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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
アルバイト編
49/97

第48話 役立たずな私とはじめての狩り

 今日で何度目だったかな。ここに来たのは。

 また街のすぐ傍にある芝生、というよりは丈の短い雑草の上に座る。リアルだと真夏日だったような気がするけれど、ゲームの中ではぽかぽかとした陽気だ。

 頬を撫でる風も、とても心地いい。

 自分達から攻撃しなければ何もしてこないのがこの周辺に生息しているネズミとヘビの特徴だから、あまり注意は払っていない。

 ――絶好の青空教室日和だ。

「ようやく私の出番だね」

 今まではゲームでのシステム面での知識が必要だった。

 でもここからは違う。

 私もよく教えられたことしかないはずだ。ランディが教えてくれていないものは知らないけれどもね。

「いいかい、二人とも。このゲームには生態系システムというのが導入されているんだ」

 私とヘルフリート君、キリヤちゃんが座っているすぐ傍で、ランディはぼーっと空を見ながら寝転んでいる。

 久しぶりにBランク(第二種)を相手にしたせいか、相当疲れたらしい。そのうえもう一人問題児を相手にしながら、初心者の私にも色々と教えていたのだから確かに疲れるのもうなずける。

 ごめんね、ランディ。

 そしてすごく申し訳ないけれど、今の君は休日のお父さんみたいだよ? ごろっと寝返りをうつ姿とか。

「モンスターを倒しすぎるとダメってことか?」

「そうだね。成長する前に倒すと絶滅してしまうんだ。ただ例外としてヘビとネズミはいくら狩っても大丈夫、らしいよ?」

「断言じゃねーのかよ!?」

「私だって分からないことくらいあるさ」

「それ今までもずっとだったよな?」

「……ソレを言われると弱いね」

 ほとんど役に立ってなかったからね、私。

 でも、たぶん大丈夫。今度は知識を教えるだけだから。

「とにかく、ランディが大丈夫って言うなら大丈夫だよ」

「俺基準かよ……あー、んじゃ一つだけ。例外っつーには微妙だけどゾンビ系もそれに当てはまるぞー」

「そうなんだ?」

 寝転びながらランディが補足を入れてくれた。

「前の週に倒されたMOBや死んだプレイヤーの総数がどんどん追加されていくからな。倒されたゾンビ系の総数がスケルトン系、倒されたスケルトン系の総数がスプライト系になってく」

「へぇ」

 どんどん肉がこそげ落ちて、最終的に魂になるってことなのか。

 でもあんまり知りたくなかったな。

「私も一度入ったことがあるけれど――」

 あのときは強制切断判定を受けたからよく知らないけれど、一瞬だけ目に入った情景だけは今でも焼きついているよ。

「相当な数がいたからきりがなかったね」

 真実を言っていないことは謝るけど、そんな目で見ないでくれよ、ランディ。

「ともかく、教会の裏手にある地下墓地は大変危険だよ」

 あと、軽くトラウマになるしね。

「教会のある街には必ずあるからなー」

「「はーい」」

 時間としては昼もすぎて、人も順次増えている頃みたいだ。チラホラと街の外へと向かう馬車や徒歩の集団が、ここからでもよく見える。

 ――そういえばこの草原で四つんばいになりながら、なにかを探している人もチラホラいるかな。

 一人、ボロボロになった初心者の服に似たようなものを着ているけれど。

「ちなみにランディ、彼らは何をしているんだい?」

「ようやく楽ができると思ってたのになぁ……」

 そう言いながら、また寝返りをうつ。

 起き上がる気、ゼロだ。

「……スカベンジャー」

「スカベンジャー?」

「戦隊ヒーローみたいでかっけー!」

「そうかー? 兄貴が言うとなんか別の言葉に聞こえんだけど」

 とうとうランディは名前ではなく兄貴と呼ばれるようになったね。

 キリヤちゃんにとっては、さっきまで何度も何度も自分を受け止めてくれた相手だもの、さらに親愛を込められて呼ばれるようになってもおかしくないか。

「レーティングが低いと確率になるって説明したっけ?」

「私はされたね」

「されてねー」

「つーかオレZ指定(R-18)だから関係ねーし」

「俺様もだぜ!」

「小学生でそれはどうだろう!?」

「……自己責任だからなー」

「「はーい」」

「容認するの!? 直させないといけないんじゃないかな!?」

「えー……訂正させんのめんどい」

 また寝返りをうった。

 本当に休日のお父さんみたいな状態だなぁ……まだ二十歳(ハタチ)なのに、こう、若々しさが足りないっていうか。

「今時レーティングなんぞ律儀に守ってるヤツなんてほとんどいねーよ。こっちとしては別に吐かなきゃいいし。ハラスメント機能ONなら変な事はできないし、しようとしたらGMすっ飛んでくるから大丈夫。二重の安全装置になってんだよ、ソッチ方面は」

 ひらひらと手を振って、大丈夫と連呼する。

「いや、リアルでやろうとしたらどうなんだろうかなって……」

「リアルでやろうとしたらゲームのせいじゃねぇよ、親の監督不行き届きだ。別に俺ら強制してねーし、第一ゲーム脳ゲーム脳ってうるせーんだよな。自称有識者どもめ」

 いい加減な……というか有識者をひどく悪く思っているように聞こえる。

「リアルでできないことをゲームでやって解消するわけで、ゲームでやったことをリアルでやろうだなんて考えるのは思考回路そのものが犯罪者だっつーの……第一、性犯罪者数と規制の厳しさのデータ比較を見たことあんのかあいつら……」

 なんで愚痴が始まるんだろう。

 上司の愚痴を言う休日のサラリーマンみたいだ。

 そして小学生を目の前に性犯罪者数と規制の話を持ち出すのは教育上良くないと思うな。

「……で、えっと?」

「スカベンジャー」

「あー、うん。語源はまぁお前のほうが知ってるんじゃねぇの?」

「まぁ、一応は」

 原義はゴミをあさる人。ゴミをあさって生計を立てている人のことだ。生物学だと腐肉食動物、つまりハイエナのことを指す。

「……ということは、彼らは」

「そ、屑拾い(スカベンジャー)。取りこぼしたジェムや、他人の倒したMOBの討伐証明部位を拾ってはクエストを達成させたりして、金稼ぎしてる奴らだな」

「かっこわりー」

「かっこいいのは名前だけかよ!」

「大型がいたり、地下墓地みたいにわさわさ湧いてくる奴らのいるところだと見かけることがあるな。あとは遊びの一種として仲間うちでやってたり、死んで再起を図ってるんだけど戦闘が苦手なヤツがやることもある」

「素直にクエストをうけりゃーいーじゃん」

「ネズミなんてオレでも蹴り殺せるぜー?」

「ゲームでやるならオリエンテーリングの一種だけどな。まぁ誰だって楽したいし、仕事(クエスト)って言葉が嫌いな人もいるんだよ。リアルで競馬やったりパチンコしたり、宝くじ買ったりして働かないやつがいるようなもんだ」

「「「あー……」」」

 なんとなく腑に落ちてしまった。

 人間、ダメになるととことんダメになるよね。

「君たちはああなっちゃダメだよ?」

「「はーい」」

 いい反面教師だなぁ……そういえばアレをやってる人は、子供よりもむしろ大人のほうが多い気がする。

「今回はゲームでやってるのが数人と、いわゆるダメ人間が一人だな……本人の前でぜってぇ言うなよ?」

「うん」

「でも言わなきゃダメな気がするんだよなー、オレとしては」

「言ったところでどーにもならん、ああいう奴らは。それどころか変な恨み買うからやめとけ。キリヤは女だから変な事されっぞ」

「マジで!?」

「そういうもんだ、リアルでもゲームでも……あ、ゲームだとハラスメント設定ONならまだマシにはなるな」

 ままならないなぁ……。

「んじゃレン、話はそれで終わりか?」

「え? ああ、君に教えられたのはこれで全部だよ」

「そっか。んじゃ今回はネズミ狩りだ。ヘビは狩りすぎるとヤバめのが出るから禁止な」

「ヤバめのってなんだ?」

「ヤマタノオロチ」

「えっ?」

 背筋が凍るような名前が飛び出してきた……なんでそんなドラゴンに匹敵するような名前が出てくるんだろうね?

「まぁ慣れれば今のスキルや装備で十分に相手にできるけどな。初心者脱却したかどうかの試金石にされるやつだ」

「ちなみに、サイズは?」

「十メートルぐらいって計測ギルドが言ってた」

「なんでそんな大物が急に出てくる仕様なの?」

「曰く、倒された蛇数百匹の怨念だとか。そんな話をたまーに一般人(NPC)が話すな。計測ギルド調べでいくと、出現条件が一人で一時間以内にヘビ百匹討伐。条件を満たすと地面からぼこっと生えてくる。ヘビ殺したやつを狙う。まぁそれ以外は普通のヘビだな、攻撃しなきゃ何もしてこない。出現させて倒すまでが初心者卒業試験だ」

「……ネズミには変な事は起きないよね?」

「ネズミは大丈夫だな。単に病気持ちなだけで、病気にかかると高確率で死ぬことがある程度だから」

「「どっちも危険じゃねーか!!」」

 二人の声がハモった。

「ヘビはヤマタノオロチが出てくる以外にも毒持ちだけどな。≪ポイズンファング≫アーツで一レベル級の毒状態になる。まぁ五分もほっとけば直るし、死なないようポーションとかで回復してりゃいい話だな……一レベルでも一分ちょっとで死ぬから油断はできんけど」

「どんだけヤバいんだよこの世界……」

「大丈夫、ネズミの≪ポックス≫スキルで病気状態になるのは七十八分の一だ。これも計測ギルド調べ」

 本当に命まで賭けてる人たちだなぁ……統計を取るためだけに何人が犠牲になったんだろう?

「っつーか、計測ギルドって一体なにもんなんだよ……?」

「調べるためだったら命まで賭けられるちょっとヤバめの集団」

「こえー!?」

「普通にいい奴らだぞー? 自分から毒を飲んだりする奇行以外は」

「それぜってーやべーって! 友達は選べよ兄貴!」

「今お前らが飲んでるポーションができたのも、計測ギルドが毒になるか薬になるかその身を挺して実験してくれたおかげなんだぞ?」

「マジかー!」

 安心と信頼の実績を持ってるなぁ、計測ギルド。

 でもお付き合いは控えたいかもしれない。

「今も高性能なポーションを作るために日々死人が出るギルドでもあるな。あといつのまにか大航海時代に入った時代の先駆者でもある」

「すげー!? でもはいりたくねー!?」

「計測ギルドの事業はたまーに新聞で見かけるから、その時は応援してやれ。あと死人がよく出るから寄付も受け付けてるぞ。まぁ今のお前らには無理だから、まずは今日の宿代とメシ代ぐらいは稼げるようになれ」

「確かに寄付よりなによりまずはその日の生活のほうが重要だよね。衣食足りて人礼節を知るとも言うし」

「ねーちゃん、難しい言葉ばっか言ってると嫌われると思うぞ?」

「そうかな?」

「そうだよ」

「わかった、注意しよう――では、さっそくネズミ狩りに移ろう。目標数は……何匹ぐらいなんだい?」

「一時間で狩れるだけ。ヘルフリートは俺に借金あるし」

「昼飯ぐらいいいだろー?」

「金銭関係はできるだけクリーンに。リアルでも重要なことな?」

「はーい……」

「ミンチにはするなよー? 皮は羊皮紙や防具の素材にもなるし、心臓付近にスキルジェムが埋まってる。ジェムは壊れやすいし、落とすとスカベンジャーが横から掻っ攫うことがあるからな」

「倒した死体はどーすりゃいいんだ、兄貴」

「俺んとこもってこい。そういう奴らから守っておいてやるし、解体の仕方とか教えるから」

「解体の仕方を教えるのかい!?」

「カエルの解剖実験やるようなもんだ、どこの学校でもやってる事だろ」

「今はやらねーよ?」

「オレんとこもだな。昔はやってたって話だけは聞いたけど」

「私も話しか聞いたことがないね」

「なん……だと……!」

 ちょっとしたジェネレーションギャップを感じるように、ランディは驚いたような声を上げた。

「じ、じゃぁさすがに魚の解剖ぐらいはやるだろ? べつに家庭科で魚の捌き方とかでもいいし……」

「家庭科ですらやった事がないね、私も」

「これがゆとりかあっ!」

「あ、兄貴! オレはアジの三枚おろしはやったことあっから! そんな混乱すんなって!」

 寝転びながら頭を抱えるランディは、女児になだめられていることもあいまって、なんだかすごく、マヌケだった。


    [to be next scene...]


「暇だな……」

 私が暇つぶしに魔導書を読んでいると、そんなことをランディが呟いた。

 何をするわけでもなく、ただ目の前にある戦利品たちを座して見張っているだけなのだから当然ではあるけれど。

「あー、血の臭いに誘われて狼でもでてこねーかな……」

「物騒な事を言わないでくれよ」

「――兄貴、ここ置いてくぜー」

 ネズミを数匹まとめて持ってきたキリヤちゃんが死体置き場と貸したランディの目の前にどさりと放り捨てていく。

「走るのに≪キック≫使うなー!」

「今回だけ見逃してくれ兄貴ー!」

 悪びれもしていない捨て台詞を残して走り出す。地面を蹴るたびに土くれが舞う。

 普通に走るならああはならない。でも、普通に地面を蹴って走るよりは力強く、そして速い――≪キック≫スキルの応用、みたいなものなんだろうね。

「ったく、楽ばっか覚えやがって……」

「まぁ、見逃してあげたら?」

 ≪キック≫は宣言の必要がない常時発動(パッシヴ)型だから、ある意味ではスキルの発動を上手く扱えていないとも見える。

「≪キック≫スキルって意外と汎用性があるんだね」

 キリヤちゃんの、力強いダッシュと≪ステップ≫で加速力のついた空中回し蹴りがネズミにクリーンヒットする姿を、私たちは見つめる。

 着地は足を真っ直ぐ伸ばすように、地面を蹴って着地する。土くれがさっきよりも大きく跳ね上がった。あれも≪キック≫スキルのちょっとした応用なんだろう。

「ああやって常時使うっつーのは難しいはずなんだけどな」

「難しいの?」

「走るときは普通、地面を攻撃した反動で動くとかじゃなくて、地面を蹴って走るって程度に考えるだろ? ま、ここがきちんと蹴れる足場だからいいけど、ぬかるんだ足場とかだったらすぐ転んじまうから、できるだけ普通に走らせたいんだけど……」

「心配性だね」

「そうか?」

「そうだよ」

 本人はこれで厳しくしているつもりらしい。本当に優しいね。

「つーか順応しすぎだな、相性が良すぎる。うらやましいねぇ、才能に溢れるやつっつーのは……」

 才能がないなんて、卑屈な考えだな。私よりもよっぽど優れてるくせに。私は君がうらやましくてしょうがないよ。

「子供は物覚えが速いからだと思うよ。女の子なら特に」

「そんなもんか?」

「そういうものだよ。そもそも女性は生物学的に――」

「小難しい説明はいいから」

「――そうかい」

 ちょっと寂しいな。今まで教えてくれたお礼をしたかったのに。

「ヘルフリートは……やっぱ武器の攻撃力が過剰すぎるのがネックだな。かえって効率が落ちてる」

 本人の才能としては十分なんだと思う。スキルのアシストも入っているとはいえ、互いに動きながらもきっちりとネズミを捕らえているんだから。

 ただ、強力な切断属性のせいでネズミを一刀両断してしまう。キリヤちゃんはパンチをほとんど使っていないから両手が空いているっていうのもあるけれど、真っ二つになったソレを、時には袈裟斬りに斬ったせいで二つ以上になってしまうネズミを両手で抱えて運んでこなければならない。

 そのせいでスキルジェムも取りこぼしているみたいで、屑拾い(スカベンジャー)にとっては格好の獲物らしい、死体のあった場所をごそごそと探し回る人がいる。

「あー! 上手く走れねー!」

 重装備というほどの重量はないらしいけれど、やっぱり自分より一回りも二回りも大きめのフルプレートだとうまく走れないようだ。

 そんなふうにわめきながら、がっしゃんがっしゃんと音を立てて走り寄って来るヘルフリート君に向かって、

「お前は火力過多だから戦い方を考えてみろ」

 と助言をする彼を、私は黙って見ている。

「やっぱ斬るより突くほうがいいのかな?」

「やるときは頭を狙えよ? これからレベルの高い敵と戦うとき、致死ダメージに届かないこともあるからな。あとは衝撃も使えるよう柄頭で殴る練習もしてみろ」

「おっけー」

「ん――スカベンジャーの格好の獲物になってるからな。お前は借金分働いてもらわなきゃならんから」

「ちぇー……っつーか俺様の狙った獲物までキリヤに取られるんだけどさー、どうすりゃいいの?」

「キリヤと同じ場所で狩るからだろうが。周りをよく見ろ」

「なるほどな! わかったぜ! んじゃ別なとこ狙ってみる!」

「遠くにいくなよー」

「わかってらーい!」

 来たときと同じように、がっしゃんがっしゃんと遠ざかっていく。ずいぶんと丸くなった、というか、素直になってくれたな。

 変態(ルシー)には、こればっかりは感謝しておかないとね。

「――さて」

 私は魔導書を閉じる。

「お前は参加するんじゃねぇぞ?」

「違うよ」

 確かに私はこういうことに向いていない。見ていて分かるよ……でも、ちょっと苦笑してしまった。

 なんやかんやあったけれど、私だって立派な初心者なんだし。

「ちょっと相談がしたくて。ふたりとも遠くに行ったし、相談する決意も固まったしね」

「金なら貸さないぞ。まぁメシのツケだったら考えなくも――」

「そういうのじゃないよ」

 二言目にはかならずお金のこと。ちょっと悪いクセかもね。でもツケなんて許すあたり、矛盾してる気はするけどさ。

 そういうのをぜんぶひっくるめて飲み込めているからこそ、お店を開いていられるんだろうな……それがランディの金銭感覚なんだから、私が口出しすることじゃない。

「私は、これからどうしていけばいいのかな、って」

「進路相談は先生にしてくれよ」

「そうじゃなくて、ゲームでだよ」

 最初に大きく稼いだ、だから気が緩んだんだと思う。もう少し、きちんとした金銭管理をしなきゃいけない。

 でもその前に、

「私は、どういう仕事ができるんだろう? この世界で、どう生きていけばいいんだろう……って、思ったんだよね」

「そういうのはもっと年上に聞いてくれよ……」

「最初に私の面倒を見てくれたのはランディなんだよ? それにまだまだ私は初心者だ、責任ぐらいは取って欲しいな」

「……なんで俺のまわりの女って、他人を勘違いさせるようなことしか言わないんだろうな? なんでか人と関わるとロリコン疑惑とか深まるんだけど?」

 ランディは困ったような声を上げた。

 なんだか彼に出会ってから私は、いつも彼を困らせてばっかりな気がする。

「そういう星の下に生まれたからじゃないかな?」

「レンが運命とか信じるタイプだとは思わなかった」

「これでも乙女だよ。それに、まだ高校二年だしね」

「そうなのか」

「そうなんだ」

「そうすると三つか? 早生まれだかだと四つぐらいか」

「三つだね。十七だし」

「……年は偽ってないよな?」

「そんなに私が老けて見えるのかい? ちょっと頭にくるな、それ」

「そうじゃなくて、年の割りに落ち着いててな……まぁなんだ、焦るような時期でもないんじゃねぇかな?」

「そうかな?」

「お前は何がしたい?」

「本が読みたい」

「じゃぁ読んでればいい」

「でもそれだと生活ができないよ」

「バイトすればいいじゃないか。酒場(ハロワ)行けよ」

「うっかりクレーターを作れ、って?」

「スキルを下げるのが一番なんだけどな……」

「いやだね」

「……だろうなぁ」

 彼は困ったように頭を抱える。

「そういう相談はルシーにしてくれ、けっこう話を聞いてくれるやつだからさ。変態だけど」

「私の事、捨てないでほしいな」

「だーかーらー……」

「ふふ」

「……遊んでる?」

「いたって大真面目さ。ただ、一番信頼できるのはランディ、君だから」

「アリスじゃダメなのか?」

「アリスは一番信用してるよ?」

「同じじゃねぇか」

「違うよ。信頼は、信じて頼る。信用は、信じて用いる……ほら、全然違う」

「詭弁かい」

「詭弁かもね」

「あー……めんどくせ」

 お手上げだ、とばかりに寝転がった。

「お前の武器を全部把握しろ。特に称号。これは有効活用しろ、信用できるかどうかのバロメーターになるからな。軍師だろうと、大禁呪の魔女だろうと。使える武器は使え。使わないで負けたときほど悔しいものはないんだぞ?」

「そういう経験があるのかい?」

「宮本武蔵が生前に宍戸梅軒と戦ったとき、刀を捨てて小太刀で勝ったときに言ったセリフだと。軍曹からの受け売りでもあるな」

「君の言葉で聞きたいな」

「じゃぁ、お前で考えろ」

「ずるいよ」

「あのなぁ……俺は専門学校生だぞ? しかも二年だ。就職活動とかしなきゃいけないし、就職したらログインする時間は格段に減るんだ。いつまでも誰かの面倒を見ていられるか」

「現実主義なんだね」

「理想主義よりはマシだろ」

「それもそうだ」

「それに俺はどうも才能がないみたいだしな」

「才能は、あると思うよ?」

「なんの?」

「私は全部才能で片付けるのは嫌いだけれど、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)にもなったし、ちゃんと話を聞いてくれるし、優しい。どこが凡庸なんだい?」

「全部」

「それは自分を卑下しすぎだよ」

 なんだか私も疲れてきたな……ぽすっとランディの隣に寝転んだ。

 空は青くて、風は気持ちよくて、なんだか悩んでいるのがバカらしくなってくるけれども、でもこの機会を逃したらきっとダメだ。

「ねぇ」

「なに」

「私の事、捨てないでね?」

「見捨てはしねぇよ」

「そう」

「仕事の事だけど――ま、とりあえず今はあいつらを育てる仕事があるだろ? それを頑張ってみろよ」

「うん」

「それに、アリスもお前に任せる。元々レンの従妹(いもうと)だから言う必要もないだろうけどな」

「わかった」

「クロウはいいヤツだ、一人で悩むこたぁないぞ。じゃんじゃん相談してやれ」

「覚えておく」

「タロスの手綱はきっかり握ってろ。何するか分からん」

「任せて」

「軍曹は……まぁ人外だ」

「確かに」

「リアルで困ったならお父さんだ」

「そうだね」

「ルシーはもう体で覚えさせろ。それ以外はまともだから」

「そうする」

「浪人とはまだ会ってなかったな。桂小五郎。元暗殺ギルドのメンバーだ。そっち方面に強いけれど、クロウと同類だ」

「そうなんだ?」

「ああ、同類。でもギルドを守るやつとしては、クロウと同じで頼りになる」

「了解したよ」

「あとは……ま、アスールは気にかけてやってくれ。なんだかんだ言って、俺はあいつに一番よく俺の技を教えたからな」

「うん……」

「あとは、ま、お前の頑張り次第だな」

「そうだね」

 まるでもう会えないような、そんな会話を。

 まだ――まだもう少しの間だけ、そんな事はないはずなのに。


 すごく、さびしい。


「ねぇ?」

「あ?」

「もう会えない、とか、ないよね?」

「ないよ」

「そうだね」

「そもそも労働基準法とかあるだろ」

「だよね」

「……お前が経験を積んだら、俺の立場(サブマスター)はお前に譲ることにする」

「うん」

「やけにあっさりしてるな?」

「さっきまで、ギルドについて色々と話していたからだよ」

「そうか」

「でも、クロウじゃないんだ?」

「アイツもいずれ就職するだろうからな」

「アスールは?」

「経験は十分だけど若すぎる。お前の次か、クロウの代わりだな」

「私が受験生になるのは考慮外なんだ?」

「お前なら上手くやるだろうって思ったからだよ。あと、アリスの事もよく知ってる。クロウは俺の朋友(ともだち)、それ以上じゃあない」

「そう」

「レン、信頼してるぞ。アリスやクロウと同じぐらいに」

「ありがとう。でもね」

「ん?」

「こういう場合は、一番、って言ったほうが女の子は喜ぶと思うな」

「……そういうの苦手なんだよ」

「そっか。じゃぁそれをどうにかしないと、彼女もできないね」

「キツいな……」

「ねぇ」

「今度はなんだ?」

「また、会えるよね?」

「会える」

 断言してくれる。その言葉に、すごく、ホッとする。

「そう」

 私はゆっくりとまぶたを閉じた。

「……こういう話って、なんだか、すごく、さびしくなるね」

「まぁ、そうだろうな」

「ゲームなのにね」

「ゲームだからだ」

「よく分からないよ」

「住んでる場所が違ってもさ、こうやって近くにいるって感じるからだろ」

「なるほど。やっぱりランディは頼りになるよ」

「頼りにされてもな……」

「もう一度言うよ? 私は、君を、一番、信頼している」

「……そうかい」

 信頼(いぞん)しすぎかもしれないけれども、私にとってはそれが当然になってしまったから。

 会えなくなる時間が少なくなるのは、すごく、さびしいじゃないか。

「……っつーか、あいつらポテンシャル高いな。これぐらい狩るのに一時間はかかると踏んだんだけど……そろそろ後処理がめんどいぞ、これ」

「もう十分面倒くさいと思うけれどな。そろそろ止めたほうがいいと思うよ?」

 サッカーボールほどのネズミなんだ、山積み、というレベルじゃない。

 あと、血生臭いしね。

「そういえば、コールって教えたっけ?」

「……やべっ!」

「君って、実はうっかりしているよね」

「ちょっと走ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

「手伝えよ」

「私は魔女だよ? 魔女はほうきに乗らないと移動ができないんだ」

「メルヘンな頭してんな、おい」

「合理主義だよ、私は。こう言ったほうが、私がわざわざ走る必要なんてなくなりそうだと判断しただけさ。それに、ヘルフリート君は別に量を持ってくるわけじゃないしね、待っているほうが楽なのさ」

「さっそく称号の有効活用かよ……あーあ、めんどくせーな、ったく。キリヤ足速いからやたら遠くにいるし」

「慌てる必要はないと思うけど?」

「急がねぇとキリヤが――あー、また増やしやがった!」

「頑張ってね、信頼している人(ランディ)

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