゴーレムを扱えるのならなおさらさ」
なるほど、よく考えられている。その意見はもっともだ。
「だが軍師よ、その作戦には穴がある……我は言ったはずだ。ゴーレムを大量に、一度に動かすには才が必要であると」
「単純行動ならその限りではない、とも聞いたね。圧殺すると言っても、ひたすら前に進ませるだけさ。ナイフでも前に突き出させながら前進させる、そんな単純な行軍ですら殺傷力は段違いだ。挟撃できるのであれば、盾であってもいい。サンドイッチにして押しつぶせるからね」
「ふむ……確かにそれならば出来なくはないな」
「まぁ、槍があるならそれを持たせてもいいけれど……これだと長さ的に建物を壊してしまう可能性が出る。そのあたりは閣下に任せるさ」
「ふむ……多少の被害に目をつぶってでも、やらぬ理由などないな」
本当によく覚えているな。前に軽く説明しただけだっていうのに。
「そしてランディにはぜひ私についてきて欲しい」
「ん? いいけど……理由は?」
「理由は二つ、とても簡単さ。竜殺しであり、軍曹の一番弟子だからさ。小五郎はこれで簡単に釣れる」
「なるほど、エサか」
小五郎はアスールにも目をつけていたけれども、俺が出向けばヤツの性格からして必ず俺のほうへやってくる。
たとえアスールを放置したとしても、だ。
「バイソンGMだけはおびき出す作戦が思い浮かばないけれど……」
「ああ、アイツはどうだっていい。強そうなのは見た目だけだから。人海戦術で圧殺していけば速攻で死ぬな」
「なら無視しても問題がなさそうだけど――クロウ、斥候をお願いしてもいいかな? 機動力が一番高いのは、君だから」
「騎士の名において、任されよう」
「ああ、バイソンGMを見つけたら教えてほしい――確実に私の手で始末したい」
「お、おぅ……せやな……」
レン、本気なんだな……クロウですら素でドン引きだ。
仮に、≪アースクエイク≫を唱えそうになったら……殺してでも止める役にも回らなきゃならんな、これ。
「それで、理由の一つは分かったけれど、もう一つは?」
「……ぞんび、こあい」
「し、しっかりしろー! レンー!! 幼児退行してるぞー!!」
なんとか二話投稿……風邪だと頭が回らない……!
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。
2012/12/23
なぜか子供二人が出てたのを修正しました。




