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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
デスゲーム編
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第4話 一番いい武器とは……

 パチンッ――(オレ)は指を鳴らす。

「説明しよう」

「古いよ、んな何年も前のレトロゲーなんて誰が知ってんだよ」

「またまた、一世を風靡しているだけに誰でも知っているし、その証拠に朋友(とも)もよく知っているじゃないか。我は嬉しいぞう? それはともかく、だ。この深遠なる魔導と剣の道を究めし究極の魔導騎士(ミスティックナイト)たる我の講義をタダで聞けるとは、朋友もこの魔導の門を叩きし弟子もなかなかに運がいい。そこらの平民どもなど我の講義を受けようにもタイミング悪く用事がある故にな!」

「単にお前を避けてるんだよ、用事は口からでまかせだよ」

「真実から目を逸らすな朋友よ、それでは見えるものも見えないぞ? ともあれ、今日の講義は装備について、そして実地として装備を整えるだけの金を稼ぐ方法、である」

「私としては、出来れば簡単なものがいいんだが、あるかい?」

「簡単といえば己が身を悪しきサバトの供物に捧げるのが一番だが、うら若き乙女の柔肌を危険に晒すなど言語道断!」

 ――言うが速いか、我の朋友をじとりと見る少女、いや、我が弟子。ははぁ、なるほど、朋友はデリカシーと言うものが無いからなぁ。

 問われるままに答えてしまったに違いないだろう、この反応は。

「安全かつそれなりの稼ぎが期待できる――それはずばり、店でのアルバイトだ!」

 我が弟子の体がずこっ、となる。

「どこまでリアルなんだい?」

「ゲームをやった事があるのならば話が早かったのだが、通常のRPGなどと同じく、アイテム販売やクエストを発行するのがNPCである。が、MMO系になるとアイテム素材を生産・収集し生計を立てる第一次産業者、それを加工する第二次産業者、ログインする時間が合わず、物を売れない層をフォローする卸売業者、そしてそこから仕入れたものを販売する小売店などが存在する。流通に関してはほぼリアルと同じものだと考えてもらって構わないだろう」

 知らなくてもいい事だろうと黙っているが、卸売業者と呼ばれる職業は昔、転売屋と言われ忌避されていた。しかしこのゲームの仕様上、転売を依頼するしかないため、今では転売屋と卸売業は別物である。

 まぁ、最近転売屋もデイトレーダーという名称に変わり、忌避感がなくなってきたことも事実ではあるが。

「私が作りました、とか顔写真があったらさすがの私も笑ってしまいそうだ」

「絵画スキルがあれば可能だぞ? 実際にブランド物も存在するし」

「あるの!?」

「朋友よ! 説明は我がする! ――まぁ朋友が言ったとおり、このゲームは通常のゲームとは違う。ステータス表示が無いのもその一因となっているからな」

 HP(体力)MP(魔力)ST(持久力)はおろか、通常のゲームにおけるSTR(筋力)AGI(俊敏)INT(知力)すら隠されたデータだ。ここまで秘密主義であるからして、上昇量などを暴こうとしている計測ギルドなど、プレイヤー達が躍起になってデータを解析していることがある。

 アップデートされるたびに増えていると言われる広辞苑並みのスキル数および天文学的組み合わせ数から言って、全てを解明するのは数百年後ではないかと予想されている。

 まぁ、魔導の深遠にたどり着いた我には関係の無い話だがな!

「ブランド物があるとおり、もちろん贋作を作る贋作スキルがある。これのカウンターとして鑑定スキルが存在するが、これはもう現実と同じくいたちごっこであるな!」

「買い物するのが怖くなってきたよ」

「安心するがいい我が弟子よ!」

「いつの間に弟子にされたんだい!?」

「贋作を避けたければ、ブランド作成者から直接買えば済むことである!」

「身も蓋もねぇ~」

 朋友が口を挟む。うむ、その意見はもっともである、我もそう思う!

「まぁ、贋作スキルフルセットだとブランドとほぼ遜色はない、あまり長持ちしない程度程度だ。贋作レベルが五十未満であると、慣れれば鑑定スキルもなしに贋作であることが分かる。ブランド物は贋作避けのためのマークが隠されている場合もある」

「それって根本的な解決になっていないんじゃないのかい? それに私、海賊版などを好き好んで使うつもりもないんだけれども」

「ならば、ブランド物を買わなければいい話だな。もしくは贋作師が見向きもしていない隠れたブランドを探すか」

「それも根本的な解決になっていない気がするよ……」

「まぁ、初心者は身の丈にあったNPC製品を買うのが一番である。贋作師もNPC製品を作ったところでまったく儲からないわけであるわけだしな!」

「ちなみにランディ、君のはブランド物かい?」

「俺のは量産品だな。本来が生産職だから、そんなのに金使ってられんし」

「そのかわり朋友は包丁一本に対して相当お金と時間をかけていたみたいだがな」

「まぁ本業のものだしな。やっぱ、いい包丁は素材の味を生かすから」

「プロだねぇ……」

「では買い物についての講義はこのくらいにして、さっそく装備を整えようではないか! 魔法使いに大切な装備である杖はある、あとは防具であるな!」

 まず、魔法使いには複数種類のバリエーションがある。

 例えば、遠距離からの特大魔法一発で敵の巣ごと更地に変える長距離爆撃型。

 例えば、射程距離の短い魔法を呪文詠唱短縮などで使いやすくした近接戦闘型。

 そこからさらに、複数種類の魔法を扱う多属性型。速射性を重視した速射型。能力をあげるバフ型、下げるデバフ型……我的には近接戦闘も絡めた魔法戦士型が一番バランスの良い構成だと思っている。

「――さて、問題となる防具であるが。魔法使いは金属鎧を着ることが出来ない、などと言う固定概念がある者もいるであろう。弟子は魔法使いの服装はどう考える?」

「私は弟子になったつもりはなくて……まぁ、魔法使いって普通、ローブを着てるイメージはあるね、しかも怪しい感じに」

「その固定概念をぶち壊すのである! 金属鎧でガチガチに固め、盾を装備し、身の安全を確保した上で魔法を放つ固定砲台型という魔法使いも存在する!」

「へぇ、それはすごいね」

「でも金属って確か詠唱中はMP勝手に吸い上げるって設定だったよな?」

「そうであるな。魔法として発動していない魔力は金属と親和性が高い」

「つまり?」

「MP消費が多ければ威力が上がるのが魔法であるが、その威力に関係の無いMP消費も発生してしまう、ということである」

 例えるなら酸素よりも一酸化炭素と結合しやすいヘモグロビンのごとく――もっとも、MPを吸った武器防具は頑強になる。そのため、MP切れによる詠唱失敗前提で詠唱時間の長い魔法をセットする近接職もいないわけではない。

「木製製品、革製製品も少なからず同じ問題が発生する、そのため無駄なMP消費を抑えるには布で出来た防具を着る必要があるのだ」

「防御力は……期待しないほうが良さそうだね」

「そも、このゲームに防御力という概念は無い。あるのは耐性である」

「耐性って?」

「文字通りである。布製品は、クッション素材が入ったものであるならば衝撃に強い。ただし、刺される、斬られる、燃やされるなどに弱いなどといった弱点もある」

「俺が今着ているフルプレートは衝撃に弱いんだ、あと電撃系の魔法」

「それをインナーでカバーするなど工夫するのが普通である」

「めんどくさいね……」

「まぁ、防具はいくらか重ね着できるけどな。すればするほど着膨れして動きづらくなったりはするけどさ」

「最終的に自分一人では着れない、起き上がれないのもまた一興ではあるな!」

「……ゲームを知らない私が言うのもなんだけど、もう少しゲーム的になってもいいんじゃないかな?」

「開発者に言うべき言葉であるな!」


 勝手に弟子認定されてしまった私は、不安ながらもこのクロウさんにNPC販売店に連れられてきてしまったのである――ちなみにランディはもう私に敬語を使うこともなく、投げやりに「昼飯食って、装備とスロット変えてくるわ」とだけ残して街の雑踏へと消えていった。

 懐中時計を確認する――リアル時間とリンクしているのだ――もうすぐ十二時を差すところだ。私も買い物が終わったら昼食にしよう。

「布製品はこのあたりであるな……見ての通りローブにも種類がある。腰上までのものから膝下までのもの。SサイズからXLサイズ、フリーサイズなどなどある」

「本当に、徹底しているね、リアル志向」

「SMサイズしかないが可愛い服もあるが、気にする必要はないだろうな。そも、NPCでも多少のオーダーメイドは可能だ、覚えておくといい、弟子よ」

「弟子になった覚えはないって、私はさっきから言っているつもりなんだけどな……」

「まぁ、無難に着心地とデザインで選ぶがいい」

「ちなみに一着いくらするんだい? 値札が着いていないようだけれど」

「この店は一律千ゴールドであるからな」

「一着が私の全財産だよ!?」

「無理ならば初心者の服のまま、下に着るためのインナー……というか、下着を買うといい。こっちは上下セットで売っているため安い。初心者は大概、ゲームだからと気付かない場合が多いが――その服の下、下着無しだからな?」

「えっ、なにそれ初耳なんだけど?」

「フゥーハハハハッ! やはり教えていなかったか! 朋友は童貞であるからな! そういった方面に弱いのだよ!」

 まるでランディを嘲笑するように高笑いするクロウさん――いや、それよりも、もしかして、胸を、見られ、た?

「――まぁヤツは紳士だ、というよりウブだ。わざわざ見ようとも思わんだろう。それにあのフルプレートはものすごく視界が悪い、我と会っているときまでずっとフェイスガードを下ろしていたヤツが見ていた可能性は限りなくゼロである」

 そういえばランディの素顔をさっぱり知らなかったな、私は。顔を合わせようともしていなかった気がするし……くぐもっていたけど、丁寧な印象がする声だったことは覚えている。

「綿のインナーを上下ひとそろえのセット、これで千ゴールドである。デザインはシンプルなものしかない、故に、好きな色を選んでおくことだ」

「一番いい装備ってなんだろうね……」

「本人のプレイスタイルにあわせるか、気に入った装備にあわせたプレイスタイルを取るかによるな! 最強の装備など存在しないのだからなぁ!」

 よく分からないけれど、奥が深い、の、かな?

「ちなみに、女性専用であるが色気のある装備だとNPCが値引きしてくれることがあるぞ。ある意味最強の装備であるな」

「絶対それだけは選ばない」

 私は固く誓う。

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