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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
婚活編
54/97

第53話 内容のないような契約

 ともあれ、面倒くさいことにならないようにヘルフリート君とキリヤちゃん、または実家暮らしで家族のいるメンバーには早めに昼食を取らせるために一度ログアウトしてもらった。

 ――認知度が高まって来たとはいえ、それでもゲームはゲームだからね。

 早めに帰ってくるようには、一応言ってあるけれど。

「そういえば、アリスや近藤さんはログアウトしなくてもいいのかい?」

「あー、大丈夫大丈夫」

「俺と彼女は、どうせ点滴の針を刺される程度だ。単なる脊椎損傷で食事が取れるものもいなくはないがな。我々(第一種特例)は基本的に、ろくに口も動かせんやつが多い」

 点滴か……。

 生きている実感が、本当にこっちにしかないんだろうな。三大欲求の一つに数えられているくらいだし、食事はとても大切な行為であることくらい簡単に想像できる。

「私たちの摂取カロリーって九百ぐらいですむらしいよ? ほとんど動かないから」

「だからこそこちらでの食事のほうが、我々(第一種特例)にとって重要なんだが……それを、この男は……!」

 まだ根に持ってるんだね。辛味成分のカプサイシンよりもさらに辛いものだったらしいから。相当な激痛が走ったんだろうね。

 ――まぁ、同情したところでどうにもならないけど。

「あれは警告みたいなもんだよ、これでもサブマスターなんだから。今後おかしなことを考えたらお前らの楽しみをなくすことなんて躊躇しねぇってことだ」

 第一種特例だからといって特別扱いはしない、ということだろう。特別扱いは、別の角度で見れば差別されているのと同じだから。

 ランディにとっては敵か味方か、その区別しかないのかもしれないな。

「お前らはうがって見すぎじゃないのか?」

「≪ウソ感知≫なんぞ信用できねぇからな」

 確かに、ウソをつく必要はない。真実を言わなければいいんだから。

 しつこく質問されても、答えられない、の一言で一蹴されてしまっては役立たずになってしまう。だからこそうちのギルドは、依頼を聞くときに誰もセットしようとは考えなかったんだろうね。

「――遅れましたー、ガランさーん」

「きたぞ」

 アスールとタロスが到着する――黒いマフィアの構成員が二人増えた。

 人数がいるというのは、とても心強いな。

「……受験勉強はどうした? 浪人」

「浪人というなぁああああああ!」

「息抜きだってさ」

「そうか、それは大切なことだ。私も研究が行き詰ったら、別の視点を持つために散歩をすることにしている。だが本やゲームは時を忘れやすく、無為に時間を過ごしてしまうことがある。科学者のはしくれとしては感心しないな」

「今日一日、今日一日だけでござる! あとは一番弟子とその妹弟子と戦えれば――!」

「また落ちるぞ?」

「落ちるというんじゃぁなああああああい!」

「切羽詰まってるなぁ……」

 ちなみに切羽詰るの語源は、日本刀が鞘から勝手に抜けないよう(つば)の両面に添える薄い楕円形の金属「切羽」からきている。

 これが詰まったら抜けなくなるから、いざというときどうしようもなくなる、という意味になった。

 ――なんて、小五郎の日本刀を見ながら思い出した。

「それに拙者は土壇場で実力を発揮するタイプでござる! 少しぐらいの息抜きぐらい多めにみてもらいたい!」

「土壇場って……」

 日本刀の試し切りをするさい、硬い地面に食い込んで破損するのを避けるために土を盛った台を指す。江戸時代に入ってからは、罪人を斬る際これに横たわらせて刑を執行したことから、現在の「後がない」という意味に転じてきた。

 何が言いたいか、って?

 死ぬ間際まで追い込まれないと何もできないような事を自分で宣言したようなものじゃないかな、って思っただけだよ。侍っぽいロールプレイだしね。

「……まぁ、頑張ってね?」

「拙者頑張るでござる!」

 落ちそうな予感がするなぁ、なんて口が裂けても言えない。いずれ私も、その立ち位置になる可能性があるから。

 ここは私自身が彼のように切羽詰る前に、優しい言葉をかけておいたほうがいい。いずれ私がそうなったとき、周りが敵ばかりじゃ心が持たないもの。

「タロスは初めて会うね、そこの二人に」

「そうだな」

「男の子のほうはヘルフリート君、女の子のほうはキリヤちゃん。今朝ギルド入りしたよ。まだ新人さんで、キリヤちゃんは第二種みたいだから気を使ってあげてね」

「了解した」

 ちなみに浪に……小五郎さんには互いに紹介し終わっている。なんか目を輝かせて「軍曹の孫弟子か……将来が楽しみでござる!」なんて物騒なことを言っていた。

 私の中で戦闘狂の脳筋だって位置づけになった瞬間でもある。

「ルシーからは大まかなことを聞いてある」

「どう思う?」

「バカか、と」

「そうだね」

 社会人として事前準備が足りなさ過ぎる。その会社は本当に大丈夫なのかなと思うくらいだ。

「だが、運営がこちら側に呼び寄せたというのならば、まだまともな分類なのかもしれない」

「給与問題?」

「ちょっと考えれば分かることだ。芸能人やアイドルがこちらで活動するのとわけが違う。向こうは新しい客層や演出を求めているだけの健常者がほとんどで、我々に影響は少ない。だが、これは新しい経済概念だ」

 さすが腐っても科学者、頭の回転は速いな。

「ヘタに流行れば、我々は別企業への無料奉仕を余儀なくされる。もちろん、引き受けないという選択肢もあるが……日銭に困れば誰でも行うだろう」

「そうだろうね」

「そうすると人材を雇うよりはこちらで冒険者を雇ったほうがいい。流行れば法改正される。それまでは人件費を削れるだけ削ることができる。実社会に大きな影響を与えるだろう……もっとも、そんなことを運営が思いつかないほど愚かではないはずだが」

「やっぱり、運営は対外的には働いているんだ?」

「むしろ対外的に働きすぎてこちらで仕事ができない、という話ではあるが……さて、どこまで本当か。アバターを好き勝手に弄るぐらいの余裕があるようだから、ウソだろう」

 ああ、話が通じるってすごく楽だ。

 これでもう少しまともな人だったら、私も安心していられれるんだけれど。

 そして運営、やっぱりこっち側では働くつもりってほとんどないんだね。

「軍師、今はどのような状況だ?」

「プランなしだよ。あと、軍師じゃない」

「自称と他称は違う」

「まー、とりあえずさー、そろそろ約束の三十分が経つころだよ?」

暗殺ギルド(われわれ)は、国の大使として来たものと思え、そう釘を刺した。それがどこまで伝わっているかにもよる……問題は移動手段、そして護衛手段だ」

「車か機関車かなにか作ってくれてるー?」

「趣味ではない。ゲリュオーンI型の専用化および量産型の生産に忙しかった」

 もうこの人本気で吹き飛ばしたほうが早いんじゃないかなぁ?

「次は変形機構や合体機構を考えているのだが、やはり強度と動力源の問題がある……量産型は既にロボとは呼べん、駄作だ……!」

「ゴーレム鎧用倉庫の表に大量に座っているモノやわけのわからんガラクタはやはりお前の仕業か……!」

「土地代を払っている。貴重な収入源だろう?」

「ものには限度がある!」

 だよね。

「こちらとしても、嫌いなロボットもどきの鎧作成や改良も行っている。その上で土地代まで取られて、本来なら手を引きたいところだが?」

「ぐぬぬ……!」

「今引き受けている他ギルドのプレイヤーに下ろしてもいいぞ? ここの技術を」

「くそっ!」

 あ、さすがにそういう仕事を引き受けてたんだ、タロスって。

 メカばっかりいじってるイメージしかなかったし、どこかにスポンサーがいると思ってたよ。

「これだから高度な技術力をもった変態はっ!」

 本当に、憎憎しげに吐き捨てる。

「いずれ誰にも邪魔されない私専用の工房が欲しいが……まぁ、技術を拡散させないことも契約内容に入っている。しかたあるまい」

「軍師! こいつを止められないのか!?」

「私は軍師じゃないし、そもそもこういう人の話を聞かない人は止めようがないよ」

「レンもだけどな」

「……酷いじゃないか、ランディ」

 私はちゃんと話を聞いているつもりなんだけれどね。


    [to be Next scene...]


「「増えたっ!?」」

 先ほどと変わらない営業の人は驚いたような声を上げる。

 確かに二人ほど増えた。

 演技のためだと言い聞かせてはいるが、目の前でランディを抱き寄せられているせいか、アスールの目つきが怖いな。二人がちょっと怯えているじゃないか。

「というか、そちらの方は」

「たしか――」

「――タロス。こちらではそう名乗っている」

 本名を言われかけ、それを遮るように言い放つ……タロス、有名人なんだ。

「プレイヤーのリアルの名前を言うのはマナー違反だよ。さすがにそれくらい分からないかな?」

「ですが、本名が分からないとこちらとしても――」

「それは婚活する側の意見だろう? 我々はこちらの世界で生きている」

(忌み名)みたいなものですよ、天皇陛下が今でも使ってるのでご存知かと思いますが……ともあれ、本当に信頼していない相手に本名は預けません」

 肩を抱き寄せられながらの、ランディの補足。

 昔の日本や中国では宗教的な意味合いや、親や主君以外が本名を呼ぶのは基本的に失礼だった時期があるから、(あざな)や贈り名、通称があったんだよね。

 ちなみに、牛若丸で有名な源九郎義経の九郎がそれに当たる――んだけど、物語では本名で呼びすぎだよね。分かりやすさ重視だろうけど。

 私としては、そっちのほうが分かりやすい気がするけど……口出しすることじゃないね。

「全員偽名ということですか?」

「人聞きが悪いが、そうだな。正式にはキャラクター名だ」

「本名と同じ人もいるけどね。小学生とかに多いかな」

 ――私は小学生並みということかい?

「人相がわかっているだけでもリアルでどこに住んでいるか調べようとすれば簡単に分かるのにさ、さらに本名まで教えるわけないじゃん?」

「そういうものなんですか? 別に現実側を知られても」

「昔こういったゲームで、殺人未遂事件があった。ニュースにはならなかったが」

「理由は自分とソリが合わなかったから。このゲーム以外では本人とキャラクターが全然違うっていうのにね。本人の情報、どこで調べたかって言ったら企業側のサーバーだってさ。すごい執念だよね」

「本当にあった話なんですか?」

「なかったらこうやって別名を使ってなどいるわけがないだろう」

「……なるほど、注意します」

「問題は、この依頼が終わった後ですね」

「え?」

「婚活パーティ参加者がそのままゲームを始めた場合ですよ。他キャラクターになりすませないように対策されていますから。ずっと実名である可能性がありますね」

「それは、運営のほうへ言って変更してもらうわけには?」

「いきませんよ? 改名できません」

 そういえば私が実名で登録してしまった際、変更ができないということで、みだりに本名であることを言わないよう釘を刺されたね。

「まー、みだりに言わなければいいんだけれどね……っていうか公式サイトの免責事項にも書いてあるはずなんだけどな」

「……不勉強でした」

「仮想世界とナメるからだ。現実世界と同じ姿かたち、そして名前とくれば、住所なんて調べることなど簡単すぎる話だ。ストーカー問題になってもそちらの責任だぞ?」

「それは重大な話ですね……わかりました。参加者さんたちはまだ登録されていませんので、その旨伝えさせていただきます」

「間に合うの? あと一時間と半ぐらいだけれど――」

「私が戻り、連絡を取ります」

 女性のほうの営業さんが手を上げる。

「分かった……が、上司にはきちんと話したな?」

「強引にねじ込んだこちらが悪いという話で、納得させました」

「ならいい」

「成功しなければ、今後この市場に食い込むのは難しい話ですから。しぶしぶ、といった様子でしたが」

 彼女の話を聞いていると、近藤さんの言っていた「オタクたちのゲーム」という認識がいまだ強いんだろうね。

 この場合、私たちは好印象をもたれていない、と思ったほうがいいかもしれない。

「だよね。この世界は広いようで狭いからさ、ヘタをするとゲーム内企業ってできちゃうかもしれないし」

「そもそも出会いを求めてゲームを始めるプレイヤーが今までいなかったわけじゃないですしね。本来こういった行為は、こういったゲームではタブー視されていることですから、企業ができていないだけですから」

 実際にどうかまでは調べられていないけれど、そういったことが表ざたにならなかったのはひとえにプレイヤーたちのマナーの順守率が高いから、らしい。

 仕事しない運営の代わりに、暗殺ギルドがかなり腐心したんだとか。

「慣れている分、強い根回しが可能だな。少なくとも、今回のそちらよりは」

「それだけは避けたいところですね……では、失礼します」

 そう言って、そのままソファーにぽすんと体をうずめる。

「――あれ、アバターは消えないんですか?」

 男性の営業さんが、不思議そうな顔をする。

「消えないな。このせいで宿屋の需要が高い」

「人気の業種なんだよね」

「無防備ですよね? 不味いのでは……」

「その配慮はなされている」

「ならいいのですが――あっ、それよりプランはどうなりましたか!?」

 ようやく本題か。

 時間がおしているのに、ずいぶんとのんきだなぁ。

「王宮から、今回は認知度を買う、という意味で全面的な協力を得られた」

「さすが帝都を運営しているだけあるよね、街の税金ばら撒いちゃうって言ってるようなものだし」

「王宮なのに、街なんですか?」

「この世界では国、とも言い換えてもいいな。誰が言い始めたのかはしらんが、慣例で街と呼ばれている」

 私もうっすらそんなことを感じていたけれど、やっぱり国と言ったほうが正しいのか。

「ヨーロッパ諸国みたいですね」

「言い得て妙だな」

「移動はどうなりますか? あとどういったことを企画されておいでですか?」

帝都(あそこ)はホントに古臭い文化があるからなー……」

「おそらく社交ダンスは必須だろうな。我々は給仕をする予定――だったのだが、王宮が人材を使ってくれると言う」

「社交ダンスは、少々問題が……」

「ゲームである部分は十分に利用させてもらう。躍らせることは可能だ。あと、貴族の社交パーティのような雰囲気になるだろう」

 国のお金を使って五十人の歓待か。

 ある意味では貧乏人の相手を「してやってる」感じになりそうだ。

「いいですね、ファンタジー世界で貴族とは。メルヘンというか……で、移動は?」

「小五郎、どうなっている?」

「迎えの馬車を出すとのことでござる。これより来る者たちは、ドレスもスキルも何もないと伝えたところ、兵や冒険者を雇い、さらに街に住む仕立て屋ギルドも動かすとのこと」

「すごい! 王様みたいですね!」

「帝都の王だからな、当然だ。それと、帝王もまた第一種特例のお方だ。馬車もドレスもとなれば、今回はあえて街が傾くほどの出費を出したことになる……そういう意味も込めて、失礼のないようにしろ」

「分かりました――でも、お金はすぐに取り戻せる程度では?」

「ゲームだがゲームではない。このゲームの方針は忘れたか? それとも目を通していないのか? 答えてみろ」

「え……ええっと」

「――パッと思い出そうよ、少なくとも私より年上の社会人さんでしょう? 私みたいな年下に言われたらイラっとするかもしれないけれど」

「いえ、申し訳ありません……」

「障害者にもリアルを感じて欲しい、だ。そしてこのゲームはほぼプレイヤーが回している。街が傾けば他の街にもそれが波及する。経済の初歩だ」

「そうですね」

 さすがにきついことを言うなぁ、二人とも。

 最初から乗り気じゃなかったというところもあったんだろうけど、さすがに失礼すぎじゃないのかな。

「謝罪などいらん。今後はもっと事前に話を通し、金を持ってこなければ誰も引き受けんと言う話だ」

「今回はゲームの認知度を買うためっていう大義名分があるから、他の街で負債とかを買うことになるんだろうね」

 負債発行、あるんだ……。

「国王の不興を買えばどうなるか、正直に言えばこちらも信用に関わる。我々はまだ公的な組織であるからマシだがな」

「運営を通されても、二度とやらないよ? それと――その状態で勝手にゲーム内で起業してるのを見つけたら徹底的に潰されるからね? 私たちは無視するけど」

「わかりました。こちらも失敗だけはしたくありませんので、肝に銘じておきます」

 つまりここは多少不利な条件をふっかけられたとしても、寡占状態にしておきたいところなんだろう。

 ――まぁ、今のところ彼らにとっての不利な条件なんて、一切ないけれどもね。

「ところで、厚かましい限りですが……今後もこのようなことが可能ですか?」

「無理だろうな」

「無理だろうねー」

「理由を伺っても?」

「依頼主が失敗だとゴネたら報酬が手に入らないんだよ? そういう依頼には、特に信頼がない場合は自分のお金は使わないものだよ? 私たちはこっちで生活しているんだから」

「なるほど、そういうものなんですか」

「街並みを見た? ほとんど文明が発達してないような世界だよ? だれが守ってくれるっていうのさ」

「保険もなにもないんですか?」

「怪我は魔法で治るし、ゲームでなら死んでもやり直せる。生涯現役を貫けるようなところでそんなものなんか発達しないよ。必要なのは本人のやる気と根気。あとは時の運」

 でもランディは、福利厚生のぶんだけアスールへの給料を上乗せしているって言ってたな……将来自分が店を持った場合の練習かな?

「なるほど……」

「王宮で提供できるのは人材と金銭だ。楽団も劇団もいる。基本的に演奏会を聞くかミュージカルを見るか。そのくらいだろう」

「魔法などは見られませんか? 参加者の中には、動画を見て参加を決意された方もいらっしゃいますから」

「――超人スポーツのことですな」

 クロウが口を開く。

「端的に言えば、王宮にはそのような設備はありませんな。行うにしろ、素人には難しい。やったとして、広場で私がデモンストレーションをする程度でしょうか? ただ、私一人ではとても寂しいものになるでしょう。少々、決闘じみたことをやる必要が出ますな」

「拙者がお相手仕ろうか?」

 わぁ、戦闘狂が口を挟んできたよ?

「ガランティーヌを指名する。剣の型稽古にはいくばくか付き合ってもらったことがありますので」

 すごい残念そうな顔を浮かべたよ……。

「まぁ、向こうの社交パーティのようなものは確定ですが、こちらにノウハウがない以上はリクエストに答えられるか答えられないか、その二択での即興劇を演じることになるでしょうな」

「さすがにそうなりますか……ゲームで実際に戦ってみたいという参加者さんもいらっしゃるんですが」

「だからドラゴンとかスライムとかが入ってたんだねー……」

 アリスは葉巻の煙を口の中でくゆらせて、ゆっくりと吐き出した。

「ウチの初心者二人との対戦か……ねぇガラン? 伯爵って来る日だっけ?」

「さぁ? ただ、王の呼び出しには必ず応じなければならないので」

「呼び出されていたら、合成獣(キメラ)と戦えるかな?」

「かなり手加減されないかぎりは倒すことは無理でしょう。そもそも、伯爵は移動にも使っていますからね。安易に傷つけられるのは好みません」

 忠誠心が低くなりすぎて暴走する可能性も考えるなら、やはり避けて通る必要があるけれど……さすがに初期のヘルフリート君みたいな人はいないと信じたいな。

 ――フラグが立った気がするけれど、気にしないでおこう。

「王に続き伯爵までいるんですか……想像のつかない世界ですね」

「伯爵とはいかないけれど、うちのクロウ、騎士位を持ってるよ?」

「へぇ! それはすごい!」

 騎士は騎士でも、魔導騎士(ミスティックナイト)の称号だけれどね。

 ……うち、実はかなり豪華なメンバーだったりする?

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が二人もいるし。高い技術力が認められているタロスもいるし。アスールも前にクロウから「蒼き雪原の魔女」とか呼ばれてたし。

 不本意だけどなぜかクレーターを作った事件以来「大禁呪の魔女」なんて噂が――これは確実にクロウの仕業だろうね。暗殺ギルドも一枚噛んでそうだけど。

 この分だとアリスやルシー、お父さんもなにか持ってそうだなぁ。

「まー、私たちはもう出たとこ勝負ってところかな。そっちが求めているものがよく分からない以上はね」

「わかりました、あとはこちらがなんとかプランを立ててみますので、できる限り叶えていただければ幸いです」

「では契約成立か。契約書類を作るから、サインをしてくれ。こちらの世界での証明になる」

「わかりました。お互いにいい信頼関係になるよう、よろしくお願いします」

「ああ、いい信頼関係が築ければいいと考えているのはこちらも同じだ。結局のところ、こちらの世界で重要なのは信用だからな」

 そう言いながら、近藤さんは引き出しから羊皮紙を取り出し、羽ペンで書類を作成し始めた。

 ――何事もなければ、いいんだけれどな。

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