第50話 メルヘンな依頼
――昨日の夜は本当にいろいろな事があったなぁ。
アスールへの誤解を解いたり、
ランディに今後どうすればいいか相談してみたり、
温泉でずいぶんと羽を伸ばしてきたアリスにちょっとお話したり、
興奮して眠れなくなってしまったキリヤちゃんがランディの部屋に特攻していったり、
便乗してアスールが突撃していったり、
二人を≪バインド≫して鎮圧したのち説教したり、
(本当に、慌しかったなぁ)
とにかく、二日目の朝、現在九時。
今朝もいつも通り早起きして、リアルでご飯を食べて、ちょっと宿題をこなした。
あとはいつものようにログインして、ランディの作った朝ご飯を食べる。
そんな、平和な日常が始まるんだ。
[Welcome to the "Story of the Sword and Sorcery"...]
「ねーちゃん遅いぞー!」
「オレら、先食べちまったからな?」
「ごめんね、二人とも。今朝はどうも宿題が思ったより捗らなくて」
「……え? こんな朝早くから宿題してんの?」
「学生なんだから、当然だろう?」
「え? まさかねーちゃん、七月中に終わらせるタチ?」
「七月は終わったじゃないか。もう八月だよ? あと一ヶ月で計画的に終わらせていかないと」
「「しんじらんねー!?」」
ヘルフリート君とキリヤちゃんの声が重なる。
さては宿題をまだ終わらせていないね?
「宿題はちゃんとやらないとダメだよ?」
「ちゃ、ちゃんと八月中には終わらせるし……!」
「期限には間に合わせてるから大丈夫だって! オレ一度も期限破ったことねーし!」
「三十一日に一気に終わらせるのは感心しないよ?」
「「うっ……!?」」
ブラフのつもりだったんだけれど、図星っぽいなぁ。
「ランディはさすがにやっているよね?」
「やってるぞ? 出された課題は必ず期限前に終わらせてる。ヘタすると就職に関わるしな」
さすが年上。でも、ランディの場合は世知辛い話になるなぁ。
「アスールはちゃんとやっているのかな?」
彼女は午前中に部活動があるから、今はこの場にいない。
でも、ランディだったら知っていそうだな。
「アイツの出身雪国らしいから、盆明けまでらしいんだけどさ……本当に盆の夜あたり、俺に手伝わせるっつーか、そういうのが風物詩になりかけてきてるな」
「問題だね、それは」
「今年はミュージカルのチケットが盆前にあるから、それまで宿題が終わらなかったら連れて行かないぞとは言ってある」
「ちゃっかりしてるね……やるかな?」
「今日一日はやると思う、まだ変態がいるし。いつもなら部活に行く前に仕込みぐらいは手伝ってくれるんだけど、今日はそれもなかったし」
「タイミングが良かったね」
「そうだな。だから今日は臨時休業だな」
「なるほど」
実にタイミングがよかったと言うべきだろうね。
「だけど、こんなことを言っていたらルシーがやってきそうだ」
なんて冗談めかして言ったとき、本当にタイミングよく扉が、ばぁん、と開かれた。
「おはよう諸君! 我は返ってきたぞ!」
「って、クロウ!?」
「ふむ、一日ぶりであるな、軍師よ!」
「人の店の扉をそんな思い切り開くな! 壊れる! あと表の張り紙にどう書いてあるか読めないのかお前は!」
「臨時休業なる旨が書いてあった! 臨時休業とはめずらしいな朋友よ!」
すごい、ハイテンションだ。
というか、帰ってくるのが早い気がするなぁ……あの街まで行って、ナイターを観戦して、アフターにはブリュンヒルデ選手といい雰囲気にでもなって、もう少し帰ってくるのが遅れてくるのかなと思ったんだけれど。
「っつーか、この人、誰?」
「ダーククロウ、クロウって呼ばれている。私たちのギルドメンバーだよ。言動以外はまともな常識人だから」
「ふむ……君たちは察するに、新しいギルドメンバーか? 我は紹介にあったとおり、ダーククロウと言う。クロウと呼ぶがいい。我は魔法の深淵に触れし魔法剣士であるからして、魔法の扱いに関しては軍師より一日の長があると自負しているゆえ、魔法の事なら何でも聞くがいい!」
憧れの人に会ったからかな? 朝からすごくテンションが高い……というか、これがいつも通りのテンションだったね。
「……兄貴、この人中二病?」
「いや、ロールプレイ」
「そっかー……」
二人は気おされたように、クロウとは対照的にテンションが一気に落ちていくと言うか、冷静になっていっている。
「つーか、クロウ。早いな? 憧れのブリュンヒルデ選手の試合見てきたんだろ? そのあと何もなかったのか?」
「いや、あったぞ? 夕食を共にしながら、とても有意義な魔法戦術議論を交わせた。やはり現役選手は着眼点が違うな!」
「……」
なんだろう、言葉に、できない。
ちょっとした、ロマンスが起きると、信じていたのに。
「ねぇ、クロウ?」
「なんだ、軍師よ」
「憧れの選手と、それでいいのかい?」
シルバーヴァルキリーズ、ブリュンヒルデ。この名前を聞く限りでは女性と想像できる。
そもそもヴァルキリーは北欧神話のワルキューレ、絵画においては常に女性の姿で描かれている。
それが男性であるとは考えづらい。
「――ふむ、軍師はなにか勘違いをしているな?」
「え?」
「あー……そういやお前はそういうヤツだったな」
「え?」
ランディだけ納得したようにうなずいている。
「どういうことだい?」
「なに、簡単な話である。ブリュンヒルデ選手本人はイギリスに住んでいる。年のころは、まぁ我と同じぐらいであるが」
「何の問題もないように聞こえるけれど?」
「軍師よ……仮に、恋愛感情が芽生えたとしてもそれは叶わぬ遠距離恋愛になることは想像に難くないであろう? だが、それでは不誠実である!」
「え、あ、うん、そうだね?」
あれ? クロウが、すごいまともな事を言っているように聞こえる……。
いや、ここまでまともだったの!?
「憧れは憧れ、偶像は偶像なのだ。互いに楽しい時間が過ごせればよい……我はそのまま彼女を宿に送り、その日のうちに帰ってきた。夜も遅かったため、顔は出さなかったがな」
「そ、そうなんだ……」
意外だ。
言動以外は常識人だとは知っていたけれど、ここまで常識的な人だったなんて……。
「ああ、朋友よ。愛剣が一振り折れたらしいな? 買ってきてやったぞ」
「お、サンキュー。後で金払うわ」
「礼には及ばん! 代わりにツケをいくばくか減らしてくれればよい! そしてオリンピアの街の銘菓、オリンピアクッキーもかってきてあるぞ! みなで分けて食べるといい!」
「銘菓に美味いもの無しって言うけどな」
「……確かに、形以外は普通のクッキーであった。本当に、特筆すべき点はない」
普通に旅行帰りの家族っぽいやり取りだなぁ。
「クロウにーちゃんって、言動おかしいけどまともなヤツだなー」
「我のどこの言動がおかしいと言うのだ少年よ! 少年の着ているコラボTシャツのほうがよっぽどおかしいぞ!」
クロウがヘルフリート君の胸に向かって、びしっと指を差す。
確かにヘルフリート君のTシャツはちょっと変だ。胸におおきく「はかためんたい!」と書かれていて、明太子のプリントがされているんだから。
こういった地方とのコラボTシャツは、地域活性化のために率先して参加しているところが結構あって、それがこのゲームを運営している収益の一つらしい。
「ああ、それルシーに渡された私服の一つだからな」
「ぬ、シスターが来ているのか? ならばしかたないな! シスターは可愛い服かおかしな服を着せるのが趣味であるからして!」
あとは超人スポーツや超人格闘技の有料配信もそうだ。
現実じゃありえないようなエンターテイメントはまるで特撮映画のようだと結構人気があるらしい。
だからこそこのゲームではビデオカメラの作成はできないようになっていて、運営が有料配信をすることでかなり儲けているんだとか。
――野球の延長戦部分は放送されないそうで、クロウは何度も涙を飲んだとか。
「と、忘れるところだった。二人とも、自己紹介して」
「あ、うん。オレはキリヤ。まだ初心者なんだけど、よろしくな!」
「俺様はヘルフリート! まだまだ駆け出しの勇者だ! よろしく頼むぜ! にーちゃん!」
「ふははは! 元気があっていいな! 少年少女よ! 特にヘルフリート、勇者志望とはなかなか見所がある! その気概を持てば冥府の王すら倒しきるであろう!」
「冥府の王!? なにそれマジやべー! 魔王みてーだ!!」
「そういうのがいるのかい? ランディ」
「魔法が一切効かないユニークMOBだな。文字通り地下墓地の最奥にいる。ガンガン再生するわ何度も蘇るわ取り巻きはうぜーわですんげーめんどい」
「まぁ、中堅程度の実力さえあれば誰でも成し遂げられるであろうな。アンデット系がいるため魔法か、それに類するアイテムが必須ではあるが」
「へぇ~……竜殺しと並ぶような称号がありそうだよね」
「そうだな。魔導騎士とか聖堂騎士って呼ばれる」
「えっ」
それは、昔クロウが名乗っていた、ような……?
「ふむ……懐かしい称号である」
「あれ? じゃぁ今名乗っている魔法剣士は?」
「いわゆる職業名であるな。我の本来の称号は今だ魔導騎士であるぞ?」
「スプライト系の取り巻きを倒すのに魔法が必要なだけだし、≪フレイムウォール≫があればアンデッド系はほぼ封殺できるから、サシで戦えるしな、アレ」
「戦い方が確立されているため、名乗ってもしょうがない称号である。まぁ、そこへたどり着くにはアンデッドの群れやスライムなどを突破せねばならぬため、やはり中堅程度の実力があるとは示せるがな?」
「スライムぐれー簡単じゃねーの?」
「ふははは! このゲームのスライムは運営が仕事をしたせいで物理無効! そのうえ魔法は体を変形させて避ける! なかなかに難敵なのだよ!」
「マジかよ!?」
「もっとも、塩をかければ縮んで死ぬが」
「ナメクジかよっ!!」
「どうして急に称号を名乗らなくなったの?」
「まぁ、思うところあってな……称号にふさわしき、納得できるような戦い方ができれば、いずれ改めて名乗ろうかと思っている」
思うところ、って。
思い当たる節が、私が最初にログインしてきたときに地下墓地へ行ったところしかないんだけれど……。
「……ごめんね」
「構わん! 称号に甘んじて自身の研鑽を怠った我が悪いのであるからな!」
はっはっは! と快活に笑う。
「我のは攻略本に書かれているような戦い方で得られる程度の称号なのだ、せめて竜殺しクラスの称号を得てからでなければな!」
それは遠いのかもしれないし、近いのかもしれない。
どちらにしろ、彼が本気で魔導騎士という称号に誇りを持っていることだけは理解できた。
(クロウも、頑張っているんだな)
そんなことを思う。
「おはようございます、今日もいい天気ですね!」
そして、そんな気持ちなんて吹き飛ばすように、変態がやってくるのだった。
「きやがったな変態ねーちゃん……!」
ヘルフリート君が傍らのバスタードソードに手を伸ばし、キリヤちゃんはファイティングポーズを取る。
警戒心が強いなぁ……当然の事だろうし、いい事だけどね。
「大丈夫ですよ、そんなに警戒しなくても。私はお二人のそのTシャツ姿でもうすでに大満足ですから……!」
鼻息が荒い。
ヘルフリート君とキリヤちゃんが怯えている。
――プラカード、作らなきゃなぁ。
「それに今朝すぐに出会ったのはマスターでした。ええ、ほんとうに幸せな朝です。主の恵みに感謝いたします」
「じゃぁ朝飯は食わなくて大丈夫か」
「あ、食べますよ? もっとも、パンとミルクさえいただければ十分ですが」
「キリスト教って乳製品ダメだったはずじゃ……?」
「さぁ、どうだろう?」
まあ、キリスト教とは限らないし、ファンタジーのシスターは普通にミルクも飲んでいるからいいんじゃないかなとは思う。
日本人特有の、宗教観の薄さから来るものかもしれないけれどね。
「――ほら」
「ああ、主よ。今日の糧を与えてくださり、感謝いたします……では、いただきますね」
「作る側としてはもう少し栄養バランスを考えろとは言いたいな」
「ゲームですから栄養の偏りがあったところで死にませんよ?」
「それでもなぜか脚気はあるがな?」
「変なところだけリアルだね、毎度そう思うけれどさ」
「おはよー……」
なんて、朝から疲れたような声を上げてアリスがやってきた。
「ああ、おはよう。アリス」
「疲れた顔してんなー、アリス……朝飯どーするよ?」
「ガランもおはよー、てきとーにみつくろってー……っていうかけっこう重要な話があるからみんなに聞いて欲しいんだけど、今いるのはこれで全員?」
「だと思うぞ」
「そー……」
疲れたようにテーブルに着く。
今朝はいつものローブ姿じゃなくて私服だった。しかも珍しいことに、アリスが普段着ない現代風の淡い桜色をしたワンピースと、ピンク色のカーディガンだった。
「――なんだかいつもと様子がちがうね?」
「あー、うん……お仕事が入っちゃってね、スーツがなかったからせめて現代風の服でーってことでねー、ちょっと運営の人に会って来たの」
「運営と?」
ただならぬ予感がするなぁ……いつもは仕事しないくせに、また妙な事を考えている気がする。
「というか、仕事の話なら私服はダメじゃないか。今度スーツを買おう」
「クローゼットの肥やしにしかならないんだけどなー……」
「ダメ」
「ちぇー……」
「ずいぶん疲れているな、マスター」
「あ、クロウ、おひさー」
「うむ、一日ぶりである!」
「あとヘルとキリヤもおはよー」
「おはよう」
「はよー」
「ルシーは今朝言ったからいいや」
「でも私はもう一度言いますよ? おはようございます、マスター」
「あー……かったるーい」
ぐてーっと机につっぷす。
「アリス、あまり感心しない態度だよ? 何があったか分からないけれど。運営から直接ってことは厄介ごとかい?」
「うん、そう」
仕事しない運営からの仕事って、なんだろう?
まぁ、それはアリスがすぐに話すことになるだろうし、待てばいいか。
「――ほら、適当に見繕ってやったからさっさと食って話せ」
昨日の夕食の残りのシチューと、パンにグレープジュースがアリスの前に配膳される。
「うん、ありがとー」
アリスが、珍しくランディにお礼を言った。
[to be next scene...]
「第一回ギルド会議ー」
ご飯を食べ終わって一息ついてからの、いつも通りの宣言がなされる。
ちなみに、ギルドメンバーではないヘルフリート君や、キリヤちゃんもこの場にいる。二人は「え、参加しなきゃいけないの?」みたいな顔をしていた。
「えー、今回の議題は――」
「あ、その前にいいか? ちょっと報告」
「はい、ガラン」
「全員揃ってないけど言っておくぞ? 俺の後釜にレンを推薦する」
「あ、お姉ちゃんにしたんだ? てっきりアスールかと」
「アイツは若すぎるから」
「なるほど。確かに彼女は少々先走りしすぎるきらいがある。妥当であろう」
「アイツはレンの後継か、お前の後釜あたりにって考えてる」
「そうであったか……しかし我より立場が上になるのか。これでは軍師にさらに頭が上がらんようになってしまうな!」
「いいんじゃないですか? 社会人組はマスターもサブマスターもやれるほど時間が取れるわけではありませんし」
三者三様の反応があるけれど……つまりランディが言ったことは、私がサブマスターになる件、なんだろうね。
そして社会人は、時間的に余裕がないから自動的に選考外、ということか。
「なぁレンねーちゃん、何の話?」
「将来的な、サブマスターへの昇進の話だね」
「すっげー!?」
「ばーか! 兄貴が推したんだし、すっげーのは当然だろ!」
キリヤちゃんはちょっと盲目に信じ込みすぎるきらいがあるかな?
まぁ、いずれ矯正していく必要があるかもね。
「ガランからは終わり?」
「まぁ、経験積ませるために俺のそばに置いとく、っつー形になるっつーのも追加で言っておく。いずれは首脳会議にも出席かな」
「お姉ちゃんに変な事しないでよ?」
「しねーよ。俺からは以上」
「ん、じゃぁ次になにかある人?」
「はい」
ルシーが小さく挙手した。
なんとなく内容は想像できる。
「ヘルフリート君とキリヤちゃんはうちに入れるんですか?」
「む? まだ入っていなかったのか?」
「こいつら、初心者ギルドからの依頼で任されてる奴らだからな。実際には俺とレンの管轄ってだけでギルドとは関係ないんだ」
「なるほど、そうであったか」
「ま、そのあたりは本人の意思次第ってとこだけど……入る?」
「オレは兄貴がいるから入る!」
「俺様も世話になったし、まぁ今更他のギルドなんて考えられねぇかな? 変態がいるのがすげぇ嫌だけど……!」
「……ルシー?」
「分かっていますよ? 昨日、さっそく軍師さんから私の夢を潰されそうになりましたから、それに今は実力も権力も徐々につけていく頃、そんな方にこれ以上睨まれたくありません。私からは以上ですよ」
「――二人とも、変な事されたらちゃんと報告、ね?」
「「はーい!」」
「そんなに信用なりませんか?」
「「「ないっ!」」」
アリスと一緒に、二人は口をそろえて言う。
素直でいい子たちになったな……最初とは考えられないよ。
「では、私も」
「はい、お姉ちゃん」
「私は軍師じゃないということをだね……」
「「「「それはない」」」」
異口同音に否定されたよ……。
「お姉ちゃんの件はこれで決着がついたとして」
「え?」
「今回の議題、ギルドへの依頼についての議題にうつっていい?」
「やっぱ依頼か」
「しかも今度は運営が相手であるな」
「私は軍師じゃ……」
「その話はとっくの昔に終わったんだよ? お姉ちゃん?」
……優しく諭されてしまった。
「えー、今回の依頼はギルドとか個人とかじゃなくて、運営です」
「なぁ、もしかしてアレか?」
ランディは心当たりがあるらしい。
長い付き合いがあるためか、その通り、とでも言いたげにアリスはうなずく。
「マジかよ……ただの噂だと信じてたのに」
「本当に企画が通るとか、普通思わないよねー……」
「ええっと、何の話だい?」
「我も状況がよく飲み込めんな。二人だけの世界に行かず説明して欲しいものだ」
「「二人だけの世界? ありえないから」」
一字一句間違えず、タイミングもばっちり合わせて、二人は同時に否定した。
「えーっとね、かいつまんで説明すると……脳みそお花畑な人たちが婚活しにくるのでそのお手伝いでーす」
「……は?」
わけがわからない。
ランディに説明を求めるように目をやった。
「まぁ、アレだ。ゲームつってもリアルと外見は同じ。化粧や髪型は誰でもスキルで本職並み。全員の住んでる場所が遠く離れていても出会いの場が作れる。仮想空間だからどんなシチュエーションでも提供できる。それでいて現地集合。会場代がかからない。むしろVR機器のレンタル料まで取れる……ってメリットがあって」
「つまり?」
「それを利用しようって考えた結婚相談所がいくつか名乗りを上げた」
「端的に言うと?」
「メルヘンでファンタジーで壮大な婚活をしよう」
「……頭が痛くなるような話だね?」
「「噂であって欲しかった!」」
またハモる。
斬新な試みをするところもあるんだなぁ。
「まぁ第一種の社会進出にも一役買うかって大義名分があるわけだし、超人スポーツがそのへんの映画よりもよっぽど面白いって話題になっていること、お笑い芸人がテレビの企画で参加したこと、実際に芸能プロダクションも進出してきたこと……ま、いろいろあって≪剣と魔法の物語≫に偏見がなくなったのも後押しになった」
「へぇ。スポーツの話以外は初耳だったよ」
「……レンってそういう雑誌とか読まねぇの? ファッション雑誌とかさ?」
「読むよ?」
「じゃぁなぜ初耳だった」
「斜め読みしていたよ」
「ダメだコイツ……だからいつも制服なのかよ」
「え? 制服かスーツと、あとはリラックスできる私服が数着あれば十分事足りるんじゃないのかい?」
「あまり関心はせんな、年頃なのだろう?」
「それぐらい気をつかえよ、軍師のねーちゃん」
「俺様はよく知らねーけどさ、女の人って、服とか化粧とか、そういうのって大切じゃねーの?」
「それは嫁ぎ遅れそうな人の発想ですよ? ……まぁ私もそろそろお局様と呼ばれかけているらしいですけれど」
「お姉ちゃんはこういう人なのよー……」
なぜ周囲からこんなにバッシングを受ける必要があるんだろう?
化粧や服で着飾ったりするのはもう少し先でもいいと思うんだけれどな。まだ高校生なんだし。
そんなことより服や化粧品一つでどれだけの本が買えることか……そのほうが今の私にとっては重要だ。
「ま、お姉ちゃんのことはひとまず置いといてー……ここで問題が発生します」
「お金の問題?」
「まぁねー、端的に言うとそうなるのよ。第一種の社会進出って名目もあるわけなので、なんと私、リアルマネーがもらえちゃいまーす」
「えー、ずりー!」
キリヤちゃんが声を上げた。
「Bランクのオレには何かないのかよー」
「Bランクって――あ、初心者ギルドの隠語かー。現状ではないなー。実際に働けるわけじゃん? よほど酷いBランク以外は」
「ちぇー」
「まぁ、そういう仕組みなんだからしょうがないとして……仕事ができるのはいい事じゃないのかな? 収入があればよほど生活が楽になると思うんだけれども」
「それが問題なのよねー……」
説明を求めるために、もう一度ランディに目をやった。
「法律でなんやかんやあるからな。身近なところで言うと、アリスやキリヤなら障害者年金っつー制度があるだろ?」
「あるらしいね。詳しくないけれど」
「問題なのは収入が一定以上あると支給されない、もしくは減額されることだな」
「そうなんだ?」
「そりゃぁ生きるためには金が必要なのに稼げないから国の税金で賄ってるのに、稼げるヤツが貰っちゃいけないだろ普通」
「確かに」
「そういう理由で、第一種の社会進出っていうのは問題があるんだ。生々しい話だけどよ、働いたほうが生活できなくなることが多いんだよ」
「それは意外だな」
「まぁねー? 働いたほうがお金がもらえるって思ってる人が多いんだろうけどさ」
「アリスも一部の助成金とか受け取ってないんだ。総額落ちるからな」
「なるほど」
貰えるものはもらう、そういうのはかえって損をする仕組みだったのか。私はアリスの親戚だけど家族じゃないから、全然知らなかったよ……ランディが知っていることに驚きだけど。
「こっちは介護費用やら維持装置やらで、それ貰ってやっとギリギリなわけよ? その上親に苦労かけてるっていうのにね」
「大変なんだなー、アリスねーちゃん」
「本当、小学生の前でこんな生々しい話したくなかったんだけどな」
「オレの事は気にすんなよ兄貴、オレだってオヤジが苦労してるところよく見るし……それに今はほんのちょっとだけ歩けるしな! ゲームだけど!」
「キリヤちゃんは本当にいい子ですね。いい子いい子してあげましょう」
「ヤダッ!」
強い子だなぁ、キリヤちゃん。ちっとも悲観した感じがしない。
そしてルシーはもうちょっと自重させないと。
「ま、本音言うとオヤジに少しは楽させてやりてーから、金は欲しかったんだけどな……そういう仕組みなら貰わねーほうがいいんだよな?」
「まぁな」
「私もさー、やっぱり心苦しいわけよ。でもさー、ながーく転院繰り返してるうちにさ、半ば中学中退みたいな雰囲気よ? 誰が独り立ちできるぐらいのお給料払ってくれるのよ、こんな私に」
「アリスねーちゃん、苦労してんなー……」
「いっそ金持ちとケッコンとか」
「はーい、私ー、家事できませーん。子供作れるほどの体力ありませーん。っていうか子供作れるのかーって疑問がありまーす。あとリアルだとすっごいガリガリで女らしさの欠片もありませーん。それどころか要介護者でーす……あー、言ってて悲しくなってきたー……」
「生きてりゃいい事あるって言うけど、ままならんよなー、このへん」
うっすら涙すら浮かべているアリスの頭を、ランディはぽんぽんとあやすように撫でてやる。
「ま、俺らとしてはゲームはゲームだって割り切ってやりたいわけなんだけどな」
「……スポンサーからの口出しはしょうがないよねー……こういうことだけは運営の存続に関わるって知ってるっていうか、散々ガランから教えられたんだけどさー……」
大人しくあやされながら、乗り気でなかった理由を淡々と語る――私服で会いに行ったのも、ちょっとした抗議みたいなものかな?
「まー、こんなところで泣き始めてもしょーがないし……現状では生活のためにリアルマネーが入ってこないようギルド単位でのお仕事にしようかなって思ってます」
「アリスには別口で支払われるんじゃないの?」
「今のところ、ギルド単位だったら大丈夫なのよ。『これはゲームの延長線上です!』ってね?」
「ホント、今のところは、なんだけどな……」
いずれいろいろと改正される公算が高いような言い回しだった。
「今は人型の二足歩行ロボットがあるから、アリスみたいなヤツもソレに意識移して社会進出する、って方法も研究されてる」
「そうなんだ?」
でも、寝たきりで働くことができないという人の中には社会進出というか、社会復帰を望んでいる場合もあるだろう。
そういう意味では、アリ、なんだろう。
「そーいうのはなんかヤだなー。オレは自分の足で動きてーよ、けっこうマジで」
「人から見たら機械ってだけで、使用者には自分の体だって認識させることはできるらしいけどな」
「マジか!? ちょっとすげぇ!!」
「なんつーかSFの話になってきたな」
「ファンタジー世界なのにねー」
元々すごい技術だとは思っていたけれど、そこまですごい技術革新だったんだな。このVR機器……。
ゲームの中だから存在はしていないけれど、なんとなく、ヘッドギアを撫でようとして自分の顔に触れると、しっかりと自分の肌の感覚が手の平に伝わってきた。
今までの話を聞いたせいなのか、ちょっと前まで当然だと思っていたことに恐怖を感じてしまった。
――これは、本当にゲームの中なのか? と。
「この話題はどうしてもSFチックになっちゃうね」
「そうですね」
「まー私は親に依存してる立場だから? 親がいなくなったらどうしようもなくなるわけだからさ? そういうのは歓迎するべきなんだろうけど?」
「どこまで国が守ってくれるか未知数な話であるなぁ」
「そのへんは政治家に任せるしかねぇよ。俺らじゃどーにもならん。せいぜいで選挙でよさげなヤツに投票するだけだな。ま、今は金勘定と保身ばっか得意な政治家しかいないけどさ」
「皮肉だね、って言いたいけれど。ちょっと言い方がひどくないかい?」
「実際、国民の代表だとか、公僕って意識持ってる政治家がいるのか?」
「政治の話は荒れるからして、そこまでにしておくべきだ。朋友よ」
「……そうだな」
クロウに諭されるよう、不満げにその話題を切り上げる。
「で、どこまで話たっけ?」
「ロボット?」
「タロスが湧いてきそうな単語で止まってたな」
「いいヤツではあるのだがなぁ……」
「私からしたらスゴい人だなーって思うかな、タロスは。まぁ今は関係ないからおいとくけどね? それより依頼の話でしょ、進めなきゃいけないのは」
「マジかったりぃな、脳みそお花畑な婚活の手伝いとか」
「受ける? 受けない?」
「内容によりますよね?」
「確かにそうだね」
「あー……ごめん。相談しておきたかったからキチンとした説明はまだ受けてないの。っていうか、やるのは昼からだからさっさと相談して来いって今朝言われた」
ちょっと急すぎる話だな……思わず眉をひそめてしまう。
「もう少し前もって話を通しておくべきことじゃないのかな? 断ったほうがいいんじゃない?」
「いや、前もって話だけは聞いてるぞ? 俺とアリスしか知らない話だったけど」
「本当はもっと早く相談するつもりだったんだけど、いろいろあって話す機会がねー? まー、ガラン知ってるしいいかなって」
「なぜ我に相談してくれなかったのだ! マスター、そして朋友よ!!」
「俺はたまたまその場にいただけだっつーの」
「アリスと二人きりで?」
「近藤も一緒だよ」
「近藤さんも?」
「アイツも第一種だから」
「初耳だね」
でも、確かにそう考えると辻褄が合うか。
まだ働き盛りといったあの年で昼間から夜までほとんど常にログインしているなんて、第一種でなかったら、無職だとしか考えられないしね。
「でも二人だけなんだ?」
「始まりの街に好き好んで定住してる第一種は近藤とアリスぐらいだよ。俺が知っているかぎりだとな」
「なんでランディも同席していたの?」
「覚えがあるんじゃないか? GMからの注意勧告の件。まとめて呼び出されたようなもんだ」
「ああ……」
確かに覚えてる。
昨日言われたことだね。私が手紙なんか送ったばっかりに……迷惑ばかりかけているなぁ、ランディには。
「近藤の野郎めっちゃいい笑顔で『ようやく逮捕できるのか!』とか言いやがって……!」
「まぁガランにはまだ利用価値あるし、ここで抜けられると困るからね」
「張り倒すぞコラ」
「脳みそチンするよ?」
「「……」」
「こらこら、険悪になるでない。ケンカもいいが議題を進めるべきだ」
「命拾いしたねー?」
「竜殺し舐めんじゃねぇぞ?」
本当に、いいケンカ友達だなぁ――まわりを巻き込むようなケンカを始めたら力ずくで止めるつもりだったけど。
「……軍師が魔導書を取り出しているのが見えんか?」
「「仲良しだから大丈夫!」」
ほぼ同時に肩まで組んで、息もぴったりだ。
これなら安心していられるね。
「じゃ、議題を進めようか。受けるか、受けないかだね。リアルマネーじゃなければ私は受けたいけど、普通にみんなで狩りに行ったほうが楽しいのは確実だから、私の意見には左右されないでね?」
「俺は受ける派だな。アリスにはちょうどいいインターンシップになる」
「なら、私も受ける派だね」
「我はどちらでも良い。みなで楽しめればな」
「私もクロウさんと同意見です」
「依頼ってのに興味があるから俺様は受けてみてーかな。本当は戦って、俺様の強さを披露してやりてーけど……なんだか面白そうじゃん?」
「オレは受けたい。まだ満足に歩けないから、やっぱ安全に金が手に入るってのは重要だしさ」
受けるが五名、どちらでもいいが二名。
「受けるで決定だね」
「だな」
アリスとランディは確認しあうようにうなずきあった。
――仲がいいことに目を奪われがちだけど、そういえばこの二人、マスターとサブマスターの関係でもあったね。
「でも面白い試みではありますよね。遠く離れた二人が運命の出会い、だなんて……結婚を前提としての出会いを求めるのであれば、ロマンチックさも多少は必要ですからね」
「それも狙ってるんじゃないのかなー」
「ショーシカモンダイにハドメがかかるってやつだな!」
「ヘルフリート君はよく知っていますね。どうですか? これからお姉さんとその少子化問題についてアツく――」
「絶対にノゥ!」
「……プラカード」
「じ、冗談ですよ、軍師さん? だから、その、ホントにやめてください……」
今度プラカード用の材料でも買ってきておこうかな。
あとはアリスや近藤さんに説明して渡しておけば、かなり有効な対策になりそうだしね。
「でー、ルシーは捨てておくとして、問題は報酬額だけど」
「おもいっきりふっかけていいんじゃないのかな?」
「レン、一応言っておくけど」
「なんだい?」
「このゲーム、インフレとデフレがあるからな?」
「なんでそんな無駄なところだけリアルなんだい!?」
「……運営はときどき、本っ当に思い出したかのようにリアル思考を絡めてくるからして」
「昔、デスゲームイベントで大量虐殺した主催者にたくさんの報酬が振り込まれたんだけれど、使わずに貯蓄していたら物価が徐々に上昇していったんだよ。すべての街で」
「お金の総量の問題なのかな?」
「そのあたりあの計測ギルドですら計りかねてる。ただ、その後個人で大きな買い物をしたら落ち着いていったから、銀行に預けてある個人名義の預金額が一定以上であるのがインフレの原因だと思う。ギルド名義の預金額が高くてもなにも起きないって、計測ギルドも言ってたし」
「へぇ……よく知ってるね?」
「長いからな」
「そういえばさー、最初期はデフレ状態だったんだよねー、お金を落とすMOBが少なかったから」
「ふぅん」
「ま、というわけで今回は安め、というより普通の報酬にしておかないとダメだからな?」
「それでも普通ぐらいはもらえんだ?」
「っつーか、割に合わん仕事は引き受けるなよ? なんらかの事情があるか、そういうポリシーがあったら話は別だけどな」
「仕事の割に報酬が高い仕事もダメであるぞ? 妙な裏があるからして」
「「はーい!」」
素直な返事が返ってくる。
「そーいや、よく考えたら王子様お姫様みたいなシチュエーションにもなるってことは、まるで王族みてーだよな! いつか王宮とかそういうのに呼ばれたときのために練習しとかねーと!」
ヘルフリート君には悪いけれど、王族、いないと思うなぁ。
建物としてはあるとしても――
「ではいずれ帝都につれていこうではないか! 我と帝王は知り合いであるからして!」
――帝王のほうはいるのか……。




