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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
アルバイト編
50/97

第49話 役立たずだった私の決意

「――あ、ねーちゃん起きた」

 まぶたを閉じていたら、うかつにもこの陽気のせいで眠ってしまっていたらしい。

(私も、ずいぶんと神経が図太くなったみたいだな)

 血生臭いネズミの死体の傍にいたはずなのに。私のまわりには、ランディと、ヘルフリート君と、キリヤちゃんがいた。

「いくらゲームだからって外で寝てたら風邪引くぞー?」

「ん、ごめんね。どれくらい寝ていたのかな?」

「ほんの三十分程度だったと思うぞ」

 すかさずランディが答えてくれる。

「そうかい? 君がそう言うなら、そうなんだろうね」

 だって、一番信頼している人だから。

「ネズミはどうしたのかな?」

「もう捌き終わったよ。まぁほとんど俺がやったんだけどな」

「なるほど」

「すっげーのな! はじめは『グロッ!』って思ったけど、だんだん店で並んでるようなうまそうな生肉になってくんだ!」

「オレ魚はやったことあるけど、肉は初めてだったからなー。たくさん教えてもらった!」

 子供特有の無邪気な残酷さ、いや好奇心みたいなものかな。あまり気持ち悪くなっていないようだ。

 いい事ではあるんだろうけどね。

「豚も牛も、ランディがやったようなふうに解体されて、お店に並ぶんだ。けれど、リアルじゃ決してむやみに殺しちゃダメだよ?」

「やんねーよ!」

「つーかオレじゃできねーよ! 足悪いんだし」

「それでも冗談でなくリアルでは絶対にやるなよ。特にネズミ。簡単に捕まえられるし、病気持ちだからな」

「「はーい!」」

 二人とも元気がいいな。

「どれくらい狩れたんだい?」

「一人頭で、ざっと百匹ちょっとだな。ポイント数ではやっぱ攻撃力過多だったヘルフリートのほうが劣るけど」

「武器って強いだけじゃダメなんだな」

「ヘビやネズミよりも強い相手だったらむしろ心強いさ。でも、強いだけじゃ無意味だって分かるならいいことだね。大根を切るのに村正は必要ないってことさ」

「なにそれ?」

「日本刀の中でも名刀で知られてる村正を、ただの料理に使うなんて過剰すぎるってことだよ。包丁でいいんだからね」

「なるほど!」

「ただの料理、っつーのに引っ掛かりを覚えるけどな、俺は」

「いいじゃないか。たとえ話なんだから」

 解体したと思われる場所は、血に染まっている。私から少し離れた場所でやっていたおかげなのか、私には返り血一つついていない。

「ま、一人が一日生活する分にはネズミ百匹分の皮があればいいからな。状態にもよるけれど」

 羊皮紙は需要が高いから、やっぱり他の動物の皮でも貴重なんだろうね。

「肉も別に売れなくはないけれど、病気持ちだからな。≪ポックス≫スキルは死体になっても残留するから厄介なんだよ」

「そういえば≪ポックス≫スキルって、はじめて聞くけれど……聞く限りだとかなり強力なスキルみたいだけれど、使わせないのかい?」

 MOBの保有スキルは基本的にスキルジェム胞に入っているものばかりだと説明を受けている。

 効果は、攻撃を与えた相手を高確率で病死させられる、そんな致死性の高いそれをみすみす使わない手はないハズなんだけれど。

「肉はそれなりの高さで取引できるんだけど、病気持ちはダメなんだよ。あと≪ポックス≫スキルはセットすると自分が常に病気状態になるからいつ死ぬかわからん。それに、たまに吐血して最大HPの一割分ほどダメージが飛ぶ」

「もったいないし、自分の寿命を犠牲にしなきゃならないのか。血が飛び散るのも迷惑だね」

「なんでかエネミーだけはそういうことがないのがな……」

「ただの媒介動物ということなんだろうね。マラリアを運ぶ蚊みたいなものさ」

「あー……まぁそれはさておき、その吐血するってのがはた迷惑でな」

「汚れる以外にも?」

「プレイヤーが使う分には血液感染なんだよ。うっかりすると街が大惨事だ。まぁ≪PK≫スキルないとバッドステータスは与えられねぇのが幸いだけどさ」

「とんでもなく迷惑だね」

 吐血してHPにダメージを受けつつ、その血を受けたら病気にかかる可能性もあって、しかもいつ病死するかも分からない状態って……使いづらい上にかなりの地雷だなぁ。

「二人は説明された?」

「されたー」

「ぜってぇ使わねぇ」

「一レベル程度なら一日三回薬を飲むことで抑えておけるけど……」

「高いの?」

「一回分の薬代で、一日贅沢に過ごせる」

「高いね、すさまじく」

 そんな高価なものが一レベルで一日三回の薬が必要となると、高レベルになればなるほど常に薬を飲んでなきゃいけないし、薬代もバカにならないな。

「だから、使うとしても金に余裕があった上で、一レベルだけだ。返り血で相手が死ぬ可能性もある。まぁ売るのが一番だ、金になるから」

「そうだよね……そういえばスキルジェムを入れておく袋は?」

 それがないと、意外とあっけなく壊れてしまうみたいだからね。

「初めての狩り成功祝いっつーことで、プレゼントしてやった」

「なるほど……二人はお礼、ちゃんと言った?」

「言ったぜ!」

「それくらい当然だって。もちっと信用してくれよ、ねーちゃん」

「そうだね。ちょっと心配性になってたかもね」

 なんだかお母さんになった気分だな。

 そうすると、お父さんはランディかな?

 ――ちょっと気恥ずかしいな。

 私は結婚できる年齢ではあるけれど、彼とはそういう関係じゃないのに。

「さて、それじゃ山積みにした肉の話だ」

 赤身の多い、精肉店に並んでいそうなおいしそうに解体されたネズミの肉たちに目をやる。骨付きだから、どちらかといえば鶏ガラとか、もも肉っぽくも見えるかな?

 まったくグロいという感じはしない。さすがは料理人のやることだ。

「さっき説明したとおり、こいつらにはまだ≪ポックス≫スキル効果が残ってる。火を通してたとしても、食うと病気になる。計測ギルド調べで、二時間ずーっと判定が発生し続けるという話だ」

 そんなことまで調べたんだ……というか食べたんだ、生でも。

 それによってのべ何人犠牲になったのかな。

 本当に命まで賭けるギルドなんだね。

「肉は本来食用にもなるし、撒き餌にも使えるんだけど、こういうヤツは使えねぇ。他の動物が食わないうちに焼いて埋めるのが一番の理想だけど――今回は冒険者セットを買ってないからそのまま埋めるぞ」

「焼くって、ライターとかあんの?」

「あるけど、冒険者セットに入っているのは火打石だ」

「ライターあるのに?」

「どう見たって科学技術の発展してなさそうな世界観で突然ライターなんて出てきたらそれはそれでどうなんだよ」

「でもあるんだろ?」

「ライターはプレイヤーがつくった物だから、(NPC)売りじゃねぇんだ。でもジッポライターだから頑丈だし、オイル補充とかで結構長く使ってられる」

 フリントロックがあるからこそジッポライターを作ったんだろうね。原理というか、使うものはほとんど一緒だし。

 電気はいまだに魔法でしか見た事がないから、そういう着火法はまだ出来ていないか、開発中なんだろうな。

「ま、高いけどな」

「高いのかよ!」

「それでも一応大量生産ラインが確立してるから初心者には手が届かない、ってわけでもないな。頑張って小遣いを貯めてれば買えるぞ?」

「なぁ兄貴、それは買ったほうがいいものか?」

「家や宿屋で生活する分には必要ないものばっかりだな。野外炊飯するとかそういう目的があるなら話は別だけど。まぁロープぐらいは買え。荷物を運ぶときとか便利だ」

「あー、今も結構な量があるしなー」

 皮は綺麗なのもぐちゃぐちゃなのも、一緒くたにロープで括られている。背負わなきゃならないくらいの、結構な量だ。

 ――綺麗なものはランディがナイフかなにかで剥ぎ取ったんだろうね。

「ま、そのあたりは人それぞれだな……んじゃ、穴でも掘るか」

「私が魔法で掘ろうか? ボルト系なら安全にそれなりの深さが期待できると思うけど」

「やめろやめろ。上から土を被せなきゃならんのに、土ごと消し飛ばす気か」

「じゃぁ、肉のほうを焼いて炭にしてしまおう」

「あー、お前の火力だとそういう手があるか……でも一応、このあたり火の海にならんよう一旦耕すぞ」

「めんどくせーなー」

「火遊びするときは周囲にも注意だってことだな」

「へーい」

「っつーわけでヘルフリート、≪チャージスラッシュ≫だ!」

「オレの剣はクワじゃねぇよ!?」

「手っ取り早いんだけどな……んじゃ鞘で掘り返していけ。浅くでいいから。キリヤは、まぁ蹴って掘れ。人の迷惑にならん程度にな」

「分かった」


    [to be next scene...]


 初心者ギルドの話をしながら、個人で羊皮紙作成をしている若葉の腕章をつけたプレイヤーに大量の皮を売る。

 状態のいいのもあるし初心者二人の初めての狩りということで、ちょっと色をつけてもらったみたいだった。

 そしていらないと断言した≪ポックス≫スキルは売り払う。ネズミならいつでも倒せるからね。

 おかげでちゃんとランディへの借金を返しても余りあるお金を手に入れられたようで、ヘルフリート君もほっとひと息。

「んじゃ宿でも探すか」

「早くね?」

「誰も彼も家持ちってわけじゃねぇんだよ。街の外にダンボールハウスでも作るか? ダンボールないけど」

「ホームレスかよっ!」

「あとはテントって手もあるけどな」

「テントでいーじゃん!?」

「どっちもやめておいたほうがいいよ? 泥棒がいるからね、カギのかかる宿屋に泊まらないと、次にログインしたらアイテムが全部ないとかありうるし」

「ゲームでも犯罪者いんのかよー……」

「兄貴ー、泊めてー」

「宿が取れなかったらな? ……っていうかこの時間だともうほとんど埋まってるかもな」

「え? まだ四時だぜ?」

「夜からログインするヤツがまだ泊まってるってこともあるし、拠点にするために部屋を長期間借りてるやつもいるからな。さすがにずっと借りっぱなしだと迷惑だから自重してるヤツが多いけど、なんとなく縄張りができるんだよ」

 アリスは借りっぱなし派かも。陶器のマグカップなんて持ってるから、いちいち拠点を変えられるわけがないしね。

「あとはギルドメンバーで金出し合って家を買って、共同生活するところもあるな」

「ギルドかー……入ったほうがよさげだなー」

「兄貴のギルドに入ったら兄貴の家に泊まれる?」

「緊急時以外は泊めん」

 でも中学生(アスール)とは同棲しているんだよね。

 自分の店の後継者として育てているんだろうけれど……でも、なんだかちょっと意地悪したくなっちゃう。

 ランディから「信頼してる」って言われたせいかな?

 いずれサブマスターにって指名されたのに、育てているのは別の人だからかな?

 ――彼が私に「さびしい」って思いをさせたことを、根に持ってるせいかも。

 ちらりとあたりを見回せば、暗殺ギルドの覆面が歩いている。覆面なのになんで「鬼包丁」を差してるんだろう。詰めが甘いなぁ……好都合だけど。

「でもさ、アスールは泊めているよね?」

「おいコラ」

「同棲ってやつか! やるな兄貴!」

「同棲じゃねぇよ居候だよ」

「あのねーちゃん中学生だったよな?」

「ロリコンってやつか! やべぇな兄貴!」

「ちげぇよ!」

 覆面がざわっと刀に手をやりながら、ぼそぼそとチャットで呟いている……ふふ、小学四年の女児を連れているんだ、言い逃れは難しいかもね。

「……レン、お前意地悪くなったな」

「でも事実だよね?」

「俺の店の後継者だっつうの……」

「分かってるよ?」

 でもちょっとくらい意地悪したくなったんだ。

「女子高校生の、ちょっとした可愛いイタズラじゃないか」

「シャレにならんときもあるわ」

 ずいぶんげんなりとした声を上げる。

「んじゃこの街の散策がてら、二人で宿屋探して来い」

「えー? 兄貴とねーちゃんはー?」

変態(ルシー)の身元引き受けと、説教があるからな」

「俺様、アレだけはずっと捕まっていてくれていたほうがいいと思う……」

「それでもウチのギルドメンバーだし、あんまりログインできずにストレスばっか溜まるやつだからな、一応そこさえなんとかしてやればまともなんだ、比較的」

 比較的、と言う言葉に一抹の不安をぬぐえない。

 ヘルフリート君は嫌そうな顔をする。

「ギルドってのはそういうもんだ。ただの仲間って言うヤツもいるけれど、同胞っていうヤツもいる。俺たちの場合は、家族みたいなもんだからな」

 私が感じた思いは、きっとランディにとってギルドメンバー全員に向けられているんだろうね。

 私も、ランディがいなくなるって考えただけで、さびしくなるもの。

「ま、リアルと同じで難しいところだな。助けてくれるヤツは、いつだって信用できるやつじゃなくて、信頼できるやつなんだ」

 その言葉は、

「同じじゃねぇの?」

「信じて利用するヤツと、信じて頼ってるヤツ、全然違うだろ?」

 私の言ったセリフ、だね。

 なんだか、すごく、うれしいな。

 私の一番信頼している人から、私と同じ言葉が出るだけで、こんなにも心があったかくなる。


    [to be next scene...]


「――ふふふ、お待ちしておりましたよ。サブマスターさん?」

 牢屋の真ん中で、不敵に笑いながら立っている。でもこれ、変態行為で捕まった人が取る態度じゃないと思う。

「元気そうだし、帰るか」

「そうだね」

「え、ちょ、待ってくださいよ! というか子供達は? あの可愛い可愛いお子様たちは!?」

 がしゃんがしゃんと鉄格子を揺さぶりながら、時計を奪われ武装を解除された彼女は必死に出してくれるよう訴えてくる。

「連れて来るわけねぇだろうが……まったく、お前は一人の無垢な少年にひどいトラウマを植え付けたんだ……貴様はそこで乾いて逝け」

「ちょ、酷くないですかサブマスター!?」

「いや、だって、なぁ? 軍曹のしごきに耐えたアスールですら今も苦手だって言ってるし」

 どれだけ地獄なんだろう、軍曹のしごきって。

「ちょっと可愛い服を着てもらっただけじゃないですかぁああああああああ! もぎ取った休暇は今日と明日しかないんですよぉおおおおおお!!」

「餓死すりゃ出れるから大丈夫だって」

「餓死するのに三日はかかるじゃないですかぁあああああ! やだぁああああ! しかもお味噌汁かけてもこの鉄格子なかなか錆びてくれないんですよぉおおおおお!」

「お前は一体何をやってるんだ?」

 網走の脱獄囚がやった手口だったような気がするなぁ。

「しかも数時間おきに洗剤で掃除してくれやがるんですよ!? 私が生きている間の脱出は絶望的じゃないですか!!」

「それは、当然だと思うなぁ……」

「はっ! レンちゃん! あなたからも何か言ってあげてください! この極悪非道なサブマスターに!」

「とりあえずまともになるといいと思うよ?」

「ふっ……私は神の敬虔なる信徒。奉仕や施しこそすれコトに及ぶなんてあるわけがないじゃないですか! まともですよまとも!」

 ヘルフリート君が素直になるくらいのトラウマを植えつけておいて、どの口が言うんだろうね? 自分がまともって。

「というかサブマスターこそこっち側の住人になるべきでしょう? サブマスターの地位を利用しアリスちゃんとアスールちゃんという二大リアル中学生をはべらせつつ、今度はリアル小学四年生の女児にまで手を出すとか!」

「手ぇなんぞ出すか!」

 看守の人がなにかぼそぼそと報告をしながら、隙を見せないようにじっとランディを見つめる。

 おアツい視線を受けて、ランディも汗が止まらないみたいだ。

「俺はノーマルだっ!」

「じゃぁサブマスター、今ぱっと思いつく香りを教えてください。簡単な心理テストです」

 ああ、これは知ってる。

「嫌な予感しかしねぇよ」

「うまく行けば疑いを晴らせますよ? ちなみに相談してはダメですからね?」

 やっぱり釘を刺すよね。またイタズラ心がむくむくと鎌首をもたげてきたのにな……。

「……柑橘類、っつーか、レモン?」

 あ、やっちゃった。

 私が手を下すまでもなかったよ。

「ふっふっふ……語るに落ちるとはこのこと! 柑橘類は年下好み――つまりロリコンの証明ですよ!」

「な、なんだってー! ……って驚いてたまるかっ! んなことで――ってなんで看守さんたちがわらわらやってくるんだよ、おい、ちょっと、時計外すなって。待てって……!」

 なんて反応が早いんだろう……私の手でこういう状況にしたかったなぁ。

 でも、まだ楽しむ余地はあるよね?

 私は彼に向かってにっこり笑いながら、追撃してあげる。

「そういえばキリヤちゃん――小学生の女児に大開脚させてたね」

「おまっ! ちょ! レン!? ハイキックだから、それ≪キック≫スキルの練習だから!」

「そうか、とうとうボロを出したか……」

 看守たちはようやく牢屋にぶち込めるとばかりに、淡々と作業を続ける。

「ちがうから! やめろって、待てって……!」

 楽しいなぁ、ランディが焦っているところ、なんだかすごく可愛い。

「うふふふ、ウェルカムトゥ牢獄ですね。サブマスター?」

「レン、悪い顔せずに助けてくれよマジで、なんか俺怒らせることしたか? ――あ、待てって、俺まだ何もしてねぇから」

「そうか、まだ(・・)何もしてないのか。うん、わかった」

 ――ああ、なんだかすごく、楽しい……!

「ねぇ、助けてほしい?」

 十分に堪能した私は、ランディに向かって最大限にっこりと笑いながら、

「助けて欲しい?」

 二度、問いかけた。

「今日は本当に意地が悪いな!?」

「ちょっとぐらい意地悪したくなるお年頃なんだ。女の子にはそういう時期も……ああ、看守さん、別に動きを止めなくても――」

「ああああ助けてくださいレンさん!?」

 楽しいなぁ、すごく、楽しい。

 でも、そろそろ冗談じゃすまなくなりそうだし、面倒くさくなりそうだから助けてあげなきゃいけないね。

「――看守さん、彼は大丈夫だよ。私の大切な人だ」

「ちょ、おまっ!」

 狙ってやったな? とでも言いたげなランディに、私はちょっとだけクスリとしてしまった。

 でも、大切な人だってことは事実だよ?

 だって君は、私の大切な従妹(アリス)ケンカ友達(しんゆう)なんだから。

「ちなみに私は年上の人と一緒にいると心が落ち着く」

 これも、嘘じゃない。

 ただし「ランディじゃないと!」というわけではない。クロウやお父さん、軍曹でもいいんだから。

 ……ああ、タロス(変態)近藤さん(腹黒)ルシー(犯罪者)は別だ。あれはない。

「私はまだ高校生で、今年で十七歳だ。年下という条件は十分に満たすんじゃないかな? さっきの心理テストは年下好きだとしか分からないんだから」

 ゆっくりと牢獄に入れられようとしていたランディを眺めながら、私は教え諭すように看守に言ってあげた。

 看守の一人に全員が顔を向ける。

「……ウソは言っていないようだ。スキルに反応はない」

 見る限り、やっぱりウソ発見みたいなスキルはあるんだね。スキルを持っているらしい看守はゆっくりとかぶりをふった。

 まあ、ウソも真実も言っていない私には関係がないけど。

「じゃぁ、別に入れる必要はないよね? ……ランディ。今までアリス、アスール、キリヤちゃんに対して下心を出したことは?」

「ねぇよ! まるっきり! これっぽっちも!」

 スキル持ちの看守がランディを見つめ、

「チッ……また命拾いしたな」

 そのたった一言の捨て台詞をはきながら、拘束が解かれていく。

(とはいえアリス十五歳、アスール十五歳、キリヤちゃんは……九歳か十歳かな)

 うん、そうそうたるロリメンバーだ。

 毎度疑われてもしょうがない。

 アスールの誕生日は知らないけれど、小学生の頃からはじめて、ストリートチルドレンになっていたところを拾ったって言っていたから、少なくとも三年前かな。

「やっぱりランディってロリコン?」

「ちげーよ!?」

「……チッ、反応なしか」

「テメェも調べんなよ!?」

「力強く否定しなくてもいいですよ、サブマスター? 主は創世せし六日目に仰いました、産めよ増やせよ地に満ちよ、と。年の差なんて関係ありません」

 たしかに旧約聖書にもあるけど……その解釈はどうだろう?

「お前マジでこのまま置いていくからな?」

「あああそれだけは! せっかくの休日が、オールで遊ぶつもりの休日がぁあああああ!」

 じゃぁもう少し自重して欲しいんだけれどね。

「でも助かった、レン。さすが軍師だのとか言われてないな」

「まわりが脳筋過ぎるだけだよ」

 アレで言いくるめられるって、本当に大丈夫なのかちょっと心配だけどね。

 結局証明されたのは、手を出していない、ロリコンではない、という二点なんだし……まぁダメだったらダメで、また別の方法は考えてはいたけれど。

 むしろそっちのほうがメインだったんだけどな。

 まぁ結局、少しの間だけ牢屋に入ってもらうことにはなるんだけれど。

「レン、悪いこと考えてるな?」

「別に、悪いことなんて考えてないよ」

 私が考えていることが悪いことに当てはまるのなら、話は別だけれどもね。

「あの、ところで……私の身元引き受けはどうなるんでしょうかね? やってくれますよね?」

「は? あんなことやりやがったくせに身元引き受けとかやると思うか?」

「ベッドがあるしカギもついてる、それにセキュリティも万全。とてもいい宿屋(・・)だよね?」

「ノォオオオオ! 私を外に! 外にぃいいいいい!」

 人をいじるのも存外楽しいな。

 読む本がなくなったときは、もう一度誰かに――

「顔、出てるからな?」

「そうかい?」

 ――意外と、私の事を見てくれているみたいだった。

 もっとも、私は考えていることが顔に出やすいって両親から言われているしね。当然かな、この結果は。

「で、どうするんだい?」

「引き取りに着たんだから一応引き取りはするぞ? まぁ罰は与えるけど」

「その時はぜひ! アリスちゃんアスールちゃんキリヤちゃんっ! そしてっ! ヘルフリート君からっ! ぜひ、ぜひ一発! イッパツずつっ!」

「させねぇよ!?」

 タロスも変態だけど、この人も大概だなぁ……。

「じゃぁ地下墓地に、ですか?」

「お前≪聖別≫スキルのせいでアンデットにめちゃくちゃ強いじゃねぇか。グロ耐性もあるし」

 ああ、伊達にシスターの格好をしているわけじゃないんだね。

剣闘士(グラディエーター)の街に選手(奴隷)登録だ」

「ちょ! それだけはっ! それだけはぁあああ!?」

「ね、それくらいにしておきなよ」

「ん?」

「レンちゃん……!」

「こういう手合いはね、首からプラカードを下げさせればいいんだよ。『私はロリコンでありショタコンです』って。それで街をねり歩かせるんだ。顔を覚えてもらえるまでね」

 ちなみにこれは海外で恥刑と呼ばれ実際に行われている。再犯防止にうってつけらしい。

「一番酷くないですか!? それじゃあ孤児院も作れなくなってしまうじゃないですか!!」

「孤児院を作る理由が、可愛い子をはべらせるため、って感じがするからね。とりあえず夢を潰してやらないと」

「こ、このサタンめぇえええっ!」

「本名ルシファーにだけは言われたくない言葉だね」

 がしゃがしゃと鉄格子を揺さぶる彼女に、私はため息混じりにつぶやいた。

「ま、ウチの軍師と言われてるからな、レンは」

「拝命した記憶は一切ないんだけれどね」

「っつーわけでお前の夢が潰えないよう、今後誠心誠意ギルドに尽くすんだな。お前が裏切り者(ルシファー)にならない限り、俺たちギルド(ファミリー)も裏切らない」

「……はい」

 彼女の表情が苦悶に歪み、歯軋りの音がここまで聞こえてきた。

 ……どこかのマフィアみたいだな、このやり取り。もしかしなくても狙ってやってる? 言い回しもクロウっぽいし。

 そんな事を思いながら、私は保釈手続きに戻るランディの後ろについて行った。


    [to be next scene...]


「ああ、娑婆の空気……!」

 半日ほど牢屋に閉じ込められていたルシーは開放感を味わうように深呼吸した。

「そしてアスールちゃん、半日ぶりですね!」

「はんにちぶりですねー、ははは」

 いつものようにランディの店が集合場所に指定されている。食材を集めてきたアスールは死んだ魚のような目をして遠くを見つめている。

 ――過去に一体何があったんだろう?

 まぁ、知りたくないから別にいいけどね。

「そういえばあのお子様達はどこですかね?」

「会わせたくないけどな」

「アタシも会いたくはなかった……!」

「宿屋が取れても取れなくても、ココに戻ってくるように言ってあるよ」

「初めてのお使い! これは目に焼き付けておきたかった……!」

「やったら今度こそ剣闘士(グラディエーター)の街送りだからな?」

「あと、プラカードの刑だね」

「分かっていますよ、サブマスターに軍師さん。私は敬虔なシスター、子供を愛し慈しむのは当然ですが、それ以上に子供を怖がらせてはいけません。姦淫の大罪を背負ってはならないのです」

 思いっきり背負ったよね。あのヘルフリート君の性格が変わるほどに。

 あと、アスールも死んだ魚みたいな目をするくらいだし、よほどのことをしたんだと思うな。

 それと、私は軍師じゃないよ? 何度言えばわかるのかな? ここの人たちは。

「――ただいまー……」

 ぎぃ、と扉が開かれる。がっしゃんがっしゃんと金属音を立てながら入ってくるヘルフリート君と、それに手を引かれて歩くキリヤちゃん。

 まるで兄妹みたいだった。

「か……かわぃいいいいいいいい!!」

「うわぁああああ!? あの時の変態がいるぅううううう!?」

「兄貴ー! 兄貴ー!!」

「落ち着けお前ら」

 ランディが一喝する。

「迂闊な事させたら今度こそ刑務所送りにするから安心しろ」

「ほ、本当か……?」

「私は敬虔なシスターですよ?」

「嘘だッ!」

「大丈夫だよ、ヘルフリート君。もし手を出そうものなら、私が直接潰すから。二度と逆らえないように」

「私のクロスボウのほうが速いですけどね?」

「別に、私が即死せず、範囲内にルシーがいればいいだけだよ? たとえば、七十八レベル級≪エクスプロージョン≫を、強化して使用する、とか」

「レンは≪解読≫フルスロットの上にクロウが変なテンションでおかしな魔導書作りやがったからな。百五十六レベル級なんつーアホな魔法が使えるぞ?」

「マジですか……!」

「別に私が巻き込まれてもいいんだよ? 止めさえすれば、あとはどうにでもなるし」

「ちょっと前の新聞読んでみろ……クレーター事件はコイツの仕業だ」

「く、クレー……わかりました。大人しく従います、ですからやめてくださいね?」

「別に怖がる必要はないよ? 大人しくしていれば何もしないんだから」

 ――ランディが私の事を疑いの目で見てくる。

 失礼だなぁ。

「……ま、お前らも安心しろ。少なくとも、へんな事をしたら総出でこいつボコるから」

「わ、わかった!」

「信じてるからな! 兄貴!

 やっぱりランディが一番頼られてる。

 当然だよね、私が一番信頼している人なんだから。

「ところで、宿屋は見つかったかな?」

「……ダメだった」

「オレがちゃんと歩けたんだったら、手分けして探せたんだけどな……」

「そうか。じゃぁ今度は夜組が出てくるごろにまた回るっきゃねーな」

「それよりお姉さんの部屋にお泊まりにきませんか? イロイロとお姉さんが――」

「「断るっ!」」

 当然だよね。ナニをされるかわかったものじゃない。

 ……プラカード、明日にでも用意してもらおうかな?

「ねぇ、どうせ初心者指導なんだし、せっかくだから君の店に泊めたら」

「なんでだよ!」

「なんとなく縄張りみたいなのができているんだろう? だったら、ここはひとまず慣れるまでは泊めてあげた方がいい」

 私がここに来る理由にもなるしね。

「部屋がねぇよ」

「でも、物置に使っている部屋があったじゃないか。掃除すれば使えるさ」

「いや、だからってなぁ……」

「これは私の依頼だったよね? 君は私の備品扱いだったって記憶しているけれど?」

「ちょっと軍師ー? 聞き捨てならないことがきこえたんですけどー?」

 さすがにつっかかってくるよね、アスールは。

 でもね? 私も譲る気はないんだ。この仕事を完璧な形で達成させたいから。

「そういう風に言われたまでだよ。あくまでも。私としては、相棒(・・)、という認識かな?」

「ほー? へー? ほー?」

「あらプチ修羅場?」

「店で騒ぐな……アスールは黙って川蛇を捌いてろ。客に出すものだからな、下手なモノは許さんぞ」

「ぶー」

「ふくれんな」

 にやにや事を見守ろうとしていたルシーは、すぐに収まったそれを見て不満げな顔をした。

「まぁ、今回ばかりは泊めてあげてよ。今日はだいぶ疲れただろうしね。これ以上探させるのはあまり得策じゃないと思うんだ」

「……客間な?」

「やったー!」

「兄貴の家なら安心だぜっ!」

「はー……また居候が増えそうな予感がする」

「ああ、私も今日は泊まっていくよ? 一応、依頼を受けた手前ね?」

「マジかよ!?」

「軍師ー、泊まるところがほとんど無いと思うんだー、アタシ」

「でもこないだは五人ぐらいなら泊まれたし、大丈夫じゃないかな?」

「……軍師ー?」

「なんだい?」

「あとでご相談があるんですがねー?」

「そうかい? それじゃぁ後で話そうか」

 ちょうどいい、彼女に私の気持ちをきちんと言っておこう。いまのところ、ランディに憧れこそすれ恋愛感情は一切ないということをね。

 ゲームとリアルは同じ。人間関係はクリーンに、だ。

「アスール」

「ぶー……」

 ふくれながらも、手馴れた手つきで蛇を捌いていく。

 ランディのことだし、きっとかなりの練習を積ませたんだろう。いざ自分がいなくなったときのために。

「ああ、ランディ。明日の事についてあとで部屋にお邪魔するよ?」

「軍師ー?」

「アスール!」

「むー!」

 アスールは釈然としないまま、蛇の腹を綺麗に割いていく。

「ねぇ、ランディ」

「今度はなんだよ?」

「今の私がやること、やらないといけないこと、なんとなくわかったかもしれない」

「そうか、よかったな」

 笑いかけてくれることもなく、撫でてくれることもないけれど、ただ落ち着いた声で、優しげに褒めてくれる。

(絶対に、やり遂げてみせるよ)

 それは、いつか君の代わりを勤める仕事。

 あの時、あの草原で、任されたことは必ずやり遂げてみせる。

 そうしてやり遂げたとき――君はもっと、私の事を褒めてくれるかな?

 書き溜め分放流終了。

 ひとまずこの章はここで終わりとなります。


 次は……どうしよう?


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