第55話 第三次ログイン大戦
「アスール! そっち押さえろ!」
「あらほらさっさー!」
「きゃぁあああ!」
「ちょ、大切なお客様、お客様ですからー!?」
「沖田! 抜剣許可! 早急に鎮圧しろ!」
「了解しました、早急に鎮圧します」
「ちょ――!」
「タロスー! 上から押さえつけろー!」
「やれやれ……」
「――うわあああああああ!?」
「軍師よ! 倒れたものを≪バインド≫し、動けなくするのだ! あとそのお飾りの発動体を我に貸せ! ≪グラビティ≫で補助を行う! そこな若葉マークも手伝え!」
「はいはい……ページが減るのは嫌なんだけどな……≪バインド≫……≪バインド≫……」
「何をするんだこの野蛮人どもが!」
「こっちはお客様だぞお前ら!?」
「かっちーん!」
「アスール! 手加減は必要ないようだぞ! 剣使ってでも押さえつけろ!」
「とっくに手加減なんてしてませんよーだ! こっちも頭にきてるしねー!?」
「やめろぉおおおお!」
「こんなザコども斬っても拙者の妖刀がさび付くだけでござるよ!」
「といいつつ思いっきり斬ってるじゃねぇか! ――ええい大人しくしろっての!」
「増援を呼ぶ! さすがにこれ以上一般人を巻き込むわけにはいかん!」
「さっさと呼べ近藤!」
「お客様が……お客様がぁ……っ!」
「わー、みんながんばれー」
「アリスは働こうよ……っと、≪バインド≫」
「ええい! 動くな! ≪グラビティ≫≪グラビティ≫≪グラビティ≫≪グラビティ≫……!」
「うおおおおおお!?」
[to be Next scene Side DarkCrow...]
――ふむ、まずは状況を説明せねばなるまいな。
このゲームは限りなくリアルである。
が、しかしプレイヤーの見た目以外は能力値、重量すら均一化されている。計測ギルドが言うには平均成人男性の身体能力を軽く上回る、いわばトップアスリート並みになると言う。
当然であるな。
でなければ、三十キロ超の重い金属鎧を着込み、片手で二キロ弱のショートソードとラウンドシールドを持つことなど難しいことであろう。
いわんや、戦場をや。
それを全力で駆け抜け、敵の大群を残らず平らげんとするなど到底不可能であるからして、その強化の程がよく分かるというものではなかろうか?
この極端にパワーアップした力加減というものは人によってやはり適応するまでの時間が違う。おおよそにして四通り。
早ければインしてすぐ。総じて「体が軽くなった」と言う者。若かったりスポーツを嗜んでいればこの順応性は高い。聞いたかどうか忘れてしまったが、おそらく軍師はここに分類されるのではないだろうか?
遅ければ数歩歩いてようやく。こちらは「ちょっとびっくりする」と言う者。こちらはインドア趣味か年配に多いと聞くな。
さらに遅い例としてはやはりキリヤのごとく、第二種である場合。盲目であるならその視覚からの情報量に酔うことが多い。キリヤもそうであるが、やはりリハビリ期間が必要となる。やはり若ければ若いほど順応性は高いが。
特殊な例もある。これは常日頃から異様に鍛えている者だ。例えば「動きが明らかに鈍い」……と、これは軍曹が言っていた本当に特異点的な言葉であったな。普通は「怖いほどに体調がすこぶるいい感じ」「コレが現実だったら……」と答える。職業的には警察官や消防官、自衛官やアスリートなどに多いと聞く。
「どけぇええ! ミブウルフだぁあああ!」
「暴徒鎮圧任務を開始する!」
「俺たちは暴徒じゃないぞ貴様ら!」
「お客様ーっ!?」
「俺が誰だか分かってるのか!?」
「知るかっ!」
「私は無関係っ! ちょ、普通にゲームしにきただけなんですけどー!?」
「おおおおおおい! 俺は無関係だあああああ!」
「一般プレイヤーは向こうの初心者ギルドに預けろ! あとそこの男は縛り上げておけ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
「近藤きさまぁああああああああ!」
――であれば、なぜこの状況になってしまったのであろうか?
彼らは普通に一歩ずつ踏みしめて、体の調子を確かめればいいだけであった。
ただし、問題が一つ。
五十人あまりの一斉ログイン。これが最大の問題である。
こちらの世界に召喚してきた場合、光の中から歩み出てくる。ちなみにプレイヤーはその光を知覚していない、していたら目が潰れるというか、まぶしすぎて目を開けていられないからである。
そんな裏事情はさておくとしよう。
この「数歩歩く」という行為でまず力加減などを確かめてもらうという、ゲーム上の操作チュートリアルがあらかた終了してしまうのだ。
不親切設計であるが、そういう仕様である。
さて、話を戻そう。五十人あまりの一斉ログイン。これは以前に似たような事件が発生している。簡単に言えば第一陣や第二陣と呼ばれる、古参プレイヤー達がログインしてきた事件だ。
歩幅が違うからして当然歩く速度は一人ひとり違う。音頭を取っているわけではないし、やはり力加減を間違えて前の者にぶつかってしまうことが起きてしまう。
大人の対応といえば、まずはごめんなさいと謝罪をする――のであるが、問題は女性も混ざっているということにある。
おかしなところを触れられたと悲鳴を上げ、男は驚きながらも謝罪する。このとき他のプレイヤーにぶつかってしまう場合もある。短気ならば平手の一発も見舞おうかと思うだろう。
特にゲーム内だ、傷害罪に当たらないとなれば平気でやる女性もいる。現に、いた。
さて、全力で振りぬいた平手であるが――少なくともなんの準備もない人間を平気できりもみさせながら吹き飛ばすぐらいの破壊力はある。
もっとも、素手で戦うものもいるくらいなのだからそれくらい平気で行えなくてはなるまい。
ゲームだから、とタカをくくっての平手でこれほどの衝撃的なシーンを見せられるとは、いやはや……。
そしてこれをきっかけに大惨事が起こる。
たとえば避けようと“全力で”横に飛ぼうとすれば水平開脚しながらのジャンプ、というよりもむしろとび蹴りであるな。
不可抗力であろうともなかろうとも、蹴られて面白い人間などいるはずが――まぁ状況と性癖にもよるが――いるはずがない。
何をするんだと怒声が飛ぶようになり、最初のうちは聞こえていた謝罪の声がだんだんとなりを潜めていく。
一種の集団パニック状態であるな。
これにより、過去に第一次ログイン大戦および第二次ログイン大戦と呼ばれる、男女入り乱れての不毛な殴り合いがあった――今回はおそらく、第三次ログイン大戦とこのゲームの歴史に深く名を残すこととなろう。
まったく。終戦記念日が近いと言うのに、彼らは本当に不謹慎であるなぁ。
[to be Next scene...]
婚活にきたはずの相手に我が朋友はいきなり正座させ、説教をし始めた。
……何を言っているか分からないと思うであろうが、MMO系ゲームとは公共の場と等しい。初心者が騒いでいたら叱る、当然の措置である。
それを理解しない輩には軍師の七十八レベル級≪ファイアーボール≫で地面を十数メートル消し飛ばし警告。
それでも聞かないようであれば、普段から≪PK≫スキルを常にフルスロットにしている小五郎に一度斬殺させ恐怖心を植えつけるなどといった徹底ぶり。まさに恐怖政治である。
営業二人――そういえばまだ名前を聞いていない、彼らは本当に我々に対し営業をするつもりであったのか――が泡を食ったような顔をしている。
というか、朋友もガチギレしているのであるからして……っちゅーか、メッチャ怖い。
あのあきらかに職業軍人って感じの軍曹みたいな殺気をさっきから発してんねん。え、なに? 竜殺しってみんなこうなん? さくっと恐怖政治実行した軍師より怖いわ……。
ちゅーかヤーさんよか怖いんやけど、ドラゴン十頭同時ってそれくらいの修羅場なん?
(史上最悪の暗殺者って二つ名も伊達やないっちゅーことか?)
――っと危ない危ない。
朋友のせいで我のメッキがはがれてしまったやないか……!
「――と、いうわけでゲームだと思っていようとも、ここは他の人たちもいるちゃんとした公共の場、しかも日本の法律で守られているわけではない外国だと思ってくださいね? こちらとしてもこれ以上無益に血を流したくはないですし、刑罰執行も手間ですし」
朋友はすごく朗らかな笑みを浮かべているものの、背後に背負った雰囲気はおそろしく禍々しい。
参加者全員が青い顔をしている。
営業はもう言葉すら出ない。
近藤は頭を抱えている。
小五郎は「あんな一方的虐殺などもはや対人などと呼べるものではござらん……っ!」と悔しそうな顔をしている。
我らがマスターはいまにも≪エクスプロージョン≫を放たんとする軍師の機嫌を取っている。
(なんというか……なんというか、であるなぁ)
しかし、ここまでされたというのに気分が悪くなった人間はいないようであった。
さすがは毎日のごとくサスペンスドラマを放送している現代日本。背中に貫通せぬよう心臓をひと突きで殺せばまったくトラウマにならぬ、というものもすごい話である。
これにより、ただ殺されるといった恐怖のみが先行してしまう。
ゲームシステム的にも痛みはなく、ただ恐怖のみが与えられるのだ。これほど恐ろしいことはない……そこを計算しての殺害とはきゃつめ、辻斬り小五郎の腕は衰えていないようであるな。
……いや、褒められたことではないのであるが。
「――では、説明を終わります。ゆっくりと立ち上がってください」
腰のモノに手をかけながら、いつでも抜けるとでもアピールするようであった。
朋友よ……まるで悪者ではないか……。
「あ、あの~……」
女性の営業が我に話しかけてきた。
「ふむ、何か?」
「ちょっと、やりすぎだと、思うんですが……」
「ふむ……」
そうであろうな。
軍師はなんのためらいもなく殺人を命令し、朋友や小五郎は疑いもなく実行したのであるからして。
リアルであればもちろん犯罪である。が、ゲームとリアルをきちんと区別できるからこそやったとも言える。
――まぁ、辻斬り小五郎はある意味要注意であると言えるが。
「もちろん悪いことをしてしまった感は否めないな。しかし、公共の場で乱闘騒ぎを行えば鎮圧される、当然の事であると思うが?」
「でも、ゲームですよね?」
またか。
どうして彼らはこう、ゲームであるからということを理由に、何をしてもいいと考えてしまうのだ? 中に人がいるというのに。
「一応、お客様なわけで――」
「では契約をここで打ち切ればいい」
我は言ってやった。
こいつらに敬語を使うのももったいなさ過ぎる。
未だに名前も言わないのであれば、こちらもそれ相応の対応をさせていただこう。
「そも、身体能力が上昇するため慣れるまでは落ち着いて行動しましょう、とはマニュアルの冒頭にも書いてあることである。それを貴社は彼らに説明をしたのか?」
「いや、その……リアルである、ということしか」
「説明不足すぎるな。話にならん」
昔からゲーム脳だとか、オタクであるとか、そんなふうに言われ続けていたのだ。
それを今更手の平を返したように利用しようとする、その根性が最初から気に入らなかったのだ。
もっとも、そのイメージを払拭するのにいい機会だと思ったのも確かであるが。
だからこそ、みなで楽しめればいいと思った。
「結果がこのざまか……」
我らの認識も、相手の認識も、何もかもが甘かったとしか言わざるを得ないな。
「誰も彼も何も言わないでいたから、我が変わりに言おう」
「はい?」
「そもそもそちら側からの自己紹介を受けていないのであるが、これは営業を行うものとしての常識なのであるか?」
「……あっ」
忘れていた、というわけではなさそうであるな。その顔は。
ゲームの中だから別にいいや、と如実に物語っている。
「すみませんでした、私は――」
「今更聞くつもりもない」
正直に言おう、我もキレている。
「たかがゲームだと思っているからこうなるのだ。我らをビジネスパートナーとしてきちんと見れるのであれば、最初に名前を告げていたはず。であれば、この世界の住人はもっと貴社に協力的であったよ」
「――申し訳ありませんでした、斉藤と申します。あちらの彼は伊藤です」
「……」
言いたいことは分かるが、我は思わず渋面を作ってしまった。
我が朋友は自分の店を持つ、という夢もあってかあれほど過激なことは行わない。が、それを行わざるを得なかったという状況……斉藤と伊藤という営業、そして参加者たちはやはり信用ならん。
(手を上げた相談所はいくつかあった、と言っていたな)
どういういきさつがあって、この相談所のみになったのかは知ったことではない。
むしろ、同時に複数の第一種特例と話をさせていたのかもしれん。そうして残った、一番マシなところだった、と考えざるを得ない。
――まだまだ根が深い話であるな。
「意地悪で言うわけではないが、鎮圧時に我らを野蛮人どもと叫んだ男がいたな」
「え、いましたか?」
慌ててて気づかなかったのか。
それとも、当然の事であるからと思い聞き流していたのか。
心理学は我の専門ではないが、どちらにせよそのような発言をする輩を我は許したくはない。それは我らがマスターや、ひいては我が朋友の一人である帝王――閣下をバカにすることだ。
「あの騒乱だ、顔は見ることはかなわなかったが、いた。正直こちらとしては――」
「――おい。クロウ、よせよ」
朋友が、肩を我のプレートアーマーをこつんと小突いて、止めた。
「説明は終わりましたよ。帝都からの使者は街の入り口にいますから、連れて行くことになります」
はらわたが煮えくり返っているのであろうが、朋友は大したものだ。
無理やり笑顔を貼り付けているではないか。
やったことはさすがに問題ではあったが、こういった対人スキルは身につけたいところであるな。我もあと一年もすれば就職を考えなければならないのであるからして。
「あ、はい――ですが、もうすこし、何とかなりませんでしたか?」
「なりませんよ? 集団心理は非常にややこしいですからね。一度乱闘になってしまえば武力行使で止めるしかありません」
「でもお客様ですし」
「お客様が包丁を突き出して『金を出せ』と言っても同じ対応ですか? そこまで行かなくても、怒鳴り散らして机を蹴り飛ばしたり、暴力に訴えるようなことをすれば普通は警備員が飛んで来るか、警察を呼びますよね?」
有無を言わさぬ、といった風に。
心なしか早口で、朋友は彼女の反論を許すことはない。
営業の彼女も、後ろには大事な大事な「お客様」がいるのだ。いつまでもここで討論し「お客様」を待たせるのは得策ではないと判断したのか、
「分かりました」
たったそれだけを告げる。
「――ヘルフリート、キリヤ。横断幕持ったまま街の入り口まで誘導頼んだ」
「おっけー! 俺様にまかせとけ!」
「兄貴はどうすんの?」
「鎧がボッコボコになっちまったからな。これで王宮に向かうのは失礼すぎる。特に、帝王に会うならなおさらだ」
「アタシもボコボコだから、あとで追いかけるぜー」
「拙者もでござるな。≪PK≫スキルフルスロットではさすがに骨が折れた」
「馬を飛ばせば済む話だ。俺も沖田も居残り組だ」
「申し訳ありません」
ということは、直接的な鎮圧を行わなかった我と軍師、マスターにシスター。頑丈なロボットに乗り込んでいたタロス、そしてヘルフリートとキリヤが先行することとなるのか。
「ふむ……仕方のないことであるな」
「帝都軍が護衛だしな。山賊がよほどの大軍じゃなけりゃ襲われることはないだろ」
「まぁ、そうであろうな」
我は、大人数の移動であるからして帝都は軍を出したとの話を報告していた。
人を野蛮人と蔑んでいる輩が傍若無人で、そう呼ばれていた者たちのほうが文化人とは……いやはや。
「そんなに強いんですか?」
「一人ひとりが一騎当千である」
帝都軍はほぼ一般志願の農民兵で構成されているが、精強である。
肥大化する街の自給率を高めるため、そして農作物を害獣より守るため。そのためだけにプレイヤーたちを集め農業や畜産などを街ぐるみでやらせているから、と言えばその実力がよく分かるのではなかろうか?
みもふたもないが、竜殺しの称号を持つ職業農民が本当にいる世界なのだ、ここは。
「……しかし運営はここに至っても何もする気がないようだな」
「引き受けたなら自分らの管轄外ってか……」
「アレだよねー、ホント責任感がないっていうかさー……」
それは我らの話を黙って聞いている営業にも言えることではなかろうか?
「まぁ。天と地は神が作りたもうた、されど歴史を作るのは人である。とも言いますし」
「だからアタシたちに丸投げってことかー」
全員が全員、ため息をつく。
「っていうか、俺様たち何もしなかったけど良かったのか?」
「お前らに鎮圧の技があるとは思えないからいいんだよ」
「そりゃそうか」
「オレだったら普通に殴り飛ばしてそうだしなー……」
「俺様は斬ってたかもしれねー」
横断幕を持ちながら、ヘルフリートとキリヤが答える。
「まぁ、言っててもしょうがないだろ。っていうかさっさと行って案内しろ、社会に出てまでそんな様子じゃすぐにクビになっちまうからよ」
「ガランさん経営に関してはうるさいもんねー」
まったくである。
今そこにいる営業二人は他人事のように聞いているが、本来ならばそちらにも言うべき話であるのだからな?
準備不足、周知不足、連絡不足、調査不足……それでいて他人を見下している。
まったく、他の第一種特例が断ったのもうなずける話だ。
(聞きそびれていたが、閣下にはこの話がいかなかったのであろうか?)
まぁ、持ちかけられたとしても断っていそうではあるな。
閣下は我の知る第一種特例の中でも、少し特殊であるからして。
「遅れたとしても、閣下には我からとりなしておこう」
「別にお偉いさんとお友達にはなりたくねぇな、俺。伯爵で十分だわ」
「そうか」
ともあれ、この殺伐としてしまった空気を少しでも和ませる必要がある。今日は朋友の代わりに道化を演じることとしよう。
「だが断るっ!」
「おいっ!」
「ふははは! ではゆくぞヘルフリート、キリヤ! 我の後についてくるがよい!」
我も簡単にキレてしまい、空気を悪くしてしまったのだ。
その役割、きっちりばっちり演じてみせようではないか。
我が称号、魔導騎士の名に賭けて!
書き溜め分投下終了。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。




