第46話 役立たずな私と私の役割
赤いパーカーにジーンズのホットパンツ。下はTシャツ。リアルでの彼女の普段着らしい。色違いやガラ違いを何着か。
それと街で歩く練習がしやすいように布製のスニーカーや、ジャージの上下ひと揃えを二着ほど。
それを購入したばかりの革の袋に詰め込んで――まるでマイバッグみたいだな、とキリヤちゃんは苦笑いを浮かべていたのが印象的だった――変態に見られないよう、そのままランディの後ろに隠れていたから、ようやくお披露目ってところかな。
私もはっきり目にするのはこれが最初になる、彼女の戦闘服は――
無地の白いTシャツとスパッツ、布の靴。そして申し訳程度に羽織ったワインレッドのレザーコート。
「……そんな装備で大丈夫なの?」
変態が連れ去られていったあと、私たちは変態が目にすることのなかった装備を目の当たりにした私は、一言だけ問いかけてみる。
「大丈夫だ! 問題ない!」
キリッとした表情でそう断言するキリヤちゃん。
でもね?
Tシャツはうっすらと薄い腹筋と白いスポーツブラが見えるし、スパッツはパンツのラインが微妙に浮き出ているんだよ?
ちょっとは気を使おうよ……もうそろそろ思春期を迎えていてもおかしくないよね?
「まぁ兄貴が選んでくれなかったから適当にコートだけ買ったんだけどな。さすがに毎日おんなじ服着てるの嫌だし、一杯買ったら金なくなりそうだったから一応最小限にしたんだけどさ」
金銭感覚しっかりしてるなぁ……なんだろう、私、見習ったほうがいいのかな?
「まぁ最初のうちなら別にそれでも問題ないこともないけど……つーか、古いネタ知ってんなー」
「事故って歩けなくなったらゲームやるかネットするかしかねーもん、ネタの宝庫だったぜ?」
「俺だって知ってるぞ!」
「じゃぁ青銅の鎧があったらやってた?」
「「やってた!」」
「よーし、そういうバカさ加減はこういうゲームやる上で美徳だぞー」
「美徳なんだ……」
私は頭を抱えたくなってしまった。
つまりこの世界には頭の悪い脳筋か、頭のいい脳筋しかいないってことじゃないか……あ、変態もいるか。
「あとは武器だけど……さて、あの変態がヘルフリートに買い与えやがったし、キリヤの武器だけか」
「そーだな」
ちなみにランディが持ってきたショートソードとラウンドシールドはヘルフリート君が持っている。意外と荷物が多くなって、ちょっと困った顔をしているね。
口を縛るタイプの革製ドラムバッグから、ちょこんと剣が飛び出しているよ。
「そういえばヘルフリートは俺様から俺に変えたんだな?」
「あれは、思いあがりだったんだ……」
あー……また虚ろな目に……酷いことをする人だったなぁ、ほんとに。
「他人のことをちゃんと敬ったり、思いやったりできるんだったら俺様でもタメ口でもいい、演技ってヤツだな。そういう知り合いもいるし、そいつの一人称は我だ」
クロウだね。
最近素が出てきたけど。
「「へー」」
「まぁロールプレイだって分かってるやつは黙認してくれるけど、慣れないうちは一人称はしょうがないとしても必ず丁寧な口調にするのが一番他人と摩擦がない。リアルと一緒だ、めんどくさがるなよー?」
「「はーい」」
ああ、なんて素直なんだ……! これが最初からだったらまったく苦労しなかっただろうなぁ。
ルシーがやってくれた、唯一のいい事だと思う。これだけは。
「――ちなみにレンはほぼ最初からタメ口だった」
「私はランディから『敬語だとすわりが悪いからやめて』と言われたからだったんだけれどね」
「そうだっけ?」
「そうだよ?」
「まぁいいや。次は武器屋だ。行くぞお前ら」
「「おー!」」
二人は楽しそうに声を上げる。
「武器屋か、私はランディの武器を選んだときに行ったことがあるぐらいで、ここのは初めてなんだよね」
「そうだったのか……ってかレン、これお前の仕事だって分かってる?」
「覚えているよ、もちろん。教えられることが一切ないだけなんだから、生徒側に回らせてもらいたいぐらいだよ」
「そうか……」
なんでそんなふうにぐったりするんだろう?
「ネットの常識とリアルの常識って似通ってるから、そこだけでもレンがやらなきゃダメだろ?」
「あ、そうか」
私はようやく、自分の役目だったということを思い出した。
[to be next scene...]
武器屋も防具屋も道具屋も、ほとんど似た内装なんだね。防具屋はさすがに試着室があったり他の店より広かったりしたけれど。
武器屋は文字通り武器が並んでいる。傘立てみたいなケースに十把一絡げに入っている武器もあれば、壁に掛けられている最高級品まである。
ちなみに武器のオーダーメイドも可能だ、防具屋でもそうだったけれどね。
ちなみに細々とした追加の装飾品はカウンター近くに並んでいる。コンビニでガムとかがレジ前に並んでいるのと一緒の発想っぽいね、このあたりは。
ランディの剣の装飾品も、そこから選んで購入したんだけれど、今は関係ないね。
――とりあえず、雑多、という印象が一番似合う。
「うっわー! せっまー!」
ヘルフリート君が歩きづらそうに言う。
確かに横幅のある金属鎧に、バスタードソードなんて刃渡り一メートルは超える武器、その上マントや盾まで装備しているんだからしょうがないよね。
「まぁ、武器屋に来るときはできるだけ私服か、私服っぽい鎧。とにかく邪魔にならない格好にしておくことだな。今は他に客が居ないからいいとしても」
「他人の迷惑にならないこと、重要だよね」
「武器いっぱい買い込むときとか、かばんがないと大変じゃね?」
「ゴルフバッグみたいなバッグならともかく、そういう時は店の裏口から渡されたりとか、紐で括られてひとまとめにされるとか色々あるぞ」
「へー」
「っつーか、そういう依頼でもない限り買うのは多くとも二つ程度だ」
「なるほどなー……っつーか俺様外で待ってたほうがいい?」
「予備武器にダガー買ったら、入り口付近で邪魔にならないようにしてろー。どうせお前武器買うために一度来たことあるだろうし」
そういえばクレイモアを買っていたね、彼は。
「おっけー」
ヘルフリート君は言われるがまま、がしゃんがしゃんとカウンターへ向かう。
「あ、ショートソードとラウンドシールドは売ってくれ。デッドウェイトにしかならん。売った金は駄賃だ」
「マジで!? ラッキー! にーちゃん太っ腹だな!」
「売れって依頼を出しただけだっつーの。依頼をこなせば金が貰えるっつーのを先に教えてんだよ。酒場の掲示板にけっこうそういうの張り出されてるぞ」
「「へー!」」
ランディは結構お金に対してキッチリしているけれど、あのとき変態を止めなかったからそんな事を言ったのかな?
でもすごい照れてるみたいだ。声が震えてるよ。
「――で、だ。キリヤ。お前は何の武器にするんだ?」
「兄貴のオススメってなに?」
「俺は元々中高って剣道やってたから、剣道の竹刀に近い武器からはじめた。だから俺の最初の武器はサーベル一振りだったな」
意外だ、包丁じゃなかったんだね。
「まぁ短い武器であればあるほど懐にもぐりこまなきゃならんから、初心者はシステムアシストをいれて長い武器、っつーのもオススメではあるんだけど、正解はないな」
「相手の射程外から一方的に倒す。安全でいい作戦だね」
そういった発想から、弓や銃、面白いところでブーメランと発達していったわけなんだし、当然の帰結だね。
「あー、ハメんのかー……」
ハメる? ま、ゲームの用語なんだろうね。
言わんとしていることはわかっているけれど、あまりいい顔をしていない。そういうのが嫌いなタイプなのかな?
「オレ、ハメゲーとかあんまし好きじゃねーんだよな。こう、ガチンコで勝負したいっつーか……そうだ素手とかどうだろう!?」
「漢らしいな!!」
「女の子だよ!?」
「へへっ、照れるぜ」
「褒め言葉なの!?」
え、男らしいって褒め言葉なの?
本気でわけがわからないよ?
「でも素手だとなー、何割か自分にダメージが返ってくる時があるからなぁ……」
「まぁ、岩を殴ったら自分の拳が痛いよね」
「リアルじゃありえねぇけど、たまーにあるんだよな。素手で戦ってるヤツがうっかり岩を殴っちまって死亡って例が」
「変なところがゲームだね!?」
部位欠損とかあるくせになんでそういうところだけはゲーム的な処理が入るんだろう?
さっきから衝撃の事実というか、わけのわからない状況ばっかり続くなぁ。
「まぁガントレットとかなにかで保護してりゃぁすむ話なんだけどさ」
「ココの鎧って、すごく脆いって言ってなかった?」
「武器としては使えねぇな。同じく革や布だと正直反射ダメージがいくらか減少する程度だし。砂とか詰めたグローブを自作するって方法もなくはないけど、素手って思ったより茨の道なんだよな」
「そっかー……なんか残念だな」
「よっぽど硬い相手じゃない限りは素手でも大丈夫だし、リアルで空手とかボクシングやってる奴らが集まったギルドも存在するから、不可能ってわけでもない」
ああ、やっぱり剣じゃなくて拳に命を掛ける人もいるにはいるのか。
「メリットは攻撃のほとんどが衝撃属性ってことだな」
「どうメリットなんだい?」
「ほとんどの攻撃に若干ながら混ざってて、軽減する方法が少ない属性なんだ。たぶん攻撃の完全無効化を防ぐためなんだろうけどな」
「「「へー」」」
いつのまにかヘルフリート君も戻ってきていて、入り口付近で邪魔にならないように置物と化しながら説明を聞いている。
「どのゲームでもそうだけど、ダメージが通らない最強の武器とか、弱い武器よりも使えないだろ? そういう意味で、全部が衝撃属性っていうのは最強の属性武器の筆頭でもあるな」
「マジかよ!? 最強の武器って剣じゃねーのかよ!!」
「ただし衝撃属性は致命的攻撃の判定がほぼない。まぁまとめるとだな――」
ランディは軽く説明をする。私もよく知らないこともあるので、とりあえず簡単にまとめると、
切断はバッドステータスや致命的攻撃などを与えやすいが耐性持ちが多い。
貫通はほとんどの攻撃が致命的攻撃になるけれども、動きを止める力がない。
衝撃は致命的攻撃がほぼ発生しないけれども軽減されづらい。
ということらしい。
「――まぁほとんどの武器はこの三属性を扱うことができるんだけど、やっぱ剣の取り回しやすさに勝るものはねぇな。特にショートソードの安定感はハンパない」
最初にとてつもなく安定感のある武器を渡されているのか。
どおりで「今だに最初に渡されたショートソードを愛用しているベテランがいる」って話をされたわけだよ。
これは覚えておくべき情報だね、今後どう身を振っていくか考えなきゃいけないところだったし。
「状況に応じて攻撃を使い分けろってことかー」
「そういうことだな」
「そういえば昔、最強の武器論争にダガーが必ず入るって言ったけれど、そういうのも含めて?」
「当然。バカとはさみは使いようっつーことだな」
「「へー」」
「で、最初に戻る――キリヤ、お前は素手でいいんだな?」
「ん。クリティカルがねぇってコトは運とかじゃ倒せねぇってことだろ?」
「一応若干ながら、クリティカルはあるからな?」
まぁ普通は打ち所が悪ければ死ぬもんね。転んで頭を打っても。
「兄貴……オレと一緒にサッカーしたろ?」
「ああ、したな」
「やっぱオレ素手のほうが性に合ってる気がするんだ!」
どうしてサッカーからそういう論理の飛躍が発生するんだろう? アレかな、ボールを蹴ることからキック的な意味に発展したのかな?
「……歩くのが苦手だと、かなり茨の道だぞ?」
「ハッ、燃えるね!」
「漢女だな!!」
「なんか言っている意味が私の知っている意味と違うように聞こえるんだけど!?」
「んじゃぁうっかり反射ダメージ受けないように拳と足のプロテクター買うぞー」
「おー!」
「何事もなかったかのように進めないでくれよ!?」
私にはまったくついていけないよ……!
[to be next scene...]
キリヤちゃんがガントレットとグリーヴに似た武器――ヘルフリート君は自分の金属鎧より頑丈だったので、ちょっと不満そうな顔をしている――を購入すると、とうとう最後の時計屋へと到着する。
ここは、まぁ文字通り時計屋だ。アリスの買ったぬいぐるみみたいな懐中時計から、ごくふつうの懐中時計までさまざまなデザインが売っている。
あとはスキルジェムの取り外しもここで行っているし、店内にはNPCのスキルジェム屋がいる。
プレイヤーもスキルジェムを売ることはあるらしいけれど、それはそれで稀らしい。
「ヘルフリートはスキルジェムの買戻しだな。≪ソード≫と≪シールド≫だ」
「魔法は?」
「お前一応借金がある身だからな? 金稼ぎして、俺に返し終わってから買え。どうせそんなに多くねぇんだから」
「オレは何を買えばいいんだ?」
「≪パンチ≫と≪キック≫だな。柔道や合気道みたいなことやりたけりゃ≪投げ≫もいいんだけど、それはこの街じゃ売ってねぇし」
「キリヤちゃんは歩けないから、一応移動系も買っておいたほうがいいんじゃないかな?」
「あー……じゃぁ≪ステップ≫もだ。一歩でそれなりの距離を移動できるようになるスキルだ」
「着地は?」
「自力」
「うへー……」
「ってーか、キリヤだけ三つとかずりーぞ!」
「おいおい、キリヤはちゃんと金貯めてたからだぞ?」
「まぁ、この際いいんじゃないかな? せっかくだから二人とも三つずつということで」
「あんまり甘やかしたくないんだけどな、俺」
いや、十分甘やかしていると思うよ?
例えば、慣れるならヘルフリート君の装備を一度初期セットに戻してあげる必要があるわけだし、そうするとキリヤちゃんも同じ条件にしなきゃいけない。
「ま、なんだかんだ言って君は十分甘い。優しい人だと思うよ?」
「はいはいそーですかそーですか……ったく。んじゃヘルフリートはどんなスキルが欲しいんだ?」
「勇者っぽいヤツ! どかーんとかいけそうな!」
「ここ、魔法は≪ファイアーボール≫ぐらいしか売ってないし、お前の武器は発動体になってないから無理だ」
「はつどうたい?」
「魔法の杖の代わりになるヤツだよ。武器屋で加工できるんだけど一日かかるから今は無理。今日中に教えなきゃならんからな、金稼ぎの方法とか、スキルが入った体の動きとか」
「ちぇー」
「で、武装的には≪シールドバッシュ≫もいいんだけれど、盾を構えて≪ステップ≫で体当たりって方法も捨てがたい」
「なんか地味くせー」
「地味くせーってお前なぁ……そんなに派手好きなら、≪チャージスラッシュ≫にでもするか?」
「なんだそれ?」
「武器の攻撃力を上昇させるアーツ」
「おおっ!?」
「使用条件が両手持ちの剣ってことなんだけど……」
「バスタードソードは両手持ちもできる剣だよ。意味は雑種の剣、私生児の剣。分類としてはロングソードだし、両手持ちだって思われているロングソードでも同じことができるらしいけれど、特に片手でも両手でも扱えるものを指してそういう風に呼ばれているらしいよ」
ここぞとばかりに私は本で読んだ知識を披露する。そろそろ活躍しないと、まったく働かない人になってしまうからね。
私は今回、知識面でのサポートに回ることにしておこう。そうしないと、まったくの役立たずだし。
「よく知ってるなおい。つーか店員に聞けば一発だったんだけど……使いどころの難しいアーツなんだけどなぁこれ……」
「なんで?」
「アクションゲーとか格ゲーやった経験ないんだよな? 今までの言動から察すると」
「俺様そういうの苦手なんだよなー」
「じゃぁ説明もするし、一度使ってみれば分かる。ある意味地雷だ」
使ってみれば分かる。
なんて不吉な言葉だろうね。そして地雷だなんて称されるとか危険な香りしかしないよ。
「なんで地雷なんか薦めるんだよ」
「ある意味、だ。使いこなせりゃこれほど単純で強力なアーツもないってだけで」
どういうアーツなんだろうね?
「じゃぁさっさと時計にセットしてみろ。ただし、結構細かい作業だから気をつけるんだ」
「俺様こういうの苦手なんだよな……っつーか時計のどこにセットだよ?」
「懐中時計の、文字盤にひし形の空いてるところがあるだろ? そこだよ、そこ。セットした文字盤の数字と同じ値だけレベルを獲得できる」
「最大十二レベルって低っ!」
「同じスキルはレベルが加算されていくから、全部同じにすると七十八レベルだ――が、計算せず無意味に高レベルにするのは無駄だからな」
「なんでだ兄貴?」
「レベル高いほうが色々いいんじゃねーの?」
「よーし、俺が最初に言った言葉を思い出せー?」
同コスト同DPS――このゲームの合言葉でもある。
でも、やっぱり初心者には分かりづらいか。ちょっと首をかしげている。
「合言葉は同コスト同DPS。スキルレベルが高いと攻撃力も精度も上昇していく。かわりに、体がロックされる――アクションゲーやったことあるなら硬直っつったほうがしっくりくるかな」
「あー……」
キリヤちゃんはちゃんと理解したようだった。
「計測ギルドの話をしたろ? 現在で確認されてる硬直時間は最長で三十秒間。その間一切体が動かなくなる。敵はその間何度も攻撃してくるんだぞ?」
「あっ」
ヘルフリート君もようやく理解したようだった。
「まぁ≪ソード≫フルスロット入れても、特殊な武器使わんかぎりはそんなに長くないんだけどな……それでも動きが固まるのは痛いぞ? 防御もできないんだから」
「んじゃ低いほうがいいのか」
「ダガーや素手みたいに一発の火力が低いなら高レベル推奨だな。硬直が短いわりに火力を得られるから。大体全部の武器が、重さと射程ぐらいの違いになってくる」
なるほど、ほとんどの人が武器を変更しない理由がおおよそつかめてきた。ただ慣れているっていう理由じゃなくて、スキル構成から見直さなきゃいけなくなるのか。
火力の低い武器は高レベルに。
火力の高い武器は低レベルに。
でも扱い方から勉強しなきゃいけないから、最初は慣れるためにも低レベルで低火力武器を使っていったほうが効率がいい……と言う話なんだね。
――そういえばランディ、スキルを入れてないせいでダガーに苦戦していたなぁ。アスールは手数と強引さでなんとかやっていたけれど。
「まぁ、攻撃力の高い武器なら少しずつスキルを外していって、最終的に手動でやるのがDPSを上げるための方法なんだけど……スキルレベルを下げてもそれができるかどうかって話になってくるな」
「「へー」」
「剣道暦とかがあるヤツなら話は違ったんだけどな……まぁ一年ぐらいはスキルに縛られてたほうがいい。スキルないと意外と簡単に武器が折れるし」
「なっげー!?」
「一年は単なる目安だからな? パニック状態になったとしても、それが出るかどうかは本人しだいだからもっと短くなることもあるし、長くもなるから」
そういえば二週間もゴーレムを叩いていたヘルフリート君、実は剣の才能があるのかもしれないな。
ランディも、よくも二週間も剣が持った、とか言ってたし。
「許可できる範囲として、ヘルフリートは一、二、三レベル。どれを一番高くするかはお前自身に任せる。キリヤは……ほぼ素手だから逆に十二、十一。≪ステップ≫は長すぎると逆に使いづらいから、五レベル以下の奇数にしておけ」
「なんで奇数なんだ?」
「奇数足す奇数は偶数になるからだよ。微妙な位置調節するのに奇数は結構重要だ」
「「「へー」」」
そういえば偶数の≪ステップ≫を使っている人ってあまり見た事がないな。
私が知らないだけかもしれないけれど。
「あと≪ステップ≫は直線で跳ぶから下手すると壁に激突して死ぬ。野外なら五レベル、室内なら三レベル、特殊な使い方をするなら一レベルが妥当だって言われてる。もちろん、これより長くしてるヤツもいるけどな」
「特殊な使い方って?」
「飛び蹴りとか、槍での突撃とか。攻撃アーツ代わりに使うことだな。あとは頑張り次第で三角跳びができっぞ? 三レベルでもできるけど」
「マジ? ちょっとオレワクワクしてきた!」
≪ステップ≫一つとっても奥深いなぁ。
「セットするのが難しかったら、私も手伝うからね」
「でも慣れておけよ?」
――ランディは厳しいなぁ、心配そうな声出してるくせに。
店の前で結構苦労しながらひし形のちいさなスキルジェムを慎重にセットしていく二人を見ながら、そんな事を思う。
「「できたー!」」
「おう、じゃぁ他のヤツの邪魔にならんように店から出るぞ。歩きながら報告を聞くから」
「おっけー」
「ふはは! 俺様の最強勇者伝説の幕開けだぜー!」
「はしゃぐな、迷惑だから」
ランディはさりげなくキリヤちゃんと手を繋ぐ。
ヘルフリート君は意気揚々と、金属鎧をがしゃんがしゃんと打ち合わせながら先頭に立つ。
私は――まぁ、キリヤちゃんはランディに任せるとして、ヘルフリート君があまり暴走しないよう、見張るように後ろに立った。
「んじゃスキル報告。俺に近いからキリヤからな?」
「おっけー! オレは≪キック≫十二の≪パンチ≫十一レベル、≪ステップ≫は一レベルにしたぜ! まだ歩くの慣れてないから、長すぎても困るしな!」
「ちゃんと考えてるな、いいことだ」
「ヘルフリート君はどういう構成だい?」
「俺様は高いほうから≪チャージスラッシュ≫≪ソード≫≪シールド≫の順で入れた! 必殺技は強くなきゃな!」
「ん~……まぁいいか。特に指定してなかったし」
おや、高い授業料を支払わせる気満々だね。こういうところはちょっと意地悪だなぁ。
「じゃぁほんのちょっとスキルが入った自分の体を、訓練所で試してみてから、実際に金稼ぎに街の外へいくぞ」
「「おー!」」
「ただし相手はネズミとヘビだがな!」
「「えー!?」」
「しょーがねーだろ! おいおい説明するけど、ネズミかヘビしかこういう小銭稼ぎには向いてねぇんだ!」
生態系システムがあるせいなんだろうね。その説明は私が教えるのを買って出ないといけないよね――生物の教科書どおりでいいのかな?
二人とも一応小学生だし、それくらいならすんなり受け入れてくれるかも。
「兄貴~、オレ依頼とか受けるんだと思ってたんだけど?」
「それでもいいんだけどまずは体に慣れろ! スキルなしと違って、スキルがあるとすんげぇ窮屈で動き辛いんだから! それとも山菜や薬草専門の採取ハンターにでもなるか? それでも小銭は稼げるけど、早い者勝ちになるせいであんまりオススメしねぇけどな」
「マジかよ……」
「まぁそんなみみっちいことするより、戦えるだけマシだって俺様は思うことにする!」
ヘルフリート君が前向きな見解を示すのって、最初のころから考えたらちょっと感慨深いなぁ……。
書き溜め分垂れ流し終了。
誤字脱字報告、ご意見ご感想お待ちしております。




