第45話 役立たずな私と変態シスター
私にできることってなんだろう?
魔導書を使った広域殲滅?
……いや、使っちゃいけないよね、あんな魔法は。
第一種向けの家庭教師?
……たぶん間に合ってるし、夏休みが終わったらそんなに時間はとれないからダメだ。
(難しいなぁ……)
私は正直、自分で戦えるようなタイプじゃない。
ヘルフリート君との勝負だって、どこのページに何の魔法があるか、指が覚えているからすぐに使えた、その程度だ。
相手にスキルがあったら、私は結局ただの固定砲台、魔法を使う前に倒されてしまう。
(日中は学校に行って、ログインしたらアリスの面倒を見る……それだけなのに)
私の居ない間は自動人形に任せられるように、今は行動パターンを練っている途中だ。
≪錬金術≫スキルも買ってあるし、行動パターンさえ作り終えれば――今度はテストが必要だろうね。あとは維持費もかかるなぁ。
(ランディみたく、竜殺しのような称号があれば、名指しで依頼も来るんだろうけれど……でもそうするとアリスとの時間も、本を読む時間もなくなっちゃうんだよね……)
そもそもこのゲームを始めたのは、本を読むため。
そこから外れないように仕事をする……難しいなぁ。
(やっぱりランディに相談しよう……)
私は食後の、冷め切ったコーヒーを一気に煽ると、もう一度異世界に旅立つことにした。
[Welcome to the "Story of the Sword and Sorcery"...]
テーブルに突っ伏していた私は、仮想の体に慣れるように、うーんと背伸びをした。
「おかえり」
「おかえりー」
「ただいま……アスールも戻ってきたんだ?」
「アタシにかかれば蛇なんてラクショーだし」
むふん、と鼻を鳴らして胸を張る。
「――二人はまだ戻ってきてないみたいだね」
「だな」
そういえば、アリスもクロウも今日はまだ見ていないな。タロスは不定期すぎてどういう職業か分からないし、軍曹はまぁ事前に当直だとか言っていたけれど。
「ねぇ、そういえばアリスやクロウは?」
「アリスは今朝からドラゴンの街に出稼ぎ行ってるぞ? 『お姉ちゃんが来ないうちに出て行かないと! 勉強とか嫌だー!』とか言って」
「へぇ……?」
それは、初耳だね?
帰ってきたら、じっくりお話しないといけないね?
「あそこの街は今も特需発生中だし。ドラゴン愛護団体いなくなった影響でかなり人が多いからな。まぁダメだったらのんびり温泉で息抜きしてから戻って来るんだと」
「うん、有益な情報をありがとう」
「……あんまり怒ってやるなよ?」
「大丈夫だよ。ところでクロウは?」
「クロウはなんか前回の騒動でさ。ほら、憧れのブリュンヒルデ選手と知り合ったとかなんとかで、本人から直接『今夜のナイター、観戦しに来てくれませんか?』ってコールされたらしい。今頃全速力で向かってるか、着いたころじゃねぇかな」
「へぇ!」
クロウもなかなかやるね……それにしても憧れの選手から直接か、すごい興奮してそうだな。
「ログインしてすぐ、すんげー素のアイツのコール飛んできたわ……自慢するわけでもなく、なんか服装とかお土産とか、どうすればいいかって聞いて来た」
慌てすぎだなぁ。もうちょっと落ち着いていけば……あとは限りなく普通に接すれば常識人なんだけどなぁ。
「一応あたりさわりないところ、アタシが教えておいたよ。変に口出しするとややこしくなるから」
「うん、いい判断じゃないかな? ……ところでランディは昼食をとるの、早かったね?」
「こいつ等がこっちで食ってる間に戻るつもりだったからまだとってない」
「大変だね……ところで何を作っているんだい?」
「ウナ重。まぁ時間的に白焼きを塩とわさびで、だけど」
「……あれ? 私の聞き間違いかな? さっきアスールは蛇を狩って来たって言ったのに、ウナ重なの?」
「あー……グラフィックは黒い蛇なんだ。うん。手抜きかどうか知らんけど、ウナギみたいな味がするからそう呼んでるだけだな」
「ウナギ自体はいるんだけどさー、さらに遠出しなきゃいけないのよ。だからこのあたりでのウナ重っていえばこの川蛇なんだぜー?」
関西と関東で呼び名が違うようなものかな……でも魚介じゃなくてお肉か……未だにゾンビステーキを思い出して食べられないんだよね、私。
「まぁ、リハビリだ。食べられないものがあるってのはそれだけで人生損してるんだぞ?」
「ぅう……わかったよ」
そのゾンビステーキを作った張本人から言われる筋合いはないはずなんだけどなぁ……慣れないとリアルでも影響出るし、頑張るか。
「――おーっす、ただいまー!」
と、キリヤちゃんが戻ってきた。
「あ、お帰り」
「おかえりー」
「はじめまして、そしておかえりー」
「……なんか知らねぇ姉ちゃんが増えてる」
キリヤちゃんはランディを見上げて「コイツ誰?」といった顔をする。
「俺の店の従業員で、ウチのギルドメンバーのアスール。年上だからせめて敬語は使おうな?」
「フッフッフ……話は聞いてるぜー? キリヤちゃん、初めてさんなんだってね。おねーちゃんが美味しいご飯を食べさせてあげよう!」
「じゃぁアスールの給料から引いとくから」
「ああんマスターひどぉい!」
「へへ、ありがとな! ねーちゃん!」
鋭い犬歯をみせるように、ニッと笑う。
子供らしい、すごく純真な笑顔だ。
「う~、ずるいなぁ、その可愛い笑顔……マスター、アタシも子供ほしーい!」
「結婚して、生活が安定したら考えろ。ちゃんとした男じゃないとお父さんとか許さないだろうがな」
「ランディってうちのオヤジみたいだな」
「まだ二十歳だっ! そこまで老けてねぇよ! せめてお兄さんと呼べ!」
「パパ~、お小遣いちょうだ~い?」
「アスールもノるな! つーか援交してるみたいに聞こえるからマジやめろ!」
「午後からはアスールも参加かい? 初心者指導」
「えっ……いや……その、苦手な人が来ちゃってるみたいだから、パスかなー? 午後はまた食材集めかなー? アハハ……」
苦手な人……?
私の知る限りだとアスールは、好き嫌いはあれど、苦手な人とかいなかったはずだけれど。
「そういやレンは会った事ないな。シスターのルシーだ」
シスター……そういえば孤児院を作りたいとか言っていた人だったっけ?
「どういう人だい?」
「子供好き、無類の、変態」
「「変態っ!?」」
「アタシも昔はさんざんイジられてさー……ははっ、そんな服恥ずかしくて着れませんよールシーさーん……」
アスールが遠い目をし出した。ちょっとしたトラウマなのかもしれないね……。
「……なぁ、そのシスター? が手伝ってくれるとか言うんじゃねぇ、よ、な?」
「ハハッ、あの人は言われずとも手伝ってくれるんだよー……やさしいねー……マスターの師匠に弟子入りしたのも逃げるためだったしー……」
「まぁ、止めはする。最悪暗殺ギルドに出張ってもらう。ある意味常習犯だし」
「「常習犯!?」」
「ハハハ……」
アスールは死んだ魚のような目をしたまま乾いた笑いを続ける……何が起こったんだ。
というか、勝手に手伝ってくれるとか、すごい不安なんだけれど……?
「マジかよ……」
「これから防具買う予定だったのにタイミングが悪いとしか言いようがないな……ほれ、ウナ重、白焼きだけど」
「……うん、とりあえずメシ食お、忘れよ」
「――おーっし! 俺様ふっかーつ! ……ってなんだその死んだ目してる変なおばさん」
「……ヘルムート君、何度言ったら分かるのかな? 年上に失礼じゃないか」
「マスター、コレの料理に毒まぜていい?」
「やめろ――ヘルフリート、コイツは俺の店の従業員で、うちのギルドの狂戦士な? 迂闊なこと言うと何されるかわかんねぇぞ?」
「マスターひどぉおい!」
「野蛮人かよ……」
「よし殺そう」
「アスール」
「ちぇー」
ランディはアスールを嗜めると、私とヘルフリート君にウナ重を出す。
「ちなみに五百ゴールドな」
「はぁ!? 金とんの!?」
「ったりまえだ。ツケでもなんでも払わせるからな?」
「オレはねーちゃんのおごりなんだぜ? いいだろー」
キリヤちゃん、ムダに火種を……。
「はぁああ!? ずりー!! 俺様にも奢れよババァ!」
「口の悪いてめーに奢る料理なんてねーよ、塩撒くぞ塩ー」
「まぁ、勇者だって名乗ってるんだったら、誰からも好かれるような人物になれってことだな」
「ふんっ! 強けりゃ誰だって俺様を称えるからいーんだよ!」
ヘルフリート君はどうしてこうなんだろうね? どうにかならないのかなぁ?
「お前より強いヤツはごまんといるんぞ……で、キリヤ」
「ん、なに?」
「お前はムダに火種をまかないことだ。ゲームだろうが恨み買ったらリアルと一緒なんだから」
「はーい」
キリヤちゃんは素直だな、ちょっと子供っぽいところがあるけれど。
[to be next scene...]
防具屋は道具屋からはすむかいにある。ちなみに道具屋の前は武器屋で、隣は時計屋。つまり主要なNPCの店はほとんど固まっているんだ。
――つまり、防具より先に時計屋へ、なんてことができないんだよね。
「……アレかい?」
「アレだな」
「アレかー……」
「は? 何が?」
ヘルフリート君だけは知らない――というか、アスールが意図的に情報をシャットアウトした――私の知らないメンバーがその主要な販売店が並ぶ石畳の道の真ん中に立っていた。
さらさらとした金髪のロングヘアーに銀色の目。けれども外国人独特の彫りの深さはない、変更しているだけだろう。やや細い目のせいか、薄く微笑んでいるように見える。
でも、そういう微笑がとても似合う女性で、一見してとても優しそうな感じだ。
そう、一見して。
(ねぇ、ランディ……)
(ああ、うん。暗殺ギルドの覆面だな、周りにいるのは)
――どうして覆面警察官みたいな人たちが周りにいるんだろうね? というか隠れているつもりなのかな? 腰の「鬼包丁」で丸分かりだよ? 君たち。
なんかぼそぼそ喋ってるように聞こえるんだよね?
「はー……いくぞー? 通行の邪魔にならないように、レンとキリヤは俺の後ろなー?」
「お、おう……」
ランディも人が悪いなぁ……ヘルフリート君を犠牲にするだなんて。
歩くのがまだ不安定ということで、キリヤちゃんは私と手を――繋がずになんでランディのレザーコートを掴んでいるんだろうね?
やっぱり私より男の人のほうが安心でいるからかな……まぁ私だって男の人のほうが安心できるけどさ、こういう場合は。
でもなんだか避けられてるみたいでショックだよ……。
「あら、サブマスターさん。こんにちは。奇遇ですね」
「いやお前、どう見ても待ってただろうが」
シスターと呼ばれているだけに、シスター服だけれど……四枚の板を組み合わせて作ってあるブレードタイプのメイスを右腰に、グリップの後ろにコッキングレバーのようなものがついた片手用クロスボウを左腰に、腰の後ろには矢筒がぶら下げてある。
――どう見てもシスターじゃないよね、これ。
「ちょっとしたジョークですよ、ええ。アスールちゃんに聞いたので、こうして遅参させていただきました……ところで隣の生意気そうな男の子と後ろの子犬みたいな女の子の情報くわしくおしえてくれませんかね!」
シスターの細い目がいきなりらんらんと輝きを帯びた。
なんだかキャラが突然変わるなぁ……。
「な、なんだこのババア……」
かちゃり。
「ババアって、いったいドコのダレかな?」
ヘルフリート君の目の前で、まるで拳銃の撃鉄を倒すように、グリップの後ろについたコッキングレバーを折って弦を引く。そう、あくまで、ゆっくりと。
「……ぶっ殺しますよ?」
脅すような、背筋を怖気が走るような静かな声で、矢をセットしながらヘルフリート君の頭に突きつけた。
――なんで子供相手に本気の殺気をぶつけてるんだろう、この人……。
「ちょ、ちょっと目が悪くて……すみませんお姉さん!」
ヘルフリート君の声が震えている!? そして普通に謝った!?
「そうですか、目が悪かったならしょうがないですね。ええ、目が悪かったならしょうがないですよね」
「……話、進めていいか?」
「サブマスターのご随意に」
「ムギんトコから指名されて初心者指導してる、こっちの男の子がヘルフリートで、後ろの女の子がキリヤ。ブレザーのヤツが最近ウチに入ってきたレンな?」
「「ど、どうも……」」
「よろしくお願いします」
「ヘルムート君にキリヤちゃんにレンちゃんね。私の名前はルシー。フルネームはルシファーと言います」
「シスターなのにその名前はどうだろう!?」
私は思わず声を上げてしまった。
ルシファーって、堕天使の長じゃないか! 悪魔と同義語だし!
せめてルシフェルだったらまだ天使時代の名前だから――いや宗教的にどうなんだろうとは思うけれど。
「いいツッコミ力です。ルシーと呼び捨てでいいですよ。ちなみに名前は面白半分です」
「そ、そうかい……」
軍曹とは別ベクトルで、本名で呼べない気がする……というか、さっきからヘルフリート君とキリヤちゃんが怯えているね。
もう、どうしようかな、この状況。
「ところでアスールちゃんから聞いたんだけれど、防具を買うんですよね? ねぇ、防具買うんでしょう? ねぇ! ねぇ!! ねぇ!!!」
鼻息がどんどんと荒くなる。周りの覆面たちが鯉口を切るようなしぐさをした――いや、抜かないで欲しいけど、その、止めてほしいな。
「お、オレは兄貴が好きな服着るって決めてるから!!」
「ちょ、おまっ!?」
小学生の女の子がそんな事言ったら勘違い――したね、うん、暗殺ギルドの標的がランディにも向けられたみたいだ。
「オレッ娘キタァアアアア!」
そしてルシーさんはなんかわけのわからないことを叫んでいる……よし、私はこのまま空気になろう……。
「お、俺様一人で選べるし!」
「生意気な俺様系! かぁああああわぃいいいいいいいい!」
「あ、ヘルフリートは勇者志望だから」
「よし! お姉ちゃんが選んであげましょう! お姉ちゃんが選んだものを着てくれますよね? いや着なきゃいけませんよ! きっと素敵な勇者様に仕立て上げてあげますから!」
「や、やめろし……こっちくんなしー!?」
「フゥハハハッ! アハハハハッ! クソ上司からもぎ取った休暇はたぁああっぷりロリショタ成分で補充するのだぁあああ!!!」
「うぁあああああああ! 暗殺ギルドさーん!! 暗殺ギルドさーん!?」
必死に暴れて逃れようとしているヘルフリート君を、楽々と小脇にかかえて防具屋に特攻していくルシー……。
なんか店の中で、強引に脱がされているのか悲鳴が聞こえてくるんだけれども――
「――あ、近藤? いまウチの子供好きがさっきの生意気なほうのガキ連れていったけど今のところ別に問題はねぇから周りの覆面どうにかしてくれね? あと俺にまた幼女誘拐疑惑がかかって……三度目の正直じゃねぇよバカが!」
完全に生贄にされたみたいだった。
三度目ってことは、アリス、アスール、そして今回のキリヤちゃんになるんだろうね。ちゃっかりトップのほうに連絡しているあたりが恐ろしい。
「――よし、話はついた! みんな、尊い犠牲となってくれた勇者ヘルフリートに、黙祷!」
「まだ死んでないよ!?」
[to be next scene...]
「子供は純粋無垢で、いいものですね。まさに天使です」
どこかすっきりとした顔をしているルシー。対照的に、手を引かれているヘルフリート君は……どこか目がうつろだった。
いや、目が死んでいるといったほうが正しいね。
「いいか、ヘルフリート。他人から与えられるばっかりってのは、決していいことじゃない、わかったか?」
「うん……俺、すっげー反省した……」
この状況を教育に利用するとか腹黒いなぁ。
「うふふ……小さな男の子がアニメみたいにカッコよくて、でも着られてる感のあるおっきな金属鎧を着てる……あああ、カッコ可愛いなぁあああああ! ヘルム無しがいい味出してますねぇえええ……♪」
そう言われれば、虚ろな目をしているヘルフリート君の装備は色々とランクアプしているね。
どこかライトノベル系ファンタジー小説で出てくるような、若者に好まれそうなかっこいいデザインの鎧だ。ただ鎧のほうがちょっと大きくて、ルシーの言うとおり着られている感じがある。
その金属鎧は太陽光を反射するほどぴかぴかの新品で、赤銅色をしている。しかも真っ赤なマントを装備しているんだから、全身が赤い。
その上いつのまにか腰のショートソードは装飾されたバスタードソードに変わっているし、盾もラウンドシールドからヒーターシールドになっている。
鎧に着られている感じはするものの、そのいでたちは赤き勇者と言ったところかな。
「――で、どこまでがコイツの金で、どこからがお前の金だ? ルシー」
「全部私のお金ですよ? フフッ……とても眼福でした、生意気な男の子が涙目になりながら女の子みたいに『やめて……っ』って力なく訴える姿は……おっと、よだれが」
「パンツまで脱がされたんだ……うぐっ……ふぐぅ……!」
――正直、この人は一度捕まったほうがいい。
私ははっきりとそう思った。というか、GMが飛んでこなかったのかな……飛んでこなかったんだろうなぁ。
ヘルフリート君、ハラスメント機能の説明したのにぜんぜん設定してなかったから。
「まぁ、なんだ……その装備は慰謝料としてもらっとけ、うん。ヘルフリート、お前にはその権利がある」
「うん……あと、俺もっと素直になる……!」
「それがいい、それが勇者の第一歩だ……!」
なんだろうね、このわけのわからない空気。私はついていけないよ?
――まぁヘルフリート君も決意を新たにしてくれたし、とりあえず話題を変えよう。
「そういえばこの店、私も利用したけれど、金属鎧も一律千ゴールド?」
「まぁな」
「……ねぇ、それって儲かるのかな?」
いくらなんでも安すぎる気がする。
「まぁ一箇所いくらだし、金属鎧ってパーツ点数が多いからな。ひと揃えってなると一万以上するしな。腕一つとっても肩、上腕、前腕部と三点は買わなきゃいかんし」
「各パーツごとに買わなきゃいけないのか……微妙なところでお金を搾り取ってるね」
金属面積が小さくても千ゴールドのパーツとかで元を取ってるんだろうなぁ。
なんだか嫌な一面を見たよ。
「だからこそ全品千ゴールドですむわけだな。あと、ココの金属鎧は銅板曲げて作っただけのようなもんだから変形しやすいし」
「ええええっ!?」
ヘルフリート君が大きな声をあげて驚いた。それもそうだ、金属鎧って普通がっちりと攻撃を受け止めるものだと思うだろうから。
「それは、防具としてどうだろう?」
「軍曹曰く、わざと壊れやすくすることで殺傷力をかなり奪える、だとか」
「ちょっと着られている感じがあるほうが空間装甲っぽい役割を果たして、衝撃にも強くなるんですよ? 趣味と実益が合致するって素晴らしいですね……じゅるっ」
「ひっ……!」
トラウマになってるなぁ……。
「……まぁ、軽いし安いし、加工のしやすい銅だからこそ、最悪他のパーツを犠牲にして現地修理とかもできるんだとさ」
なるほど、軍曹が言うならそうなんだろうね。
「わ、悪くないの?」
「悪い装備ってのは基本的にないぞ?」
「そ、そっか……うん、そうだな! そう思うことにするよ!」
ずいぶんと素直になったなぁ、ヘルフリート君。
「まぁ店員曰く、俺みたいな複合鎧みたいに使ってる金属が少ないものは洋白とか使ってるんだと……ってか洋白とか言われてもわからんのにな?」
「五百円玉と同じ素材だよ。銅に色々まぜた、いわゆる合金だね」
「これ五百円玉装甲だったんか!?」
ランディは、自分の銀色をしたバイザーに軽く触れる――そういえば普段からココの量産品を好んで使っていたね、彼は。
「そうなるとヘルフリートのは十円玉装甲か!」
「しょぼっ!? つーかそこまでくると逆にウケるし!」
ランディのセリフに、屈託なく笑う。
あの生意気な子供が、一つ大人への階段を上ったからだろうね……うん、そう思うことにしようか。
多大なトラウマを残しているような気がしないでもないけれど。
「――それでいつまでサブマスターの後ろに隠れているんですかね? キリヤちゃんは」
「だ、だってお姉さん怖いから……」
そういえば、さっきからランディの後ろに隠れたままだったね、キリヤちゃん。
買い物中響いてくるヘルフリート君のすすり泣く声を聞きながらだったんだし、当然かもしれないね……あの気の強そうな顔がすごく怯えているよ。
まるで性格が逆転したみたいだ。すごいね、この変態の存在感。
「大丈夫ですよ! お姉さんはすべからく可愛いものに目がありません! ただ遠くから愛でるだけです! そう、これこそ愛だと主も仰っております!」
言ってない。
絶対にだ。
「お披露目してほしいなー? お姉さんサブマスターのこと手にかけたくないのになー?」
手にかけるって……まったく何を言っているんだこの人は。
とにかく魔導書を――
「――私のクロスボウのほうが早いですよ?」
ちゃか。といつの間にか抜かれているクロスボウ。既に弦は引かれ、矢もセットされている。
――それは私が本を取り出したのとほぼ同時、ただのクロスボウだと思って侮っていたのかもしれない。おそらく競技用を元にして作ってあるのかもしれない。
この変態、クロスボウの扱いにかけてはプロだ……!
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいのよ……お姉さんに見せてみて? アリスちゃんとアスールちゃんっていうウチの二大ロリをはべらしてるサブマスターがどんな変態装備を選んだか楽しみでしょうがないんですよ……!」
「誰もロリははべらしてねぇよ!? つーか俺は選んでねぇ!!」
「……こ、こんな変態のことどうにかしなきゃいけないって。サブマスターって大変なんだな……兄貴」
本当だよ。
「ちょ、ちょっとだけだぞ……?」
「ぅおっしゃぁあああああ! かまぁあああああん!」
その気迫に怯えたんだけれども……キリヤちゃんは、意を決したようにそぉっと、ランディの後ろから出てくる
けれど、その姿を彼女が目撃することはない。
変態は後ろから、ぽんぽん、と肩を叩かれた。
「ちょっと! 今いいとこ……なん……ですが?」
さぁ、っと顔が青ざめていくのが分かる。
「うん、いいところなのは分かるよ?」
一体誰が通報したんだろうね?
でも、誰も通報しなくたっても、あれだけ騒いでいれば普通駆けつけてくるよね?
天罰って本当にあるんだね。
「あ、あれー?」
シスターの肩に手を置いたのは、暗殺ギルドたちだった。
「ちょっと詰所まで着てもらえないかな? うん、任意同行なんだけれど」
任意同行は、実は法律上の言葉じゃないんだ。職務質問の一つだね。
ただ犯罪を犯す恐れがあるという嫌疑があるからこそ、警察署などに連れていって、事情聴取するだけ、だから断ることはできる。
でもね、嫌疑が十分に固まっている状態で断り続けると、
「いやー、ちょっと今は……」
「お時間は取らせませんから」
「いえいえ、ちょっと重要なことで……」
「いいじゃないですか、ほんの数十分ですから」
「いやー、任意ですよね?」
「そうですね、任意同行って言うくらいですから」
「じゃぁ別に行かなくてもいいじゃないですか」
「念のためですよ、念のため。じゃあ五分ですませますから」
「いえいえ、別に行くほどのことでは」
「そうですか、わかりました」
「それでは」
「はい、逮捕します」
逃亡の恐れありとして、現行犯逮捕できるんだ。
「えっ、任意じゃ……あれ、逮捕? え、なんで私の両手に手錠が? あれ? ちょっと、まって、まだ、見てないのに」
「はい、詳しい話は詰所で聞きますから」
「まだ見てないのにぃいいいいいいい!」
ダンダラコートを着た数人の暗殺者が、変態を引きずっていく。
すべてのプレイヤーが同じステータスになっているからこそ、≪筋力≫スキルがなければあれを振りほどくことは容易じゃないね。
「……なぁ、にーちゃん」
「なんだ、ヘルフリート」
「アレ、なんだったんだ?」
「変態だ」
「そっか、変態かー……俺、変態に全部見られちまったよ……」
「……とりあえず次は武器とスキルだな」
忘れることに越したことはない。まるでランディは、そう言っているようだった。
任意同行はもう少し詳しく調べたりすると色々割愛。なので突っ込まないでください……!
あと、やばい、変態度濃すぎた。
勝手に動き出す……だと……!




