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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
婚活編
58/97

第57話 帝都

 帝都――そこはこの大陸でもっとも栄えている街。

 この街を立ち上げた人は第一種特例の中でもとびきりの特殊な人で、街として認められるまえからずっと頂点に君臨している。

 通称、帝王。キャラクター名、閣下。クロウの友達の一人だそうだ。でもさすがに、自分を閣下と呼ばせるのはどうなんだろうか?

(呼び方はどうすればいいんだろうね?)

 名前を呼ぶことが失礼に当たらないのであれば、敬称の代わりに帝王を頭につけて帝王閣下と呼ぶべきだろう……でもそれはどうなんだろうね?

 いや、使い方としては間違いじゃないよ? そもそも閣下は高位高官の人に用いる敬称だ。将官の軍人や勅任官以上の文官に対して用いる事が多い。

 でも帝王ともなれば陛下と呼ぶべきじゃないだろうか? 「陛」は宮殿の階段。階下にいる近臣を通じて奏上する意から、日本のように天皇陛下と総理大臣が別物であるような事がない限りは国のトップは陛下と呼ぶべきだと私は思う。

 実際、街のトップと会うのはこれが始めてだし、帝都軍を見ていると曲がりなりにも軍事国家じみた側面がありそうだからやっぱり閣下だろうか?

(いや、それだと呼び捨てになってしまう)

 しちめんどうくさいキャラクター名をつけてくれたなぁ。

 とりあえず、礼儀的には帝王陛下と呼んでおいたほうが無難だろう。

 周りからは帝王と呼ばれているんだし。

 ――まぁ、さっきの襲撃からだいぶ離されてしまったし、ゲリュオーンの燃料量的にも考える時間はたくさんあるか。

「お姉ちゃん、どうしたの? ボーっとしちゃって」

「ん、いや、なんでもないよ。裏切り者はどうしてくれようかと考えていたところだったんだ」

「あー……」

 アリスはとても複雑な表情をして、

「あのバカはねー……まぁギルド対抗戦イベントだったらすごく頼もしいんだけれど、今回ばっかりはねー?」

「なに、対抗戦はいずれ行うであろう。その時に参加させなければよいのだ」

「スポーツみたいなものでもするのかい?」

「そうとも言えますね。内容は対人戦ですけれど。まぁ何でもありの集団戦ですから、とても盛り上がるんです。もちろん、個人戦もありますよ?」

 ちなみに予選と本選があって、本選はその内容もネットでストリーミング配信されるそうだ。ようするにオリンピックみたいなものだという。

 ファンタジー好きはもとより、VFX(とくさつ)好きにも好評なイベントであるという。企業としての収入的には超人スポーツに次ぐとかなんとか。

「なるほど、小五郎が好きそうだね」

 それは確かに小五郎はさぞかし悔しがるだろう。しかも“辻斬り小五郎”と呼ばれたぐらいの対人好き、観戦すら許させなければ、相当堪えるだろう。

 でもギルド単位で受けた依頼だっていうのに、それを邪魔をするような依頼を引き受けたんだ、もうひと捻り欲しいな。

「あとは金銭的な罰と、強制労働でも科せばいいんじゃないかな」

「だが、彼は大学受験を控えている浪人生だぞ?」

「そういえばそうだね。忘れてたよ」

 となれば――

「せっかくだし、タロスが家庭教師を務めてあげたらどうかな? 時間が合うときであればいいし」

「できなくはないが、いいのか? 専門分野(きかいこうがく)以外は広く浅くしか知らないぞ」

「ああ、いいよ。これで小五郎がログインできる口実(・・)ができたよ」

 もちろん口実とはいえ、ひと一人の夢を邪魔するような、そんな事をするつもりはない。

「幸い、このゲームの図書館は蔵書が多いからね」

 このゲームの図書館は世界のありとあらゆる書籍が電子データ化され、≪解読≫さえあれば読めるようになっている。

「当然、参考書や教科書の類も揃ってるんだ。こっちでできるならこっちでやらせてしまえばいいんだよ」

 これは第一種特例になってしまったアリスのような子供達にも勉強を教えられるようにとの配慮なんだろうと私は考えている。

 実際のところは、よく分からないけれどもね。

「えっ、ゲームしにきてまで勉強すんの……?」

 ヘルフリート君たちが明らかに顔をしかめた。

「そうだね、学校が始まったら君たちもいずれやってもらおうかな?」

「うげー!? それ勘弁ー!!」

「塾に来てるわけじゃねーんだし遊ばせてくれよねーちゃん!」

「君たちにはほんの三十分程度だよ。心理学的には人間の集中力はだいたい二十五分ぐらいしか持たないらしいから」

「へー」

「じゃぁなんで三十分以上も授業って続くんだ?」

「出席を取ったり、雑談したり……まぁ原因はいくらでもあるけれど、実際に集中する時間はそれほど長くないからだよ」

「「へー」」

「とにかく、ゲームのやりすぎで学力が落ちたとか言われて、ゲームできなくなるのは辛いだろう?」

「「あー……」」

 いわゆる教育ママ対策だね。

「でもオレ、家帰ったらメシとかつくんねーと。オヤジいっつもコンビニ弁当でさー」

「じゃぁランディに相談するといいよ」

「そっかー……やっぱ兄貴ってすげーよなー! ああいうのとケッコンしたらオヤジも安心してくれそうだぜ」

「……そういう話は決してアスールの前ではしてはならないよ?」

「あー、ホレてんのか」

「そうだね」

「オレてっきりねーちゃんとできてるもんだと」

「私に特定の恋人(ひと)はいないよ」

「マジでッ!?」

「お姉ちゃんって、いそうでいない人だからねぇ」

「告白されたことはあるんだけれどね」

「理想が高いのですか?」

「いや、そういうつもりはないけれど……とりあえずデートとかしている時間があるなら本が読みたいよ」

「……ね?」

「なるほど」

「納得である」

「色気ねーなー」

「もーちょっとこー、さ? ねーちゃんもガンバろうぜ?」

「頑張るって、何をだい?」

「いや、オレからしたらなんつーか暗い青春だなーって」

「青春は思春期のことを指すし、夢や希望にあふれ活気に満ちた時代を指す。ゆえに私は本を読んでいるときが一番青春しているといえるね」

「……そうなんだー」

 キリヤちゃんがなにか言いたそうだけれど……読書したいというこのあふれんばかりの気持ちはまさに青春だと思う。そのことの何が悪いんだろうね?

 仮に恋人を作ることが青春であると考えているのなら、それは間違いだと正してあげたいところだ。

 それに恋人ができても別にデートをする必要があるだろうか? 恋心を確かめるのに大仰なプレゼントが必要だろうか? 少なくとも私の中では、それはない。

 お互いに理解し合える時間があれば幸せなんじゃないだろうか? たとえば、一緒に同じ本を読んだり、読後には内容について語り合ったり、次はどのような本を読むかを相談したり……世間一般とはズレていると言われようとも、それが私の青春だ。

「ああ、別に恋人が欲しくないってわけじゃないよ?」

 恋人と背中合わせに寄りかかって本を読む、というシチュエーションはちょっとした憧れだしね。

「おー、一気にコイバナ!? お姉ちゃんのちょっといい話聞いてみたいなー?」

「そうですね、先に行った馬車に追いつくまで暇ですし」

「オレも高校生の恋愛ってどーなってんのかちょっと知りてーんだよなー!」

「やれやれ……女三人寄れば(かしま)しい、とはよくいったものであるな」

「ふむ――ならば軍師、私が立候補してもかまわないか?」

「タロスは私の趣味じゃない」

「そうか……私の知識についてこれる逸材だと狙っていたんだが……」

 狙われていたのか。

 しかも求める基準が知識だけというのは、ちょっと女として見られていないようで腹立たしいところだ。

「ところでタロスの罰だけど、謝罪と賠償と、あとは手軽な乗り物として車か何かを作る、でいいと思うんだけれどどうかな?」

「私にロボ以外を開発しろというのか!?」

「自転車作ったりゴーレムの鎧を作ったり、色々やってるんだから別に今更じゃないか。それに、嫌がることじゃないと罰にならないよ」

「くっ……私の信念を曲げようというのか……鬼畜軍師め……!」

「タロスに告白されかけたからね、しっかり嫌われておかないと」

 仮に付き合うとしても、読むジャンルがロボット戦記もので固定されてしまいそうだし、なんだか油と排ガスの臭いでまみれそうで嫌だからね。

「……同情はせぬぞ、タロスよ」

「くっ――!」

 自業自得だとは思うけどね。

「ところであとどれくらいで到着するのかな、運転手(・・・)さん」

「名前まで呼ばれずに……あと十数分といったところだ」

「馬車はもうとっくに帝都入りしていそうであるなぁ」

「かなりの速度を出していましたからね」

「あ、なんかオレすっげーテンション上がってきた! 他の街って始めてなんだよな!」

「俺様、王様に認められた勇者になるかな!?」

「ヘルフリートよ! 王様には認められることはないであろう! なぜならばっ! 閣下は帝王であるからである!」

「なるほど! 帝王だから王様じゃねーよなってアホかー!」

「ふはははは! いいノリツッコミである!」

 ……姦しいなぁ。


    [to be Next scene...]


 帝都――そこはこの大陸でもっとも栄えている街。

 経済基盤が巨大であるとやはり他の街への発言権も大きくなるせいか、実質的にはここがこの大陸の首都となるらしい。

 もっとも、このゲームでは街=国という認識であるから、連合国と言ったほうが正しいのかもしれないけれど。

(ここの国の名前って、きちんと決められていないんだけどね)

 ちなみに極東にある島に存在するいくつかの街には、ちゃっかりと「ヒノモト」という、まさにありきたりな名前の連合国名がつけられているそうだ。

 ――連合国名などは言ったもの勝ちらしい。

 国の外周はとてもとても高いレンガ造りの外壁で囲まれている。作成時にはわざわざゴーレムを使ったというのだから驚きだね。

 そしてその外壁の周囲には堀が作られていて、澄んだ水が貯められている。

「この大陸は降水量が少ないであるからして、緊急時の貯水池としても利用できなくはない。おそらくは魔法を使い貯めているのであろう。閣下は水属性固有劣化の≪スコール≫を使う魔術師を何十人と雇用したと聞く」

 貯水池とは言っても堀は堀、外敵(MOB)から市民を守るためだとはいえ、これはもはや帝都と言うよりは要塞と言ったほうが正しいんじゃないかな?

 ドラゴンの街に行くためにここを経由したことはあるけれども、何度見てもそう思ってしまう。

「しかし表通りを通るなどとは思わなかったぞ、我は」

「だが一番広い道であることも確かだ」

 頑丈な跳ね橋を渡り十メートル級のゴーレムが出入りできるような高い正面門をくぐりぬけ、今は目抜き通りを通っている。

 住民がぽかーんとした顔をして私たち、というよりはゲリュオーンのことを見ている。これでも事前に公布されているのだろう、そうでなければこんな巨大なロボットで街の中を歩いていたらちょっとした騒ぎになっていはずだ。

「すっげーきれーだなー! なんつーか、テレビでみたヨーロッパみてー!」

「最初は『どこの要塞だよっ』て思ったけどさ、中はすっげー普通だよなー!」

「そうであろう、そうであろう! 我が朋友(とも)が一人、閣下が身を粉にして作り上げた街である! 褒めよ! 褒め称えるのだ!」

 ヘルフリート君がはしゃぐように身を乗り出して、キリヤちゃんは外見の物々しさから想像していたのとは逆の光景だったために若干落ち着いていた。

 それでも、興奮していることには違いない。二人とも目を輝かせているんだから間違いない。

「身を乗り出しすぎて、落ちないように気をつけてくださいね?」

「「はーい!」」

 なんだか修学旅行を思い出すな。

 ルシーは先生みたいな事を言ってるしね。

「このまま王宮へ向かうぞ」

「安全運転で頼むよ」

 しっかりと石畳で舗装されている道を踏みしめながら、ゲリュオーンは遠くに見える王宮へと歩き続ける。

 さて、私も技術書(ほん)の続きを読むことに――

「――って、あれ?」

 私が技術書に視線を落としたと同時、アリスが声を上げた。

「どうかしたのかい?」

「んー、なんかちょっと行ったところで馬車が止まってるっぽいんだよね。お姉ちゃん」

 それは、営業が勝手な判断で止めているのか、それとも私たちが来るまで待っていたからか……さて、どっちなんだろうね?

 待っていてくれるのであれば、街の外でもいいわけだし。

「とりあえず話を聞いてみないことには分からないんじゃないかな」

 技術書(ほん)からは目線を外さず、アリスに対処を任せることにした。

「――進んでいてもいいんだな?」

「かまわないよ」

 私は今回もほとんど役立たずだろうしね。

「待っていてくれたのかな?」

「さぁ、どうだろうね?」

 個人的な印象で申し訳ないけれども、厄介ごとであるとは思う。

 そうだな――たとえば大事な大事な「お客様」が町並みを見て、町を散策したいと言い出した、とか。

「どーかしましたかー?」

 ゲリュオーンに乗ったまま、アリスが大声を張り上げた。

「ああ、アリスさん!」

「ちょうどよかった、待ちくたびれましたよ!」

 ……待っているなら王宮内か、街の跳ね橋前が妥当だと思うんだけれどもね。

(中途半端なところで待ちくたびれました、か)

 実に厄介な話が舞い込んできそうだ。

「実はお客様がですね、この町を散策してみたいと」

「それでご案内していただきたいと思いまして、騎士さんたちにも交渉していたんですけれどもなかなか……」

 予想的中。

 たぶん、案内をお願いしたいとかそういう話だろうね。ああ、やだやだ。なんで人の話を聞いてくれない相手を案内しなきゃならないんだ。

 しかも依頼を引き受けているのは私たちだ、まったく無関係の帝都軍の騎士たちに話をしても意味がないのに。

 ――本当に勝手な事しかしないな。

「それであなた方にお願いしようと」

「ダメに――」

「――ダメに決まっておろうが!」

 っと、クロウが噛み付いたな。

 まぁ予想の範疇だ。

 さっきの鎮圧でも、ランディに止められなかったら何をするか分からなかったし……誰も止めなかったら、私が止めるハメになるんだろうな。

「なぜですか?」

「そも、城への招待は閣下のご好意! しかもかなり分の悪い投資である!」

「分の悪い!?」

「投資ですって!!」

 あー、営業さん、明らかに怒ったね……。

 私はひとまず、技術書を閉じた。

「クロウ、ちょっと落ち着こう?」

 アリスと同じ右手の上で、仁王立ちしながら今まさに朗々と語りだそうとするクロウへ視線を落とした。

「止めてくれるな軍師よ! こやつら、まだ立場がよく分かっていないと見える! 我はもう我慢の限界である!」

「うん、分かった。その思いはもっともだ」

「なれば!」

「でも黙って座ってくれるかな? ランディの、いやサブマスターの代理としての命令だよ」

 後釜として指名されたけれども代理と呼べるほどの権力はない。そもそも代理というにはおこがましいし、権力はあまり使うものじゃないと私は思う。だけどそれが、この場を納めるのに有効なのならば、使うのが一番だ。

「軍師はまだ見習いの立場であろう!」

「それでもその立場を出さざるを得ないからこそだよ」

 頭に血が上った状態じゃ、冷静な判断は下せない。

 怒り、というのも一種のパニック症状だからね。

「黙って座って、アリスと私に判断を任せてくれないかな? そんな状態じゃ、いつ刃傷沙汰になるか心配で見ていられないよ」

「……苦言は呈すぞ?」

「先輩の言うことだし、サブマスター代理といえど立場としてはそちらが上になるだろうからね。かまわないよ」

 気に入らない、といった表情をして座り込む。

 それでも私相手に引いてくれたのだから、あとで何らかのお礼ぐらいは言っておかないとな。

「――まずは遅ればせながら、自己紹介をしよう。ガランティーヌの代理、レンだ」

「ガーラさんの?」

 今だ怒り静まらず、と言ったふうに、顔をしかめた状態で女性の営業――ええっと、小耳に挟んだ程度だけれども斉藤さんだったかな? が反応を返した。

 声の抑揚とかから察してはいたけれど、二人は馬車から降りてゲリュオーンの本当に近くに立っていた。

 ――本当に待っていたんだろうね。

「アリスの言うとおり街の案内は無理だ、ということを前提に話すよ?」

「ええ、ですから交渉しようというんです。契約内容にはそちらが可能と判断したものならば応えるとありました」

「その前に、王宮は私達の所有物じゃない。第三者が好意で貸してくれたものだ」

「それはそちらの交渉の結果では?」

「帝王陛下に使うと侮辱罪にあたりそうだから帝都軍の人たちの前では言いたくないけれど……それはつまり下請けという認識でいいのかな?」

 ざわり、と騎士たちが殺気立つ――慕われているんだなぁ、帝王陛下。

「認識もなにも、そうではないんですか?」

 今度は近隣の住人までもが、ざわざわとどよめきたつ。一種の殺意にもにた視線で、営業を睨みつける住人もいるくらいだ。

 ――なるほど、おおよそつかめてきた。

「最初にアリスたちが話したよね? 別な国に来たものだと思ってくれ、って。私はこのゲームを始めて日が浅いけれど、はっきり言ってあなた方は社会人として疑いたくなるくらい認識が甘すぎる、計画性も皆無だ。参加者に最低限の説明もなく、それでいてどんなことも『ゲームだから』で済まそうとする」

 それに、そもそもなんでお見合いイベントなのに観光したがるんだろう? 目的としてのお見合いと手段としての観光が逆になっているじゃないか。

「ゲームじゃないですか!」

「それがいけないって言っているんだよ?」

 この人たちは、本当に自分の都合のいいことしか受け入れないだろう。

 それに成人していたとしても、某有名ゲームのようなものを一度でも体験したことがある参加者はきっと最初期のヘルフリート君みたいな行動を起こすだろう。

 それがいつ発売されたものであっても、少なくともヘルフリート君がやってきた一人用のゲームよりは昔のはず。

 有名なものは基本的にシステム面などで変わることはないはずだ。パソコンのOSやワープロソフトだって、基本的なことはほとんど変わっていないのと一緒と考えていい。

 読書にしか興味がなかった私だって、少し考えれば予想がつく。

 つまり勇者様系=新旧は関係がない、という結論だ。

「問題児のパターンにはね、勇者様系っていうのがあるんだ。他人の家に勝手に押し入って、ものを盗んでいく――現実だと単なる空き巣だよね?」

「あんま言わねーでくれ……俺様ちょっと傷つくから……」

「うん、ごめんねヘルフリート君」

 まぁヘルフリート君は矯正したからいいんだけれども。

 もし、仮に、それが大人だったら?

 ステータス面での差はなくとも、リーチや経験の差は歴然としている。つまり、大人を捕まえるほうがかえって面倒なんだ。

 しかも、それが思考の凝り固まった人なら?

 ――そう、たとえば今目の前の営業さんたちのように。

「ゲームだから別に……」

「ゲームと現実をごっちゃにしちゃいけないって言われているけれどさ、そういう風に『ゲームだから』って言い訳している相手もはっきり言って迷惑なんだよね」

「迷惑ってなんですか! こっちはリアルの人間相手ですよ!?」

 そう、きっとこう出る。

 本当に面倒くさいなぁ……それにしてもランディはよくもまぁこういう人たち相手に説教できたね。すごいよ、本当に。

「じゃぁここで契約を切ろうよ」

「……は?」

「違約金の相場っていくらぐらいかな? アリス」

「えっ? あー……前金がないときは報酬の二倍ぐらい?」

「じゃぁ二万だね」

「――ここまできて断るっていうんですか!?」

「ちょっと無責任すぎやしませんか!!」

 怒りこそ混ざってはいるものの――営業の二人の声には焦りが混ざっている。

 ええっと、こういうとき戦記系ライトノベルの軍師はなんて言ってたんだったかな……ああ、そうだ「今です!」だ。

「それは認識の相違だね、違約金を払う時点で無責任じゃない。それに私たちにはゲームでの生活もかかっているんだ。これよりももっと危険な仕事はたくさんある。引き受けたはいいけれど、どうしてもクリアできないときは違約金を支払って契約を破棄するんだ」

 まぁ、仕事の達成云々は小説の知識だから、このゲームで当てはまるかどうかは分からないけれど……アリスは確かに違約金の相場を語ってくれた。

 つまり契約をこちらから切るという行為は実際に存在する。だから当てはまる当てはまらない、とかは今は関係ない。

 それより重要なのは、相手が勝手に勘違いしてくれるということ。

「契約の破棄はもちろん現実世界でもありうるし、違約金を払って破棄するとなれば失敗だ。でも、その意識を改革しても、もう二度とこの依頼は受けてもらえないと思ったほうがいい。そちらが下請けだと認識しているのは仮にもこの国の最高権力者だ」

 正直に言うと、切羽詰ったプレイヤー達が引き受ける可能性だってある。でも、今必要なのは烈火のごとく畳み掛けること。

「あと、そこの騎士も馬車も君たちの言う下請けだ、まっさきにたたき出されるね。いや、侮辱罪が適応されてそのまま馬車で牢屋へ連行かな? あなた方の大事な大事なお客様たちは。ああ、そうだ、他にも――」

「――なんでゲームなのにこんなに不自由なんですか?」

 おっと、観念するのが意外と早いな。

 もう少し粘られると思って、ずっと考えながら喋ってたのに。

 まぁ、早く収まるのならそれに越したことはないか。

「とあるシスターが言ってたね。プレイヤーなんだけれども」

 私はルシーの言葉を思い出しながら、

(うんえい)は天と地を作りたもうた、されど歴史は(プレイヤー)が作る」

 若干の改変を行って、

「極力干渉しないんだよ、ここの運営は。プレイヤー達が街を、国を、歴史を作っていく異世界――どんな障害を持っていようとも、現実を感じて欲しくて作られた世界。こんな程度のこと、公式HPのトップを見れば当たり前のように書いてあることだよ?」

 このゲームのコンセプトを語る。

「上司から無理やりねじ込めと言われたとか言い訳している暇があったんだ、公式HPのトップぐらいには目を通せたんじゃないかな?」

 もちろん、返事はない。ただ沈痛な表情を浮かべたまま、黙って私のほうを見ている。

 うーん、逆ギレすると思ったんだけれども……意外と打たれ弱いな。

 営業ってみんなこういうものなのかな? 昔うちに来たセールスマンのほうがよっぽど腰の粘りが強かったよ。

「分かったら馬車に戻って、王宮に急がないとダメじゃないかな? ……ああ、この場でどれほどの人件費がかかっているか、そしてそれを行った結婚相談所はどこか、この街の人の前で公表してもいいよ? ゲーム内でどうなるかは知らないけれど、現実でどうなるかな? このゲーム、主婦がゲームをしていることもあるから……まぁ乗るね、ブログに」

「――!!」

 さぁっと、青ざめていく。

 これでようやく理解したかな? 自分達が相手をしているのはどこまでもリアルの人間だって。

「さっきから妙齢の女性もそれなりに見かけているんじゃないかな? そもそもゲームはいつだって暇な人や刺激を求めている人がやるものだよ? それに、VR機器は高いからね、家庭で財布の紐を握っている人が決定権を握るのは当然だよね?」

 もう、声もない。

「でも……いや――!」

 下調べ不足がたたっているんだろうね、ヘタに口に出せばそこから契約解除、そして自分達は失敗の汚名、会社自体に泥を塗る可能性もある。

 最悪の場合は……まぁ、考えるまでもないね。

「何をするにも、まずは馬車で王宮に向かう。これじゃないかな? 着ている服もまだ、ちゃんとしたものじゃないんだろう? そんな格好で、しかもそんなにお金のない状態……はっきり言って、首都でそんな経験は恥を与えるだけだと思うよ? 私たちは、幻想的でファンタジーで壮大な運命(出会い)を演出するため、ここまでやってきたんだろう?」

 最後は甘いキャッチフレーズでしめる。

 まぁ、ファンタジー(空想の産物)というだけあって甘い幻想の前には苦い現実の障害(かべ)があるのだけど。

「……そうでしたね、迂闊でした」

「そうだよ。さっきの襲撃のせいで、こっちだって人手が足りるかどうかもまだよく分からないんだ。そんな中で全員をゾロゾロと観光させるなんて迷惑以外の何者でもないし、情緒もない。せっかくなんだ、ここはまるで物語のように――そう、『お姫様は王子様と二人でお城を抜け出して……』がベストなんじゃないかな? ほら、まるでロミオとジュリエットじゃないか。二人の恋心は盛大に燃え上がるだろうね、ロミオとジュリエット効果っていうのがあるくらいなんだから」

 でも、その物語に『二人で幸せに』お城を抜け出すなんてくだりは一切出てこないけどね。そもそも悲劇だし。ロミオとジュリエット効果も『悲恋だからこそ燃え上がる』だし。

「な、なるほど……わかりました。では説明につきましては私たちが行います。ひとまず王宮へ、ですね」

「うん、それがいいよ」

 営業さんたちは顔を見合わせて、軽く言葉を交し合うとすぐに駆け出していく。

 ……いや、本当にいいの? 二人の事が逆に心配になってきたよ? 私は。

「――軍師、口が達者だな」

「私は軍師じゃないよ」

「褒め言葉だ」

 タロスに褒められてもなぁ……と、そうだ。

「クロウ、今のは及第点かな?」

「我が朋友を下請け扱いしたことに対してのフォローがないゆえ、五点減点であるな」

「意外と早く折れちゃったからだよ」

 十点満点なのか百点満点なのか聞くのは野暮なんだろうね。

「だがしかし、軍師はよく勉強しているものだ。きちんと依頼についても――」

「あれはハッタリだよ」

「――三点減点である」

「っと、言わないほうが良かったかな?」

「つーか、ねーちゃんが怖かった!」

「俺様も心を抉られたぜ……!」

「まぁ私は楽だったけどねー」

「たたみかけ、煙に巻き、人の心をもてあそぶその話術、まさに悪魔のようですね」

「ふむ――とりあえず総合して、軍師は赤点であるな!」

「そうかい」

 でもその笑顔は、満点の顔だよね?

「赤点を取ったのは生まれて初めてだよ。ちょっとした記念だね」

 まったく、クロウもたいがい人が悪いな。

 私は思わず肩をすくめて――

「え?」

「え?」

「赤点とは普通、人生に一回や二回とるものでは?」

「いや、一度も取ったことはないよ?」

 ちょっとした自慢だったんだよね。人生で一度も、たとえ小テストでも赤点を取ったことがないのって。

「ちなみに高校受験のときはどうでした?」

「すごくいい手ごたえだったよ? ケアレスミスだけが不安だったね」

「お姉ちゃん、昔から頭は良かったから……」

「すげー」

「さっすが、伊達に軍師とか言われちゃいねーな!」

「だから私は軍師じゃない」

「……なぁ、軍師。もう一度狙ってもいいか?」

「何度でも断るね。それに、私は軍師じゃない」

「そうか……」

「懲りませんね。ですがそれもまた(アカペー)です」

「煽らないでほしいんだけどな?」

「あっ、絶対小五郎の前では秘密だからね! 結構過敏になってるからそういうのに!」

「はいはい、わかったよ」

 ――別の意味で肩をすくめることになってしまったよ。

 思わず苦笑してしまう。

「あ、動き出したみてーだぞ」

「俺様も昔はあんなんだったのか……ほんとにこれからは心を入れ替えなきゃなー……」

「人のフリ見て我がフリ直せ、だねー」

「ですがヘルフリート君にはそのまま腕白でいて欲しいですね。私、そういう子を大人の魅力で優しくシてあげるのがとっても……っ!」

 じゅるり、と。シスターにあるまじき効果音が聞こえた。

「ねーちゃん! こいつどーにかならねー!?」

「……うん、プラカードの刑、考えておくよ」

「やめてくださいませんか!?」

 どうしてこうもしまらないのかなぁ、私たちって……。

難産……圧倒的難産……っ!


ともあれ書き溜め分放流終了。


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