第44話 役立たずな私と憧れの彼
「せっかくだから教えておくけれど、ポーションは基本的に三割回復だ。ポーションでの回復量が欲しかったら≪薬学≫スキルをセットすることいい。ま、ポーションだとセットした本人にしか効果がないけどな」
どれだけダメージを負ったか分からないけれども、ランディはヘルフリート君に試験管に入った赤いHPポーションを、三本飲ませた――曰く、ちょっと苦いらしい。顔をしかめる。
「HPの自然回復はかなり緩やかだからな。システムで寝具に判断されてるやつに寝ていると微妙に回復速度が上昇するけれど」
「へ~」
「……」
私の≪バインド≫が解けたヘルフリート君は、お礼も言わずにそっぽを向いた。
「ヘルフリート。言っとくけど、レンはバグなんか使ってなかったからな? ≪バインド≫って魔法だ。三十秒間重力が上がるとかなんとかで、落下ダメージが増す。ただ転んだだけだったから致命傷には至ってなかったみたいだな、よかったよ」
「……ふん、動けなくするだけじゃねーか」」
「その三十秒があれば首を狙えるぞ? 別に心臓でもいい。致命的攻撃が発生するから、即死級ダメージが入る……お前のやってきたゲームで、そういうの食らって運で負けたことも、勝ったこともあるだろ?」
「……」
「このゲームってなー、スキルをセットしない限りはHPが増えないんだよ。だから弱点をつけばどんなプレイヤーだって殺られる。ザコにすら負ける。最初からハードモードなんだよ」
「格ゲーと狩りゲーまぜっこしたみたいだな。えげつねー」
さっきからランディの説明についていけるということは、いわゆるレベルに依存しないゲームを主にしてきたんだろうね、キリヤちゃんは。
対してヘルフリート君はレベルにステータスが依存するゲームをやってきた。二人の差は、たぶんこのあたり。
無駄なくらい強いと思い込んでいるから、たぶんレベルが高ければ高いほど楽になっていくゲームなんだろうね……こうやって生活費に苦しんでいる私も、そういうゲームのほうがよかったよ。
「そのうえ武器も防具も耐久力があってな。使い方にもよるけど、さっき俺がやったみたいに案外あっけなく壊れるもんだ。壊れたらほとんど裸で戦うことに」
「裸になんの? エロいな……」
「……裸と言っても全裸じゃないからな? いや設定しだいだけど。暗殺ギルドかGMが飛んで来てゲーム自体ができなくなることあるから」
「設定ってどこからすんの?」
「後で教えるってそんな事も教えてなかったのかよムギのやつ!?」
――ああ、どこまでも本当に丸投げなんだ?
「……そろそろ帰っていいか?」
そういえばまだ帰っていなかったっけ。
「あー、いいよイサみん。サンキューな」
「お前……ココで斬り殺されたいか?」
「無理だろ、お前≪PK≫フルスロットじゃねぇし。倒す方法が絞られるなら対処方法はいくらでもあるんだから」
「ふん……また余計な事で呼ぶなよ?」
「じゃぁ他人のギルドを取り込もうとすんなよ」
「はてな、そんなことをした覚えはない」
ダンダラコートの背中に「誠」の一字を背負っているくせに、本当に腹黒い人だな。
「じゃぁな」
軽口を叩いて、近藤さんはそのまま背を向けて帰っていく。
「――で、レンはもう少し人の話を聞こう、な?」
「聞いているさ」
「説明はな?」
……ちょっと怒らせてしまったみたいだ。手伝ってくれないと心細いし、素直に言うとおりにしないといけないな。
最近は発想がどんどん脳筋よりになってきている気がするし、気を引き締めないと。
「ランディ大変だな。オレにできることがあったら何でも言ってくれよ」
「ああ……んじゃぁようやく落ち着いたことだし、一度武器とスキルの話をするか――やるのはレンだけど」
「私かい!?」
「いや、元々お前の仕事だろうが」
「……それもそうだね、間違ってたらその都度訂正してくれ。頼むよ」
「まぁそれぐらいはな。俺は剣の刀身交換してっから」
ウェストポーチから、柄から刀身を外すための、鍵のようなものを取り出す。
「交換できんだ?」
「こういう、カスタマイズできる武器は結構あるからな」
「へ~」
キリヤがランディの手元を興味深そうに見つめている。
「――始めていいかな?」
「俺に構わなくていいぞ。キリヤも聞け」
「はーい」
私は意識を切り替えるために、コホンと咳払いを一つ。
とりあえず、高レベルであればあるほどいい、そういうことを意識させないほうがいいだろうね。
高すぎると、クレーターを作ってしまうんだから。
「ええっと。まずこのゲームはスキル制だよ」
「スキルの総数ってどれくらいなんだ?」
「ステータスの上昇や魔法、アーツ――いや、必殺技って言ったほうが伝わりそうだね。それも全部ひっくるめてスキルらしいよ。私も総数は把握していないんだ」
なんとか、ランディが話していたことを思い出しながら説明を続ける。
「それで、このゲームの基本は同コスト同DPS、なんだとか」
「あー、やっぱ狩りゲーっぽいなー」
「???」
キリヤちゃんは分かったような顔をしているけれど、ヘルフリート君はわけのわからない言葉に聞こえるみたいだった。
「――レン、略称は使わんほうがいい」
「あ、ごめん。えーっと……Damage Per Secondのことだ」
「もうちょい分かりやすく、つってもちゃんと教えてなかったか。時間当たりの火力量……もっとキチンと言うと、一秒で与えられるダメージ量のことだ」
「そうだったんだ?」
「……英語は苦手か?」
「いや、あまり深く考えてなかっただけだった。怠慢だったね」
これからはこういう依頼を受けたり、こういう教える立場になる可能性もある。
アリスが続ける限りは続けるつもりだから、もうちょっと深く考えていかないといけないな。
「ええと……使ったリソース、つまりMPとかだね。それが多ければ多いほど、一発のダメージは大きくなるんだ。でも、そういうものは時間がかかるように制限がかかるんだ」
たとえば、矢の本数だったり。
たとえば、MPの残量だったり。
たとえば、体の動きに硬直がかかったり。
「近接攻撃はスキルレベルが高ければ高いほど、攻撃力が上昇するんだけれど、その硬直が高くなる、らしい」
「しらねーのかよ」
「ゲームを始めてからずっと魔術師だったからね。魔法以外はあまり知らないんだ……ランディ、どれくらい硬直するんだい?」
「DPSが同じになるぐらい。計測ギルドが一度、≪ソード≫スキルフルスロットで、かなり攻撃力を特化させた一点ものの武器を使って計測したら、三十秒ぐらいまったくその場から動けなくなった」
「……ちなみに攻撃力は? 参考までに」
「ドラゴンを真っ向から問答無用で一刀両断。刃渡りが足りないかと思ったら、相手が勝手に斬れていきやがんの。なにアホな武器作ってんだろうね、鍛冶師ギルド」
それはつまり、衝撃波が出るほどの武器か、すさまじいね……!
「なにそれ!? やっべ、超欲しい! どこで貰えんの!?」
さっきまでいじけていたヘルフリート君がとたんに目を輝かせ、
「オレはいらないかな。三十秒も動けないって致命的じゃん。一対一だったら考えるけどよ」
キリヤちゃんはまったく逆の反応を示した。
「貰えないし、もう存在しねぇよ。そもそもサイズも、刃渡り五メートルでほとんど鉄板だったし。運ぶときは≪筋力≫スキルフルスロットじゃないと台車が必要で、使うときは≪ソード≫スキルフルスロットで強引に振るしかないっつーね」
「なんだよ! ねーのかよ!」
「≪ソード≫スキルは重量を無視できるのかい?」
「武器として扱えるようになるスキルだからな、重量は一応無視可能だな、扱うときだけなら。そんで≪筋力≫だけで振ったら、その筋の達人でもないかぎり一発で砕けるから、運搬役と攻撃役の二人が必要っつーアホな事しなきゃならん。だからもう鋳潰されて別の武器になったよ」
「そんくらいだったら俺様が使ってやるっつーの! 馬に乗れば楽勝だろ!」
「……言っておくけど、馬ごと硬直するからな? 運搬役は剣を運ぶ役じゃなくて、振って硬直したやつを運ぶ役なんだよ。馬ごと硬直するからおぶれねぇし。あと勘違いしてるかもしれんけど、衝撃波なんて出ないぞ? まったく、一切、これっぽっちも」
つまり確実に当てなきゃいけないのか……大砲代わりに使えるんじゃないかなと思ったんだけれど、どれだけ使いづらい武器なんだ……!
「そもそも衝撃波なんて出るような剣ってどんな剣だよ」
さらっとファンタジー世界の否定だよね、それって……。
「やりたきゃ魔法かアーツを使えってやつだな」
「んだよー、魔剣とかねーのかよー」
「……レン、説明続き」
ん、ランディが強引に話題を変えてきたね……あるんだ、魔剣は。
でも、言わないってことはデメリットも強いんだろうな。きっと使い勝手が悪いんだろうね、魔剣って。
「あーあー、期待して損したー」
「じゃぁ、説明を続けるけど……どこまで話したっけ?
「DPS」
「そうだったね。あとは防具かな。防具には弱点があるんだ。私の着ているこの服、というより布製品は炎にまったく耐性がないね。むしろ壊れやすくなる。ただ、衝撃には強いんだ」
「お前のソレは衝撃にすら弱いけどな」
「まぁただの布の服だしね……メリットは魔法を使うときに余分なMPを消費しないんだ」
「どういうことだよ?」
「革製品や金属製品は、余計にMPを消費するんだ」
「撃てる数が少なくなるってことか」
「やっぱ魔法使いって貧弱な装備しかできねーんだな」
「そんな話じゃないよ? 余計にMPを消費することに目をつぶれば、普通に剣で攻撃するよりも高火力の武器で相手を攻撃できるし、魔法には特殊な効果がけっこうある。相手を吹き飛ばしたり、さっきみたいに動けなくしたりとかね。だから、金属鎧をガッチガチに着ている人でも魔法を使ってくることがあるよ」
「プレイヤーを殺して金とか物とか奪うヤツがいるからな」
「プレイヤーってプレイヤーを殺せねぇんじゃねぇの?」
「殺せるようになるスキルがあるんだよ。さっき審判をやったギルドは、悪いことをした人を殺すんだ。現実の法律で犯罪になるようなこと……たとえば人の家に無断で入ってお金とかアイテムを拾えない」
「俺様は勇者だから関係ねーな!」
「ちなみに勇者だからといって容赦する人たちじゃないよ?」
「はぁ!?」
「さっき、自分の剣が折れて泣いてたよね? それと同じだよ? 自分の物がなくなったら悲しいし、盗まれたら誰だって怒るんだ、普通は。勇者は他の人を守るために勇気をもって立ち向かう存在であって、泥棒をする勇気がある人じゃないんだよ?」
「なんだよそれ! ゲームなのにバグだらけじゃねーかこれ!」
「バグじゃないよ? そもそもこれはいろんな人が参加するゲームなんだから、他人に迷惑をかけちゃダメじゃないか。」
勇者様系って本当に、なんていうのかな?
犯罪者予備軍?
自分に都合の悪いことは、全部バグだって言う。自分中心の性格をしているんだね。
その有名なゲームの勇者って、本当にろくでもない人だな。
「ちなみに、死んだら持ってるアイテムが全部なくなるよ。スキルをセットしている時計も結構な値段がするから、初心者が一度死んだらほとんど何もできなくなるね」
「なんだよそれ! 全部なくなんのかよ!」
正確には、一分以内に自分の死体から回収できるんだけれども。ランディは最初にそれを言わなかったから、言わないほうがいいんだろうね。
「よかったね、あのときランディが止めてくれなかったら、もっと何もない状態から始めなきゃいけなかったんだから」
「……オレ、大人しくランディに従っとくな?」
「他の信用できる大人の話も聞けよ? レンとか」
「あの姉ちゃん怖いし」
……ちょっと心に突き刺さるなぁ、そのセリフ。
「それで革とか金属だけど……よく知らない」
「しらねーのかよ!」
「物理面では、革は貫通に弱い。金属は衝撃に弱い。布は切断に弱い。って覚えておいていいんじゃねぇのかな。例外はいくらでもあるし、属性はあと八つあるけど」
「三すくみみてー、っていうか属性多いな……オレなに着よう?」
「いくらか重ね着ができるよ。短所を消したりできるけど、動きづらくなるね」
「ま、敵に合わせるか、あとは俺の鎧みたいに別の素材を組み合わせた複合鎧とかあるから、そういうのを選ぶのも手だな。弱点じゃない場所で受ける技術が必要になるけど」
「まぁ防具はこのあたりかな? スキルは……売ってしまっているんだよねぇ」
「別に俺様にかかればスキルなんていらねーよ! しょっぼい剣しかくれなかったけどよ!」
「あげるとは一言も言ってねぇよ。ちゃんと金は払ってもらうからな?」
「なんだよそれ!」
「目の前の金にばっかり目がいってるから装備を売っちまうんだ……ヘルフリートは勇者志望っていうから、勇者っぽく片手剣と盾にしてやったんだ。おおかた、高い武器なら強いって思って買ったら盾が持てなくなったんだろ?」
「ぐ……」
図星らしい。
「クレイモアを片手で扱うには≪筋力≫スキルが必要になるからな? っつーか、なんで初期装備で我慢して地道に金稼ぎすることを考えなかったんだか……近接の売却額が大きいのは、別の種類の武器にするためのはずなんだけどなぁ……」
そういう理由があったのか、初めて知ったな。
「キリヤは歩くほうに意識やってたから金は使ってないな?」
「貰ってたお小遣いも貯めてるぜ。そもそも、歩けないんじゃ生活費に困りそうだったから売っただけだしな!」
「歩けないんだったらそれはそれで、遠距離か魔法って手もあったんだけど。まぁ悪手じゃねぇな。歩けるようになるのが先だし……ホント、どっかの誰かよりも金銭感覚しっかりしてんな」
う……ぐっさりくるようなことを言うなぁ。
わざわざ私のほうをチラって見てから言うし。意地悪じゃないか、ランディ。
「んじゃ、武器は自分で選べ。どうせどれ選んでも変わら――いや重さや射程が変わる程度だ」
「重さと射程ぐらいかー……でも、DPS低いと回数多くなって武器壊れやすいんじゃね? オレとしては少し強い武器選んだほうがいい気がするんだけどよ?」
――ああ、そういう考え方もあるのか。
魔法しか使ってなかったから、あまり考えたことはなかったな。
「正しいし、正しくない。DPS低い武器はむしろ急所狙いしやすいぞ、取り回しやすいからな。まぁこのあたりは好みだな、自分が器用じゃないって思うなら単発火力の高いヤツを選べばいい。そうすりゃ武器の寿命なんてどっちも変わらんから」
「――やっぱ狩りゲーみてぇ。弱い武器でも戦い方しだいってことか」
「そういう認識でいたほうがいいな」
なんだか結局、ランディに持っていかれちゃったな。
「んじゃ最後にハラスメント機能とかレーティング設定とかするぞ。特にハラスメント設定、やっとかないと痴漢とかに襲われるからな。お前ら時計だせ、説明すっから」
「わかった」
「ふん……」
――なんだかんだ言って、ランディてすごく面倒見がいいよね。
優しいというか、一緒にいると安心するというか……年上だからかな?
「終わったらまずは道具屋、んで防具屋、武器屋に時計屋の順で回るぞ。昼飯は時間になったら考えよう。そもそも、ドロップアイテム入れるかばんか袋がないと金稼ぎの効率悪すぎるしな」
[to be next scene...]
意外かと思われるだろうけど、私は結構道具屋に来ることが多い。レンガ造りの、ちょっとしたコンビニぐらいのサイズはある二階建ての店なんだ。
「道具屋って言っても名ばかりで、雑貨屋だけどな」
そう。何を隠そう、私の本棚もココで買った――さすがに店の中には置いていないけどね。そういうちょっと大きなものはカタログで選ぶんだ。
「二階部分は店員の住居で、地下が倉庫だ」
このあたりは聞けばちゃんと答えてくれる。実際に私も聞いたしね。
一般人の会話プログラムは人工無能っていうものらしい。会話が成立するように見せかけているもので、前の話題はあまり覚えていないし、秘密にしようって発想もないんだとか。
こういうことまで調べるためにわざわざ計測ギルドが何週間もしつこく質問攻めにしたらしいよ? 本当に何でもするね、さすが命までなら賭けられる人たちだ。
リアルだったら社会的に死んでいてもおかしくないギルドだよ……助かってるけどね?
「ここで薬草が売ってんのか……」
「ああ薬草も売ってるよ。ポーションより安いけど一割しか回復しないな。メリットとしては≪薬学≫スキルさえあれば他人に使っても効果が上昇が望めるから、便利ではあるな」
やっぱりそういうアイテムはあるのか。
ポーションより回復量は低いけれど、スキルで回復量が上昇するなら汎用性は高そうだ。
「薬草ってどう使うんだ?」
「食うか、患部に絞り汁をかけるかだな。味はガチで青汁だ……ポーションは飲むことでしか発揮されないから混同しないようにな」
絞り汁か……みんなもあまり使ってないし、人気がなさそうだなぁ。
「うげー……」
「苦いのが嫌なら薬草だな。まぁ、自分一人だと背中の傷にかけるのが難しいし、落下ダメージとか外傷がないものだったら食うしかないから、結局ポーションのほうが主流なんだよ」
「「へー」」
二人に説明しながら、店の中へ入っていく。
「いらっしゃいませー」
店員のにこやかな声が響く。
店の中は、本当にコンビニみたいだ。かばんとか保存食とか品揃えが混沌としているから、やっぱり雑貨屋っていったほうがいい気がするけれど。
「そういやポーション一個いくらなんだ?」
「五百ゴールド」
「高っ!?」
「薬草なら百ゴールドだ」
「安っ!?」
この世界の値段設定がよく分からないなぁ……。
「じゃぁオレはとりあえずポーション十個かな」
「かばんも買えよかばんも。どこに入れるつもりだ」
「あ、そうか」
「んじゃ俺様このでっかい袋でいいや。まとめてぶち込めばいいだろ」
「ちなみにポーションは割れるから、ポーションケースっつーのがいるぞ」
「割れるんだ?」
「見ての通りガラスなんだぞ? ――ちなみに空いた試験管をもってくれば二割引で買えるから、空っぽでも捨てないこと」
「生活の知恵ってやつだなー……」
「めんどくせーゲームだなー」
うん、私もそう思う。
いきなり裸一貫で始めなきゃいけないところが特に。
「かばんのサイズは好きなようにな。凝ったつくりだと高いから気をつけろよー」
「めんどくせーし、袋とポーションケースでいいや」
「んじゃオレは……あ、このウェストポーチ、小さいけどポーションケースついてんだ?」
「そういうのもあるな。高いけど、バッグとポーションケースを別に買うよりは安い」
「んじゃこれ。いざって時に使えねぇとな。五本しか入れられねぇのが不安だけど……あとは小さめのコレと、たたんで入れられそうだから大きな袋もかな」
キリヤちゃんは小さくて薄い、私の学生かばんふうのものと、ヘルフリート君が選んだような口元を紐で縛るドラムバッグを手に取った。
なんだか二人とも性格が全然ちがうなぁ……というか、キリヤちゃんはこういうゲームに手馴れているって感じがする。
ランディも似たような感じだし、本当に初心者なのかな? それとも、ランディのこと観察して覚えた? ――たぶん、後者だろうね。
「金は?」
「ちゃんとあるよ! いちいち金金うっせーな! 守銭奴かっ!」
「オレのほうはあんまし使ってねーって言ったろ? やっぱちょっと痛いけど、稼ぎ方教えてくれるんだったら必要経費だろ。武器とか防具とか揃えて金すっからかんになっても、ランディならなんとかしてくれそうだし」
「ちゃっかりしてんなー……まぁ誰かと違って経済観念してるところはいいことだ」
「……さっきからいじめないでおくれよ」
それぞれがレジに持っていく。
ヘルフリートくんが選んだものは一応初心者の初期金額でも買えるぐらいだ、五百ゴールドもしない。ポーションケースは結構値が張るけれど、サービスでポーションが一本ついてきたようだ。七百ゴールド。
「ケースかケース着きはサービスでもらえんだよな、HPポーション」
それならばとキリヤちゃんはポーションを一本減らしてお金を節約する。本当にしっかりしているなぁ。
(もしかしたら片親なのかもな、キリヤ)
(どうしてだい?)
(片親だと大人びてることが多いんだと。ムギが言うには親との会話が自然と大人の話に近くなるらしいから、そのせいらしい)
(へぇ)
初めて知った
(もしそういう話になっても安直に同情だけはしてやるなよ。本人からしてみればウザいだけらしいし)
(カウンセラーなのかい?)
(ムギがか? ああ、元、な。結婚してから辞めたらしくて、十年ぐらい前らしいけど)
だからああいうふうに問題児を預かることが多いのか……。
「――なにコソコソ話てんだよ」
「ん、買い物終わったのか?」
「ああ、かなり懐痛かったぜ」
「なんで最初からこういう必需品とかもらえねーんだよ、このゲーム!」
確かにリュックとか欲しいよね、最初は。
「お前らオープニング見たか? 服はともかく身一つで召喚されたって設定なんだからな? かばんもってたら不自然だろ……生産職選べば、袋は貰えるけどな」
逆に言うと、生産職しか最初に貰えないってことなんだね。
「で、何コソコソ話してたんだよ、ランディ」
「レンもほとんど初心者だからな、俺はレンのサポートなだけだし」
「逆のほうがいいんじゃね?」
「私もそうしたほうがいいんだとは思うんだけれどね……」
元々は私の自業自得だったわけだし。
「まぁ、魔法や世界観は私に任せてくれ。魔導書で知識は豊富だよ」
「今までほとんど仕事してねぇけどな」
「ニートかよ!?」
「姉ちゃん……働かずに食う飯は美味かったか?」
「ちょ、貯蓄があったんだよ……最初に大きく稼いだから……」
今日はすごく胸が痛い……なんだろう、今後は率先して仕事しないとダメだね。年下のアスールでさえ働いてるんだし……。
でも――私にできる仕事ってなんだろう?
かろうじて仕事と言えそうなのは、アリスに勉強を教えていたことぐらいだけど……高校生程度の学力で、家庭教師なんて無理だろうしな……。
やっぱり、ランディに相談してみるしかないか。
「んじゃ、そろそろ昼だし一旦昼飯にすっか。お前らゲームで食ったあとにリアルで食うのと、リアルで食ってきてからゲームで食うの、どっちがいいよ?」
彼は、とても優しい人だから。




