第54話 インターミッション
契約内容は至極簡単に箇条書きされている。
基本は「帝都の王宮で催される臨時の社交パーティを見届ける」というもの。成否は依頼主が判断する。
向こうでも大わらわでの準備となり、かなり街の資金を使うことになるため、成否に関わらず別途必要経費が支払われる――向こうの会社のバックが運営でなければできない、なんとも剛毅な話だね。
そしてリクエストされたものでこちらが可能だと判断したものについては、それのみ応える。可能かどうかは要相談、というものだ。
報酬は前金なしの一人一万ゴールドとかなり質素だ。今までと比べたら報酬が限りなく低い。
……ランディの店のランチが五百ゴールド、三食食べるとして千五百ゴールドの出費。宿はピンからキリまであるけれど、キリだけで考えるなら素泊まり五千ゴールド。
ここから装備の維持費まで考えたら、完全に赤字、としか言いようがない。
これが相場なのかな……あとでランディに聞いてみるしかないかも。
「ゲームですと便利ですね。お金の心配がいらないだなんて」
なんだか、いちいち分かっていない営業さんに腹が立つ……そういう感想を抱けるようになったのだから、きっと私はずいぶんと染められてしまったんだろう。
「――ただ今戻りました」
実名登録を避けるよう一度ログアウトした女性の営業さんがはっと起き上がる。
「あ、待ってました。いま契約がまとまったので、あとは書類に私達の連名と言う形になるそうです」
彼自体は既に名前を書き終えている。
「書類はテーブルに置いてある」
「ありがとうございます」
「契約内容について、運営には確認しないのか?」
「その点は大丈夫です。あくまでも運営の方は依頼が成立した場合、ゲーム内通貨を支払ってくださるという契約ですので。別段、リアル側での契約金の増減には関わりありません」
「改めて注意しておきますが、署名は登録した名前でないと無意味ですからね?」
「はい、分かりました。ガーラさん」
彼女が自分の名前を署名するのを見ながら、まるで人材派遣みたいだななんて事を私は思ってしまった。
「必要経費については別途支払いだが……まぁいいだろう、署名は複製が不可能だからな」
他人の名前が書けない、といわけではなく、NPC等に対して有効な署名となれば筆記スキルや贋作スキルでもってしても複製不可らしいことは事前に説明を受けている。
「ふー……さて、依頼の契約成立、なら私たちはすぐにでも動く必要があるね」
ずいぶんと余裕をもって、アリスは白い煙を吐きながら宣言する。
「時間にして残り一時間よ。おそらく、もうそろそろ帝都の騎士団がみえるころね」
「そうですね、ファーザー」
「近藤。そっちの、うちのギルドメンバー返してくれない? クロウと一緒に、出迎えと説明に向かって貰いたいんだけれど」
「俺が向かうつもりだったが、いいだろう」
「では?」
「契約が成立した以上は元のギルドで働くのがスジだ。こちらもそちらのギルドにあえて手を出すような真似はせん」
「承知」
「では、ご意思どおりに……」
「ルシー、タロス。チュートリアルエリアが混乱しないよう旗なり看板なり作成、大至急ね」
「分かった」
「了解です、ファーザー」
「沖田、手伝ってやれ」
「はい」
「ガラン、初心者ギルドにコネあったよね? 混乱しないよう事前に説明に向かっ――あ、やっぱり近藤のほうがいいか」
「そいつよりは信頼がある。妥当だろうな」
「次、装備について。タロス以外の男どもはフルプレートを大至急で買ってきて。人手があるなら別に装備がいつも通りでなくても大丈夫でしょう?」
「騎士役ですね?」
「やっぱそっちになるよなー、ファンタジーならよ」
「ヘルフリート、サーコートを買いに行くよ? 公式の場では鎧の上にそれを着ないと失礼だからね」
「わかった!」
「ダンダラコートは我がギルドの誇りだが、依頼なら仕方あるまい」
「アスール、キリヤ。あと沖田さん。軽装でもプレートアーマーを装備。キリヤは使わないだろうけど、帯剣必須ね」
「なぜそちらの命令に従わなければならないかはなはだ疑問であるが……局長も従っているのだ、従おう」
「マジかー……めんどくさそう」
「めんどくさがらない。お客はファンタジー世界にいらっしゃるリアル世界の住人よ? TPOよ」
「はーい」
「お姉ちゃ……レンと私、タロスは、魔法使いっぽい服装でいこう。杖必須ね」
「私たちは魔女役かな」
「そうだね」
「私は魔法を使えないが」
「印象操作よ、そのほうがタロスのアレを出す大義名分になるでしょ? アイアンゴーレムだと言い張れるから」
「なるほど……はなはだ不快だがな」
ここまでの指示にまったく問題はないと思われる。装備に関しても、ファンタジーな世界を意識させておくということに越したことはない。
現に、アリスはいちいち営業二人の顔をうかがっているのだ。
(シチュエーションに対する憧憬などを考えるなら、やっぱりそういった配慮が必要なんだろうね)
実に的確だと感心する。従妹の成長がとても嬉しい反面、すこしだけ寂しさもある。
たぶんこれが、親離れしていく娘を見ているような感情なのかもしれない。
「すごいテキパキとしていますね、アリスさん」
「依頼には全力で応える。それだけよ」
さっきまでは「信用のない相手に対しては決して自分のお金を使わない」と言っていたけれど、依頼の達成に必要な装備であるからこそ、身銭を切ることにしたんだろう。
私にとってイマイチ線引きがわからないから、これもとりあえずランディに聞いてみるのが一番かもしれないね。
「頼んでよかったですよ。すごく頼もしいです!」
「それにしても、これでようやくファンタジー風の世界を味わえるということですか……ヤクザみたいなのはもうこりごりです」
男の営業マンが、苦笑いを浮かべた。
[to be Next scene...]
「装備は依頼の成否に関わるから、当たり前だけれどこれは依頼主とは関係ない話だな。武器防具は消耗品だって言ったろ?」
街の防具屋では、金属鎧は調整の時間が必要だけれど、布の服は基本的にSMLサイズのいずれかを購入すれば済む話だったので当然暇を持て余すことになる。
なので先ほど浮かんだ疑問を、金属鎧の調整をNPCに依頼してそのまま店の中をぶらついているランディに問いかけてみたところ、早くも疑問が解消することになった。
「そういえばそんな事を言っていた気がするよ」
やっぱりランディは頼りになるな。
「疑問に思う以前にちょっと考えれば分かることだけどな」
「いまいち線引きが分からなかったんだよ。あとは、君との会話が目的かな?」
アスールが怖いけれど、納得はしてくれている。
信頼し過ぎだって思われるかもしれない。けれど、こんなに慌しいのは久しぶりだったから、なんとなく癒しというか、そういうものが欲しくなったんだ。
「あと、報酬だけど……」
「相場かどうかか?」
「話が早くて助かるよ」
「討伐系も採取系も今の相場ではあるな、採取アイテムもしくは証明部位一個いくらの世界だし、それ以外は好きにしていいから本人のやる気次第っつーか、歩合制だな。護衛は……ま、それぞれの懐具合にもよる。一般人しかり、プレイヤーしかり。安すぎたら引き受けないって選択肢もあるしな」
「今回のは割にあわなくないかい?」
「まぁ帝都からも護衛が出てくるだろうから、俺らが直接手を出す必要はなくなる。で、やってることはただ見てるだけだから欲なんぞ出さないほうがいいって考えだな、近藤のことだし」
「なるほど……でも、今回は相当出費しちゃったね。経費で落ちるかな?」
「ま、あれだ。今回は割に合わない仕事の一例だな。装備品や消耗品は本人持ちだって言ったろ?」
「本当に、割に合わないね」
「まぁ、それ以上にリアルで名前が売れるっつーことを重視したってところか。帝都のお偉いさんの意思を汲んでな。広報費だと思えば高くはないし、ちゃっかり帝都への配慮も入れてるあたりが」
「政治的だね」
「そうだな」
もう少し街ごとに独立していると思ったけれど、案外と帝都、それも帝王の影響力は少なくないらしい。もっとも、ゲームで政治の事まで考えるとは思わなかったけれど。
「そういえば、最初のころの鎧と違うね? 前はすごく硬そうな鎧だったのに……今回はヘルフリート君と同じだ」
「できれば全員同じがいいだろ、統率が取れてるって感じで。それに、あれは借り物だ。元はクロウのだけどな」
「クロウの?」
そういうクロウも同じく鎧の調整を頼んでいるそうだ。細かい意匠以外は全員、ヘルフリート君に合わせるという形に落ち着いたらしい。
「ちょともったいない気がするけれど……」
「まぁもったいないって感じるだろうけど。アレは視界が悪い、重い、使いづらいってんで俺の家に預けっぱなしにしやがってんの」
当時は、私のことを任せるとアリスに言われたらしい。
近接戦闘職のテンプレートどおりでいいから、全力を出して相手しないとお店で暴れると脅されたんだとか――あとでアリスを叱っておかないといけないかな。
でも、全力で相手にしてくれたって感じじゃなかったな。すぐ放流しようとしたし。
「勝手に借りて大丈夫だったの?」
「置いておく代わりに、いつでも使っていいって言われてたからな。体格ほとんど同じだから、調整すれば着れるし。っつーか≪筋力≫スキルが必要な時点でお察しだろ、あんな鎧」
「いるほど重いのかい?」
「俺が普段どおりの動きをするには、だけどな。やっぱ既製品で金属鎧っつったら、ここのが一番だな、軽いし、安いし、軽いし」
「軽さと安さしか利点がないように聞こえるね」
「まぁ、ここのは値段抑えている分、装甲が薄いだろ?」
そういえば、そんな事を言っていたな。
「そうだね」
「つまり、あえて壊れることでダメージを殺す系統の鎧なんだよ。その性質上、どうしても薄く軽くならざるを得ないんだ」
「なるほど」
確かにそんな説明をヘルフリート君にしていた。当時は安いなりの利点としか捕らえてなかったけれど、
「足捌きが命の俺にとっては、金属鎧つったらここのしか考えられれねぇな」
剣道主体の彼にとっては、足捌きが自由かどうかはかなり重要なんだろうね。
それでいて防御力も考えるなら、いつもの複合鎧しかないわけか――防具一つとっても、人それぞれの思惑があるんだな。
「それに≪ファイアーボール≫とか、命中したら炸裂する系統に対抗するなら、ここの鎧が一番だな。慣れたら剣で迎撃するほうが早いけど、鎧があっけなく壊れるおかげでノックバックが発生しないんだ」
その言葉に、アスールが≪ファイアーボール≫を打ち落としていたことを思い出す。
「そういえば剣でも相殺できるんだね、魔法は」
「正しくは相殺じゃなくて、武器の耐久を犠牲にしてる。低級のノックバック程度なら銃の反動を消すのとさして変わらないから、慣れだな」
「へぇ……あまり魔法を使わない、というか使わせてもらえないから知らなかったよ」
「まぁお前のレベルになると≪ファイアーボール≫すらヤバいからな。本当ならノーダメージのはずの≪バインド≫で相手を倒すとか、考えられないことだし」
「異常かな?」
「異常だろうな」
断言されると少しだけショックだ……。
「ただまぁ、誰でもできるし、今でもどこかで似たような構成にしたやつはいるな」
「いるのかい?」
「≪エクスプロージョン≫スクロール一枚を持った、安い装備だけで挑むカミカゼ構成ってやつがあるんだ。まぁ、使ったことは一度もないな。本人たちは大赤字確定で必死だから」
「背水の陣、ってことかい? 実におもしろい自分の追い詰め方だね」
「そうそう、そうやって奴らはそのことを笑いの種にしながら街に帰ってくるんだよ……」
懐かしむように、ランディは遠くを見た。きっと、昔所属していたギルドで仲が良かったんだろうね。少しだけ、嬉しそうな、寂しそうな顔をする。
そして同時に、私の構成は異常だ。異常だけれど、必ずしも誰もやらないというわけでもないことが分かった。
「ま、笑いの種だけに爆破オチっつーやつだな」
「面白い表現だね」
実に古典的なジョークだ。
「死ぬことを落ちる、とも表現するから、ダブルミーニングだな」
「笑えないね」
「二重の意味でな」
互いに苦笑してしまう。
「――番号札三番でお待ちのお客様、受付カウンターまでお越しください」
キリのいいところで、店員の声が聞こえてくる。
三番の札は、ランディの持っているものだ。
「ん、さすがに店員に任せると早いな」
「じゃぁ、いつもそうすればいいのに」
「手数料がもったいないだろ。今回は時間がないからやってもらっただけだ」
まるでズボンのすそ上げみたいなノリだ。
「フルプレートって、本当ならオーダーメイドのはずなのにね」
いわゆる全身板金鎧というのは、誰にでも着られる規格というものは実際に存在はしないはずだ。
普通の服だって、ぴっちりとしていたら動きに制限がかかる事から容易に想像がつく。それが、柔軟性のない金属板でできていると考えるならばなおさら。
なので私個人の感想から言うなら、スーツのように体格に合わせてオーダーメイドするか、またはパターンオーダーという形が主流だったと考えられる。
あと、転べば起き上がれないとよく聞くけれど、そんな鎧なんて戦場で使えたものじゃないのでこれも間違いだと私は思う。
そもそもドイツ剣術にはフルプレートアーマーを着た状態でのレスリング技がある。その時点で、容易に察することができる事だしね。
「まぁ、このへんはファンタジーってことだ。デザイナーも頑張ったんだろうな、既製品はベルトとかでの調整がほとんどだし。それにここの銅鎧なら、鉄板曲げて強引に調整できるのも大きいな」
「なるほど」
そうなると、ヘルフリート君の調整は相当時間がかかったんだろうね。着られている、って感じにするためだけに、どれだけの労力を割かれていたのか。
「そういえば、結局顔は隠したままで行くようだけれど……大丈夫なのかい?」
何があったのかは知らないけれど、ランディは顔をあまり外に出したがらないからね。
まぁ、一種の自衛だと言われればそれまでだけれど。
「言われたら外す、ぐらいだろうな」
「隠さなくても、君の顔をいつも見ていられるのが嬉しい人がいるってことも覚えていてくれよ?」
アスールの事だけれど。
「ガラじゃないんでね」
「そうかい」
できればもう少し、恋する乙女の力になってあげたいところだけれど――まぁ、無理強いは良くない。私が言えるのはこれが限度だ。
それに私は、君の言葉が聞けるだけでホッとする。だから、嫌われたくもないしね。
[to be Next scene...]
アスールや沖田さんのような近接型の女性陣は、ブレストプレートとガントレット、グリーヴのみ。ライトノベル系ファンタジーっぽく、わざわざ塗装までしたらしい、金の意匠に白色。下には白いスカートなど女の子らしい服装をチョイスして、腰に下げているのは籠のような護拳のついたレイピアに統一している。
「えっと、どうかな? ガランさん」
「いつもの服じゃないから違和感はあるけど、似合ってるぞ」
「そうかー、似合ってるのか……えへへ」
褒められてまんざらでもなさそうに、アスールはにやけた。
「あっ、ガランさんも結構かっこいいよ! こう、近衛兵! って感じでさー!」
――甘酸っぱいやり取りだなぁ。
「朋友のみ褒められ、我らは無視か……」
「……あ、他の人もお似合いですねー」
「とってつけたように褒めるな……」
「ヘルフリート君もとても……そう、とてもお似合いですよ! いちだんとかっこかわいくなりましたっ!」
「変態に褒められても嬉しくねーけどな!」
タロスを除く男性陣は赤銅色のフルプレートと、赤い裏地をもった白いマント。さらにはバスタードソードにヒーターシールドと徹底的にヘルフリート君に装備を合わせている。
鎧を着た騎士の正装という意味で購入した、鎧を覆うサーコートは誠実さをあらわすような白を選んでいる。細かい意匠まで見比べていくときりがないけれども、見てくれはそこそこいい。
――そのうちランディだけ横にスリットが何本か走る特徴的なヘルムを被っている。
「似合う似合わないはさて置いたとしても、統一性があっていいんじゃないかな?」
私はそんな感想を漏らした。
「……ただ、やっぱりランディだけヘルム着用っていうのが若干だけど、おかしいかな?」
「顔出しはあんまりやりたくないんだけど、やっぱ外したほうがいいかあ?」
「アタシは見えてたほうがうれしいなー、なんて、あはは……」
「そういやにーちゃん、いっつも隠してるけど、なんで?」
「人に言えんような後ろぐらいことがあるからだ」
「ふぅん」
ヘルフリート君は、近藤さんの話を話半分も聞かないような生返事を返した。
「まぁ、自衛のためって言われればどうしようもないからね。あえて被っておくっていうのもアリなんじゃないかな? 他の人たちとは違う、と言う意味で」
「兄貴がリーダーか!」
「当然っしょ!」
「納得いかんな」
キリヤちゃん、アスールは肯定的だけれど、近藤さんはやっぱり否定的だ。私はどっちでもいいし、むしろ隊長なら顔を出すべきだと思うけれど。
「……統一感も大事だろうし、この街なら大丈夫っぽいし外すか」
「そうかい」
「タロス、お前のに積んでいてくれねぇかな?」
「輸送機ではないんだがな……」
タロスはしぶしぶと言ったように、ランディが外したヘルムを受け取った。普段使うような装備は、タロスの機体に積んでいる。
――本来は仲間の武器防具用じゃななくて、機体整備用の簡易工具や予備パーツのためのスペースらしいんだけど。
「まぁ、いいだろう。これによってロボの便利さが分かればそれはそれでいい」
「今度は輸送用だね」
「……変形機構か合体機構の目処が立てば、考えよう」
「不可能じゃないかな、金属の剛性とか、機構とか、出力とか……変形はなんとなく分からないでもないけれど、わざわざ合体する意味が分からないよ」
「高い目標は人を進化させる。不可能と考えているうちは成長などせんよ、軍師」
唯一男性魔術師のような格好をすることとなったタロスは、ローブの上からサーコートを重ね着し、さらにマントを羽織っている。色は黒や紺などといった、魔法使いに抱くステレオタイプをチョイスした。
――そんな服装もあいまって、まるで宮廷魔術師のような重い言葉だった。
「成長、そして進化。さらには普及させるのだ。この手でな……」
感慨深げに自分の専用機を見上げる――そう、タロスは本当に何を考えているのか、この訓練所にまで専用化したゲリュオーンI型改を持ち込んできているのだ。
もちろん、こんなものがあるのだから、たまにやってくる初心者はギョっとするわけだけれども……たぶん、彼の狙いなんだろうね。
彼本人、信仰というか、信者を増やそうとしているし。
ともあれ、今回は外見に気を使っている。一応この街で購入できる金属鎧をモデルに作成されているから、統一感がまるでない、というわけではなかった。
――これならある意味、巨人族だと言い張れなくもない。
「なんていうか、さすがこの分野では有名な――っと、ここではタロスさんでしたね」
タロスは、やっぱりリアルだと科学技術の分野でそれなりに有名人らしい。うっかりと本名を告げそうになった女性の営業は、じろりとタロスに睨まれて言い換える。
「三頭身、と言うんですかね? マスコットみたいですけれど――でもこれで巨人の肩に乗る、という企画は通せそうですよ!」
「みなさんってほんと、人が悪いですね~」
二人は終始にこやかだ。
「タロスはいつログインするか分からない人だからねー」
「忙しい方ですから、わかりますよ」
「有名人ですしね」
「ほう?」
「――リアルのほうは、あまり詮索しないでほしい」
営業さん二人は知っているようだから、たぶん、調べればすぐに分かることなんだろうな。もしかしたら、私も昔どこかで彼のなにかを読んだことがあるかもしれない。
でもタロスは本気で嫌そうだし、調べないでおこう。
「じゃぁ、タロスは最初から乗っていたほうがいいかもね。最初はゴーレムの予定だったけれど、巨人族だって騙せそうだ」
「気が進まないが……仕事だ。それにこちら側の人間ならすぐに分かることだな」
本当にロボットに情熱をかけているんだろうな――デザイン変更がされて、機体の構造も色々と変わったらしい。首が前のほうに若干スライドしたかと思うと、そのままタロスは機体の中へと滑り込んでいく。
「そういえば、こんなものが作れるのに、なんで車を作らないんでしょうかね?」
「趣味じゃない」
営業さんが上げた疑問を、機体に乗り込んだタロスはバッサリと斬った。
――作って欲しいって、言ったはずなんだけどな?
「立ち上がるぞ、近づくな」
搭載されたエンジンが、ィイイイイイ――と甲高い音を立ててゲリュオーンは片膝をついた状態から立ち上がる。
「「「「おおー……!」」」」
営業二人と、ヘルフリート君、キリヤちゃんが感嘆の声を上げた。
……そういえば、今回は何が動力になっているんだろう? 今回もだけれど、音がかなり小さい。また技術の無駄遣いをしていそうで怖いな。
「音、結構しますね」
それでも、ガソリンエンジンに比べれば、の話だ。確かにエンジン音が響いている状態では、ゴーレムとも巨人とも言い訳しづらい。
「ではロボットだな」
タロスが、心なしか嬉しそうな声を上げた。
「魔法で動くんですから、いいんじゃないですか?」
「いや、動力は――」
「電動ならぬ魔動機械ですね! ファンタジーですよ! いいじゃないですか!」
「おい、話を」
「高度な科学は魔法と見分けがつかない。byアーサー・C・クラーク――いいんじゃないかな」
もう動力源がどうの、とか、どうでもよくなってきたしね。
「――科学を愚弄するな!」
言わせて貰いたいけれど、タロスの使ってきた動力機関は何らかの問題があって実用化されていないものばかりで、結局魔法で動いているんじゃないかとも思ってきたころだし。
いい機会だね。もうつっこまないよ、私は。
「ただ技術書だけは読ませて欲しいな。そろそろ活字に飢えてきたし」
「私の理論は活字中毒者の慰みものではないぞ! ……まぁ、読ませるが」
「読ませんのかよ……」
「葛藤ぐらいしろよー、ロボフェチー」
ランディとアスールのつっこみも、もっともな話だ。否定的な言い分をしておきながら、結局読ませてくれるなんて。
まぁ本人は自慢したいというか、広めていきたいだけなんだろうけどね。




